「・・・・・・ったく何だってんだ。あの馬鹿・・・。」  
次なる目的地を目指して、荒れた大地を突き進むヴァージニア一行。  
これまでの道中、さしたる問題は起こらず道行は順調と言えた。  
 
リーダーである少女――――ヴァージニアがご機嫌斜めということを除けば。  
 
「どうかしたんですか?ジェット。彼女随分ご立腹のようですけど。」  
 
クライヴはそういって肩を怒らせながら前方をずんずん歩いていくヴァージニアに目を見やる。  
彼の問いに対して、ジェットは憮然とした態度で答える。こちらもかなり機嫌が悪い。  
 
「どうもこうもあるか。あいつがあんまり出発の準備に手間取りやがるから部屋に呼び出しに行ったら平手打ちを喰わせやがったんだよ。」  
「・・・それはどうしてまた。何か彼女に気に触るようなことでもしたんじゃないんですか?」  
「知るかよ。『着替え中に入ってくるなー!』だの何だの・・・。ったく・・・。今更そんなことで一々怒りやがって・・・」  
 
完全にジェットの自業自得としかいいようがない説明を受け、クライヴの眼鏡がずり落ちる。  
 
「・・・それは怒るでしょう。あなた一体どういう感覚してるんですか・・・。」  
「ああ?なにいってんだ。前に俺が着替え中に入ったときはケロッとしてやがったぞ。あいつ。」  
 
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?どういうことでしょうね・・・・・・・。)  
 
まぁ普通、着替え中に部屋に入ってこられれば女性が怒るのは当然だ。  
しかし彼の話によると、以前のヴァージニアならそのようなことは気にしなかったという。  
 
(ああ・・・・・・・・・成程。)  
 
暫し考えた後、その原因が何であるのかをクライヴは理解―――推測の域は出ていないが、間違いではあるまい―――した。  
 
「ちなみにそれはいつごろの話です?」  
「結構前の話だぜ?少なくともここ最近じゃねえ。それがどうした。」  
「成程成程・・・・・・。」  
 
それを聞いてクライヴは愉快そうな笑みを浮かべるが、ジェットには何故彼が笑うのか理解できない。  
 
「・・・・・・・・・何笑ってんだ手前」  
「―――いえ。彼女もやっぱり女の子なんですねえ、と思いまして。」  
「はあ?」  
「ま・・・そうですね。あなたに対して今までに無かったようにヴァージニアが怒ったのは・・・・・・・・・  
彼女の貴方を見る目が変わった、という事でしょう。最近・・・・・もしかすると、結構前からなのかもしれませんが。」  
 
核心をぼかしたクライヴの言葉に、ジェットは更に訳の解らないといった顔をする。  
 
「・・・・・・・・・・・・あいつが俺のこと嫌いになった、ってことか?」  
 
自分の考えとは全く異なるジェットの言葉に、再びクライヴの眼鏡がずり落ちる。  
 
「・・・何でそんな穿った見方が出来るんでしょうね・・・・・・まあ皆までは言わないでおきましょう。  
特に、あなたが気が付いていないというのなら。・・・他人の色恋沙汰に口を出すような無粋な真似はしません。」  
「何か言ったか?」  
「いいえ、何も。さあ、急ぎましょう。早く追いかけないと彼女を見失ってしまいます。」  
「あ?・・・ってあの馬鹿・・・。なに一人で突っ走ってんだ・・・・・・・っとにしょうがねえ野郎だな・・・・・・。」  
 
見ればヴァージニアはジェットらがいる位置から30メートル程先を一人先行し歩いている。  
ジェットは悪態を吐き、駆け足で彼女を追いかけていく。  
いかにもうんざりした彼の言葉は、その口調とは裏腹にどこか優しい雰囲気を帯びていた。  
 
「ようやく、といったところですか。・・・・・・前々から怪しいとは思ってましたけど。  
しかし・・・・・・・・・・・・・・・稀に見る朴念仁に、奥手な女の子。  
・・・・・・・・・・・・・・・かなりやきもきさせられそうですねぇ。」  
ヴァージニアを追いかけるジェットの後ろ姿を愉快そうな顔で眺めながら、誰に言うでもなくクライヴは呟いた。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
「は・・・っ・・・は、はぁ・・・・はぁ・・・・・」  
先程までとはうってかわって、ヴァージニアの歩くペースは段々と落ちてきていた。  
戦闘をこなしたというわけでもないのに、息を切らせながら足を引きずるように歩いている。  
そんな彼女を、ジェットは冷ややかな目で睨みながら嘲う。  
 
「馬ー鹿。全然体力無いくせに一人で突っ走るからだ、阿呆女。  
荒れるのはてめぇの勝手だけどな。俺達に迷惑かけるようなことはすんじゃねえぞ。」  
 
棘のある彼の口調に、思わずヴァージニアも喧嘩腰な口調になってしまう。  
 
「う、うるさいわね!あなたが近くにいると何されるかわかんないから離れて歩いてたのよっ!!この覗き魔!!」  
「ああ?そういう台詞は人並みに色気が付いてから言えってんだ。洗濯板。」  
「な・・・っ何ですって!?ちょっとジェット・・・っ!!」  
「ああ悪い。洗濯板のほうが、まだ凹凸があるな。ってことで、まな板に改名だ。良かったな。まな板。」  
「そ、そういう問題じゃないわよっ!!改名じゃなくて撤回しなさいっ!!あとせめて『女』を付けなさい!!この不良!!」  
 
 
 
延々と飛び交う罵詈雑言。  
それを尻目にして、ギャロウズはやれやれといった顔でクライヴに話しかける。  
 
「・・・おい、いいのかよ。放っておいて。あの不毛な罵り合い。っていうか喧嘩するくらいなもっと離れりゃいいものを。」  
「いいんじゃないですか?喧嘩するほど仲がいい、って事で。  
それに彼がヴァージニアに付いているのは、有事の際に備えてるんでしょう。彼女に何かあったときに一番に対応できるように。」  
 
クライヴが言うように、ジェットはやや後方をのろのろとついてくるヴァージニアにペースを合わせて歩いている。  
言われて初めてそのことに気が付いたギャロウズは、感心したような、呆れたような表情をする。  
 
「はあ〜・・・。良くそんなことに気が付くねえ。  
にしてもそれならそれでジェットの野郎ももうちっと素直になりゃあいいのによ。」  
「素直も何も気が付いてないんですよ、彼は。・・・・・・・・・・『色々』と、ね。」  
含みを持ったその言葉にギャロウズは怪訝な顔をしたが、クライヴは皆まで言うことはせずただ苦笑を浮かべた。  
 
目的地までの中間点とも言える山道に突入しても、二人の争論は依然として続いていた。  
 
「〜〜・・・っ、あなたって本当に可愛くないっ!!」  
「おー可愛げなくて結構。そんなもんがあったら手前にわけてやりたいね。」  
 
先程クライヴが『喧嘩するほど〜』とはいったものの、流石に半日近くも言い争いを続けるのは少々行きすぎと言える。  
しかし、それだけの間口論を続けられるというのは確かに仲が良いという証拠なのかもしれない。  
 
「二人とも、仲がいいのは結構ですけど程々にして下さい。  
地形的に言って、今魔獣に襲撃されるというのはあまり愉快とは――――」  
 
「誰が仲がいいって!?」  
「どうしてジェットと私が!!」  
 
クライヴの『仲がいい』という言葉に対しジェットとヴァージニアは全く同じタイミングで反論する。  
本当にお互い素直じゃない、とクライヴは溜息を吐く。  
 
「ふぅ・・・・・・すみません。今の発言は撤回します。  
しかしですね、いがみあっている暇があるのなら早くここを抜けましょう。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・」  
 
・・・・・・・・仲がいいというのはともかく、クライヴの提案はもっともと言える。  
先程までとは違い、今進行している道は大分幅が狭い。  
舗装もされていない道なうえ、すぐ側は崖であることを考えると、確かにこの場は早く抜け切ったほうがよさそうだ。  
 
「ああ。あんたの言う・・・・・・・・・・・・・・・・・――――――っ!」  
 
――――――その時、ジェットの本能が警告を発した。  
どこからか、何かが、自分たちを狙っている、と。  
 
これは―――殺気だ。  
 
(――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・上から!)  
 
咄嗟に、そう判断してジェットは上空を見上げる。  
瞬間彼の瞳に飛び込んできたのは――――――巨大な武器を頭上に掲げ、猛然と落下してくる魔獣の姿。  
 
――――彼は直感的に悟った。  
 
その魔獣が最初の獲物として捉えたものを。  
 
この襲撃に気付いているのはジェットだけだ。  
――――――今からでは彼女に「避けろ」と言ったところで間に合いはしないだろう。  
攻撃を避けるにしてもヴァージニアの反応が確実に遅れてしまう。  
 
(あぁ、くそ・・・・・・・!!!)  
 
気付いたときには、ジェットは弾けたように駆け出していた。  
瞬時に得物の大きさから相手の射程を見定め――――――  
――――――ヴァージニアを抱きかかえ、かろうじて敵の射程外へと離脱する。  
 
それから僅かに遅れて、先程まで彼女のいた場所の地面が轟音を立て陥没した。  
 
「な、何・・・・・・・!?」  
「敵だ・・・・・・・っていうかお前重いぞ!!少し痩せろ!!」  
「な・・・・・・・・っ!!!???」  
「・・・・・・・・・ッ黙れッ!!舌噛むぞ!!」  
 
敵はすぐさま体勢を立て直しジェット達へと襲い掛かる。  
少し遅れて、クライヴらもそれを阻もうと攻撃を行うが、それでも敵は止まらない。  
多少、いや十分に効いているはずなのだが、「それ」は向かってくることを止めようとしない。  
迫り来る敵に対して反撃に転ずる為に、アガートラームに意識を込めるジェット。  
 
しかしジェットがその引鉄を引くよりも、魔獣の腕が振り下ろされるほうが遥かに早い。  
 
「……く―――――そが・・・・・・!!」  
 
すんでのところでそれをかわしたジェットは改めて銃を構え反撃の態勢をとる。  
これ以上は後退できない。足一つ分でも下がれば、そこにはもう何もないのだ。  
焦燥に駆られつつも、ジェットは敵の眉間に狙いを定め再び引鉄を引こうとする。  
―――――が、やはり彼の愛銃の銃口から弾丸が放たれることはなかった。  
先の一撃の影響により彼らのいる足場が崩落したのだ。  
 
「なっ・・・―――――!?」  
「えっ・・・――――――――――!?」  
 
――――――――世界が、反転する。  
あまりにも一瞬の出来事に、事態の理解に脳が追いつかない。  
ジェットが現状を認識したときには――――――彼の身体は既に加速を開始していた。  
 
(―――――いや。洒落に、なって、ねぇだろ――――――――――・・・・・・・・・・・。)  
 
うんざりと、心の中でつぶやき。  
ジェットは腕に抱える少女とともに崖下へと落下していった―――――。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
「クライヴたち、大丈夫かな・・・・・?」  
「・・・・・・・・・まあ、大丈夫だろ。あの二人なら。ていうか今の俺達の状況こそどうにかしなきゃいけねえだろ。」  
薪を火の中にくべながら相槌をうつ。  
俺たちが落下した先は――――このファルガイアにまだこんなもんがあったなんて驚きだが―――湖だった。  
そりゃ着水、つうか水面に直撃したときは結構痛かったが、まぁ俺達は何とかこうして生き延びることができた。  
・・・・・・・・・・・・・が、結局上に戻る方法も道も見つからなかった。  
崖下から崖上までは30メートルはゆうに超えようかという高さでおまけに凹凸は殆ど無い。・・・・こいつの胸くらいない。  
俺はともかくこいつはとても登れはしないだろう。  
あの化け物は上の二人が始末をして、今はどこからかロープか何かを調達しにいっている。  
つまり二人が帰ってくるまでは俺達はここで立ち往生ということになる。  
 
――――――ただ、この状況は頂けない。  
 
俺はズボンのみ。  
ヴァ・・・・・・・・・まな板は奇跡的に無事だった予備のシャツ一枚にパンツだけという状態だ。  
いくらこいつに色気がねえからって、この状況はかなり気まずい。  
いつもなら二人きりでも何ともないんだが、今のこいつは髪を下ろしていて―――  
何か、こう普段とは違う雰囲気を漂わせて、俺を戸惑わせているのだ。  
 
「ジェット・・・・・・・・・。」  
 
「・・・・なんだよ?」  
「今朝は・・・・・・ごめんなさい。痛かった…よね。」  
 
・・・・・・・・・何かと思えばそのことか。今更そんなこと謝るんじゃねえ・・・・・・とは思ったがついついつらく当たってしまう。  
・・・・・別に腹を立てているわけじゃないんだが。  
 
この動揺がいつまでも収まらねえもんだから、こいつに半ば八つ当たりするようなことをしているのかもしれない。  
 
「ああ、まったくだぜ。朝っぱらからあんな思い切りどつきやがって。首が折れるかと思ったぜ。まだ痛ぇぞ、この暴力女。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。・・・・・・元はといえば私が準備にもたついてたから悪かったんだよね。」  
 
「・・・・・・・・・――――?」  
 
(なんだよ、やけにしおらしいじゃねぇか。いつもなら言い返してくるはずなんだがな。)  
「それに、今こんなことになってるのは・・・・私の注意が足りなかったからなのに・・・・。  
ジェットにまで迷惑かけちゃって。クライヴやギャロウズにも迷惑掛けて・・・・・・・・・。  
・・・・・・・・・・・・・私、何でこんなんなんだろ・・・・・・。マヤと違って頼りないし、同じ女の子なのに女らしさも、全然・・・・無いし・・・・・・。  
足手まといに、なってばっかりで・・・・・・・・・・。」  
 
(・・・・・・・・・・・・・ったく、手前が失敗したり迷惑掛けたりするのはいつものことだろうが。ついでに女らしくねえってのも。)  
 
まあ、今こんなこと言ったら余計凹んじまうな。  
俺だってそんくらいの空気は読める。  
それに―――――どうも、気分がよくない。  
こいつがこんなだと。  
 
(・・・・仕方ねぇ。不本意だが少し励ましてやるか。)  
そう思い俺は、すっかり意気消沈しているこいつに慰めの言葉をかけることにした。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・おい。あのな。」  
 
名前は呼ばずに語りかける。  
こいつを名前で呼ぶのは苦手だ。何かこう、こそばゆいというかなんというか。  
二人きりという状況が、余計にそう感じさせるのかもしれない。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」  
 
俺に声を掛けられて、ヴァージニアは俯いていた顔を上げる。  
そこで俺は、こいつの瞳が涙をたたえていることに気が付いた。  
 
(・・・・・・・・・・本当、しょうがねえ女だな。)  
 
・・・・・・・・・・・やれやれと心の中で呟き、こいつを慰める為に俺が開口一番に言った言葉は、  
 
「ば―――――か。」  
 
これだった。  
 
それも心底馬鹿にした口調で。  
怒らせるつもりは・・・・・・・・・・・大いにある。  
落ち込んでいるこいつに対しては、下手に慰めるよりも挑発してやったほうが効果的だ。  
 
「――――――――――――――――――――な」  
 
「な、なによ、それ!なんでいきなり馬鹿とか言われなくちゃいけないのよ!!!??」  
 
「一々落ち込んでんじゃねえよ、こんなことで。  
別に誰が死んだとか、死ぬとかじゃねえんだ。  
単にお前が狙われて、俺が巻き込まれたってだけなんだからよ。」  
 
もっとも―――――薄情かもしれねぇが―――――狙われたのが他の二人だったら俺もてめぇの身体を張るこたぁなかっただろう。  
こいつとは違ってあの二人なら自分で何とかすると思っているからってのもあるんだろうが。  
―――――ま、確かにこいつを見捨ててりゃ俺はこんなとこにはいなかった。  
だが、もしあの時そうしてたら、こうやってこいつと言葉を交わすことも二度とできなくなってたんだ。  
 
―――――そう考えれば今日のことも些細なことだと洗い流せる。  
別に今のこの状況も最悪ってわけじゃねぇし。  
 
「それに・・・・・・・・・いいんだよ。お前はお前のままで。確かにお前は俺らのリーダーとしては正直役者不足だ。  
渡り鳥としてはまだまだ半人前だし、おまけに色気もねえ。  
けどな、だからって無理に背伸びすることもねえ。  
無理にてめぇを偽られてもかえって息苦しいだろ。お互い。  
お前は、普段通り図々しくて、じゃじゃ馬で、男勝りなのが一番いいんだよ。」  
 
「ッ・・・・・・・・・・・・な、なによ…その言い方。・・・・散々じゃ、ない・・・・・・・・・・。  
慰められてるのか、そうじゃないのか・・・凄く微妙なんだけど・・・・・・・・・。」  
「・・・・だから、なんにもしなくていーんだ。お前は。・・・・・・・・・・・・だから元気出せ、バカ。」  
 
言い捨ててそっぽを向く。  
こんな俺らしくねえ事言って、これ以上こいつと向き合ってなんて居られるか。  
 
(・・・・・・・・くそ、どうかしてるぞ俺。なんでこんな事言ってんだ・・・・・?)  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん。そう、だね。・・・・・・・・・・・・ありがと、ジェット。」  
「―――――――――――――――おう。」  
 
―――――まだ少し沈んでるみたいだが、それでも少しは普段のこいつに戻った。  
その事に、俺は何故か無性に安心する。  
・・・・・・・何でかは自分でもよくわからないが。  
 
それきり、会話は止まった。  
話題が尽きたこともあったんだろうが―――――  
かなり照れくさいことを言われ、言ったことにお互いが気がついたからだ。  
 
・・・・滅茶苦茶、気まずい。  
・・・・・・・なんであんなこと言ったんだ俺は。  
 
―――――何も言えないまま時間だけが過ぎていく。  
妙に気恥ずかしい、こそばゆい雰囲気はそのままで。  
 
何か話題を振って、どうにかこの空気を変えたかったが何も思いつきゃしねえ。  
―――しばらく一人懊悩としていると、俺の変わりにヴァージニアが話題を振ってきた。  
いや、正しくはぶり返してきたと言ったほうがいい。  
 
「・・・・・ねぇ。でも、普通男の人っておしとやかな女の人のほうが好きなんじゃないの?」  
「・・・・・・・・・・・・だからお前は馬鹿だってんだ。てめぇの主観で物事をきめつけんな。お前みたいなのが好きだって男もいんだろ。(多分)」  
「・・・・・・そ、かな。・・・・・・・・・じ、じゃあジェットはどうなの?私みたいな女の子って好き?」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・ッ」  
 
・・・・・・予想だにしなかった質問に少々困惑する。  
何だってんなこと聞いてくんだ、こいつは。  
いや、っていうかそもそも何で好きだの嫌いだのそんな話になってんだ?  
 
「・・・・・・・・・・・・なんで。」  
「・・・・・・・え?えっと・・・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・・・・・。」  
俺の問いには答えず、ヴァージニアは黙り込む。  
何故こんなことを聞いてくるのか、  
こいつの質問の意図が解らない俺は、暫く返答するかどうか迷ったが、結局はその問いに答えてやった。  
 
「・・・・・・・・・・・・・別に、嫌いじゃねえよ。」  
「――――――――――――――――――――――」  
 
その言葉を聞いた途端、ヴァージニアの顔が明るくなった・・・・・気がした。  
 
「・・・・・・・じゃあ・・・・・・・・好き?」  
「馬ッ・・・・・・・・・・鹿!!『嫌い』じゃねえから、『好き』ってのは違うだろ!!」  
「・・・・・・・・・・・普通、ってこと?」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
 
―――――女をまじまじと見たことはないからなんとも言えないが、  
こいつは結構可愛いほうなんじゃないかと思う。  
少なくとも見た目に関しては。  
中身は――欝陶しいとこもあるが・・・・・まぁ嫌いじゃない。  
・・・・・・・・・でもそれは、好きってことなんだろうか?  
そもそもこいつがこんなことを聞いてくる理由ってのは何だ?  
何で好きとか嫌いとか、俺の言葉で一喜一憂する?  
・・・・・・いくら恋愛ってやつに疎いからって、流石にこれには俺も変な「勘違い」をしてしまいそうになる。  
 
「なぁ。お前もしかして。」  
「ふ、ふぇ!?な、なに!?」  
 
「・・・・・・・・・―――――――――いや、何でもない。」  
 
言葉を、打ち切る。  
 
・・・・・・・・・・何を緊張してんだ俺は。  
そんな筈、ない。  
それならもっとこう、それらしい態度ってもんがあるだろ。  
 
「―――――――何、聞こうとしたの?」  
「何でもねえって。」  
 
「・・・・・・・・・・聞いて、欲しかったかも。」  
「・・・・・・・・・・・・・・何で。」  
「・・・・・・・・・・私たち、いつどうなるか、どんなことになるかわからないじゃない?  
今日は、助かった――――――って、ごめん。これは、私のせいなんだけど・・・・・・・・・・。  
でも、私たちって一応、お尋ね者でもあるわけだし。・・・・・・・・・もう言えなくなるってことも、あるでしょ?  
だから、伝えておきたいことは伝えておきたいの。  
・・・・・・・・・・・・・その、きっかけが欲しいんだ。多分、私・・・・・後押しされなきゃ・・・・・こんなこと言えないから。」  
「・・・・・・・・・・・・・・誰に。」  
「―――――――ジェットに。」  
 
「―――――――――――――――――――――」  
 
何で俺に対してなんだ?  
ていうか、聞くにしても「俺のこと好きなのか?」なんて聞けるわけねぇじゃねえか・・・・!  
第一それで違ってたら切腹モンだぞ・・・・!!  
はぐらかしたいが見逃してくれそうねえし・・・・・・・・・・。  
 
・・・・・・ああ、そうだ。  
 
誰か好きな奴でもいるのか?とか聞きゃあいいんだ。  
―――――よし、そうだ。そうしよう。  
 
「・・・・・・・・・何だお前、好きな奴でもいんのか?」  
「うん。」  
(・・・・・即答かよ。)  
「・・・・・・・・そうか。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ジェット、だよ。」  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。」  
 
いや、追求して墓穴掘りたくなかったから何も言わなかったのに、何聞きもしないことに答えてんだこいつは。  
 
「あのな・・・・・・・・・確認するがそれは俺のことか?」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」  
 
――――――――――たっぷりと数十秒は考えて、ようやく俺の脳は回転を始めた。  
いや、待て待て待て待て。  
待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て・・・・・・ッ!!!  
 
「ッ・・・・・ちょっと待て。話が唐突すぎる・・・・・・っていうか大体お前いっつも俺に対して喧嘩腰じゃねぇか!!!  
それで好きだと!?どーいう性格と思考回路してんだお前は!!」  
「・・・・・・・・す、素直になれない乙女心ってゆーものよ!大体怒らせる原因作ってるのはジェットでしょ!?  
私が気にしていることばっかり言って、意地悪ばっかり言って・・・・・・!」  
「・・・・・・・っ。」  
「―――――私、ジェットに『一緒に想い出作っていこう』って、言ったことあったよね?  
あれ、私なりの・・・・・・・・・・・・その・・・・・精一杯の、告白、だったんだよ・・・・・・?」  
「――――――あ、あのなあ・・・・そんな言葉で惚れた腫れた、好きだ嫌いだなんてわかるわけねぇだろが・・・・・・!!  
馬鹿かお前は!!解れッてのが無理あるぞ馬鹿!!普段はなんでもかんでもズバズバ言うくせに変なとこで大人しくなってんじゃねぇよ馬鹿!!」  
「・・・・・・っな、何よ…。馬鹿馬鹿って・・・。はっきりなんて・・・言えるわけないでしょ、そんなこと・・・・・・・ッ  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで、いつもそんな風に言うのよ・・・ッ!!――――――やっぱりジェットは・・・・私のこと嫌いなの?」  
「ッ意味わかんねぇよ馬鹿!!・・・・・・・誰が、いつんなこと言ったよ・・・・・・!!」  
 
「だ、だって私のこといつも―――今も、馬鹿っ・・・て言うし。ツンツンしてるし、すぐ怒るし・・・・。」  
「けど嫌いだとは言ってねえだろ!!」  
 
「じゃあ・・・好きなの・・・・・・・・・・?」  
「――――――――――だから・・・・・・・・・・・ッ」  
「どっち・・・・・・・?」  
「―――・・・・・・ッ・・・・・・・・・・・・・普通だ普通!!」  
「―――――――――――――――――――――――――そっか。普通、なんだ。」  
 
――――――――――俺の答えに対しこいつはまた表情を曇らせる。  
ああくそ・・・!!だから、その顔は止めろって・・・・・・・・・!!  
 
――――――けど、なんで俺はこいつのこんな顔が嫌なんだ?  
何とも思ってないんなら、どうでもいい筈だ。  
それなのに、どうでもよくないってことはやっぱり――――――――俺も、そういうことなんだろうか?  
今の今まで考えもしなかったが、同じように俺もこいつのことを・・・・・・。  
 
――――――――――――――――ああ、多分そうなんだ。  
 
そうじゃなきゃ、こんなにこいつのことでいちいち動揺したりしない。  
そうじゃなきゃ、俺が馬鹿みたいじゃねぇか。  
何とも思ってない相手のせいで――――――――。  
何とも思っていない奴のために、貧乏くじ引かされてばかりいるの俺が。  
――――――――それに思い返してみれば。  
今日に限らず。  
俺はこいつの事になると、損得勘定一切なしでいつも馬鹿をやっちまってるんだから。  
 
「――――――――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・普通に、好きだ。」  
「―――――――――え?」  
 
・・・・・・・気が付くと、俺は先の自分の言葉を訂正していた。  
こいつが泣くのを見たくなかったからってっだけじゃない。  
気付いていたのに、それが何なのかわからなかった、俺の、こいつへの気持ちを。  
今、伝えたいと思ったから。  
 
「あ―――す、す、好きなんじゃねぇか・・・・・・・?・・・・・・・・・・・普通に。」  
「・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・な、なによぅ、その曖昧な台詞は・・・・!!・・・・・・・もっと、きっぱりと言い切ってくれてもいいじゃない!」  
「・・・・・う、うるせ!!男心ってもんもあんだよ馬鹿!!――――――――――・・・・・・・・・ッ!畜生忘れろ!寝ろ!今すぐに!!!」  
「・・・・駄目!!私ジェットがはっきり言ってくれるまで寝ないから!!」  
 
ああ。くそ。  
言うんじゃなかった。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、いいか。どーでも。  
 
あのまま放っておいたらこいつ泣いていたかもしれねぇし。  
そうなったら俺は絶対に後悔していたに違いねえんだから。  
 
とはいえ今も少し後悔してるよーな気もせんでもないが。  
こんな恥ずかしいことをきっぱりと言わせようとすんじゃねえよ馬鹿。  
 
俺は自分の作ったこの状況に耐えられなくなって、強引に会話を切り上げて眠りに就こうとした。  
 
が。  
 
「痛ッ・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・ど、どうか、したの?」  
「・・・・・・・・怪我、してたっぽいな。全然気がつかなかった。」  
 
今の今まで気が付かなかったが、いつの間にやら右腕を怪我していた。  
まあ、痛みはあまり無いし、出血が多いだけで傷自体は大したことはない。  
放っておいても全く問題はない・・・・・・・・・・・んだが。  
 
「・・・・・・・・・ッた、大変!!て、手当しなきゃ!!!!!」  
 
俺の傷を見たヴァージニアは、案の定大いに取り乱す。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。やかましさが倍になってしまった。  
 
「唾つけときゃ治る!だからほっとけ!寝ろ!ついでにさっきのことは忘れろ!!!」  
「駄目よそんなの!どっちも却下!!」  
「あぁもう騒ぐな!大体手当てするも何も、なんも道具ねーだろーが!」  
「う・・・・・・・・じ、じゃあ私の唾つける!」  
「あ、アホかてめーは!」  
 
俺の言葉を無視し、なおも犬のようにきゃんきゃん喚き続ける馬鹿女。  
くそ、うるせぇ・・・・・・・・・・・・・・!  
・・・・・・・・・・・どうもこいつは口で言ってもわかんねぇらしい。  
 
――――――――それなら、こっちにも考えがある。  
どうせお互い気持ちは同じなんだ。特に問題ねぇ。  
それにこいつの質問への回答にもなるだろう。  
 
そう思って、俺は―――――――  
 
「大体あなたはいつもいつも・・・・・・!・・・・・・・・・んっ―――――――」  
 
―――――――「黙れ」と口で言ってもわかんねぇ馬鹿女の口を、自分の口で塞いでやった。  
 
少しばかりムードってもんが欠けてるかもしれねえが、俺とこいつはこんなもんで丁度いい。  
殆ど勢いでやったような俺のこの行動に、ヴァージニアは訳がわからず目をぱちくりさせる。  
・・・・・・・・・・・・・・俺も思考がぶっとんでた。  
触れたこいつの唇が、思っていた以上に柔らかかったもんだから。  
 
引き際を見定めかねて固まっていると、しばらくしてヴァージニアが  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、ジェット、くる・・・・・・・・・し、・・・・・・・・・・・」  
と呻いた。  
 
――――――――苦しい?  
その言葉を聞いて俺は慌ててヴァージニアから唇を離す。  
口を離すと同時、ヴァージニアは大きく息を吐いた。  
 
「あー、わりぃ・・・・・・・。止めるタイミングが、わかんなかったつーか・・・・・・・・・・。」  
「あ・・・・ち、違うの・・・・。ジェットは悪くないの・・・。私が、キスされてる間ずっと息止めてたから・・・・・・・・。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・お前って、たまに本気でよくわかんねぇ時あるよな。」  
「だ、だって、だって・・・・。こんなの・・・・・・・・・きすなんて、はじめてなのに、それなのに、ジェット  
断りもなしにいきなりしてくるし、どうしていいかぜんぜんわからかったんだもん・・・・・!」  
 
ヴァージニアは俺の言葉に対し、ぽつぽつと抗議を洩らす。  
・・・・・・・・・・・ま、途中で暴力という名の抵抗に出なかったぶん、こいつにしちゃ上出来か?  
ま、黙らせる為とはいえ唐突にこんなことした俺も悪いっていやあ悪いんだがな。  
 
にしても・・・・・・・・・・・・本気でムードも糞もあったもんじゃねえな、と俺は心の中で苦笑する。  
 
「・・・・・・・・・でも、嫌じゃなかったよな?・・・・・・・・・あ、いや、もし嫌だったてんなら、素直にあや・・・・・・・・・」  
「そ、そんなことないッ!!すごく嬉かったわ!!」  
「―――――――――そ、そうか。」  
 
・・・・・・・まあ、嫌だったって言われても困るが、そこまできっぱりと言い返されるとこっちとしても気恥ずかしい。  
 
「でも・・・・・・・・・・あのキスの仕方は、あんまりだと思うの。・・・・・・・・・・・私としても、初めてのキス、だったんだし、  
もっと、こう・・・・・雰囲気とか前置きを大事にして欲しかったとも思ったりするわけで・・・・・・・・・・。  
・・・・・・・・・凄く、嬉しかったけど、ちょっと怒ってるんだから。」  
 
「あ、いや、だから、そりゃ・・・・。・・・・・だ、大体お前が黙らねぇからだな・・・・・・・。」  
 
うろたえる俺を見つめヴァージニアはくすり、と笑い  
 
「―――――――――あ、でも・・・・・・・もっかいキスしてくれたら許してあげてもいいよ?」  
 
・・・・・・・と、何とも対応に困る要求をしてきた。  
いや―――――――――そんな無理難題突きつけて許すも何もねえだろ。  
 
「―――――――待て。それは勘弁してくれ。」  
「な、何よぅ・・・・。さっきは自分からしてきたくせに・・・。」  
「ま、まあ、そりゃそうなんだが――――――――――――――――――もっと別の要求にできねえか、それ。」  
「駄目。・・・・・・・・・キスしてくれなきゃ絶対許さないんだから。」  
 
今度は頬を膨らませながら、拗ねた顔で同じ要求を口にしてくるヴァージニア。  
・・・・・・・・・本当ころころ表情の変わる奴だな、こいつ。  
 
ああ、くそ、んなこたぁどうでもいい。  
 
・・・・・・・・・さっきの俺はどうかしてたんだ。  
もう一回しろと言われても正直困る。とてつもなく。  
 
いや、とか、待て、と煮え切らない態度を取る俺に痺れを切らしたヴァージニアは、ついに強硬手段に出た。  
 
「むぅ〜・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・わかった。もういいわ。別に、ジェットからしてもらう必要もないんだから。」  
「・・・・・・・は?お前、そりゃ一体――――――――――――――――」  
 
――――――――気付いたときには、再びお互いの唇が触れあっていた。  
さっき俺がしたのとは違う控えめな口付け。  
触れた唇はやはり柔らかく、俺はそれを跳ね除けることも忘れ。  
その感触をいつまでも味わっていたいと思うことしかできない。  
だが――――――――自分からしておいたくせに――――――――やっぱり恥ずかしかったのか、ヴァージニアはすぐに顔を離してしまう。  
それを少し残念に感じた自分がいることに気が付き、少々複雑な感情を抱く。  
 
「お、お前な――――――――・・・・・・・・・・・・・・!」  
「い、いいでしょ別に!!ジェットだっていきなりだったじゃ・・・・・・!  
―――――――ふぇ―――――・・・・ふぇ、ふぇ・・・・ひっくしゅ!!」  
「―――――――っ汚ねぇ!て、ためえ、何盛大なくしゃみしてやがる!!」  
「ぐしゅ―――――――ご、ごめんなざい―――――――。急に、身体が冷えてきちゃって・・・・・・・・・。」  
 
・・・・・・言われてみれば、少し冷え込んできた気がする。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・さて。どうしたものか。  
 
携帯していた毛布は一枚しかないし、まったく乾いちゃいねえ。  
それに―――――そんな気は無いが―――――――二人で使うにはちと小さい。  
 
・・・・・・・・・・・・・確かに冷え込んできたが。  
その・・・・・・下半身の一部は熱を帯びている。  
多分、さっきのあれのせいだ。  
 
「―――――――言われてみりゃ・・・・・・・・・・確かに寒いな。」  
「・・・・・・・・・・・・そだね。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・服、まだ全然乾いてないな。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そだね。」  
「なあ・・・・・・・・・・・・・なんかで読んだんだがよ。こういう時って―――――――――」  
「―――――ジェット?なんか、エッチなこと、考えてない・・・・・?」  
 
頭に自然と浮かんできた考えを見透かしたかのように、ヴァージニアは俺の顔を見つめてくる。  
その瞳は、濃い戸惑いの色をたたえている。  
そして、何かを期待しているような色も。  
 
「―――――――・・・・・・・・・悪ぃか。」  
「――――――――――――――――うぅん。・・・・・・・・・・・・・・その、わたしも・・・・・・・・・。」  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ」  
 
囁いて照れくさそうに微笑むヴァージニアは、俺の理性を根っこだけ残してぶっ壊す。  
正直――――――そのまま押し倒してしまいたかったが、その残った理性を総動員して何とか踏みとどまる。  
 
ARMの制御なんて簡単にできるのに。  
自分の身体のくせに、俺の中にあるたった一つの衝動は抑えきれずに今にも暴発しそうだった。  
 
「あ・・・・・・や、その、なんだ。お前の考えてるのは『人肌で暖めあう』って程度のことなんだろうが、  
俺が考えてるのはだな、『人肌で暖めあう』ってのも一応含まれるかもしれねえが、もっと、こう他にも色々・・・・・するんだが。」  
「・・・・・・・・・うん。それは・・・・・・・・・じゅーぶんに、わかってるけど・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・それで?」  
「それでっ、て・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
「――――――ただ、考えただけ・・・・・・?それとも、そゆこと、したいの・・・・・?」  
 
どくん。  
 
胸は――――――ともかく。  
シャツの下から覗く太ももとか、長くて、艶っぽいブラウンの髪とか、さっきの、唇の感触とかが。  
 
じわじわと俺の残り少ない理性を蝕んでいるのに。  
 
(馬鹿――――――――野郎。)  
 
――――――――例え思っていたただけだったとしても。  
 
こんなこと聞かれたんじゃこっちだってまともじゃいられねえにきまっている――――――。  
 
「――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前が――――――――」  
「・・・・・・・・・・したいよ。ジェットと。」  
 
聞くまでも、なかった。  
――――――――もう、我慢する必要もなかった。  
そう理解して。  
 
俺たちは、互いの視線を絡めあい。  
また、唇を重ねあった。  
 
どくんと。  
一際高い心音と共に、体温が一気に上昇する。  
 
先程に比べ幾分落ち着いているからか、余計にこいつの柔らかさを実感する。  
今日に至るまで、一度として触れることのなかったこいつの肌が、俺の昂ぶりを更に加速させていく。  
 
「ん・・・・・・・・・、じぇっ・・・・・・・と・・・・・・・・・・・・」  
 
まだどこか躊躇いがちなヴァージニアの身体を抱き寄せて、更に強く唇を重ねる。  
 
「――――――――は、―――――――ん」  
 
ヴァージニアの口から苦しげな吐息が漏れるが、そんなことでは止まれない。  
ただ唇を重ねあうだけの行為では俺はもう我慢できなくなくて。  
 
ヴァージニアの口内に舌を滑り込ませ、互いの繋がりをより濃いものにする。  
ヴァージニアの顔に戸惑いの色が浮かんだがすぐにそれは別の物に切り替わった。  
 
・・・・・・・・・・・・・・一瞬、舌を噛まれはしないか冷や冷やしたが何とか大丈夫だった。  
 
互いの舌を絡めあい、互いの唾液を交換しあう。  
唇で味わうこいつの質感に。  
溢れてくるこいつの呼吸に。  
 
「……はぁ……あ……、……ん……」  
 
深く、深く、没頭していく。  
口付けなんて、行為の前置きのようなものなのに。  
そこから先が、何も考えられないくらいに。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・とはいえ、このままこうしているわけにもいかないと。  
頭ではなく、身体がそう思ったのか。  
 
気が付けば。  
 
「あ――――――――」  
 
俺はヴァージニアのシャツのボタンを外し。  
 
「は、ん・・・・・・・・・・・・、や、やぁん・・・・・・・・・」  
 
その、かなり・・・・・・・・・・・・・『少し』ばかり寂しい胸の膨らみに。  
 
「は――、あん、・・・・・・・・あ・・・・・・・んっ・・・・・!」  
 
舌を、指を、這わせていた。  
 
「っ・・・・・・・」  
 
ヴァージニアの身体は、ガチガチに固まっている。  
緊張が唇越しに伝わってくる。  
・・・・・・・・あんまり気を張られていてもやりにくい。  
まぁ、こんなことされてリラックスしろってのも無理な話ではあるが。  
 
「―――っや、そんな――――――――あ・・・・・」  
 
右の乳房に吸い付き、左胸の乳首を指先で弄る。  
―――――今、こいつの中には『やめて欲しい』って気持ちも少しはあるかもしれないが、無視。  
んなこと言われても止まれない。止まれるわけが、ない。  
ヴァージニアの身体は、さっき味わった唇と同じか、それ以上に柔らかくて。  
おまけに・・・・・・・・・・何と言うか、その・・・・・・匂い、がするのだ。  
滅茶苦茶に貪りたくなるような、こちらを狂わせてしまうような匂いが。  
 
乳首を舌先で転がす。  
甘く噛む。  
また舌で弄る。  
 
「ふぁ、・・・・・・・・・あ、ん」  
 
ヴァージニアの肌が、桃色に染まっていく。  
俺が染めているのだ。  
こいつの身体を、舐めまわして。  
こいつの身体を、弄って。  
 
「ん・・・・・・・ふ・・・・ぁ・・・・・・・――――――――?・・・・ジェット、どうしたの?顔、真っ赤だよ・・・・・・?」  
 
そんなこと言われなくてもわかっている。  
だって――――――――  
 
「あ――――――――う・・・・・・・・・いや、その。少し、照れくさくなってきたっつーか、なんつうか・・・・・・・・。」  
「・・・・・・へんなの。・・・・・・・・・私が・・・・・・・ジェットが、恥ずかしいこと、されて、るのに・・・・・・・。」  
 
――――――お前の肌に触れているという事実が、酷く照れくさいんだから。  
 
「・・・・・・・・・・・そりゃ、こんなことしてんだ。気恥ずかしくもなるし、顔の一つや二つ赤くなる。」  
「・・・・・・・・・・顔は一つしかないでしょ。・・・・・・・・・・・ジェットはこーいうの慣れてると思ったけど、やっぱり恥ずかしいんだ?」  
「・・・・・・・・・何で。俺が、今までに誰かとこんなことしたことあるって言いたいのか?」  
「っ・・・・・・・・そ、それは・・・・・・・・・・・・・・・・――――――でも。じゃあ、なんでこんな手馴れてるのよぅ・・・・・・・。」  
 
「っ――――――――――――」  
 
ぎくり、とさせられる。  
 
――――――実は、その考えは外れちゃいない。  
おっさんと別れて一人で荒野を渡っているとき・・・・・・・・・・・・・その、まぁ・・・・・・・・・色々あったのだ。  
 
「・・・・・・・・どうか、した?」  
 
「・・・・・・・・・・・・・いや、手慣れてるって感じたってことはお前も結構気持ち良かったんだな、って思ってよ。  
・・・・・・・・・・・・・・・ていうか、お前のほうこそ案外一人で色々やってんじゃねえのか?今日準備が遅れてたのも、朝から―――――――」  
半分はからかうつもりでいったんだが、それが不味かった。  
「―――――――――――――――――――――――も、もぉ、馬鹿ぁ!!!!」  
「がッ―――――――!?」  
俺の言葉を本気で受け取ったこの馬鹿は、あろうことか俺の頭に思い切り頭突きを食らわせてきやがった。  
その衝撃に、地面に激突しそうになるがすんでのところで留まる。  
 
「っこの―――――――」  
 
馬鹿、と。  
文句を言おうとして顔を上げると。  
ヴァージニアは頬を染めて俯いていた。  
その色はひどく、赤い。  
耳まで、同じ色で染まっている。  
 
・・・・・・・・・・・―――――――冗談のつもりだったんだが、どうやらビンゴだったしい。  
 
「・・・・・・・・ぁ。えぇと。」  
「―――――――――し、仕方、ないじゃない・・・・・っ!・・・・・・・・・ジェットが、夢の中で出てきて、私にえっちなことしてきて、  
でも、途中で目が覚めて、もう朝だったのに、身体が落ち着かなくて、熱くて、どうしようも、なくて・・・・・・・・・・・・」  
 
ぽつぽつと、言い訳のように言葉を紡ぐヴァージニア。  
 
――――――――その姿を見て。  
どこか必死で、ひどく慌てているくせに、いつもどおり馬鹿正直なヴァージニアが。  
いつもより、たまらなく可愛く思えた。  
 
無神経な発言を謝罪するべきだったのかもしれないが、そんなことには気がまわらない。  
 
「だから・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・っ」  
 
夢に出て、俺がこいつに悪さをしたというのなら。  
その責任をとらきゃいけねえだろう。  
 
「や、・・・・・・・・・また、胸・・・・・・・・・ん、・・・・・・・・・ぁ」  
「・・・・・・・・胸、弄られんの、嫌か?」  
「ん・・・・・・・・・、嫌、じゃ・・・・・ないけど・・・・・・・・・、は、ぁ・・・・・・私、ちいさ・・・・・・から・・・・・・」  
 
・・・・・・・・・無論そんなことは先刻承知だ。  
けど、それはそれ。  
こいつの身体は十分すぎるほどに柔らかいし、何より。  
胸に触れるたび洩れてくるこいつの声は。  
悶える顔は。  
その欠点を補って余りあり過ぎる。  
 
「は・・・・・・、ん、・・・・・・・・・・あッ・・・・・・・・・」  
 
―――――もっと。  
もっと、こいつを感じさせたい。  
ヴァージニアを、感じたい。  
そう、思って。  
ヴァージニアから溢れてくる蜜で、じゅくりと湿った下着の上から秘裂をなぞる。  
 
「――――――やっ・・・・・・・!?は、あっ・・・・・・んんっ・・・・・・・・!」  
 
突然のことに、ヴァージニアは当惑の声を上げるがそれはすぐに。  
 
「ん・・・・・・・・・あっ!んぅ…!あぁ…、ん!」  
 
悦びを含んだ声へと質を変える。  
 
下着越しからでも十分に「そこ」の感触は味わえたが――――――――直接触れたいという衝動が込み上げてくる。  
 
「・・・・・・・・・下・・・・・・・脱がすぞ?」  
 
一応、尋ねる。  
――――――断られても止まれる自信はないが。  
 
「――――――や・・・・・や、ぁあ・・・ん・・・・駄目、だよぅ・・・・・・・・・ん・・・・・・・恥ず、・・・・かしぃ・・・・・・・・よぉ・・・・・・・。」  
 
だから――――――――――――。  
止まれる自信は無いって――――――――――――。  
 
「ッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たく。」  
 
――――――――――――それでも。  
何とか、脱がすことは堪えて。  
下着の隙間から、ヴァージニアの秘所に指をあてがうことで我慢?する。  
触れた「そこ」は、ひどく、ぬめりを帯びていた。  
指を動かすたびに、ぬちゅぬちゅと粘ついた音が零れる。  
 
「・・・・・・ん――――――!・・・・・・だ、から・・・・・・・らめ、らって、ばぁ・・・・・・・・――――――」  
「・・・・・・・・何だよ?お前の言ったとおり、脱がしてねだろが。」  
「そ・・・・・・・ゆ、問題、じゃ・・・・・・ない、のぉっ・・・・・・・!そこ、触っちゃ、や、だぁ・・・って・・・・・!」  
 
つ、と肉の割れ目をなぞり。  
柔肉の隙間へと指先を差し込み、ぐちゅぐちゅとかき混ぜる。  
 
「ふぁ、ん・・・・・・・!は―――――――んぅ…!」  
 
小さな突起を探り当て。  
ぬるぬるに濡れたそれを、指先で弄ぶ。  
 
「ひゃうううううううううっ!んっ、…ふあ!あぅ…!!」  
 
虚ろな瞳で。  
意識も虚ろに。  
それでも愛撫はしっかりと受け止めて。  
太腿の付け根まで愛液でびしょびしょに濡らし、びくびくと痙攣しながら嬌声をあげるヴァージニア。  
やっぱり、ここが一番敏感なとこなんだろう。  
今までとは大きく反応が違う。  
それが、果たして気持ちいいということとイコールなのかどうかはわからないが。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まー、違っても別にかまわねぇか。  
こいつ虐めるの楽しいし。  
 
「夢ん中でも、こんな感じだったのか?俺とお前。」  
「・・・・・・もぉ―――――!ば、かぁ!だか、ら・・・・・・、そういう、――――ひ、ぅん・・・・・・・・こと言わないでってばぁ・・・・・!」  
 
どーでもいいがこいつ、ちょっと色々感じすぎだと思う。  
なんか今のこいつはデコピンしても悩ましげな声を上げそうな気がする。  
 
―――――――しばらく、時間も忘れてヴァージニアの『入り口』あたりを弄っていると。  
 
「―――――――は、ひ、ぅん・・・・・!・・・・・お願い、だからぁ・・・・・・もぉ、意地悪、しないでよぅ・・・・・・・・・っ!」  
 
とうとう堪えられなくなったのか、ヴァージニアが懇願の言葉を投げかけてきた。  
 
―――――――む。  
どうも、こいつの目には俺が意地悪をしているように見えるらしい。  
 
「・・・・・・・・・あのな、俺が好きでこんなことしてると思ってんのか?ちゃんと濡らしとかねえと、いれるときお前が痛いんだぞ?」  
「そ・・・・・・・・そーなの?」  
「そーなんだ。」  
「そう、なんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも。  
どちらかっていうと、ん・・・・・・・ジェットが、楽しみたいからやってるような気がするんだけど・・・・・・・?」  
「――――――――――半分くらい、そうだ。」  
「―――――――っもう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ばかジェット。」  
 
――――――――――――さて。  
まな板・・・・・・・・女から「いい加減にしろ」とのお達しが出た。  
まぁ、もう入れちまっても大丈夫・・・・・・・・・・・・つーか大分前から準備は出来ていた。  
だが、それでもやっぱり最初は痛いかもしれない。  
俺は女じゃないからわからないが、自分の中に異物をねじ込まれるんだ。  
初めてのこいつが痛くないわけが無い。  
 
・・・・・・・・・って。  
・・・・・・・・・・・・・まったく。ほんと、どうかしてるぞ俺は。  
何一々こいつのこと色々気にかけてんだよ。  
 
俺だってもう我慢できない状態だってのに。  
 
「・・・・・・・・・・じゃあ、もう・・・・・・・・・入れて、いいのか?」  
「―――――――ちょっと、怖いけど。・・・・・・・・・・・でも、これ以上・・・・・、意地悪されるのも・・・・・・・・・。  
夢の中じゃ、私がリードしてたのに・・・・・・・・・・・・。」  
「(経験無かったくせに何いってんだコイツは)・・・・・・・・・・・・・・まぁいい。んじゃ早速―――――――」  
 
そう言って、ズボンのチャックを下ろす  
―――――――と。  
 
「え―――――――?・・・・・・・・え?え・・・・・?・・・・・・・・・ええぇええええええええええええええええええッッ!!??」  
 
ヴァージニアが、突然悲鳴じみた叫び声を発した。  
辺り一帯に響き渡るほどの大声に、思わず耳を塞ぐ。  
―――――――まあ、大体は予想していた反応だ。  
 
「あ―――――――・・・・・・・。大体何が言いたいのかはわかってるが・・・・・・何だ。」  
「―――――――だって、そんな、大きいって―――――――・・・・・・・・・。  
・・・・・・・無理。無理!無理!!そんなの・・・・・・・・・き、凶器じゃないの!!何よそれ!!  
死んじゃう、死んじゃう!絶対死んじゃうってばあ!!」  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・小さいとか言われるより、なんかあれだな。」  
 
「・・・・・・・・あ。・・・・・・・・ごめん、なさい。・・・・・・・・・でも、そんなの・・・・・入るわけ―――――――。」  
「あのな。何の為に俺がお前を虐め・・・・・・・・あ、いやお前の・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・。  
・・・・・・・・・・そこ、濡らしたと思ってんだよ。・・・・・・・・・・お預けどころか、ご破談にする気か?」  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー。  
何て残念そうな声出してんだ俺は。  
まるでガキみてぇじゃねえか。  
 
こいつも、そう思ったのか。  
しばらく、う〜、と唸りながら逡巡したあと。  
 
「――――――――――――――――――――――――――――いいよ。おいで。」  
 
と。  
まるで――――いつものことだが―――――俺の姉貴にでもなったかのような年上ぶった口調で。  
 
この先を、求めてくれた。  
 
ヴァージニアは下着を脱ぐことを渋ったが、そのままでは挿入しづらかったので何とか無理矢理脱がした。  
脚を掴み、左右に開いて膨張した自身をヴァージニアの秘部へとあてがう。  
あんまりまじまじと見たらまた怒らせそうだったんで、極力そちらには目をやらないように努めながら。  
「ん――――――――――・・・・・・・・・・・・・」  
ぬちゃりと、粘った音と感触。  
先程の口付けの時のこいつの舌を思い出し。  
ヴァージニアに亀頭を舐められているような錯覚を覚える。  
 
そのことに、少し息が荒くなるのを感じながら、  
 
「・・・・・・・・・・・・・挿れるぞ」  
 
と、俺は小さく呟いた。  
 
ヴァージニアがこくん、と頷くのを確認して亀頭をわずかに押し入れる。  
 
「んっ―――――――!?あ・・・・あ!!は―――――――ぅん!」  
 
ヴァージニアの身体が、びくんと仰け反る。  
正直、かなり辛そうだったが気遣ってやる余裕は無い。  
こいつの膣は初めて雄を受け入れるということもあってか、ひどく狭くて窮屈で。  
気を抜けば、このまま、何もしないまま射精してしまいかねない。  
 
「っ――――――――――――――」  
 
小さく、苦悶の声を洩らしながらヴァージニアの奥へと侵入していく。  
確かに狭いが、事前に充分すぎるほど濡らしていたおかげで意外に楽ではあった。  
とはいえやはり苦しいことに変わりはない。お互いに。  
 
「ン、っ・・・・・・・・・は!んく――――くぅ―――――――ん、っ・・・・・・・!」  
 
自身を侵してくる異物を押し戻そうとしているのか。  
それともなんとか受け入れようとしているのか。  
ヴァージニアの肉壷は収束し、俺の肉棒を締め付けてくる。  
 
「は―――――――、あ・・・・・い、あ―――――――・・・・・・・・・・・!」  
 
・・・・・・・・・・・・・・無意識なんだろうが、勘弁して欲しい。  
びっちりと密着してくる肉壁が与えてくる快感は、なんていうか暴力じみている。  
その重圧に懸命に抗いながら、中を押し広げていく。  
やがて、最奥ではなく、そこへの到達を阻む壁に接触した。  
それが何なのかは、理解している。  
一瞬、動きを止めて。  
 
「―――――――我慢、しろよ」  
 
と言って腰を突きいれ。  
その弾力のある壁を押しのけた。  
 
「っ――――――――――――――!」  
 
声にならない悲鳴を上げながら、それでもヴァージニアは―――――――  
いや、ヴァージニアの意思には反しているのかもしれないが。  
こいつの膣は、俺の肉棒への圧迫をやめない。  
 
「―――――――あ、―――――――はぁ・・・・・・、ん―――――――いま、なんか・・・・ぶつん、って・・・・・・・・・・・・  
わたしぃ・・・・・・・・・なか、ジェットのが―――――――・・・・・・・・・・・・・・・・」  
 
ヴァージニアは初めての―――――――それでいて最後であろう破瓜の痛みに、少し放心ぎみになっている。  
ぼんやりとした瞳で接合部を部を眺めるその姿は、ほんの少しの罪悪感を感じさせられたけど。  
 
凄く―――――――その・・・・・・・・・・可愛いと思った。  
 
「―――――――ジェット・・・・・・・・・・?どう、したの・・・・・・・・・・?」  
「――――――――――――――あ、いや」  
 
腰を動かすことも忘れ、ヴァージニアに見惚れていたことに気が付き、慌てて言葉を取り繕う。  
 
「―――――――-悪ぃ。やっぱ痛かったか?  
でも、こればっかりは、その不可抗力っていうか仕方ないってゆーか・・・・・・・・・・・・・」  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・あんな、のが――――入ってきてるんだもの。痛くて、当然だわ・・・・・・・・。  
でも、それは、ジェットと・・・・・・・ん、つながってるから、なんだよね・・・・・・・・・?私、・・・・じぇっとに、抱かれて、るから・・・・・・・・・」  
 
・・・・・・・・・・・まあ、そうだ。  
だから、こいつが痛がっているのも俺のせい。  
わかって、いるけど。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・動くぞ。」  
 
今、再確認した。  
やっぱり、こいつが欲しいという衝動はどうしようもない。  
 
「あ―――――――ん・・・・・・・・・・・・・・!?」  
 
更に奥へと腰を突きいれ。  
ず、ず、と互いの肉を擦り合わせながら。  
努めて、慎重に抽送を行う。  
 
「い―――――――――、っん・・・・・・・!は―――、・・・・・・・・・!」  
 
ヴァージニアの声に、まだ痛みが篭っているのはわかっている。  
とはいえ、こちらも思考が定まらない。  
腰を動かすことにしか頭が廻らない。  
 
「―――――――――ふぅ、っ・・・・・・・・・ん・・・・!は―――――ん、く・・・・・・・・・・・っ!!」  
 
少しずつだが、ヴァージニアも貫かれる痛みに慣れてきてはいる。  
だが、こいつがその痛みの段階に慣れるよりも早く。  
俺の勢いが強くなるほうが早い。  
 
「は、んあ、は、あ――――!なか、ごりごりって、こす・・・・・・・・れてっ・・・・・・・・・・・・・・!あ、ん・・・・・・!い・・・・・・・・・・・・っん・・・・・・・・・!」  
 
ヴァージニアは痛い、と口にはしない。  
多分、俺が気にすると思っているのだろう。  
それでもヴァージニアの身体は段々と強くなる痛みから、無意識に逃がれようとする。  
けど、同じように無意識で。  
こいつの襞はぎゅうぎゅうと絡み付いて俺を放そうとしないもんだから、結局のところそれも意味のない行動だった。  
 
どのみちやめられないのだから、少しでも早く終わらせたほうがこいつのためかもしれない。  
 
それに。  
俺だって、もう長くは持ちそうにない。  
 
「っ、あ・・・・・く・・・・・・・・・・はぁ、あ、あ・・・・・・・・・!!」  
 
ずっ、ずっ、ずっ、と。  
中で互いが擦れる度、ヴァージニアの口から吐息が漏れる。  
 
「ん―――く、―――――そんな、かきまわさないで、よぅ――――・・・・・・・・・・・!」  
「・・・・・・・・・・・は―――、く、ぁ、・・・・・・・・・・・・・・!て、めえこそ・・・・・・・・・・・・、んな、締め付けんじゃ・・・・・・・・・!」  
 
俺が腰の動きを強くするたび、ヴァージニアの締め付けも増してくる。  
俺の肉棒全体をぎっちりと隙間無く締めてくる肉壁。  
 
「いや、わた、わたし、こんな、―――――!へん、なの、おかし、おかしくなっちゃ、う、からぁ・・・・・・・!」  
 
 
 
ヴァージニアの身体は、中も、外も、ドロドロになっている。  
絡み付いてくる襞は、俺の進入を拒むくせに腰を引き抜くことも許そうとはしない。  
 
「は、あ――――――――!」  
 
絶頂へと。  
果てへと向かい、互いを責め合う。  
そして、俺はそれに目前まで迫っていて。  
 
「だめ――――、私、もう、だめ、だめなの・・・・・・・・!ジェット、ジェット、わたし、もぉ・・・・・・・・・・!」  
 
同じく、ヴァージニアも限界へと近づいていた。  
 
「っ――――――ヴァー、ジニア・・・・・・!」  
 
奥の奥まで届くように。  
一際強く、腰を突き入れる。  
 
―――――それが、互いの止めとなった。  
 
「っ―――――――ジェット・・・・・・・・・!んあ、あ、じぇっと、じぇっと―――――あ、――――――ぁ・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!」  
 
湧き上がってくる射精感に、慌てて腰を引き抜こうとする。  
が、間に合わない。  
びくびくと痙攣しながら。  
絞り出すように締め付けて、ヴァージニアの身体は、絡まってくる襞は、俺の射精を促してくる。  
 
「っ、ぐ―――――――――!?」  
 
それに耐え切れず、滾った、熱い塊をどっぷりと膣の中に吐き出す。  
吐き出していく。  
 
それを受け止めながら、ヴァージニアは  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ、じぇっと、の・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
 
と、ぐったりと、ぼんやりと、しながら呟く。  
俺の中から熱いモノが吐き出されるたび、ヴァージニアの中でペニスが振動する。  
 
「・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・、すごく、あつい・・・・・・・・・よぉ・・・・・・・・・・・・・・・」  
「――――――――――――――――――」  
 
頬を蒸気させ、はぁ、と呼吸をするヴァージニアの姿は反則級に艶めかしい。  
収まったはずの衝動が、再びこみ上げてくるのを感じ取る。  
 
(――――――――――――っ)  
 
そういうわけにも、いかねぇか。  
一応、今は非常時なんだし。・・・・・・・・・・・・・今更だが。  
そう考えて、ゆっくりとヴァージニアから挿入していたものを引き抜く。  
ごぽ、と俺が吐き出したものとヴァージニアから分泌されたものが混ざり合って、溢れてくる。  
 
・・・・・・・・・・本当、目の毒だ。  
 
少し、気まずいものを感じながらそれを眺めていると。  
ヴァージニアはいつの間にやら眠りに就いていた。  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ。眠っちまったのか。」  
 
少し残念に思い呟く。  
これで続きは完全に無くなった。  
 
(―――って、おい。さっきもうしないって考えたばっかだろうが)  
 
自分を戒めるように言い聞かせる。  
が。  
 
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど、まぁ、これくらいは、いいよな)  
 
ほんの少しだけ誘惑に負けて。  
何ともはしたない格好のまま寝息を立てている馬鹿女が目を覚ますことの無いように俺は。  
そっと、控えめな口付けをした。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
夜が明けて。  
俺とヴァージニアはクライヴ達と無事合流を果たした。  
お互い大事は無く、怪我らしい怪我といえば俺の右腕くらいだ。  
それも今はちゃんとした手当てをしているし、特に問題は無い。  
もともと手当てが必要なほどの傷じゃなかったわけだし。  
 
とまぁ、それは、よかったんだが――――――  
 
「・・・・・・・・・・・・・・・おい。なんで腕組んでんだお前?」  
 
俺の質問に対し、ヴァージニアはさも当然のように。  
その上大声で。  
 
「『何で』って・・・・・・・・・・・・・・。私達、好き合ってるんだし自然だと思うけど。あんなことまでした仲なんだし」  
 
と答えてきた。  
・・・・・・・・・ああもう。  
 
こいつのこういうとこ、たまに本気でどつきたくなる。  
こんな荒野で腕を組んで歩く男女のどこが自然なんだろうか。  
 
「もういい・・・・・・・・・。勝手にしろ馬鹿。」  
「うん。勝手にする」  
そういってえへへ、と笑って更にがっちり腕を組んでくる。  
・・・・・・・・・・・・・こいつはこーいう奴だ。諦めよう。  
 
それよりも後ろでにやにやしながらこっちを眺めている2人をぶん殴りたい。特に眼鏡のほう。  
こいつと「何か」あったってことは勿論話しちゃいない。  
けど薄々感づかれていると思う。  
つうかさっきのこいつの発言で完全にばれただろう。  
 
(・・・・・・・ったく。踏んだり蹴ったりだぜ)  
 
――――――ふぅと溜息をついて。  
 
(『思い出』・・・・・・・・・・ね。)  
 
こいつが普段俺に言う言葉を思い出す。  
 
・・・・・いつかのあいつは兵器としての思い出しか作れないまま死んじまった。  
それでも、あいつはあいつなりに、自分の時間を精一杯生きたんだろうから憐れだとは思わない。  
―――――俺は・・・・・・俺には、幸か不幸かこいつがいる。  
このじゃじゃ馬で乗りこなすのは相当骨が折れそうだが。  
まあ、それが「ヴァージニア」ってやつなんだから仕方ない。  
こんな女を好きになった俺が悪い。  
 
そりゃあもう、厄介なこととか、面倒なこととかが、こいつとの思い出には刻まれていくことだろう。  
・・・・・・・・・・今までも、そうだった。  
それでも。それらは必ずしも苦い思い出というわけじゃなかったから。  
だから、少しうんざりしつつも。  
これからもこいつとそういう思い出を刻んでいこうと思う。  
 
また、やれやれと溜息を吐いた後。  
(・・・・・・・・・・どーせあとであの2人にからかわれるのは目に見えてんだ)  
こちらからも少し強く腕を組んだ。  
・・・・・・こーいうことも、思い出になるんだ。  
だったら俺だけ照れくさがっているのも、あれだ。  
 
ヴァージニアは俺の行動に少し驚いたようだったが、そのことに気をよくしたのかすぐに顔を赤らめながら微笑む。  
・・・・・・・・・ああ、くそ。可愛い。畜生。  
その表情に、俺も顔が赤くなるのを感じながら。  
また少し、腕を組む力を強めた。  
 

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