団長直々に氷狼騎士に推薦された、っていうからどんな奴かと思ったら、  
何だい、ただのチンピラじゃないか。  
文句あるんなら、かかってきな。女だからって手加減は要らないよ?  
 
             初めて、女に負けた。  
 
 あんたが勝てないのは、あんたの剣に意味が込もってないからさ。  
あんたはただ、鉄を力任せに振ってるだけ。  
心があれば、鞘に収めた刀でも敵が切れる…  
 
             初めて、力を意識した。  
 
 あたしと同じ技を使いたい?  
ふん、新入りがまた大きく出たもんだ。  
いいさ、やってごらん。  
あんたなんかに会得できるもんじゃないってのが分かるまでね。  
 
             初めて、早撃ちを教わった。  
 
 そう、その感じだ!  
なんだ、やれば出来るじゃないか。  
…ま、まあ、あたしには遠く及ばないけどね。  
 
             初めて、エルミナが褒めた。  
 
 
エルミナはよく笑った。  
はじめは嘲笑ばかりだった。  
だがそれは、だんだんと微笑みに変わり、照れ笑いも多くなっていった。  
そうなるように、ギャレットは努めた。  
エルミナが、その笑顔が、彼の守るべきものだったから。  
 
しかし―ギャレットの記憶に最後に残るのは、城門の柵に阻まれたエルミナの後ろ姿。  
 
そして、自らが与えた傷で体を赤く染め、腕の中で息絶える――  
 
ザックはいつもそこで目を覚ます。  
辺りはまだ薄暗く、傍らの仲間達はまだ寝息を立てている。  
手元にあった、長年使い続けてすっかりくたびれているリボンを手にとり、黙って見つめる。  
夢の中のエルミナの笑顔は、いつもぼやけてよく見えなかった。  
リボンを握りしめても、完全に思い出す事はできない。  
 
ザックは、ますます朝が嫌いになった。  
 
水の町ミラーマの酒場が騒がしいのは、最近では珍しい事ではない。  
 テラスのテーブルに突っ伏した者をはじめとして、その前の通り、  
さらに噴水の見える広場にも、何人もの男達が倒れたまま固まっている。  
肘鉄を沈められ、急所を蹴り上げられて屈強な男が倒されるたび、  
人垣を作る野次馬から歓声が上がった。  
 他所からきた粗野な荒くれ者を、赤毛の美しいウェイトレスが翻弄する。  
いつしかこれは、ミラーマに住む住人にとって最高に気分の晴れる見世物になっていた。  
「まだやるつもりかい?これ以上醜態を晒す前に、  
とっとと尻尾巻いて逃げたほうがいいと思うけどねえ?」  
肩に掛かった髪を勢いよく後ろへ払いのけながら、気の強さを窺わせる鋭い光を宿した瞳で  
残った男を見据える。  
見物人も彼女の勝ちを確信し、無粋な訪問者の捨て台詞を待つ。  
 だが今日の相手は、いつものチンピラとは少し違うようだ。  
一行の頭らしい色黒の男は、しばらくとぼけたような表情で勝気なウェイトレスを眺めていた。  
しかし彼が急に目を細め、指を鳴らした途端、幼い悲鳴が短く響く。  
観衆の中に混じっていた男の手下が、近くにいた少女の首筋にナイフをあてがっていた。  
予想外の事態に、それを見た者は皆言葉を失う。  
複数の男を相手に恐怖の一片も感じなかった気丈な看板娘とて、例外ではない。  
瞬時に事態を呑み込んだ彼女は、瞳を焦燥に翳らせ、唇を震わせた。  
「な…何の真似だい!人質をとろうなんて、男の風上にも置けないねッ!!」  
しかし色黒の男は、その言葉を待っていたかのように不敵な笑みを浮かべた。  
「お前は中々俺好みだ。気が強いのも悪くない…が、少し傲慢が過ぎる。  
渡り鳥と、男は違う…。これが渡り鳥の強さだ」  
手下の男が見せつけるように少女の顎を持ち上げ、晒された白い喉のナイフを僅かに動かす。  
刃の食い込んだ肌から、赤い筋が滲み出た。  
「ふざけんじゃないよ…渡り鳥を馬鹿にしてんのかい!?  
あんたなんか渡り鳥じゃない、ただの……ッ!!」  
震える声で罵ろうとした時、今度は彼女の喉元に剣の切っ先が突きつけられた。  
「どうやら渡り鳥がどんなものか知らないらしいな…その体に、たっぷり教え込んでやろう。」  
男の目は、魔族のそれと変わりなかった。  
(こんな…こんな事…渡り鳥が……)  
男が近づいてくるのを感じ、頭が沸騰するような怒りを覚えながらも、  
悪魔の洗礼を受け始めた真っ直ぐな娘は、立ち尽くす他何をする事も出来ずにいた。  
 
男の手が胸に当たるのを感じた瞬間、何故か脳裏に緑のリボンが浮かんだ。  
膨らみを掴む手に力が入りかけた、その時。  
 どこかで、いや割と近くで鈍い音が響く。  
色黒の男の体が、ウェイトレス―エルの体へと寄り掛かってきた。  
いきなり押し倒されるのかと思ったエルは、反射的に身をかわす。  
すると、男の体は…そのまま、力なくうつ伏せに地に伏してしまった。  
「あ、兄貴ッ!?どうしたんだ!!」  
ニヤついていた手下たちが急に慌てた声になる。  
「おい女!テメェ何しやがった?ふざけた真似すっと…」  
少女を人質に取っている男ががなりたてている間に、エルと男たちの周りで妙な音がし始めた。  
 はじめ風を切る重い音だったものが、次第に同質の軽く鋭い音に変わり、  
やがて魔獣が吠えるような音を立てるようになる。  
何かが凄まじい速度で回転している―そう気付くものが何人か出た頃に、  
手下が一人、また一人と宙に放り出されていった。  
狙ったように渡り鳥達だけを取り込み、渦に乗せて更に上空へと巻き上げる。  
 竜巻だった。その奇妙な竜巻は、叫び声を上げ続ける男達が気絶するまで存分に  
猛威を振るったあと、一人残らず水路へ振り落とした。  
 その様を呆気に取られて眺めていたエルは、竜巻が弱まるにつれて青い線が見え始めたのに気付く。  
その線は、しだいに太く、はっきりと見えるようになる。  
 そして最後にそれが街の入り口へ向かって飛んでいこうとした時、  
エルは、自分でも驚くほどの敏捷性でその風を捕まえた。  
「ぎゃっ!!」  
手の平から悲鳴が漏れる。  
手を開くと、そこにはどこかで見た事のあるネズミがいた。  
エルは、なぜか自分が変な期待をしているのが不思議だった。  
 顔見知りの亜精霊が向かおうとした先には―街の入り口の門から、隠れきっていない金髪と、  
緑のリボンの端が覗いている。  
 エルの表情が柔らかくなる。  
「…あんただったんだね。そこにいるんだろ?出てきとくれよ。  
 礼が言いたいんだ……良い、渡り鳥に。」  
 
 
夕暮れの暖かい光が窓から差し込み、部屋を紅色に染める。  
 先程まで騒がしかった外も、町の人間たち総出で無法者たちを引っ立てていった今は、  
ただ時折猫の鳴く声が水音に混じるだけだ。  
 人々に散々もてはやされ、エルと彼女を救ったザックは妙な徒労感を覚えながら、  
やっとのことで酒場に落ち着いたのだった。  
「そういえば、あの二人はどうしたんだい?姿が見えないようだけど」  
厨房で特製のカクテルを作りながら、エルが話しかけた。  
カウンターで頬杖をつきつつその姿を眺めるザックは、少し気まずそうに言った。  
「あー、多分まだ守護獣神殿にいるんじゃねえか?あいつら、信仰心のない俺が行っても  
しょうがないとか言って除け者にしやがって…」  
すると、ザックの足元から青ネズミが這い上がり、彼の肩に乗って喋り始めた。  
「何言ってんだよザック、セシリア達は気を利かせてくれたんじゃないか。  
自分だって密かに喜んでたくせに。神行法も使ってないのにミラーマに向かう足の速さはなにさ?  
それにさっきのブレードパルサーにしたって、あの気合の半分でも普段の戦闘に向ければ…  
イテッ!イテテテ!何するんだよッ!!」  
『やれやれ』のポーズで首を振りながらまくしたてていたカゼネズミは、静かに怒る剣士が  
ヒゲを引き抜こうとしてくると、一層の非難を浴びせ始める。  
エルはそれを見て、腹部をおさえ、目尻に涙を浮かべて笑っている。  
「あっはっはは!あんたたち、本当にいいコンビだね。最高だよ!」  
そう言われ、ザックは照れくさそうにそっぽを向く。  
 しかし次の一瞬、エルの眩しい笑顔を覗くザックの瞳が寂しさを宿しているのを、  
長年の相棒は見逃さなかった。  
「…さて、と。ザックは今夜ここに泊まるよね。オイラ、ロディ達にそう伝えてくるよ。」  
強引に決めつけ、ザックが何か言おうとするのも聞かず、たちまち外へ飛び出してしまう。  
 街の中には、二人だけが残された。  
「何だアイツ…。足の短いヤツは早とちりなのか!?」  
髪をわしわしと掻きながら、溜め息をつくザック。  
 そんな彼の前に、軽い音を立てて赤いグラスが置かれる。  
ザックが座っている席の隣にある椅子を引き、エルが腰を下ろした。  
「はは…相棒に置いてかれちまったね。もうすぐ外も暗くなるし、今日は客も来そうにないから、  
言われた通り泊まってったらどうだい?特別にタダでいいからさ」  
エルの切れ長の瞳が閉じ、爽やかで人懐こい笑顔を見せる。  
 ザックはグラスを手に取り、中身を僅かに口に含んだ。  
鼻筋を熱い何かが走り、舌が痺れる。  
 相当に強く、魅惑的な甘い味が広がった。  
 
 
夜が更け、辺りは完全に闇につつまれる。  
酒場には、次第にアルコール臭が漂い始めた。  
長々とお互いの武勇伝が続いた二人の話も、ようやく一段落ついたようだ。  
カウンターの上には、かなりの量の酒が入っていたと思われる容器が散乱している。  
「…酒、強いんだな」  
ザックが呟いた。  
彼の顔が既に赤くなっているのに対し、その横に座るエルは、同じ量を飲んでいるはずなのに  
あまり見た目に変化はない。  
「みたいだね。やっぱりこの仕事についたのも運命かもねぇ」  
エルはカウンターに背を預け、三つ編みを指で弄っている。  
 ザックはその姿を見て、軽く衝撃を覚え、それとなく視線を外した。  
ザックの記憶には、彼女が髪を弄る仕草などほとんど無かった。  
何度回想したか分からない女剣士の姿は、いつだってまるで男そのものだったはずだ。  
 ふとザックは視線を感じ、エルに意識を戻した。  
酔いの為か少し潤んだ瞳で、エルがじっとザックの横顔を見つめている。  
「な…何だよ?」  
ザックはたじろいだ。  
「…やっぱりあんた、似てるわ」  
エルはそう言うと、ポケットから一枚の写真を取り出し、ザックの前に差し出す。  
 そこには、鎧を着た二人の男女が写っている。  
(こ…こいつは、フェンリルナイツ時代の俺とエルミナじゃねえか…ッ!!)  
ザックは我が目を疑った。  
まさか今の彼女から、その話が出てこようとは。  
「この町に、マーベルって娘がいるんだ。あたしは覚えが無いんだけど、どうやらその子は  
あたしの幼馴染らしくてね。よく店に来ては昔の話をしてくれるんだよ。  
ミラーマのサル娘って呼ばれたやんちゃ娘だったとか、水門事件の事とか…。  
この写真は、そんな昔のあたしがその子にあげたもんなんだってさ。  
あたしの横に立ってるの、あんたにそっくりだろ?」  
 ザックは、何も言えずにいた。  
エルミナという存在は、自分の中だけに封じておくつもりでいる。  
新たな人生を歩むエルには、足枷にしかならないだろうから。  
 黙りこんだザックを、エルは意味ありげに見つめていた。  
 
エルは写真を裏返した。  
裏には写真に写った二人の名前が、強めの筆圧で記してある。  
「ギャレット・スタンビート」  
エルが、暗記でもするかの如く、ゆっくり、そしてはっきりと男の真名を読み上げた。  
ふぅっ、っと一つ息を吐き、エルは突然ザックの顔を覗き込む。  
突然目の前に真剣な表情が現れ、ザックも息を呑んだ。  
 しばしの沈黙が、二人の間の空気を居合の『間』のように張り詰めさせていく。  
「………なあ。今、この時だけでいい。  
 あんたを、ギャレットと呼ばせてくれないか?」  
二人の視線が、初めて一つに合わさった。  
気のせいか少し頬を紅潮させ、何かを求める瞳でザックを見つめるエル。  
その雰囲気があまりに妖艶に見えるのは、互いに酒が入っているという理由だけだろうか。  
 黙りこんだままのザックをしばらく見つめ、やがてエルは何かをかき消すように、  
腕を胸の前でせわしなくばたつかせた。  
「なんてね。あははッ、冗談だよ、冗談!  
昼間あんな事があったから、ガラにもなく弱気になっちまってるのかね。  
 …あんたなら、この写真の男に見合う、って勝手に思っただけなんだ、だから…」  
「いいぜ。今晩限り、俺がギャレットになってやる。  
 その代わり」  
ザックは急にエルのばたつく手を掴んで引き寄せ、薄くピンクに染まったその唇に、  
柔らかい口づけをした。  
「……お前の事は、エルミナって呼ばせてくれよな」  
   
目の前にいるのは、かつて自分が愛した女とは違う。  
体が同じであったとしても、自分と関わりを持たせてはいけないと思った。  
 ――しかしギャレットなら、話は別だ。  
この身の熱さは、あのカクテルの所為だろう。  
これは夢だ…そう言い聞かせ、エルミナを抱き寄せる。  
 
朝がつらかろうと、人間は眠らずにはいられない。  
 
「ま〜た見てる。そんなにあたしが服を脱ぐのが面白いかい?」  
スカートに手をかけたエルミナが、食い入るように見つめるザックを見て意地悪そうな笑みを見せた。  
「男ってのはそういうもんなんだよ…というか、少しは恥ずかしがったらどうなんだ?」  
目の前で堂々と着ているものを取り払っていくエルミナに、逆にザックはたじろいだ。  
「今からする事を考えたら、服を脱ぐなんて何でもないじゃないか。  
ほら、見てるだけじゃなくてあんたもさっさと準備しな。」  
エルミナは子供に諭す風に言いながら、舞うようにフレアスカートを脱ぎ捨てた。  
何をするにしても彼女の動きにはキレがある。  
 シャツを脱ぐザックの視界に、一糸纏わぬ姿のエルミナが映った。  
暗い寝室のベッドに座っているザックには、逆光でその見事な輪郭が浮かび上がって見える。  
細くくびれた腰は昔と変わらず、しかしその下のラインは女性特有の曲線を描いていた。  
引き締まった太腿にも程よく肉がつき、ザックは喉を鳴らす。  
 昂ぶりに手が強張り、ザックはぎこちない動作で下着を捨てた。  
長年の想像の中よりも遥かに肉感的な熟れた体が脳裏に焼きつき、  
男の頭は茹だったようになっている。  
その変化が最も顕著に表れる場所も、当然はちきれんばかりになっているはずだった。  
しかし、実際には…  
(な、何故だッ!?こんな時に限ってコイツ…!!)  
酔いが過ぎたせいだろうか、それははちきれるどころか普段の大きさすら保っていない。  
「あれ、元気ないね。あたしじゃ興奮しないかい?」  
床を鳴らしながら、美しく迫力のあるエルミナの肢体が近づいてくるのを、  
俯いたザックは指で掴めそうな足首の動きで知った。  
「んな事ぁねえよ!俺がどうかしちまってるんだ」  
慌てて否定するザックの前に、エルミナは膝をついた。  
「根性無しには、気合を入れてやらなきゃね」  
長い指が急所を捕らえ、僅かなためらいの後、熱い粘膜が包み込む。  
付け根は柔らかい唇に挟まれ、亀頭の側面を舌が這い回る。  
ザックは目を細め、口からうめき声を漏らした。  
陰嚢にじんわりと痺れが溜まっていく…。  
   
 熱心な口唇奉仕は、途切れることなく続いた。  
一回り、もう一回り…エルミナの舌にくるまれる質量が増す。  
快感は背中を侵食し、首に向かって広がり始めた。  
 浮き出てきた裏の筋を舐め上げる。  
ザックのうめきも僅かずつ音色を高くする。  
口の中を埋め尽くすほど成長したのを喉に当たる硬い感触で認め、エルミナは怒張から口を離した。  
「はあぁ、はあ、これで、大丈夫だね…ふうッ。マーベルに聞いたこんな知識が、  
役に立つ時がくるなんて…にしても、疲れるね…。」  
額の汗を拭いながら、妙に嬉しそうにエルミナがはにかんだ。  
 
エルミナの顔を見つめながら、ザックはその頬に手を添えた。  
 部屋の中は暗いため、その表情ははっきりとは見えない。  
しかしザックは明かりをつけるのを拒んだ。  
あえて視覚は使わず、エルミナの全てを感じ取りたかったからだ。  
「ありがとよ、あんまり気持ちいいんで驚いたぜ。  
でも、やられっぱなしじゃ悪いからな。今度は、俺の番だ」  
手をエルミナの頭の後ろに回し、体を抱きかかえるようにしてベッドに座らせ、首筋に舌を這わせた。  
エルミナから驚きの声が上がった。  
唇に力が込められると首を守る皮が引き込まれ鈍い痛みが広がり、  
歯を立てられると今度は鋭い痛みがじんじんと神経を振るわせる。  
痛みは唇と共に、次々に場所を移していった。  
うなじ、肩、腕、耳。  
口だけではなく、手もエルミナを追い詰めていく。  
 存分に育った胸のふくらみを手の平が覆い、こねるように力を加える。  
時折その先端の尖ったしこりを指がひねり、彼女はその度に腰を浮かせて可愛らしい悲鳴を上げた。  
 髪を優しく掻き分けられ、安心して目を閉じたところで腋の少し下に唇が吸い付き、  
心臓まで吸い出されるかのようなくすぐったい刺激に歯の根が合わなくなる。  
 臍の穴に舌が差し込まれ、言いようのない違和感を感じている時には、  
手で背中を擦りあげられ、体の中で繋がる快感に身をのけぞらせた。   
 エルミナの体は、戦いの最中ふとしたはずみに触れたセシリアなどの体に比べれば  
いくぶん硬い感じがする。  
だが弾力に恵まれたその餅肌は、どんな女の肌よりも嬲り甲斐があり、肉を掴んだ時に来る抵抗が  
そのままエルミナの痛みとして男に実感させ、責めの手を早めさせる。  
   
ザックの指がようやく一番敏感な所を探りだした時、そこは既に粗相をした後のように  
多量の愛液にまみれており、二本の指で花弁を割り開くと、とろとろと溢れ出した熱い蜜が手首を  
伝い落ちた。  
 エルミナの体中を嬲り尽くした顔に、彼女の発する香りが纏わりつく。  
汗の酸っぱさとミルクのような甘ったるい体臭が混ざり合い、先程飲んだカクテルに近い、  
いやそれよりも濃厚で艶めかしい匂いがザックの脳を麻痺させる。  
「ギャレット…もういいだろ?か、体が変に熱くて、溶けちまいそうで…たまらないんだ。」  
息を弾ませ、涙を浮かべた目の奥からいつもとは違う種類の妖しい光を放つエルミナ。  
ザックには分からないが、その体には快感からか鳥肌まで立っている。  
 ザックもまた荒い息をつきながら、エルミナの口を自分の唇に重ね合わせた。  
今度は深く舌を絡ませあい、男は怒張の苦味を、女は体のしょっぱさを自ら知りながら、  
お互いの感覚を交わらせる。  
口を離すと、二人をなおも繋ぐ透明な糸が、銀色に光るのが見えた。  
 
エルミナはもう言うまでもなく、ザックもまた極度の興奮で胸が締め付けられるような感覚に  
襲われていた。  
エルミナの体をベッドに仰向きに寝かせ、開いた太腿の間に膝立ちになる。  
火照ったエルミナの背中には、ぐっしょりと濡れたシーツの冷たさが不気味だった。  
 ザックは痛いほどに硬くなったものを割れ目に擦りつける。  
ぬめる愛液にまみれた茂みと柔らかい溝が交互に先端をくすぐり、奇妙な快感を与えた。  
十分に潤滑剤をつけたことを確認し、ザックはエルミナの耳元に囁きかける。  
「入れるぜ…力、抜いとけよ」  
熱く硬いものが秘所にあてがわれ、知らずエルミナの呼吸が早まっていく。  
エルミナはうまく力が抜けているか分からなかった。抜けていない気もする。  
ザックはエルミナの細い腰を掴み、はやる気持ちを殺してゆっくりと沈め始めた。  
「ああう、う…っく」  
十分過ぎるほどに濡れているため、痛みはまだあまり感じなかった。  
しかし、その異物感には声を出さずにはいられない。  
焼け石のような感触が、少しずつ奥へ奥へともぐりこんでゆく。  
 根元を中心に広がるきつい締め付けに、ザックは早くも暴発しそうになるのを歯を食いしばって  
堪えながら、エルミナの身を案じて出来る限りゆっくりと腰を進めた。  
 エルミナは頭を垂れて髪をベッドに広げ、シーツを握り締めている。  
そしてやっと半分ほど収まった時――  
突然想像以上の激痛が走った。  
「……ッ!!…っは…ぁ…!」  
目が一杯に見開き、呼吸が止まる。  
耳の奥で鼓動が大きく鳴り響き、同じリズムで体の中が裂けたような痛みと、  
圧死しそうな苦しみが繰り返される。  
 視覚が封じられているに近い状態のため、快感も苦痛も、いやにはっきりと感じられた。  
「エルミナ、お前、やっぱり初めて…?」  
ザックは、嬉しいような、申し訳ないような訳の分からない気持ちになった。  
声を出さず、エルミナがゆっくり頷く。  
ザックは腰を落とし、膝に力を込めた。  
「悪いが、こっからは一気に行くぜ。その方が痛みはねぇ筈だ…」  
言葉通り、一気に残りの部分が押し込まれる。  
エルミナの口から、搾り出すような呻き声が発せられた。  
 一方ザックも同じく呻き声を漏らす。  
しかしその意味はエルミナとは反対だった。  
下半身に染みわたる快感は、それ以上何の刺激がなくとも射精には十分だった。  
しかし、さすがにここで終わらせるわけには行かない。  
「もう少し辛抱してくれ、エルミナ。俺はそろそろ限界だが、このままじゃお前は痛いだけだからな」  
ザックは震える脚に喝を入れながら、またゆっくりと腰を引く。  
 にちゃっと粘っこい水音が二人の耳に響いた。  
 
半分ほど引き抜いてザックが一息ついたとき、エルミナの太腿が内股気味に閉じてきた。  
彼女はシーツを握る反対の腕で寝台に肘をつき、上体を起こして二人が繋がっているところを  
見つめている。  
「……なぁ、あたしのそこ、どうなってるんだい?」  
エルミナが少し不安そうに尋ねる。  
「血が出てる…悪い、そんなに辛いんなら、もうやめるか?」  
その言葉を聞いて、エルミナは静かに首を振る。  
「いや、そうじゃないんだ。そっか、血が出てるのか…。うん、そういう痛さだった。  
…なんでだろうね、そう聞いたら逆に安心しちまったよ。大丈夫。  
それに、あんたがすごく気を使ってくれてるのは分かってる。  
おかげで本当に大丈夫だからさ、後はおもいっきりしたいようにしなよ。」  
額に脂汗の浮かぶ顔に疲労の色を映しながら、それでも笑顔に見える顔を作ってみせているのを悟り、  
ザックは心から感謝した。  
「…悪い」  
腰を深く突き入れ、肩で息をしながら動かし始める。  
「う…あ!…ああ!…あっ!!」  
動きに合わせて、エルミナは鳴いた。  
自分の中で異物が暴れ回っているのを感じ、しかし出し入れされるシルエットを見つめていれば、  
それが心を許した相手と認識でき、肉体的ではない何らかの重圧が少し軽くなった。  
 一方、ザックは既に余裕がなくなっていた。  
大きな原因は、エルミナの反則的なほど強烈な締め付けだろう。  
“斬り姫”と呼ばれた娘の鍛え上げられた腰は、まさに名器と呼ぶに相応しい。  
(参ったな…いい腰してるとは思ってたが、こんなのアリかよ…!?  
クソッ、まだ、まだやれる…限界は、まだ先のはずだ……ッ!!)  
歯を一層食いしばり、抜き差しを続けつつ手をエルミナの下腹部に滑らせた。  
茂みの下にある、粒上に隆起したピンク色の陰核に触れる。  
すでに半分ほど剥けている皮をめくり、皮と付け根の間をなぞるようにさすったり、  
先端を少し荒っぽく擦ったりして必死に弄りまわした。  
「あん!…はっ…あああ、うッうん、くうぅ…!!あ、いい、いい〜よぉ……!」  
明らかにエルミナの声が変わってきた。  
上体を支えていた肘ががくっと折れ、激しく軋む寝台の上に身を投げ出す。  
異常なまでに痙攣しだした太腿を押さえようと、脚を男の背に絡みつかせた。  
そしていつに間にか、ザックの腰の動きに合わせるように腰をふりだしている。  
 気持ちいいか、と訊こうとしたザックは、すぐに馬鹿馬鹿しくなり、  
エルミナの腰を掴んで、全く遠慮することなく蹂躙されて蠢く彼女の膣を愉しんだ。  
腰が、背中が電気をあびた様でたまらない。  
鼓膜を振るわせる獣じみた嬌声は、果たしてどちらのものか。  
下腹部で何かが急激に膨らんでいくのを感じながら、  
「ぐぅ…もう、駄目だ!…エルミナー!!」  
「う…!凄いぃ…ああ、ザック、ザック……っ!!」  
二人は同時に身体を震わせた。  
 
 
二人はベッドに仰向けに倒れていた。  
「…気持ち、よかったか?」  
ザックが、隣で形のいい胸を上下させているエルに問いかけた。  
「あぁ…びっくり、したよ」  
息を整えながらエルが答える。  
「最後、ザックって叫んでたろ」  
エルがはっとした顔になった。  
「え?本当かい!?あちゃー…。ま、まあ仕方ないじゃないか。  
『ザック』の方が言いやすいし、それに……」  
「…それに?」  
ザックがエルの方に顔を向けた。  
エルは、また慌てた様子だ。  
「な、なんでもないよ!あたしは疲れたからもう寝るよ。おやすみ!!」  
早口にそう言うと、ザックに背を向けて目を閉じる。  
ザックは怪訝な表情をしたが、疲れが出たのか大きな欠伸をした後、すぐに眠りについてしまった。  
小さくいびきが聞こえてくると、エルは目を開け、起き上がった。  
「全く、裸で寝るなんて何考えてんだろうね」  
ザックの腹に毛布を掛けていると、ふと彼の髪を結ってあるリボンに目が止まった。  
 そのリボンを撫でながら、エルは静かに呟く。  
「…それに、抱いてくれたのがあんたで良かった。  
 あんたは、立派な『篭手』さ」  
エルは、ただじっと、眠り込むザックを見つめていた。  
 
その夜、ザックは夢を見なかった。それは、ずいぶん久し振りの事だ。  
ただ、ザックは真っ白な頭の中ではっきりと見た。  
 エルミナが、笑っていた。  
 
ザックが目を覚ますと、辺りはすっかり明るくなっていた。  
「おはよう、ねぼすけさん。  
 もう朝だよ。」  
元気な声が飛んでくる。  
寝起きに聞く声が、今日は不思議と嫌とは思わない。  
「エル…ミナ?」  
頭の中に、先程の顔が浮かぶ。  
「ちょッ!何寝ぼけてんだい。あたしは…エルさ。  
 町一番の酒場の看板娘!  
 あたしはもう行くよ。あんたも早く準備しな、外でお連れさんが待ってるんだから」  
ザックは少し気だるげに、しかしいつもとはどこか違う様子でリボンを巻きなおし、支度をすませる。  
そして酒場を出ようとした、その時。  
「ザック!」  
エルが呼び止める。  
ザックが振り返ると、そこには、あの笑顔があった。  
「行っちまう前にさ。  
 また寄ってきなよ?  
 取って置きのサービス、してやるからさッ!」  
 
                     Fin.  
 

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