今日も一日が終ろうとしていた。
営業の終った店の戸締りをしながら、何度目かのため息をエルミナは無意識の内についた。
この日もザックはエルミナの前に現れなかった。
渡り鳥という稼業の為、次の約束を取り付ける事も出来ないし、いつ来るとも分からない。
そんな彼を待ち続けてそろそろ二ヶ月が過ぎようとしていた。
待つ身として二ヶ月は長すぎる。
ほんの少し顔を見せて、声を聞かせてくれれば良いのに…と思わずにはいられない。
怪我をしては居ないだろうか…他に良い人が出来たのだろうか…
いつもは忙しさに紛れて余計な事を考えずに済むのだが、
こうして一人になると一気に不安が押し寄せてくる。
自分の部屋に戻ったエルミナは、不安を押し流そうと熱いシャワーを浴びた。
ザックは…二ヶ月も身体を繋がないで平気なんだろうか?
想いが募る毎に身体もザックを求めている。
記憶が戻った日から幾夜もザックと身体を重ね、その度に快感を教え込まれた。
甘く…優しく…時に激しく……
今でもまだ恥ずかしさが残るが、それはエルミナにとってザックを一番感じられる時なのだ。
無論、どんなに離れていても心で想うだけで充分満たされるのだが
やはり男と女…身体を繋いで存在を確かめ合わねば、不安に飲み込まれてしまう…
「どうも…待つのは性に合わないねぇ」
誰に言うでも無く独り言ちる
バスルームから出たエルミナは、寝間着に袖を通しながらタオルで髪を拭く。
このまま眠ってしまえれば良いのだが、不安は思考を蝕み、心に闇を落として広がってゆく…
せめてベッドで横になろうと、最後にもう一度だけ店の外を窓越しに見る。
外灯の薄明かりに照らし出されている店の外に、エルミナは人影を見つけた。
その瞬間、エルミナは勢い良く部屋を飛び出し、戸締りをした扉を開け外に出る。
「ザックッ!」
踵を返し、店に背を向けて立ち去ろうとしていた人影が振り返る。
果たしてそこには琥珀色のコートに身を包んだザックが居た。
「エルミナ…?」
店から飛び出してきたエルミナを認めながらも、ザックは信じられない様子で彼女の名前を口にする。
まさかこんな時間に自分を見つけてくれるとは期待していなかったからだ。
厄介な依頼を受けて、すべて完了するのに今まで掛かっていたのだが、
ようやく彼女に逢う時間が出来た時には、ミラーマへ辿り着く頃には夜中になっているであろう時間帯だった。
それでも駄目元で彼女に逢う為強行軍を取った訳だが、酒場の戸締りがされていたので
明日の朝一番に改めようと諦めていたところだった。
二人は同時に走り寄り、長い抱擁が交わされる。
たくさん言いたい事はあったはずなのに、言葉が思い浮かばず
ただただ体温を感じるだけで今までの不安が嘘のように消えていく。
「遅くなってすまなかった…」
腕を解き、ザックがいとおしそうにエルミナの頬に手を添え、流れ落ちる涙を唇ですくい
そのまま口付けを交わす。
触れた唇が冷えている事で外気の冷たさを感じたエルミナは
すぐに口付けを解いて、ザックの頬を両手で包み込んだ。
「ずいぶん冷えてるじゃないか…今夜は泊まっていけるんだろ?早く部屋で温まって…」
エルミナの言葉を遮って、ザックが再び口付ける。
先ほどの触れるだけの口付けとは違い、舌を差し入れ
歯列の裏をなぞり、舌を絡ませ吸い上げる。
本気のキス…
「んんッ…」
息苦しさから漏れた声にザックは少し唇を離し、エルミナが息継ぐのを見計らって再び塞ぐ。
頭の芯が痺れ、舌を吸われる度に身体の奥が疼き始める。
激しい口付けにエルミナは翻弄され、ザックにしがみ付くのが精一杯だ。
数ヶ月振りの口付け…しかもザックの本気のキスはエルミナをその気にさせるには充分だった。
その事を悟られまいと、エルミナはザックの口付けから逃れ、顔を背ける。
「人がッ…心配してやってるのに…」
息を弾ませ、潤んだ瞳で睨み付けながらザックを非難する。
「仕方ないだろ。久しぶりなんだから…」
二ヶ月の禁欲生活はザックにとっても長かった。
エルミナの顔を見た途端、箍が外れてもおかしくは無い。
「嫌か?」
ザックは先ほどのキスで、エルミナの身体が反応し始めた事に気付いていながらも
強がっているエルミナを虐めたくて、わざと聞いてみる。
「…嫌じゃない…けど……」
俯いた顔を、暗がりでも見て取れるほど真っ赤にして答えるエルミナに満足し
ザックは顎に手を掛け、上を向かせて軽く触れるだけのキスをする。
「んじゃ部屋へ行くか?」
そう耳元で囁いて、エルミナを促す。
「…う…ん……」
今のキスが少し不満げながらも頷き、ザックと共に店へと入り、戸締りをする。
店に静寂が流れた。
部屋に入ったザックは後ろ手に扉を閉め、エルミナを抱き寄せて唇を奪う。
突然の口付けに怯んだエルミナを追い上げる様に、舌を絡ませ口内を余す事無く貪る。
エルミナは力が入らなくなって、ともすれば崩れ落ちそうになる脚を防ぐ為
ザックの首に腕を回し、しがみ付く。
そんなエルミナを、ザックは近くのテーブルに押し倒し
口付けを解かないまま、ザックを受け入れる場所へと手を滑らせる。
「あっ…やだ……ッ!」
性急に求めるザックの腕を止めようと、エルミナが脚を閉じ、拒絶しようとしたが
ザックは内股にぬるむ粘膜を捕らえ、ほくそ笑んだ。
「キスだけでこんなになってるのにか?」
そう言って、意地悪くエルミナの目の前に愛液の付いた手を見せつける。
「だ…だって……」
泣きそうな顔で言葉を詰まらせるエルミナを可愛いと思いながらも
ザックの言葉攻めは止まらない。
「いつ感じたんだ?」
耳元に囁きかけ、柔らかな耳朶を口に含み吸い付く。
「んっ……知らな…ぁ……」
首筋に唇を移し、軽く歯を立てる。
「知らないはずねぇだろ?」
鎖骨の窪みに舌を入れ、舐め上げる。
「………二回目…のキス……」
とうとう耐えかねて、エルミナが正直に答える。
「素直でよろしい」
エルミナの言葉に満足したザックは、彼女をテーブルにうつ伏せにし
熱く硬い自身を濡れたエルミナの入り口に当てがい、背後から一気に埋没させた。
「あっ!ああぁ………ッ!!」
突然貫かれたエルミナが、悲鳴じみた声を上げる。
「これが欲しかったんだろ?」
根元まで入りきったところで身を屈め、エルミナの髪を掻き分け項に口付ける。
「ぅ……ふっ………」
図星を差され悔しいのか、エルミナが顔を赤く染めて声を押し殺し、テーブルにしがみ付く。
「俺も…ずっとこうしたかった……」
ザックはエルミナの腰を掴んで、ゆっくりと律動を開始する。
「ぁ……っ…はッ……ん………」
いつもとは違った体位の所為で、より深くまでザックを感じ、エルミナの口から自然と声が出る。
握り締めた手がガクガクと震えているのを見て取ったザックが、そっと自分の指を絡ませ、律動を速める。
久しぶりに繋いだ身体は、すぐに限界に達した。
「エルミナ…締めすぎだっ……もたねぇ」
ただでさえ締め付けの良いエルミナが、二ヶ月も待たされていたのだ。
無意識にしろ、ザックを絶頂へ追い込むにはさほど時間は掛からない。
「んっ……あ…たしも…もぅ……ッ」
エルミナもザックの指を握り締め、背筋を駆け上る快感に限界を感じる。
「一回出すぜ?」
そう言って、ザックは更に激しくエルミナの中を行き来し、自身を追い上げる。
エルミナの中一杯に育った欲望は、壁を擦り上げ、同時にエルミナをも追い上げた。
「ザック………あッ!あぁぁ――――ッ!」
一層深くにザックの欲望が突き立てられ、エルミナがきつく締め付ける。
「くッ……エルミナッ…!」
と、同時にザックは欲望の残滓を最奥へと打ちつけた。
荒い息をついて、しばらく余韻に浸っていたザックが
放心状態のエルミナから自身を抜き出すと、吐き出した精が中から流れ出る。
すでに立っていられない状態のエルミナを抱え上げて、ベッドへと放り投げた。
「ちょっ…ザック……ッ!?」
乱暴に落とされ、文句を言おうとしたエルミナの唇をザックが自分の唇で塞ぐ。
唇を吸い、舌を口内へ滑り込ませ、逃げをうつエルミナの舌を絡め取る。
圧し掛かってくるザックを、エルミナは彼の束ねられた髪を引っ張る事で抗議するが
エルミナを貪るザックは止まらない。
ようやく唇を離れたザックは、エルミナの口の端を流れる飲み込みきれなかった唾液を辿り
首筋へと滑らせる。
「ザックッ!!」
ザックを押しのけようと伸ばされた手を絡め取り、押さえつける。
「夜はまだまだこれからなんだぜ?」
先ほどの繋がりだけでは足りないとばかりに、ザックがエルミナに意地の悪い笑みを見せた。
彼女のはだけた寝間着を脱がせつつ、露になった柔らかな乳房に吸い付く。
「あっ!」
乳首を舌で転がされ、ついつい声が出る。
ザックの手が反対の胸も執拗に嬲ってゆく。
もう片方の手を下腹部へ滑らせ、茂みの奥の秘所へと指を沈める。
先ほど自分が放ったものと、一度達しているので敏感になって流れ出るエルミナの愛液で
そこは難なく指を飲み込む。
「すげぇ締め付けだな…このまま指だけでイけるんじゃないか?」
指を咥え込み、締め付けるエルミナを煽るように、ザックが指を増やし、出し入れを始める。
「ぁんっ……や…やだッ!」
エルミナが脚を閉じようとするが、ザックは身体を割り込ませてそれを遮る。
「嫌じゃないだろ?」
軽く曲げた指で内壁を刺激し、エルミナの感じる部分を攻める度、身体が跳る。
「……指じゃ…やだ……ザック………のがいぃ…」
思いがけないエルミナからの求めに、気を良くしたザックは指を引き抜き、衣服を脱ぎ始めた。
「まだ充分じゃないから口でしてくれるか?」
勃ちかけている自身をエルミナの目の前に差し出し、促す。
エルミナが躊躇いがちにザックに触れ、目を閉じておずおずと舌を這わす。
いつもはザックから求めるので、今まで一度もエルミナに奉仕してもらった事がなかった。
慣れない様子で、それでもザックを根元まで咥えて、舌で包み込む。
エルミナの紅い唇から出し入れされる自身を眺めていると、一気に興奮が高まってくる。
ぎこちなくも必死なエルミナの奉仕に、ザックはすぐにでも勃ち上がりそうな自身をはぐらかし愉しむ。
エルミナは口の中で成長し、脈打つザックを無心に追い上げていた。
「もういいぜ、エルミナ」
そんなエルミナに満足したのか、ザックがエルミナの口から自身を引き抜く。
それは充分に硬さを取り戻し、天を仰いでいた。
唇を解放され、荒い息をつくエルミナを仰向けにし、脚を開かせる。
熱く滾る自身を入り口に当てがい、先ほどとは打って変わりゆっくりと身を沈める。
エルミナの中は待ち構えていたかのように、ザックを包み込む。
「ふ…んっ……はぁ……ッあ………あぁ」
ザックを受け入れ、呼吸を整えるエルミナに容赦なく腰を打ちつける。
エルミナの脚を抱え上げ、抜け落ちるギリギリまで腰を引き、狭い中を奥まで突き入れ蹂躙する。
その度にエルミナがザックを締め付ける。
ザックは上体を倒し、愉悦の声を上げるエルミナの唇に貪り付く。
舌を差し入れると、エルミナがザックの首に腕を回し、吸い付いてくる。
お互いの唾液を絡め、声と共に飲み込む。
逢えなかった時間を埋めるように、深く長く…
いつの間にかザックと同じリズムでエルミナの腰が動き始め、より深くザックを奥へと誘う。<BR
エルミナは首に絡めた腕を掻き抱き、ザックの背に爪を立てる。
そんな密かな痛みに煽られ、ザックは速度を増していく。
「はっ…エルミナァ!!」
「あッ!ああぁぁんっ…!」
身体の奥に熱い飛沫が打ち付けられた瞬間、エルミナはザックを締め付け、全てを飲み込んだ……
先ほどまで火照っていた身体もすっかり冷め、エルミナはザックの体温を求めるように擦り寄る。
二度の絶頂で半ば眠りに入りかけていた。
眠る前にザックに約束を取り付けたかったが、とても無理そうだ。
「次は…こんなに…待たせないで…よ……」
ザックの返事を待たずに、エルミナは意識を手放した。
「また、夜を越えて逢いにくるさ」
眠ってしまったエルミナに軽く口付けをしてそう答え、ザックも訪れる睡魔に身を委ねた―――――