月に照らされ、町中に巡らしてある水路の水面はキラキラと輝いている。  
水の町ミラーマの深夜。  
この町に一件だけある酒場兼宿屋はそろそろ閉店時間を迎えようと――  
バッタ―――ンッ!  
強烈な衝撃音が聞こえたかと思うと、急に酒場の入り口の扉が開き、中から一人の太った男が転が  
り出てきた。  
「酔っ払いのくせにこのあたしを押し倒そうなんて、百年早いんだよ。そういうことがしたきゃ  
その手の店へ行きなッ!」  
扉口に立つ一人の女性。燃えているような赤い髪が月の光を浴びて輝く。いつからかこの酒場で  
働いているエルミナだった。室内からは口笛や囃したてる酔っ払いの声が聞こえてきた。  
「さすがかっこいいなあ!」  
「俺たちのエルミナに手を出そうったって、そうはいかないぜ!」  
彼女は追い出された男が転がるように走り去るのを見届け、今度はくるっと中に向き直った。  
「ほら、あんたたちもそろそろお帰りの時間だよ。家でおかみさんが待ってるだろうに」  
男たちは苦笑して、それでも腰を上げた。確かにそろそろ日付が変わる頃。帰らないとまずい。  
「じゃ、またな」「ごちそうさん」  
思い思いの言葉を残して家路へと着く客を見送っているエルミナの目に、こちらへ向かって歩いて  
くる三人の姿が見えた。肩に小動物を載せた長身で細身の男と、杖を抱えた女の子と、体格に似合  
わないほどの大きなARMを抱えたやや小柄な少年。逆光になって顔はよく見えないが、あんな  
ちぐはぐの渡り鳥パーティーなんて、彼らしかいない。長身の男が片手を挙げた。エルミナの顔に  
笑顔が浮かぶ。  
「いらっしゃい。でも残念だったね。そろそろ閉店なんだ」  
その言葉に真っ先に反応したのは少女――セシリアだった。  
「ええー!そんなあ〜」彼女はへなへなとその場に座り込んでしまった。  
くすりと笑って、エルミナはカウンターで金勘定をしている酒場の主人に声をかけた。  
「マスター、まだ焼きそばの材料残ってるかい?」  
「ああ。あんたたちじゃあ断れないよなあ」  
彼は苦笑を浮かべ、厨房へと入っていく。その背中へセシリアが嬉々として叫んだ。  
「今日は焼きそば八人前でお願いしますッ!」  
ゴォォォーンと鐘が鳴るような音が聞こえてきたのは、きっと主人がどこかに頭を打ったに違いなかった。  
 
「今日は遅くなったんだね」  
エルミナが水の入ったグラスを、テーブルに座った三人と一匹の前に置いた。  
ロディとセシリアとハンペンがそれぞれにため息をついた。  
「誰かさんのせいでね」首を振るハンペン。  
「突然“歌いたくなった!”って叫んでギターをかき鳴らしだすんですから……」厨房の方を凝視  
したままのセシリア。  
「うん、強いモンスターが出てきて大変だったね」うなずくロディ。  
「うおッ!ロディまで!」  
大きく天を仰ぎ、ザックはため息をついた。  
「へいへい、俺が悪ぅござんした」  
ザックは机にひじを付き、自称長い足を組んで、ふて腐れる。  
「あはは。そりゃ大変だったね」  
エルミナは笑って、厨房の手伝いへと向かった。ほどなくしてソースの香ばしい匂いが立ちこめ、  
セシリアはとても可愛らしい満面の笑みを浮かべたものだった。  
 
描写するのも恐ろしい戦々恐々の食事が終わった後、ロディとセシリアが立ち上がった。  
「マスター、部屋をお願いします」  
ハンペンがぴょんっとロディの頭に飛び移り、尻尾を振った。  
「ザックも疲れてるんだから、無理しちゃダメだよ」  
「朝寝坊しないでくださいね」  
「えーっと……お、おやすみ?」  
その二人と一匹に、ザックはにやりと唇の片端を上げて答える。さらに酒場の主人までもが、  
エルミナに声をかけた。  
「エルミナも今日はもうあがっていいぞ」  
「え?でも片づけが」  
大急ぎで焼きそば十人前とデザートを作った厨房は、なかなかに散らかっている。  
「せっかく彼氏が来たんだ。たまにはゆっくりしておいで」  
主人が言うと、ザックが勢いよく立ち上がった。  
「親父さん、良いこと言うな。いくぞ、エルミナ」  
「え?誰が彼氏だよ!ちょっとッ!」  
ザックはエルミナの手を引いて、酒場を出ていく。その後姿を生温かい目で見送る三人と一匹  
だった。  
 
「ったく!恥ずかしいったらありゃしない」  
とっくの昔にザックの手を振りほどき、エルミナが起こりながらずんずんと歩いていく。  
荒野の中の町とは言え、夜ともなれば気温が下がり、町の水路を渡った風は冷たくさわやかで、  
とても心地よかった。前を行くエルミナの赤い髪を見つめながら、水路を流れる水の音に耳を  
澄ます。石と砂だらけの荒野では聞けない貴重な音だ。  
「なんでだよ」  
「だってアレじゃあ、これからヤりますって、皆知ってるわけだろ?」  
「イイ年した恋人同士なんだから、別にいいじゃねぇか」  
「―――ッ!だから誰が恋人なんだよ!さっきから!」  
エルミナが赤い顔をしながら怒って振り返ると、ザックが驚きを顔に浮かべている。  
「俺たち恋人じゃねぇのかッ?!」  
「いつからそうなったのさ」  
エルミナが真剣な顔で言い放つと、ザックはがっくりと肩を落とし、力なく笑った。  
 
「そうか…違ったか…ははははは」  
あまりに弱った姿に、エルミナはわずかに罪悪感を感じた。恋人…だったらいいと思う。だけど。  
「だって……、例えばあんたがどこかで野たれ死んだとする」  
「おい」  
「でも、あたしはあんたの身に何が起こったか知らないわけだろ?」  
「まあ、そうなるか」  
ザックは宙を見て、ぽりぽりと頬を指で掻いた。それを見ていると知らず知らずのうちに、  
エルミナの目には涙が浮かんできた。それを必死に隠す。  
「そんなんで恋人同士だなんて言えるかい?あんたが死んだことも知らずに、この町でただあんたが  
来るのを待ち続けてるなんて、そんなのごめんだよ!」  
ふいにザックの手が伸びた。抱き寄せられる。砂の匂い。わずかに汗の匂い。ザックの匂い。  
エルミナはザックの胸に顔を寄せた。ザックの低く掠れた声が耳朶を打つ。  
「わりぃ。俺は渡り鳥は止めれない」  
「……わかってる。ごめん」  
エルミナは首を横に振った。きっと言いたいのは別のこと。それなのに何も言えなかった。  
ザックの背に手を回す。広い背中。ごめんと、もう一度つぶやく。  
ザックは華奢なエルミナの柔らかい体を抱く腕に力を込めた。昔とは違う。あの国で抱きしめた  
彼女はもうすこし筋肉質だった。それでも、想い出がなくても、こいつはエルミナだ。  
「俺はあんたを守りたいと思ってるんだぜ。あんたとこの世界を。それが約束だからな」  
それが彼女との約束。  
 
あの北の亡国の凍てつく城内。  
女との間にあるものは冷たい柵。女に背を向け、目を閉じ、走った。倒れるまで。  
その体についた傷は己の剣がつけたもの。女の体からはどんどん熱が奪われ、やがて目を閉じた。  
忘れられないあの光景。  
 
腕の中のエルミナは小さく笑ったようだった。今この手の中にいる彼女の体は温かかった。  
「それ、皆に言ってるんじゃないか?他の町にいるあんたの恋人に」  
「何馬鹿なこと言ってやがる」  
「ごめん、冗談だよ」  
エルミナが笑って顔を上げた。ザックの顔が近づいてきて、口付けを交わす。何度も何度も唇を  
重ねた。ザックはエルミナの柔らかい唇を吸い、舌を絡め、その手を細い腰へと回す。  
唇が離れた隙にザックが囁く。  
「俺が死ぬ時は、あんたの胸の中って決めてるんだ」  
「……渡り鳥の言うことじゃ、当てにはならないけどね」  
囁き返すと、ザックは何とも言えないマヌケな表情をして、エルミナを苦笑させる。  
「ったく、仕方のない男だね。信じてあげるよ」  
そして二人は、今度は手を繋いでエルミナの部屋へと向かった。互いの手のぬくもりを感じた。  
これから過ごす数時間を思い、体の内側の熱を感じた。  
 
 
パタンと軽い音を立てて、部屋の扉が閉まった。  
「ごめん、ちょっと散らかってるけど」  
エルミナは慌てて椅子にかけてあった洋服をどかす。  
殺風景な部屋だった。必要な家具類を除いて、唯一置いてある鏡台とその上の化粧品  
だけが、部屋の主が女性であることを示している。  
 
ザックは洋服をたたもうとしているエルミナのやわらかな体を、後ろから抱きしめた。  
その赤い髪からは酒場の独特の匂いがする。煙草と酒と脂っこい料理と。  
それが面白くなくて、首筋に鼻をつけた。今度は、脳を溶かしてしまいそうな甘い香り  
がした。かすかな汗の匂い。そしてエルミナの匂い。  
そっと舌先で肌をつつくと、エルミナの体が震えた。その瞬間、エルミナの匂いが  
強くなる。もっと嗅ぎたくて、首筋を舐めた。  
「ちょっと待った!」  
エルミナがザックの腕のなかで身をよじる。  
「何だよ」  
「先にシャワー浴びないかい?あたし汗臭いだろ?あんただって、旅してきて…」  
「俺、そんな臭いか?」  
「ああ」  
エルミナがあまりにしっかりうなずくので、ザックは苦笑するしかない。  
渋々手を離すと「じゃ、先に浴びてくる」とシャワールームへ向かった。  
 
ザックは浴室のガラス戸を閉め、大きく息をついた。失くしたと思っていた大切な存在。  
もう一度この手に触れられるとは思っていなかった彼女。積み重ねられた想い。  
素早く服を脱いで、手早く体を洗う。貴重な二人でいられる時間を無駄にはしたくなかった。  
身体を一通り拭いて戻ると、エルミナが慌てたように振り向いた。  
「あ、ごめん。今片付け中で…ッ!」  
確かに、先程椅子の上に置きっぱなしだった洋服はどこかへ消え、ザックの荷物も  
きちんと壁際に置かれていた。  
 
だがそれよりも、エルミナの様子がおかしい。  
ザックの方を見たまま、身動きをしない。  
「おい。どうかしたか?」  
訊ねてようやく、顔を背けた。気のせいか、顔が赤く染まっているような。  
「……エルミナ?」  
両手はこぶしを握り、細かく震えている。肩に手をかけようとすると、彼女は乱暴なほどの  
勢いで振り向いた。  
「な、なんて格好で出てくるんだいッ!」  
「別に変なカッコウじゃねぇだろ」  
腰にタオルを巻いただけ。別にこれが初めてじゃあるまいし、いい加減慣れてもいいだろうと  
思うのだが。  
ザックはにやりと笑って、エルミナに歩み寄ると、胸に引き寄せた。  
強く抱きしめる。  
「……ちょ、待って!あたしもシャワー浴びてくるから」  
「駄目。せっかくエルミナのいい匂いがするのに、もったいないだろ」  
「に、ニオイって…」  
「旅の間、ずっとこうやってエルミナの匂いをかぎたかったんだ」  
「〜〜〜〜〜〜ッ」  
エルミナはぎゅっと目を閉じザックの胸へと自分の顔を押し当て、ザックの視線から  
逃れようとした。赤くなった顔を隠したい。けれど、そんなことはザックにはバレバレで。  
ザックの指がエルミナのあごにかかり、持ち上げる。瞬間視線が合い、唇が重なった。  
 
白く滑らかな肌を、ザックの唇が滑っていく。  
その細い咽喉を、鎖骨を。指先で袖を滑らせると、華奢な肩が露わになる。軽く吸い  
上げると、紅く小さな跡がついた。  
 
ぺしん。  
エルミナの手が、ザックの後頭部を軽く叩いた。ザックが不満そうに口をとがらせる。  
「…なんだよ」  
「制服で隠せないところに、跡付けるんじゃないよ」  
にらまれて、ザックは眉をしかめた。  
「大体、胸のトコ開きすぎじゃねぇか、この制服」  
そう言いながらも、胸と服の布地の間に舌を這わせる。  
「ちょっと!」  
エルミナはザックの頭を押しのけようとしたが、その手はザックに掴まれ拘束されてしまった。  
「大人しくしてろって」  
言いながら、胸の谷間へと舌先を侵入させた。  
「んっ……」  
熱くざらっとした感触に、エルミナの体が小さく震えた。エルミナの甘い匂いが強くなる。  
それに混じってかすかに汗の匂い。まるで媚薬のよう。  
やわらかい肌に鼻先をつける。  
「やめッ」  
エルミナが抗おうとするが、その動きを尚も封じ込めたまま、ザックは再び唇を重ねた。  
唇をやさしく噛み、舌先で歯列をなぞり、唾液を送り込む。  
いつしかエルミナの体から力が抜け、ぐったりとザックに体重を預けてきた。  
ザックは小さく笑うとエルミナの体を抱え上げ、そっとベッドの上に横たえた。  
 
エルミナによく似合っている、明るいオレンジ色の酒場の制服。袖を下ろし、胸元の下着を  
剥ぎ取ると、形の良い胸が露になった。ザックの手でも余るほどの大きさのそれを  
柔らかく揉みしだく。時折掠めるように、その頂点で色付く乳首に触れると小さな悲鳴が  
上がった。その様子がかわいくて、もっと叫ばしてやりたくて。  
本能のままに、すでにつんと固く立つ乳首を口に含んだ。  
「ひゃあッ」  
エルミナの体が跳ねるのを押さえ込み、口の中のそれを舌先で突き、舐め上げ、甘く噛む。  
「ザック…」  
名前を呼びながら、エルミナの腕が、ザックの後頭部へと回った。その意味が分かって、  
ザックは口を離した。  
 
「何だよ?」  
「……や」  
怒ったような声が返ってくる。それでもエルミナの瞳は潤んでいて、言いたいことはよく  
分かったのだけれど。  
ザックはそれを無視して、体の半ばで留まっている制服を脱がしていく。ボタンをはずし、  
スカートのホックをはずし。残るのは秘部を隠す、小さなショーツだけ。  
白い肌が妖しく光る。  
豊かで張りのある胸。先程の愛撫で、その紅く色付く頂点はぬめぬめと、てかっている。  
そこから折れてしまいそうなほど華奢なウエストへと、優美な曲線は続き、腰へと続く。  
腿は決して細くはなく、女らしいほど良い太さで、触るとしっとりと滑らかだった。  
そして、その表情。  
まつげに縁取られた切れ長の瞳。目尻には涙がたまっている。  
ザックの名前を呼ぶ、小さく開かれた口元。その唇はぽってりと膨らみ、何かを望んでいる  
ようだった。切なげな吐息が零れていく。  
赤く輝く髪。  
こうしていると、錯覚してしまう。今がいつなのか。何があったのか。  
すべてが夢のように―――。  
ザックは小さく首を振った。  
違う。もう、あの頃とは。すべては過ぎ去ってしまったこと。  
今は。  
目の前の彼女の耳元に、唇を寄せた。熱い息を吹きかけながら、尋ねる。  
「……どうして欲しい?」  
小さな声が返ってきた。  
「して」  
「何を?」  
わざとらしく訊くと、エルミナは眉を寄せて、睨み付けてくる。だが、今の彼女では迫力は  
まったくない。  
ザックが唇の端を上げて笑うと、じれたのか、エルミナはザックの髪を引っ張った。  
「…さっきの続き、だよ」  
「さっきの続きって?」  
それでもザックは動かない。  
エルミナはぎゅっと目を閉じた。瞼が小さく震えている。  
「胸の、吸って…」  
彼女の願う場所に唇を落とすと、ため息混じりの喘ぎ声が零れ落ちた。  
 
急き立てられるまま、ザックは下半身へと手を伸ばした。すでに足の力が入らないらしく、簡単に  
ザックの手は太腿の間へと滑り込んだ。  
下着の上から触れるだけで、エルミナが呻き声を零す。  
「すげぇ、濡れてる」  
「――ッ!いちいち口に出さなくてもいいだろッ!」  
エルミナはきっとザックを睨んだ。けれどその目は快楽の涙で潤み、頬は抑えられた照明の下でも  
それと判るほど赤く染まっていて、説得力は全くない。  
「いいじゃねぇか。かわいいんだし」  
にやりと笑って、ザックはエルミナの耳元に唇を近づけた。それだけで彼女の体はビクンっと震える。  
「俺がいない間、寂しかったか?」  
「何を今更…」  
驚いたようにこちらを向くエルミナに、ザックは微笑みかけた。  
手を伸ばし、再び下着の上から秘所を撫でた。指先に感じるしっとりとした感触。すでに蕾が硬く  
なっているのが布地越しでも判った。  
「まだ胸しか触ってないのに、こんなになるなんてな」  
ザックは笑みを深くした。  
「もしかして、自分で弄ったりしたのか?」  
「――…な、にいって―」  
反射的にエルミナがザックの腕から逃れようと、体を仰け反らせた。それを許さず押さえ込んで、  
尚も下着の上から撫でつつ、耳元には熱い息を送り込む。エルミナがそれに反応すると判っていて。  
「どうなんだよ?正直に言わないと」  
ザックは指の動きを止めた。  
「ちょ、ザック…」  
「なんだ?」  
エルミナの腰がねだる様に動いた。それでも許さない。代わりに背筋を撫でると、滑らかだった  
肌が粟立ち、エルミナの唇から吐息が零れ落ちた。  
「……意地の悪いヤツだね」  
「まあな。それより返事は?自分でヤってたんだろ?」  
 
下着の上からぎゅっと突起を摘んだ。エルミナが「ひゃあ」と叫び声を上がるが、すぐに手を放して  
しまう。  
「ザック、やめ……つづけ……」  
エルミナは目を閉じ、首をふるふると横に振る。目尻にたまっていた涙を吸ってやりながら、  
さらにザックはエルミナを追い詰めた。  
「言わねぇと、いつまでもこのままだぜ?」  
刺激を与えすぎないようそっと乳首を擦りながらささやくと、観念したようにエルミナは瞼を  
開いた。涙で潤んだ瞳。ザックを欲しがってぽってりと濡れた唇が開かれた。  
「………自分で、してた」  
「ふーん。俺のこと考えて?」  
ザックが口の端を上げると、エルミナは一瞬詰まって、ぎゅっと眉間にしわを寄せた。  
「……そうだよ!あんたがいないからね。悪かったねッ!」  
顔を真っ赤にして、睨んでくる。  
エルミナにこんな面があるなんて、他に誰が知っているだろう。  
ザックはエルミナを抱き寄せ、キスを落とした。何度も角度を変えて、深く深く。  
唇が離れると、すかさずショーツを脱がせた。  
しっとりと濡れて光る陰毛。そこを掻き分けて、奥へと指を伸ばす。  
すぐに、先程布地越しにかわいがった蕾を見つけた。指先で弾き、摘み、しごいてやると、エルミナ  
の体が跳ねた。  
「あ、んっ」  
それだけで満足せずさらに奥を目指す。どんどんと蜜が溢れてくるそこに指を入れると、ぎゅっと  
締め付けてくる。  
「あ、ザック…」  
呼ぶ声。こちらを見る、その視線。  
今すぐに突き立ててやりたい。でも、まだダメだ。もっと感じさせてやりたい。  
ザックは小さく笑い、指を動かし始めた。  
 
 
エルミナの身体の奥底。温かく湿ったそこは、ザックの人差し指をぎゅっと締め付けてきた。  
中を掻き回すように指を動かすと、蜜が溢れ出ていく。  
チュプ、とかすかに聞こえた水音に、エルミナは恥らうように顔を背けた。  
それでも唇からは堪えきれない喘ぎ声が、絶えず零れ落ちていく。  
陽の下ならば燃えるように赤く輝く髪には、ベッドサイドのランプに照らされ、妖しく輝く。  
白く滑らかな肌にも影が落ち、女らしく柔らかに盛り上がる胸を、その胸の頂点に硬く膨らむ  
乳首を、ウェストから腰へ、さらに太腿へと続く優美な曲線をより強調していた。  
ザックの指の動きに合わせて、エルミナの腰が艶かしく動いている。  
その姿。  
堪らない。今すぐにでも、己の熱く硬くなっている物を突き立てたい。  
けれど、まだ。もっと。  
耳に熱い息を吹きかけながら囁いた。  
「……いい?」  
同時に、空いている指で蜜が溢れていている部分のすぐ上、大きく腫れている部分の真珠を  
指で弾いた。  
「ふあっ」  
エルミナの体が大きく震える。  
「なあ、答えろよ」  
「ん…い、い…」  
エルミナはぎゅっと目を閉じ、シーツに半ば顔を押し付けたまま答える。  
ザックは、クリトリスを弄るのを止めないまま、その奥への挿入を素早く繰り返した。  
「エルミナ、こっち見ろ。こっち見てから、言えよ」  
促されるまま、エルミナがザックを見上げる。  
潤んだ瞳。ぽってりとした唇は閉じられることがなく、ただ喘ぎ声を上げ続けている。  
「あっ、いい、の、ザック…」  
指の締め付けが強くなる。太腿が細かく震えている。絶頂が近いことを感じたザックは、更に  
大きく内部を掻き回した。  
最早、湿った淫らな水音は大きく部屋中に響いている。  
「イけよ。イきたいんだろ…?」  
「んあ、あ、あああ…ッ!」  
エルミナの体が大きく跳ね、ぐったりと力が抜ける。  
ザックはその様子を満足げに眺めてた後、そっと頬に唇を落とした。  
 
 
エルミナがゆっくりと目を開ける。  
「ザック……」  
「あんた、すっげー綺麗だったぜ」  
ザックの言葉に、エルミナは一気に覚醒したようだ。  
急に瞳を大きく見開いたかと思うと、眉を険しくしてザックを睨んだ。  
「そういうこと、まともに言うんじゃないよ。恥ずかしいだろ!」  
「へ?普通は褒められると嬉しいもんじゃないのか?」  
ザックが心底不思議そうな顔をしているのを見て、エルミナは視線をそらした。  
 
「……そりゃ」  
急に声が小さくなる。  
「嬉しい、けど、……恥ずかしい、し」  
頬を染めて照れる様子が可愛らしくて、ザックはキスをしようとした、のだが。  
急に鋭く睨まれる。  
「大体ッ!あんた、そんな台詞いつも色々な女に言ってるんじゃないのかい?!」  
「へ?何言って…」  
「だって、あたしには分からないからね。他の街で他の女に同じことして、同じように言ってる  
かもしれないじゃないか」  
むくれるエルミナに、ザックは慌てた。  
「ちょ、待て待て。どこからそんなデマが出てくるんだよ」  
「だって」  
「?」  
また急にエルミナの勢いがなくなり、目を伏せてしまった。  
綺麗に広がる長い睫毛に見蕩れてしまうが、それどころではない。  
「あんた、その、こういうの、慣れてるみたいだし…」  
エルミナは視線をさ迷わせている。  
ザックは笑って、彼女の耳元で囁いた。  
「あんた以上の女なんていねぇよ。エルミナだけだ」  
ゆっくりと彼女を抱きしめ、柔らかな肌に手を這わせる。豊かな胸。くびれた腰。しっとりと湿って  
いる陰毛。未だ濡れたままの秘部は、簡単にザックの指を飲み込んでいく。  
「ずっと求めていた。俺は、ずっとあんたが欲しかったんだぜ?」  
「あ……」  
 
ずっと。  
あの北の大地で、雪が降りしきる中、血の匂いが立ち込める中、別れて。  
凍りつくような城内で、俺の剣に倒れた彼女を抱きしめて。  
そして、記憶をなくしたエルミナと出会って。  
もう一度愛し合って。  
 
ザックはエルミナの膝に手を掛け、ゆっくりと足を広げさせた。  
 
白く滑らかな太腿。その感触を楽しみながら、ザックは自分の先端をエルミナのあの部分へと  
当てた。まだ挿入はしない。何度か花弁に擦り付け入り口をノックしていると、すぐに溢れて  
きた彼女の蜜で濡れてくる。  
「ん…ぁ、ザック…」  
エルミナは潤んだ瞳でザックを見上げている。少し苛めたくなった。  
「どうして欲しい?」  
わざと訊いてやると、彼女は瞳を閉じて首を振る。赤い髪が乱れ、露になった白い首筋に唇を押し  
当て、再度尋ねた。  
「ちゃんと言わないと、このままだぜ?」  
その言葉にも、エルミナは首を横に振るばかり。それでもエルミナの腰はザックの擦り付ける動作に  
合せて揺れていた。こんな時でも強情な彼女に少し笑い、ザックは先端を中に入れた。一番太い部分が  
入ったところですぐに抜いてしまう。  
「あんっ……やぁ」  
「ほら、ちゃんと言えよ」  
エルミナは眼を開けてザックを睨んだ。けれど目尻には涙が溜まり、ザックを余計にそそる効果しか  
ない。  
彼女の唇が小さく動く。  
「……て」  
「聞こえない」  
「……い、れて……あんたが、欲しいんだ」  
恥じらいを見せながらの真剣な懇願。ザックは一気に腰を落とし、同時に唇を重ねた。すぐに舌が  
絡まり深い口付けになった。合間に囁く。  
「俺もだ。エルミナが欲しい。あんたとこうしたかったんだ」  
「ザック…」  
エルミナの手がザックの背中へと回された。  
そしてあの部分は一層きつく締め付けてくる。ねっとりと包み込むように、蕩ける様に優しく強く。  
じっとしていても、そのまま達してしまいそうだった。  
それを堪えて彼女の唇を舐める。  
「……あんたの中、すっげぇ熱い。熱くて、きつい」  
「んあぁっ」  
跳ねる彼女の腰を手で押さえ、ザックはゆっくりと腰を動かし始めた。焦らすようにゆっくりと。  
エルミナの目尻から、涙が一筋流れ落ちていった。  
 
湿った水音が室内に響く。  
硬く、大きくなったザックのものを、エルミナはじんわりと締め付ける。奥へと進もうとする度に  
逆に引き抜こうとする度に、その動きを止めるかのごとく内壁が、粘膜が纏わりつき、包み込こんで  
蠢いている。そこは凶暴なほどの熱を持っていた。  
「はぅっ、あっ、あぁ…」  
エルミナの唇からは、絶えず喘ぎ声が零れていく。  
彼女が背を仰け反らせた瞬間、突き出された胸の先を吸うとより高い声が上がった。  
ザックを受け入れている部分は、動きに合せてジュブジュブと淫靡な音をたてながら蜜が溢れていく。  
ザックの動きに応えるかのように揺らめく細い腰。  
普段の男勝りで健全な姿からは、想像も出来ない彼女の媚態。  
「エルミナ…」  
名前を囁くと、彼女の手がザックの頬へと伸ばされた。エルミナの瞳は潤んで焦点を失い、うっとりと  
見上げてくる。  
「好きだよ、ザック」  
彼女のかすれた声にふいに泣きそうになり、ザックは眼を閉じた。  
 
“好きだよ、ギャレット”そう言われたのはいつのことだったのか。  
失われた名前。失われた記憶。もう二度と戻らないもの。  
けれど、今、目の前には彼女がいて、こうして包み込んでくれている。  
 
ザックは眼を開けた。  
「エルミナ」  
もう一度名前を呼ぶ。彼女の名前。目の前にいる彼女の。  
こうして体の下に組み敷き、その温かく柔らかい体を感じている。同時に俺を感じさせている。  
熱い息も、感じているその声も、絡みつく部分も、全ては現実のもの。  
耳元に唇を押し当て、熱い息と共に囁いた。  
「エルミナ、好きだ」  
エルミナの唇が震え、けれど何も言葉は出なかった。代わりに吐息だけが出てくる。  
ザックは一気に腰の動きを早くした。  
「ひゃあッ」  
彼女の体が、太腿が細かく震える。もうそろそろ限界だろうか。  
ザックは彼女の体を抱きしめた。  
「エルミナ」  
名前を何度も繰り返し呼ぶ。何度呼んでもあの空白の時間を埋めるには足りないけれど。  
痙攣する太腿を捕らえ大きく開かせ、さらに奥へと突き入れる。  
「あぅっ、そんな奥っ、あっ、イ…」  
「―――ッ!」  
エルミナは大きく目を見開いたかと思うと、体を仰け反らせた。あの部分はヒクヒクと蠢動しながら、  
ザックを強烈に締め付ける。  
堪らずにザックはエルミナの最奥へ全てを吐き出した。  
 
呼吸が整うのを待った後、エルミナはそっと額を胸へと押し当ててきた。  
ザックは彼女の華奢な肩へと腕を回す。  
その存在を愛おしく感じながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。  
 
 
 
 
 
終了。  
 
 

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