赤茶色の土の上で、少女が四つん這いになっていた。二、三度大きく肩を揺らした後、引き摺られるようにして立ち上がる。
黒衣を纏った少女ベアトリーチェは苦しそうに息をしていたが、その表情は笑っていた。そして、焼けた土の乾いた匂いを嗅いだ後、彼女は自らの持つ力で浮き上がった。
(…結局、あの四人には最後まで利用させてもらった。)
ネガ・ファルガイアの消滅エネルギーの変換。
ネットワークから対消滅の理論を元にギリギリで打ちだした方法。成功するか疑わしかったが、結果として成功し、ベアトリーチェは肉体を得た。これまでの映像としての体とは違う、物質としての体。
(ネガ・ファルガイアもあくまで過程…くすくすくす。)
ベアトリーチェは空を飛んでいた。今は自分のまわりの全てが新鮮で、目に移る風景も、匂ってくる大地の香りも、聞こえてくる鳥のさえずりも、自らを引く重力さえ楽しかった。
飽きることなく空を駆けているうちに、だんだんと日が暮れてきた。ベアトリーチェはその場に止まり、夕日を眺めていた。
ふと、これまでと違う眺めが彼女の目に止まった。そこにあったのは、ひろがった緑。
(まさか…もう大地にそんな力は…)
自分の目を疑いながら、ベアトリーチェはその場に降り立った。
そこはクレバスによって隔絶された土地であり、幻でもなんでもない。確かにここでは緑が萌んでいる。
細い足で草を踏み、木に触れ、木々と緑のなかでベアトリーチェは戯れていた。
ふと、森の奥から馬の音が近付いてくる。幾つか重なって響いてくる蹄の音、ベアトリーチェは傍らの木に身を隠した。
そして、近付いてくる四人のニンゲンには覚えがあった。
四人を見送った後、ベアトリーチェ様々な事を考えながら彼等の走って来た方向に歩いていた。日はとうに落ちて、空には月が輝いていた。
しばらく歩いていると木々の合間から明りが見えた。ちいさな小屋だった。まわりには花畑があり、小川のせせらぎもあった。
小屋のそばの花畑を見回して、花の香を嗅ぐ。甘く、柔らかな香り。色も様々で、目を焼く程に新鮮だった。
ふと、何かが目に映る。途端にベアトリーチェは表情を変えた。
(これは…ベリー…こっちはフルーツ……まさか、栽培をすることができるなんて…)
手に取ったベリーを眺めながら、ベアトリーチェは考えを巡らせた。
思考がだんだんと一つに治まりつつある中で、ベアトリーチェは小屋の扉を自然とノックしていた。
中から細い声がした。
小屋の扉がゆっくりと開く。中から現れたのはベアトリーチェと同じ程の背丈の少女。いつもの来客である四人と違う為か、少女は少なからず狼狽していた。ベアトリーチェもどんな協力者が姿を現すかと考えていた為、まじまじと少女を眺めていた。
「…あ、あの…何のご用でしょうか?」
少女のか細い声にベアトリーチェは我に帰る。
「…こんな夜更にごめんなさい。できれば、宿を貸してもらえるかと思って…
…わたしはキャラバンの一員だったの。でも、魔獣に襲われてみんな散り散りになってしまって…彷徨っている内にここを見つけたの。
…ねえ、お願い。一晩だけでいいわ…」
どうとでも転がせる嘘。このベアトリーチェの申し出に少女は驚いたが、口に手を当てて少し考えてから大きく頷いた。
「ありがとう。」
にっこりと微笑むベアトリーチェに、少女は顔を赤くして首を振った。
小屋の中は暖かく、小さいながらも様々な工夫がなされており、とても居心地が良かった。
ベアトリーチェは椅子に腰掛けて少女の働く姿を見ていた。自分を見られている事に気付き、恥ずかしそうに後ろを振り返る。
「…あの…もう少しでできますから…」
スープをかき混ぜながらはにかむ少女に、ベアトリーチェは目を細めた。
テーブルに広げられたクロスの上には暖かいスープ、手作りのパン、サラダにピクルス。ベアトリーチェは口に含んでゆっくりと咀嚼する。
味わう事も初めての感覚だった。…こんな時に出てくるべき言葉は、
「…美味しい。」
素直な感想だった。この言葉に少女は顔を赤くして微笑んだ。
食事の途中で少女が口を開いた。
「…あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「…なにかしら?」
「…お名前を、教えていただけますか?」
ベアトリーチェは内心、ほくそ笑んだ。
「ベアトリーチェよ。」
その名を聞いた瞬間、少女のスプーンが少し止まった。ベアトリーチェはその動きを見て得心がいった。
(…やはり、あの四人からわたしの情報を得ているようね…)
ベアトリーチェの名を聞いてから、明らかに少女の様子がおかしい。平常を装ってこそいるが、細かく体が震えている。
(あの四人にどう教えられたのかしら?)
恐怖を必死に抑える少女の姿をベアトリーチェは楽しんでいた。
食器とスプーンがカタカタと当たる音を聞きながら、ベアトリーチェは食事を終えた。
「ごちそうさま。とても美味しかったわ。」
素直な一言にまで、少女は反応して体をびくつかせた。
「ねえ、貴方はどれだけわたしの事を知っているの?」
突然の質問に少女は凍り付く。
「え…?」
目に見えて震えが強くなってゆく少女に、ベアトリーチェは続ける。
「あの四人から聞いているのでしょう?」
少女は震えたままゆっくりと口を開く。
「…何が、目的…なんですか?」
細い声がさらにか細くなって部屋に響く。
「質問の答えとしては相応しくないわね。」
ベアトリーチェはゆっくりと立ち上がって、少女に近付く。少女は逃げようと慌てて立ち上がるも、思うように体が動かずテーブルに足を取られてベッドに倒れ込んだ。
「…ぅあッ!」
少女の声と共に、ハンモック状に吊られたベッドが揺れる。
「そんなに慌てるからよ…くすくすくす。」
いつもの笑みを浮かべながら少女に歩み寄る。少女は直ぐに体を起こそうとするが、やはり力が入らないらしく、ベッドの中で足掻いている。這ってでも逃げようとする少女をベアトリーチェは覆うようにして抑えつけた。
震えながら涙を流す姿を見て、ベアトリーチェは妙な昂揚感を覚えた。
はだけたスカートからは白く細い足が覗いている。少女の抵抗は既に止まっていた。
ベアトリーチェは押え付けていた腕を放し、その手で少女の頬を撫でた。こぼれていた涙がベアトリーチェの指を濡らす。
「…ひぅッ!」
過敏に反応して少女は大きく体をびくつかせた。
ベアトリーチェは頬に当てていた手を撫でながら細い首に掛ける。害するつもりは微塵もない。首に手を掛けられた事で少女の震えは一層強まった。
(…温かい…それに、柔らかい。)
手に伝わってくる感覚に、猛烈に湧き上がってくる特殊な感情。ベアトリーチェの頬は紅潮し、息も荒くなっていた。
(…誰かの肌に触れる、こんな感覚なのね…)
ゆっくりと弄ぶように首を撫でまわす。少女は掛けられた手が首全体に及ぶ事を考え、震えを強いものにしていた。
「…可愛い。」
そう呟いてベアトリーチェは少女を抱き据えた。急に抱き締められた少女は当惑している。ベアトリーチェは先程まで撫でていた首に優しく舌を這わせていた。
「うぁっ!」
今まで以上に少女が過敏に反応する。
ベアトリーチェは抱き締めていた手を背中のラインに沿って下へと動かす。そしてスカートに手を掛けた。
「ぁ…ゃ、やめてくださぃ…。」
青ざめていた少女の表情は赤く上気していた。ベアトリーチェは嫌がる少女に構わずスカートをゆっくりとたくし上げる。
「…綺麗ね。」
露わになった体を見ながら溜息混じりに呟く。
「…っ、み、見ないで下…さい。」
手で肌を隠しながら少女は涙を溜めた瞳で訴える。が、そんな抗おうとする少女の様子もベアトリーチェには快感だった。少女の手を退けて、膨らみかけの小さな胸に口を付け、丁寧に舐め回す。綺麗な薄紅色の乳首は既に硬くなっていた。
「はぅっ…んく…だっ…だめ、です…」
優しく肌を滑る舌と細い指、それとベアトリーチェの長く艶やかな髪が少女を刺激する。
「くすくすくす…体の震えはどうしたのかしら?」
ベアトリーチェの問い掛けに、少女は恥ずかしそうに目を伏せる。
(…人を抱く事は、こんなに素敵なものなの?)
愛撫をする手に伝わって来る少女のぬくもりや、鼓動。それは永年抱えてきた虚無感や淋しさを簡単に埋めてしまった。
ごくりと生唾を飲み、ベアトリーチェは少女の下着に手を滑り込ませた。
「あッ!?…そ、そこは…ッ!」
ベアトリーチェの指が少女の下着の中で動き回る。
「ぅぁ…っくぅ、…はッ!…だめ、そこだけは…っ」
少女の言葉に耳を傾けたのか、ベアトリーチェは下着から手を抜いた。
「…本当に、駄目なの?…くすくすくす…」
ベアトリーチェの指の間には一筋の橋が掛かっていた。その光景を少女に見せた後、ベアトリーチェは綺麗に舐め取った。
「…!」
これ以上ない程に少女は顔を赤くした。ベアトリーチェは再び下着に手を掛け、今度は一息に剥ぎ取った。「ゃあぁッ!」
「くすくす…少し乱暴だったかしら?」
少女の秘部を撫で、スリットをゆっくりと開く。胸と同じ美しい薄紅色の花びらが見えた。とろりとした愛液が伝う様はとても美しく、ベアトリーチェは指を這わせ、少しずつ中へと指を入れて行く。
「あぅッ!」
少女が体を反らせて反応する。指は第一関節まで少女の中に入っている。
「んあぁッ!…はぅうっ!」
「…美味しそうに飲み込んでいくわね。」
ベアトリーチェの指は少女の中をかき乱しながら進んでいる。
「くすくす…指が全部入ったわ…」
「うぅ…んんっ…」
体中を走る快感に少女は抵抗できなくなっていた。
ベアトリーチェは意地の悪い笑みを浮かべながら少女の中にある指を動かし始める。
「ぅんっ!…あはぁっ!!」
指の動きに敏感に呼応して少女の体が跳ねる。その度に秘部からは愛液が滴り落ちていた。
「はっ…ぁうッ!…だッ、駄目…ですッ…」
絶頂に向けて感覚が高ぶる中、ベアトリーチェは少女の秘部に口を付けた。
「ひっ…ぁぁあッ!」
指をさらに激しく動かし、それに合わせて溢れ出る愛液を吸い尽くすように舐める。一頻り味わってから少女のクリトリスに優しくキスをした。
「だめぇッ…ああぁぁあッ!!」
少女の体が大きく動き、秘部が爆ぜた。
(…絶頂を迎えたのね。)
少女は全身の力が抜けたようにぐったりとし、時折体をびくつかせながら少女は長い呼吸をしていた。
少女の蕩けてしまったようにうるんだ瞳をベアトリーチェは愛おしそうに眺めていた。
不意に、少女が抱き付いてきた。咄嗟の出来事に驚いたが、振りほどくより早く少女はベアトリーチェの唇を奪っていた。
「んむッ!?…んん、ふ…」
只のキスではなく、とても深いものであった。少女の舌がベアトリーチェの口腔内に侵入し、ベアトリーチェの舌と絡み合う。初めての深い口付けに、ベアトリーチェは抵抗できずにいた。
(何…?この感覚、他の思考が麻痺していくような…)
ねっとりと絡む深い口付けから解放された時、互いの口からは光る物が伝っていた。
少女の手がベアトリーチェの黒衣の隙間に入っていく。
「ぅぁあッ!?」
ベアトリーチェは初めて経験する快感に驚愕する。誰かに体を触られるという感覚。とりわけ敏感な部位を的確に愛撫され、ベアトリーチェはすっかり打ちのめされてしまった。
気付けば身に纏っていた黒衣は無く、二人の位置も逆転して少女に組み敷かれていた。
永きに渡り自らを慰めていた少女の技術は卓越しており、全くの未経験であったベアトリーチェは少女に完全に呑まれていた。
「あッ…うぅンッ!!」
少女の手がベアトリーチェの過敏な部位を優しく撫でる。首、肩、脇、背中、胸、腕、足、どこを刺激されてもベアトリーチェは可愛らしく反応した。
「…とても、感じやすいのですね。」
うなじから耳にかけて舌を這わせながら少女が囁く。
「…ッ、そんな事…あンッ!」
耳まで真っ赤に染めて恥ずかしがるベアトリーチェを少女は静かに抱き締めた。
少女の手がベアトリーチェの腰に届く。その手は細い腰を撫でながら小さなお尻を通って腿の内側へ到達する。
「んくっ…はッ…ぅ…」
吐息に合わせて漏れる淫らな声。少女の手はベアトリーチェの秘部に近付いてゆく。しかし秘部への愛撫は行わず、焦らすようにまわりを刺激する。
「…あぅ…く…ぅ、んぁ…」
ベアトリーチェは切なげな声を漏らし、楽にして欲しそうな眼差しを少女に向ける。少女は視線に答え、ベアトリーチェの秘部を優しくほぐす。
「…あ…っ…」
大量に湧き出していた愛液を指で掬い、細い指にたっぷりと絡ませる。そして、二本の指をベアトリーチェの秘部に一気に挿入した。
「ぅああぁぁッ!!」
スムーズに入っていく指に目を剥いて反応する。
少女は突き入れた指を巧みに動かし、凄まじい快楽の波を起こす。
「あぁッ、ひぐっ…く、なッ…なにか…くるッ、…ぅあンッ!」
押し寄せて来る快感に、ベアトリーチェは嬌声を上げ続ける。だらしなく開いた口からは涎がこぼれていた。
「はッ…!あはぁッ…!」
くるくると動く少女の指に、ベアトリーチェの声のトーンが上がってゆく。
「ふぁぁっ…もっ、もう…だッ…」少女の指がベアトリーチェの中で広がり、更に奥に進む。
「あッ…やあああぁあぁッ!!」
腰を宙に浮かせて、ベアトリーチェは果てた。
「…ぅ、ぅぁ…あぁ…っ」
初めての絶頂の余韻に浸りながら、ベアトリーチェは濡れた声を上げていた。
そして、どちらからでもなく、唇を重ね、肌を重ね合った。
少女とベアトリーチェの肌が密に触れて、溶け合うように手足を絡ませる。だんだんと二人の鼓動も同じ律動となり、更に深く求め合った。
その夜、小さな森の小さな小屋の中、小さなベッドの上で小さな少女が二人でもつれあっていた。
(…今でこそ体を得たが、わたしも魔族の端くれ。脅威となる存在があればどんな些細な情報でも入手した。…当然、かつてファルガイアに居た種の情報も、可能な限り手に入れたわ。
…一人だけでファルガイアに残った最も若い少女の事も知っている。もちろん、その少女が何の為にファルガイアに残ったか、ということも。
ニンゲン達が跋扈する中で、差別や偏見の対象とならずに活動するには距離を置く事の他には無い。)
ベアトリーチェは自身のホームグラウンドである夢の中でぼんやりと考えいた。
木々によって適度に遮られた日差しが、ベアトリーチェの目を覚ました。
隣りに少女の姿は無い。
(…逃げた。当然ね…、あの四人を連れて来る事も考えられる。)
ゆっくりと体を起こして、小屋の中を見渡す。
(…!)
テーブルの上にはベアトリーチェの黒衣が置かれており、丁寧に畳まれていた。
身に着けて扉へ向かう。扉を開けると、軋んだ音がした。
その音に反応して、花の世話をしていた少女が振り返る。
「…ぁ、お…おはようございます。」
顔を赤くして大きく首を縦に振る。
「…っ、…おはよう。」
少し恥ずかしそうにベアトリーチェも答えた。
何かを言う訳でもなく、ベアトリーチェは傍らに置かれたバケツを手にした。
二人の間に会話は少なかったものの、どこかで互いに分かりあっていた。
(…何れ、あの四人がここを訪れる。わたしを見た後、あの四人はこの子の前でARMを抜くかしら?)
テーブルに掛けて、少女をじっと見ていた。にやにやと自分を見詰められ、少女ははにかんで目を落とした。
もう孤独ではなくなっていた。ベアトリーチェにとっても、少女にとっても。
(長い間呼ばれていなかった為、あの子は自分の名を忘れたと言っている。
…でも、それは嘘。わたしも独りだったから。
情報の中には、勿論あの子の名前も入っている。けど、わたしからは言わない。情報が正確とは限らないし、わたし自身が誤認している可能性もゼロではない。
だから、あの子が自分から教えてくれる事を待っている。…いや、教えてくれるまでいつまでも待つわ。待つという事も不思議と苦ではないし、何よりも名前で呼んでみたいから。)
花々の世話をする少女をベアトリーチェは穏やかに眺めていた。
「…あ、あの…」
「水ね…?わかったわ。」
振り返って口を開く少女に、すかさずベアトリーチェが返す。
小川で水を汲んでいる時、遠くから馬音が響いてきた。
やって来たのは四人の渡り鳥。親しげに少女と話しをしている。
収穫がいつもより多い事に喜んでいたが、当然の如く豊作の理由を問われた。
その事に、少女は手伝ってくれる人物がいる事を話した。
驚く四人は、ゆっくりと草を踏む音が近付いている事に気付く。
小屋の影から姿を現した少女は、如雨露を手に持っていた。
「はじめまして、わたしはベアトリーチェ。」
ベアトリーチェはにっこりと微笑んだ。