(空間構造情報、解析完了)  
 I-ブレインの動作は正常だ。  
 マリア・E・クラインは今日で何度目かになる、シティ・マサチューセッツへの侵入に成功した。  
 シティへの侵入は容易ではない。特に、軍関係の施設は。  
 軍用の入港ポートに侵入し、端末から情報を奪取する。  
 それがマリアの今日の仕事だった。  
 襲撃任務などに比べれば遥かにたやすい、毎月定期に来る依頼で報酬も安定していた。  
 どうということのない、いつもの任務――。  
 そのはずだった。  
(脳内エラー。危険。I-ブレイン保護のため、全システム強制終了)  
 突然の激痛がマリアの脳を貫いた。同時にI-ブレインが強制的に動作を停止する。  
 冷たい床に両手をついて見上げると、いつも情報を吸い出すために使っていた壁にある通信デバイスに、黒い数センチのチップが取り付けられていた。  
   
 ――ノイズメーカー。  
   
 I-ブレインの動作を阻害させる電磁波を放射する、対魔法士兵器。  
 形状からして、半径2メートルほどの超近距離でなければ効果を発揮しないだろう。  
 つまり、マリアがここへやってくることを知っていて、このノイズメーカーは取り付けられていたのだ。  
 マリアが頭痛にうめいていると、通路脇の柱の陰から一人の男が姿を現した。  
 
「やあ、きれいな魔法士さん。こんにちは」  
   
 歳は20前半だろうか、まだ若い。配属されたばかりの仕官かもしれない。  
 クセっ毛の金髪に、青い瞳がきらきらと楽しげに輝いていた。  
   
「はじめまして、と言うべきかな? でも僕はね、君のことを前から知っているんだよ」  
   
 ――何者だ?  
   
 痛む思考で目の前の男を観察する。  
 I-ブレインは動作を停止しているので、攻撃用デバイス『D-3』を出すことはできない。回復にはしばらく時間がかかりそうだった。  
   
「おどろいたよ、ほんとうに。備え付けの監視カメラの映像に、この場所で端末を操作する君の姿が映っていたんだからね……」  
   
 ――そんなバカな! 侵入の痕跡は、ハッキングをかけた時に必ず消去しているはずなのに。  
   
「おやおや、そんな怖い顔をしないでおくれ。僕はね、何も君のしたことに驚いているわけじゃないんだ。そう――君の容姿に驚いたのさ。ああ……なんてきれいな人なんだろう、正直に言うけど、本当にそう思った」  
   
 男は得意げに続ける。  
   
「ああ、君の考えてることは分るよ。「一体私をどうするつもりだ?」ってね。安心しておくれ、何も君を捕まえようとしてるわけじゃないんだ。このノイズメーカーだって、『上』にバレないように設置するのは苦労したんだ」  
   
「ちがっ……う……。カメラは破壊したはず……痕跡も……げほっ……」  
   
 頭痛と吐き気で目が回るのをこらえながら言葉を搾り出す。  
 男はますます得意げになった。  
   
「なんだそのことか。はっ! 君はこのカメラがどこに接続されていると思っていたんだい? 軍のメインコンピュータか? 違うね、こいつは独立してここで映像をディスクに保存していたのさ」  
 
(I-ブレイン動作回復まであと3600秒――)  
 
「くっ……」  
   
 くやしいが今の状態では立つことはおろか、天地の区別さえつかない。常にぐらんぐらん振り回されているような感覚が三半規管を狂わせているのだ。  
 男は倒れたマリアにゆっくりと近づく。  
   
「ふふ、怖がらないでおくれ、君と僕以外誰も来やしないよ。君も同じ理由でここの端末を使っていただろう? 大丈夫、すぐに気持ちよくなる――」  
   
 男は軍支給のジャケットの内ポケットから、薄青色の液体が入った注射器を取り出した。  
 マリアは本能的な恐怖に駆られて息を呑んだ。  
   
「ひっ――!」  
   
 冷たい光を放つ銀色の先端が、マリアの腕に触れる。  
 抵抗らしい抵抗も感じさせずに、それはマリアの体に侵入していった。  
   
「やっ……めろぉ……!」  
   
 注射器に入っている薬品がなんなのかは分らないが、最大級の危険をマリアの経験は訴えていた。  
 ゆっくりと薬品が入ってくる。注射器の薄青はほどなくして空になった。  
   
「全部入ったよ。ふふ……さあお楽しみだ。え? なんの薬か気になる? うーんどうしようかなー、教えてあげようかなー」  
   
 男は手をアゴに当てて、大げさに悩むフリをした。  
 マリアは不安の眼差しで、楽しそうにニヤつく男を見る。  
   
「ふふ……すぐに分るよ。ほら、こんな風に……ねっ!」  
   
 そう言うなり男は両の手で、思いっきりマリアの乳房を掴む。  
 力任せで自分本位の、それは暴行と呼べるほど乱暴なものだった。  
 でもマリアは――。  
 
「あっ……はぁっ!」  
   
 思わず甘ったるい喘ぎが漏れた。  
 マリアは驚愕に目を見開く。  
   
「え……うそっ!」  
「驚いたかい? 尋問や拷問に薬が使われなくなってからだいぶ経つけど、過去の科学者の英知は実はこんな領域にまで達していたんだよ。ボクはそれを大いに利用させてもらってるってわけさ」  
 
 男はマリアの乳房の感触を味わい尽くすように揉みしだく。  
   
「ああ……これが君のおっぱい。ああ……なんて柔らかいんだ。本当に……ああ……ああ!」  
「いやぁ……ああん……やめっ! やめでぇっ! ひああっ……うん……ん」  
   
 めちゃくちゃに乳房を揉まれる度に、どうしようもない快感がマリアの神経を貫く。  
 まるで全身が性器になったかのような、常軌を逸した性感だった。  
   
「いやぁ……だめ、だめぇぇ! おかしくなる、これ以上したらっ……おがしぐなるぅぅっ!」  
「ふふ……気持ちいいんだね。もっと! もっともっともっと! 見せておくれ。君のその淫らな顔を」  
   
 ――なんで……なんで気持ちいいの? 服の上から触られてるだけなのに……。  
 ――恥ずかしい……はしたなく叫んで、私じゃない。こんなの私じゃない! あの人にもこんなに乱れたことないのにっ!  
   
 マリアの気持ちを読んだかのように男が囁く。  
   
「さて……直接触るよ。カーボンナノチューブ入りの防刃防弾ジャケットか……驚いた。こんなに薄いのに……とてもいい物を着てるんだね」  
   
 マリアが着ているのは羽織るだけのジャケットだ。脱がすのは造作もなかった。  
 男はジャケットを床に投げ捨て、なめらかな白いシャツの上から、マリアの形のよい乳房のふくらみを観察した。  
 そしてマリアのシャツを一気に剥ぎ取った。  
   
「いやぁぁぁぁ……」  
   
 雪のように、あるいはこのポートの壁のように白い、マリアの肌。そのあまりの美しさに、男は思わず生唾を飲んだ。  
 欲情に火がついたマリアは、期待のこもる眼差しで男の指先を見つめた。  
   
 ――早く……触って……  
   
 男はゆっくりとその柔らかい頂点へ指を伸ばし――。  
 
「あはあああああああっ!」  
   
 触れた瞬間、ついにマリアは達してしまった。  
 
「あはは、なんだい。胸だけでイっちゃったの? すごいなぁ、君ってものすごい淫乱だったんだね」  
   
 感心したように男は言う。  
 マリアは羞恥にカッと頬を赤くする。  
   
「ちがっ……これはっ、薬の……あなたのせいでしょ!」  
「へぇホント? じゃあこんなにえっちな汁漏らして気持ちよさそうに喘いでいるのは誰だい? 僕にはとてもそうは見えないね。違うって言うんなら――」  
   
 男はベルトを外し、ズボンから一物を取り出すと、すでにギンギンのそれをマリアに突きつけた。  
   
「これをブチ込んだって大丈夫だよね? それとも薬のせいにして素直によがっちゃう? まあ淫乱のドスケベ女の君なら、当然そっちを選ぶだろうけど」  
「入れればいいでしょ! どうせ嫌って言ってもするんなら、さっさと入れなさい!」  
「ダメだね」  
 
 マリアの心の内を見透かしたように男が言う。  
   
「欲しかったらお願いするんだ。「ああ・・・どうかその立派なおちんぽで私の淫乱なおまんこに突っ込んでください」ってな! じゃなきゃこれは永遠におあずけだ。なに、僕は君の艶姿を見てるだけでいつでもイケるんだよ」  
「くぅ――」  
   
 マリアはぎゅうとくちびるを噛んだ。  
 一度イカされても体の疼きは止まることを知らない。  
 いや、胸だけでイカされたぶん、アソコの方はますます熱を帯びていた。  
    
 ――欲しい。おちんぽ欲しいぃぃ!!  
   
 心の中で絶叫する。だが、この男にだけは絶対にそんなことは口にできない。  
 マリアは理性を総動員して抵抗する。  
   
「言う……もんかっ! 欲しくない。いらない、そんなもの――汚いそれを早くしまいなさい!」  
 
 男は感心したように片方の眉を跳ね上げる。  
   
「ほう。本当にそんなことを言っていいの? ほら、下は大変なことになってるじゃないか……。びしょびしょの大洪水でズボンを水浸しにして、さらに漏れてきそうだよ」  
 
 事実だった。  
 ジャケットと同じ材質のマリアのズボンは、すでにいやらしい染みが大きく広がっていた。  
   
「I-ブレインが回復したら、その醜いツラに穴が空くことに……なるわよ」  
   
 男の態度が豹変した。  
 マリアの頬を思いっきり叩くと、残ったズボンを剥ぎ取って白いパンティーの中へ手を突っ込む。  
   
「はぁっ――! ひやぁぁあっ!」  
   
 突然の暴力的な快感に、成す術もなく翻弄される。  
 まるでおもらしのようにマリアのアソコからは潮が噴出す。  
   
「いいかい……僕はね、この顔が一番気に入ってるんだ。この美しい僕の顔に文句を付けるなんて、君はなんて悪い女なんだ! 覚悟しろよ。気が狂うほど犯してやるからな!」  
   
 下半身だけ裸の状態で、男はマリアに馬乗りになる。  
 そして己の欲望を、その秘裂へと進めていく――。  
 じゅくじゅくと、熟れた音が聞こえてきそうなほどマリアのアソコはほぐれ、熱を持って潤んでいた。  
 完全に男を迎える準備はできてしまっていた。  
 
「ああ……聞こえるかい? 君のアソコがいやらしい音を立ててる。僕のちんぽが欲しいって言ってるよ!」  
「いやぁぁぁぁ! 入ってくる……擦れちゃう! ああああん!」  
   
 男の一物が侵入してくる。  
 マリアは快感のつぶがぷちぷちと膨れては弾ける連続を味わっていた。  
 そしてあっという間に絶頂に達する。  
   
「かっ――はっ……!」  
「分るよ。イッたんだね? でもまだまだ終わらせない。僕が満足してないんでね!」  
   
 人目を気にしていないような強烈な肉音が辺りに響く。  
 男の腰はよりいっそう激しくマリアの体を打ち付けていた。  
 
「はああああん! ダメ! おかしくなるっ……気持ちいい……くるうぅぅぅ!!」  
 
 男が深く突き刺すたびに訪れる絶頂。  
 絶え間ない絶頂の連続に朦朧とするマリアの意識は次第に意味不明な言葉を発していた。  
   
「気持ちいい……ああ、おちんぽイク……おまんこがおちんぽなのぉ……いいまたイク!」  
「もっとズボズボして……ズボズボ……ああイク・・・・・・」  
   
 男は息も荒く汗を撒き散らしながら、満足げに言う。  
   
「どうやらもう完全にブッ飛んだみたいだね……いいよ、僕もそろそろだ。天国に連れてってあげるよ!」  
「急に速く……いああああ! イクっ! いい気持ちいい! 一番、いままででいちばん気持ちいい!」  
   
 男のスパートも最高潮に達し、いよいよ熱い滾りがペニスの先端に集まろうとしていた。  
   
「ああ! ああ、ああ、ああ! イクよ! 僕もイク! ああああああああ!」  
   
 ブシュウウウウウウウウ!  
 ドサリ。  
 首から勢いよく鮮血が噴出した後、数秒遅れて切断された男の頭が地面に落ちた。  
 続けて言葉を発したのは、後ろから現れた顔面ヒゲモジャの大男だった。  
 手には血塗れの軍刀を構えている。  
   
「ったく……。誰かと思えばマイケルの野郎か。けっ! こいつぁ前から気に食わなかったんだ。まぁ、勝手なマネをして軍法で処刑されるよりいいだろ、あの世で感謝してな」  
   
 まだマリアに覆い被さるマイケルの体を蹴飛ばすと、ヒゲモジャはマリアを見てニヤリと笑った。  
   
「けけ……。しかしまぁ、なんだ。こいつはえらい上玉だぜ。誰もいねぇようだし、俺もちぃっとばかり楽しんでもバチは当たらねぇだろ……」  
   
 そそくさとベルトを外し、いきりたった男根を取り出そうとするヒゲモジャ。  
 その姿をぼぅっとした意識の隅で捉え――。  
(I-ブレイン動作回復。全システム正常に起動)  
 マリアの周囲の空間に、十二個の正四面体が突如として現れた。  
 システムメッセージがI-ブレインをよぎるより速く、高熱量の槍がヒゲモジャを貫いていた。  
 よろよろと起き上がると、ふらつく足取りで身なりを整える。  
   
「冥土の土産に教えてあげる――」  
   
 首のない体と、黒い塊に向かって背筋の凍るような冷たい視線を投げる。  
 
「あたしの名前はレノア・ヴァレルよ」  
   
 束の間見せた戦場の死神の表情は消え去り、すぐに娘を心配する母親の顔が現れる。  
 あの子は家でいい子にしているかしら……。  
 最後にマリアは小さくそう呟いた。  
 

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