「ぼく……にんげん……」
エドワード・ザインは何度目かになる呟きを、暗い自室で漏らした。
ここ、西ヨーロッパにある山岳地帯の研究施設後では、世界樹の育成プログラムの研究が行われていた。
フィアと錬、そしてメイと一緒に暮らすうちに、自分の中に過去に感じたことの無い思考が生まれつつあった。
エドは以前人形という単語について調べたことがある。
あれ以来覗こうとしなかった検索ディスプレイ。
しかし今日になってまた、無意識のうちにその意味を調べようとしていた。
「ぼく……にんげん……」
青く明滅するディスプレイを見やりながらタッチパネルを操作する。
人形――人でないもの。
数々の単語や画像の情報が表示される。
そのほとんどは以前エドが調べたときに見たものだった。
「……あっ……」
エドは小さく声を上げた。
いつの間にか飛んだ18禁サイト。
ポップアップで起動するウィルスプログラムや広告を無意識に強制終了させて、その情報に注目する。
画像は裸の女性に同じく裸の男が激しく腰を押し付けているものだった。
性交。
しかしその女性の方は人間ではない。
ダッチワイフ。人形。性交用。
次々と単語を拾っていく。
エドは特にその宣伝文句に注目した。
『画期的ダッチワイフ! 人間より人間らしい――。その肌の質感は特殊ポリマー123FR製、反応動作IA搭載でリアルな感度を示します! 愛液、発汗、発熱システムも完備! 寂しいあなたの夜を癒します』
「にんげん……にんげんより……にんげん?」
無表情のままちょこんと首をかしげる。
ほんの一瞬、I-ブレインが動作を速め、思考に集中する。
エドはこの人形がなんのために使われるものか、なんとか理解しようとした。
性交は男性と女性が種の繁栄のためにするものという知識はあった。
しかし相手が人形では種は増えないではないか。
でもこの商品は人間より人間らしいと謳っている。
エドは、なぜ自分がこの画像から目が離せないか分らなかった。
女性――。
エリザも女性だった。
フィアもメイも女性。
自分は?
「ぼく……だんせい……」
ダッチワイフに付随する項目を次々を調べていき、18禁のカテゴリーをものすごい勢いで読んでいく。
「人形、えっちしない。だれもよろこばない……」
「にんげん、えっちする。みんなよろこぶ……」
エドは静かな動作で席を立つと、部屋の外へ歩いていった――。
ドアをノックする音に、机に向かっていたフィアは元気よく振り向いた。
「あっ、はい! どなたですか?」
シューという音と共にドアがスライドすると、エドが静かに入ってきた。
「あっ、エドさん! こんばんは。どうしたんですか、眠れないんですか? それとも、おなか空いちゃいました?」
「ぼく……にんげん……えっち、する――」
「きゃっ――!」
床から飛び出した無数の螺子がフィアの体を抱え上げて、ベッドに降ろす。
エドがその上にのしかかってきたとき、フィアはとっさに天使の翼を使って群がる螺子をなんとかしようとした。
しかし――。
「えっ……」
フィアのうなじに当てられるエドの腕。その手の中にはノイズメーカーが握られていた。
魔法士のうなじに接続するタイプのノイズメーカーは、I-ブレインが情報の海に接続することを阻害し、魔法の発現を不可能にする。
「エドさん……いったい、なにをする気ですか……?」
かすかに怯えた色の混じるフィアの声。しかしまだそれは困惑の方が強く出ていた。
エドは無言のまま螺子に命令を送る。
直径1センチ足らずの細長い螺子たちは、そわそわとフィアの服を這う。
なにか迷っているような動作だ。
「……?」
フィアもエドが何しているか分らなくて困惑の表情を浮かべる。
「ふく……」
ポツリ、とエドが言う。
画像の女性はみんな服を着ていなかった。裸にするためには服が邪魔だった。
「ふく……ぬぐ……」
螺子はさらに這いまわり、フィアの服を脱がす方法を探る。
その複雑な動きはフィアをたまらなく刺激した。
「ひゃっ……あははは。ちょっとエドさん……くすぐったいです、あははははは」
ジタバタとベッドの上で暴れるフィア。目には涙が光っている。よっぽど苦しいのだろう。
フィアがひとしきり悶えると、螺子はピタリと動きを止める。
「ふく……」
エドのI−ブレインが回転を速める。最終的に一つの結論を導き出した。
――ビリビリビリ。
螺子はフィアの服を強引に引っ張り破りだした。
「きゃああああ!」
エドはフィアを裸に剥いたあと、ちょこんとお辞儀した。
「ごめんなさい……」
言うが早いかエドは自らの服を脱ぎだした。
エドの私服は、最初の時と同じ、シティ・ロンドン自治軍の軍服だった。
どうやら自分の服を脱ぐことはできるらしい。
ボタンを外し、袖を抜いてするりと衣服が床に落ちる。
現れたのは少年と言うにもまだ幼い未成熟な裸体だった。
「にんげん……えっち、する……」
そのままベッドに投げ出された格好のフィアにのしかかる。
しかし小さなエドはまるで、お姉さんに甘える弟のような格好だ。
「エドさん……」
突然の出来事に驚いていたフィアも、こうして体を預けてくるエドの可愛らしさに思わず頬が緩んだ。
普段からみんなの役に立ちたいと思っているフィアは、こうして頼られるのもまんざらではなかった。
エドはフィアに体を預けたまま、もぞもぞと体を動かしている。
「エドさん……何をしてるんですか?」
フィアは素直に疑問を口にする。
しばらくそのままもぞもぞしていたエドだったが、顔を上げるとポツリと言った。
「ぼく……えっち、できない……」
そう言うと、フィアの目の前で小さな男性器をつまんだり捻ったりしている。
フィアはようやくその意味を理解した。
「えっちって……ええええええ!?」
まさかエドが自分とエッチしたいだなんて……。
でもちっちゃなエドの男性器は、まだまだ”そういうこと”ができるようにはとても見えない。
たしかに可愛いとは思うけど、異性としてはどうなのかフィアはわからなかった。
男性経験のないフィアにとっては、たとえ相手がエドでなくても困惑していただろう。
「えっちできない……ぼくにんげん……じゃ……ない」
エドは今にも泣きそうな顔をしていた。
滅多に感情というものを見せないエドだからこそ、その表情はフィアを打ちのめすには十分だった。
「エドさん……」
お互い裸のままで、ベッドの上で見詰め合う。
「わかりました! ……私でよければ協力します!」
ぱっとエドの顔が明るくなる。……と言っても泣き顔が無表情に戻った程度の変化ではあるが。
「エドさん……えっと……たぶんえっちはいきなりは無理なんだと思います……女性も男性も準備が必要なはずです」
言われてエドは思い出した。
ネットのエロサイトで入手した情報によるとそれは”前戯”というらしい。
フィアのアソコを眺める。
きれいな白い肌は、赤みがさしてうっすらピンク色だ。
ぴったりと閉じた貝口に指を這わせる。
「きゃっ――!」
フィアは逃げなかった。
何かに耐えるように目は堅く閉じたものの、自らの秘所をまさぐるエドを止めはしない。
エドの細くて小さな指が、自分の女の扉を開けようとするかのように優しく愛撫している。
不安に震えていたフィアも、次第に快感を感じ始めていた。
「あっ……」
股間にじわっと熱を感じる。
それは複雑に指を動かしていたエドにも伝わった。
エドの指が動くたびに湿った水音がする。
「あんっ……あっ……」
「きもちいい……?」
真っ赤になって目を瞑ったままのフィアを覗き込むように訊く。
手だけは機械のように正確な動きでフィアの快感を引き出しつづけている。
「あ……はい……気持ちいいです……」
フィアの感じるツボを覚えたエドの動きは、まさに熟練された職人のようにフィアを攻め立てる。
飲み込みの早さと応用の上手さにかけて、エドは一際光る才能を有していた。
「あああん! はぁぁぁああ!」
強烈な快感が駆け抜け、一瞬気が遠くなりそうになったフィアは、我を忘れて大きな声を出した。
すぐに気づいて後悔する。
フィアは今や羞恥心と、それに倍する快感に翻弄されていた。
「ああっ! エドさん……エドさん!」
やめて、とは言わない。いや、言う気が起きないと言った方が正しかった。
無意識のうちにフィアは、更なる刺激を求めるようにエドの腕を掴み、自らの秘所に導いていた。
「きもちいい……?」
もう一度同じ質問をするエド。
フィアは目を閉じたまま大きく何度も頷いた。
――きもちいいこと、みんなよろこぶ。
――ぼく、にんげん。
「エドさん……エドさん! なんかヘンです……変なんです! なにかきちゃいます!」
だんだんと終わりが近づいてきたことを告げる。
エドは全く変わらぬペースで愛撫を続けていく。
そしてその瞬間が訪れた。
「ああっ――!」
ぷしっ、と潮を吹くフィア。
ビクンビクンと数回体を痙攣させて、絶頂を極める。
エドは手にかかった液体に目をパチクリさせている。
「……はぁ……はぁ……」
荒い息をしてフィアがゆっくり目を開ける。
まるで起き抜けのようにぼんやりした動作でエドを抱きしめる。
「ふふ……エドさん……なんだか私、気持ちよかったです」
エドはいつもと同じ無表情でフィアの汗の匂いを間近で感じていた。
体と体が触れる感覚。
フィアの体――。
「やわらかい……」
ポツリと言った。
何かが思い出される。
あのとき、エリザに触れた記憶。
エリザの手も柔らかかった。
エリザの体も、こんなに柔らかいんだろうか?
「えっ――?」
フィアは驚きの声をあげる。
抱きしめていたエドが、フィアを抱きしめ返してきたからだ。
エドの腕が、背中に回されてしっかりと力をこめてくる。
「ぼく……ぼく……」
そしてエドは自分の体の異変に驚いて体を離した。
フィアもエドの視線の先を追う。
人差し指ほど大きさの小さなのエドの性器が、まっすぐに起き上がっていた。
「エドさん……それ……」
フィアはおそるおそる手を伸ばしてそれに触れてみる。
「ぁ……」
小さなエドの声。
同じようにエドの性器もピクンと大きく跳ねる。
フィアはもう一度触ってみた。
「ぁ……」
また小さな声。
そして同じように反応する性器。
フィアはちょっと面白くなって、今度は親指と人差し指でつまんでみた。
「あっ……」
今度ははっきりと聞き取れる声。
それは喘ぎのような艶っぽさを含んでいた。
男の子のここは、女の子のクリトリスと同じように敏感で、快感を感じるのだとフィアは思った。
エドがされるがままになっているのがいい証拠だった。
フィアはふとひらめいた。
「エドさん、ちょっとここに横になってくれませんか? ……気持ちよくしてくれたお礼です」
言われるままに仰向けに寝転がるエド。
素直なこんなところはいつものエドそのものだ。
――やっぱりエドさんは可愛いな……。
ちょっとそんなことを思う。
いきなりえっちされそうになったり、ノイズメーカーを付けられたりしたけど、それでもエドは素直ないい子なのだ。
私も気持ちよくしてあげたい、フィアは今心からそう思っていた。
仰向けになったエドは、性器だけが違う生き物のように天井を向いて立っていた。
「触りますよ……」
フィアが優しく触ると、またエドの体に震えが走った。
そしてフィアは2本の指で挟み込んだまま、エドの性器をゆっくり上下にしごく。
「あっ……」
腰を浮かせて反応するエド。
しかし未知の感覚に対するとまどいからか、やはりその顔に浮かぶのはただの無表情だった。
フィアは親指と人差し指を交互に動かし、エドの性器をくりくりっと揉みほぐす。
「――っ!」
口を「あ」の形に開けて大きく目を見開くエド。
フィアはさらにくりくりっ攻撃を続ける。
とうとうエドは大きな声をあげた。
「あ……ああっ!」
フィアは満足げに微笑んだ。
「エドさんどうですか? 痛かったら痛いって言ってくださいね?」
ふるふると首を振るエド。
「気持ち……いいですか?」
「はい……」
「そうですか……分りました。続け……ますね」
とは言ったものの、フィアにもこれ以上のことは分らなかった。
とりあえず先ほどのようにつまんで揉みしだいてみる。
エドも確かに快感を感じているようだが、どこか物足りないようだ。
一生懸命がんばるフィアの背後から、螺子の群れがそろりと近づく。
「きゃっ!」
フィアの頭を押さえつけるように、後ろから螺子の群れが力を加えてきた。
フィアは成すすべもなく顔を下げられて、エドの股間にキスをするような格好になった。
「エ……エド、さん?」
「くち……」
ぐいいっとフィアの頭を動かす。
エドの性器が口に当たる。
「もしかして……口で……?」
「はい……」
フィアの額を冷や汗がつたう。
エドの性器をまじまじと見つめる。
匂いはしなかった。ちゃんときれいにしてきたようだ。
そのへんのこともエドは勉強済みなのでぬかりはなかった。
清潔だと分ったフィアは、覚悟を決めた。
「分りました……その……やってみます!」
真剣な眼差しをちらりと上目遣いにエドに向ける。
そのまま視線を目の前のものに戻して、ごくりと唾を飲み込む。
頭では指をくわえるだけだと思い込む。
これは指……これは指……。
その指がフィアの口の中で跳ねる。
フィアはアメを舐めるようにねっとりと舌を這わせて――。
「あ……」
またエドが声を上げた。
さっきより大きく腰を跳ねさせて反応する。
――エドさん……気持ちいいんですね。
エドに対する愛しさがこみ上げてきて、もはや”男性の性器を口に含む” という嫌悪はなくなっていた。
舌も使って、一心不乱にしゃぶる。
口の中でエドが激しく反応してるのがわかる。
それを舌で包み込んで、吸って舐めまわしてくるくると転がす。
エドはたまらず声をあげ、体を震わせる。
「ぼく……ぼく……」
小さな呟きを聞き取る必要すらなく、フィアはエドの絶頂が近いことを口の中で感じていた。
さらに舌を激しく動かして、絶頂を促す。
――エドさん……我慢しなくていいですからね
エドに思いが伝わったかはともかく、確かにその瞬間は訪れた。
「ああっ!……」
一度大きく背中を浮かせて仰け反ると、エドはぐったりと力を抜いた。
フィアは口の中でエドの性器がゆっくりと小さくなっていくのを感じた。
その先端からは、なにも出てこなかった。
フィアは口を離すとエドの顔を覗いて言った。
「これでお互い気持ちよくなりましたね」
エドは微笑った。
「はい……」
幼い二人はこれで十分満足だった。
これから先、がいつになるのかはまだまだ誰も知る由も無い。