「錬ー。ちゃんと着替えてるー?」
「着替えてるよ〜〜。」
月夜の呼び声に、錬がいそいそと答える。
シティ・モスクワのお土産だ、と月夜から渡された服を最初に見た時、錬はこれ以上ないほど驚くことになった。
きっと悪戯に違いないと祈るように思ったが、そのまま狭い脱衣所に押し込まれてしまう。
ドア越しにフィアに助けを求めようとしたが、逆に「ぜひ着て下さい」とせがまれてしまい、ついに錬は白旗を揚げることになった。
脱衣所の棚から取り出したカゴの中に、着ていたいつもの上着を投げ込み、次いでシャツも放り込む。手に持ちっぱなしだった悪夢のプレゼントはその隣のカゴへ。
こうなったら仕方がないと諦めて着替え始めた錬だが、シャツは薄い上に胸までしかないし、ズボンの方は行き過ぎた短パンといった感じだ。きっと月夜は、変な格好だと大笑いするだろう。
洗面台の鏡に映った自分に、「変だなあ・・・」と呟く。真昼だけならいいが、フィアにまで笑われると思うと気が重い。
見ていられなくなり、顔をカゴの方に向ける。あと残っているのは、ネコの耳を模した飾りと、同じくネコに似せたであろう尻尾、金色の鈴がついた首輪。ふさふさした毛と柔らかそうな肉球がついたグローブと靴。
月夜の説明によれば、このネコセットには過去の最新技術が惜しげもなく注がれているらしく、つけたとたんに皮膚と同化してしまうらしい。しかも首輪には面白い機能までついているという。
(そういえば・・・ぼくも驚いたけど、真昼も物凄く驚いてたなあ・・・。口からコーヒー噴出す所なんて、初めて見た・・・)
いつでも冷静な真昼があそこまで取り乱す姿は、めったに見られたものではない。おそらく、錬が見たことがある最も動揺した真昼の姿だろう。
僕だけが恥をかいた訳じゃない・・・と自分を慰めつつ、茶色のネコミミを頭にそっとあてる。少し痺れるような感覚の後で手を離しても、もうネコミミは落ちなかった。
ためしに動かそうと思ってみると、ネコミミはその通りにピコピコとコミカルな動きを見せる。どうやら五感までしっかり備わっているようだ。
「へぇ〜・・・。」
まさかここまでの物とは思っていなかった錬は、感嘆の声を上げる。
ためしにネコミミの先をつついてみると、体中にピリッとした刺激が走った。
「ひゃっ!」
錬は思わず体をビクッと震わせ、目をパチパチさせる。女々しい声まで出てしまった。
本物のネコになってしまったようでだんだん楽しくなってきた錬は、次に首輪を手に取った。真っ赤なベルトは思いのほかよく伸びて、楽々と頭を通すことが出来た。首についつくような感触がある。
「ちょっとくすぐったいけど、なかなかかも・・・。」
鈴の下部についている仕掛けのスイッチを押そうかと思ったが、どうせなら他のセットもつけてからの方がいい。
早速装備するべく、まずかごの中から茶色のふさふさした尻尾を引っ張り出す。1メートルほどあるそれは錬には少々長すぎるように感じられたが、着けてしまえば自動で調節されるらしい。ズボンの後ろの穴を通して尾てい骨のすぐ上に押し付けると、あの痺れを感じた。
思わずお尻の穴に入れている自分を想像してしまい、錬のほほに赤みがさす。月夜が冗談で言っていたことだが、流石にやってみる気は起きない。
「どれどれ〜」
首をひねって、出来具合を確認する。どうやら上手くいったようで、適度な長さになった茶色の尻尾は錬の意思を反映してくねくねと動いている。
最後に残ったグローブと靴を装備すれば、錬ネコの完成だ。わきわき指と動かすと、しっかりとネコの太い指が動く。
並みの手袋など目じゃない一体感だが、やはりこんなものに技術を注いだ製作者の考えは、錬にはいまいち理解できない。
ともあれ、早速できばえを確認すべく鏡の前に立った。ピコピコと器用に動くネコミミとシッポ、本物そっくりの質感を持つグローブとブーツ。アクセントを与える首輪。
「あうう・・・///」
改めて見ると、かなりどころかとんでもなく恥ずかしい格好だ。錬の顔が真っ赤に染まり、今にも湯気だ出そうになる。このまま3人の前に出ることを思うと、気が気でない。
しかし、今更着替えなおしてやっぱり嫌だと言い出すのも気が引ける。笑うためとはいっても、きっとフィア達は待っているだろう。
「そういえば、鈴のスイッチ入れ忘れていたけど・・・」
脳内時計で時間を確認する。時間は午後3時14分49秒。着替えに来てから、もう10分近く経っていた。
短気な月夜のことだから、そろそろ待つのも限界だろう。これ以上手間取っていると、ドアを吹き飛ばして突入してくるかもしれない。
それに、いつまでもここにいたら、この先一生ここから出れなくなってしまう気がする。
「よしっ・・・!」
自分に気合を入れて、鏡の前から立ち去り、少し苦労して脱衣所のドアを開ける。ネコの手ではドアノブを掴むのも一苦労だ。危うくシッポまではさみそうになる。
「錬ー! まだー?」
ちょうど顔を出した所で、月夜の声がかかる。明らかに期待の色の含んだ声だ。首輪のことを後回しにしたのは正解だったな、と錬は思った。
「今行くよ〜」
錬はひんやりとした廊下を歩き出し、居間へと向かった。
「ひゃっ!」
錬は思わず体をビクッと震わせ、目をパチパチさせる。女々しい声まで出てしまった。
本物のネコになってしまったようでだんだん楽しくなってきた錬は、次に首輪を手に取った。真っ赤なベルトは思いのほかよく伸びて、楽々と頭を通すことが出来た。首についつくような感触がある。
「ちょっとくすぐったいけど、なかなかかも・・・。」
鈴の下部についている仕掛けのスイッチを押そうかと思ったが、どうせなら他のセットもつけてからの方がいい。
早速装備するべく、まずかごの中から茶色のふさふさした尻尾を引っ張り出す。1メートルほどあるそれは錬には少々長すぎるように感じられたが、着けてしまえば自動で調節されるらしい。ズボンの後ろの穴を通して尾てい骨のすぐ上に押し付けると、あの痺れを感じた。
思わずお尻の穴に入れている自分を想像してしまい、錬のほほに赤みがさす。月夜が冗談で言っていたことだが、流石にやってみる気は起きない。
「どれどれ〜」
首をひねって、出来具合を確認する。どうやら上手くいったようで、適度な長さになった茶色の尻尾は錬の意思を反映してくねくねと動いている。
最後に残ったグローブと靴を装備すれば、錬ネコの完成だ。わきわき指と動かすと、しっかりとネコの太い指が動く。
手袋など目じゃない一体感だが、やはりこんなものに技術を注いだ製作者の考えは、錬にはいまいち理解できない。
ともあれ、早速できばえを確認すべく鏡の前に立った。ピコピコと器用に動くネコミミとシッポ、本物そっくりの質感を持つグローブとブーツ。アクセントを与える首輪。
「あうう・・・///」
改めて見ると、かなりどころかとても恥ずかしい格好だ。錬の顔が真っ赤に染まる。このまま3人の前に出ることを思うと、気が気でない。
しかし、今更着替えなおしてやっぱり嫌だと言い出すのも気が引ける。笑うためとはいっても、きっとフィア達は待っているだろう。
「そういえば、鈴のスイッチ入れ忘れていたけど・・・」
脳内時計で時間を確認する。時間は午後3時14分49秒。着替えに来てから、もう15分近く経っていた。
短気な月夜のことだから、そろそろ待つのも限界だろう。これ以上手間取っていると、ドアを吹き飛ばして突入してくるかもしれない。
それに、いつまでもここにいたらこの先一生ここから出れなくなってしまう気がする。
「よしっ・・・!」
自分に気合を入れて、鏡の前から立ち去り、少し苦労して脱衣所のドアを開ける。ネコの手ではドアノブを掴むのも一苦労だ。危うくシッポまではさみそうになる。
「錬ー! まだー?」
ちょうど顔を出した所で、月夜の声がかかる。明らかに期待の色の含んだ声だ。首輪のことを後回しにしたのは正解だったな、と錬は思った。
「今行くよ〜」
錬はひんやりとした廊下を歩き出し、居間へと向かった。