昇り詰めた後の、おだやかな倦怠感が体をつつんでいた。  
 女の子が薄いピンク色に染まった顔を寄せてきたので、サクラは目を閉じて軽くキスをする。  
 ――サクラ、cherry blossomみたい。  
 貴方もだ、とサクラは呟いて、女の子の小さな体を抱きしめた。  
 ふと床に目を落とすと、脱ぎ捨てた漆黒のコートからちらりと投擲ナイフが覗いていた。とたん  
、聞かされたばかりの女の子の運命を思い出して、サクラは急いで女の子の体に顔を埋めた。  
温もりは、まだそこにあった。  
 熱い息を吐く女の子が、サクラ、と呼ぶ。  
 もう一度だ、というサクラの小さな声に、女の子は頷いた。  
 
 
 誰かの視線を感じて、目をあける。  
「ん……」  
「え」  
 すぐ目の前に、驚いたようなセラの顔。  
 慌てて飛びのいた少女にサクラはぼんやりとした視線を送って、むくりと体を起こす。肌寒い空  
気が布団の中に入りこんで、サクラは身を奮わせた。脳内時計を確認して、唸る。  
「……すまない、セレスティ。目覚ましをかけるのを忘れていたようだ」  
 言葉に解かれたように、硬直していたセラの体が動きを取り戻す。  
「お、おはようございますサクラさん。あの……」  
 そこで少女は、ふと何かに気付いたように不思議そうな顔をした。  
「どうした?」  
「あの、サクラさん……お熱ありますか?」  
「む?」  
「お顔が、赤いです」  
 ……!!  
 サクラは慌てて少女に背を向けると、「き、着替えるので、外に出ていて欲しい」と少々上ず  
った声で言った。  
「あ、ご、ごめんなさいです」  
 セラが本当に申し訳なさそうな顔をして部屋を出て行くのを見、複雑な気持ちになる。  
 メルボルンの町に、今日も朝がきた。  
 

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