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私の名前は首藤レイ。世間的には科学者ということで通っている。  
家電製品からタイムマシンまで、今まで様々な物を発明してきたのだが、私にとってラ  
イフワークとも言うべき研究課題があった。それは――人体の複製。  
この研究に関してはそれを競うライバルとも言うべき博士たちが何人かいるのだが、  
今回はそんな一人のライバル研究者の話をしようと思う。  
 
 
ワンダービット ドクダーボディ番外編  
 
 
「どうやら、ここが俺の体を奪った奴の本拠地のようだな」  
「ええ……間違いないわ……たぶん」  
一組の男女がヒーロー番組の悪の秘密基地のような建物の前にいた。男の方はドクタ  
ーボディ。完全な機械の体を持つ男である。そして女の方はダイナマイトナース。  
ドクターボディの助手である。  
この二人は言ってしまえば、生身の体を取り戻すために戦っているという、最近流行り  
の漫画のような奴らである。  
彼らがこの地を突き止めたのは一月程前。日本全土で、急に美男美女が増え始める傾向  
が見られ始めた頃である。  
この事件(と言うには良い事ではあるが)に高度な整形技術が使われている事を見抜い  
たドクターボディは、その整形医こそが自分の生身の体であると考え、情報収集の末、  
ついにその確証を得たのであった。  
「よし、ナース準備はいいか? 踏み込むぞ!!」  
「……ゴメンちょっと、装備の確認させて」  
「むむ……。しっかりしてくれ、医療ミスは後が怖いんだから」  
「ごめんごめん」  
 
そんなやりとりで小一時間が過ぎた。  
「では、改めて……」  
ばん! と、正面の大扉を開け放ち中に飛び込む二人。  
「ドクターボディ参上!!」  
「そしてその助手、ダイナマイトナース!!」  
彼らの行く手には、様々な戦闘用の改造を施された人間が数えるのも嫌になるほど群れ  
ていた。  
彼らの改造された肉体を、一人ずつ元の生身に戻しながらドクターボディは思った。  
(これは自分自身との戦いだ)、と。  
 
立ちはだかった全ての改人達を生身に戻し、二人はついに悪の首領と思しき人物を追い  
詰めた。  
「さあ、返してもらおうか。俺の体を」  
「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前さんの体を使うというのは息子の計画で、それが終  
 わったらすぐ返すから……だから待てと言うに」  
物理法則を無視しているほど直立した頭髪を持つ初老の男が必死にボディを止めようと  
する。だが、  
「黙れ! もう、俺の体を悪事に使わせたりはせん!」  
ボディはそう言って老人にパンチをお見舞いした。  
(勿論、手加減はしてある。戦闘用の体で生身の人間を本気で殴れば死んでしまうだろう)  
派手に音を立てながら部屋の端まで老人は飛んでいったがボディはそれには目もくれず  
自分の生身に近づき、目と目を合わせた。  
彼は、視線を合わせることで生身と人造の体の間で魂を移すことができるのだ。  
機械の方の目が閉じ、どさ、と音を立て倒れた。続いて生身の方は目に輝きが戻り、ゆ  
っくり四肢が動き始めた。手であちこちさわりその感触を懐かしんでいるようだ。  
「やった、やったぞ!! 私はこれで元の体に戻れたんだ!!」  
そこにナースも駆け寄りボディの名を呼んで抱きついき  
「ドクターが元の体に戻ったなら次は私の番ね」などと囁きあったりしていた。  
ところがボディ、ここで「はっ!」気がつく。  
「しまったっ!! もう一つの体が……機械の体がなくなっているっ!!」  
 
 
山すそに立つ巨大な近代的科学施設。そこがドクターボディの本拠地だった。  
今、ボディは落ち込んでいた。念願の生身を取り返した事は喜ぶべき事だったが、すぐ  
さま今度は機械体の方が奪われたのである。  
「くそっ! 振り出し戻る……かっ!!」  
怒りに任せ、握り拳を足に振り下ろす。軽く痛みが走る。それは彼に取っては久しぶり  
の感覚だった。  
「この痛みも生身なればこそか……」  
それが嬉しくもあり、また煩わしくも感じた。長い間機械体で過ごした時間が、彼の感  
覚を狂わせたのかもしれない。  
そこにダイナマイトナースがやって来て心配そうに声をかける。  
「どう? 生身の具合は?」  
「良くも悪くもないさ……普通だ」  
ボディとしては直ぐにでも奪われた機械体を追いたかった所だが、久しぶりの生身を満  
足に扱うためにはリハビリが必要だったし、以後は武器の無い体での戦いとなるため何  
らかの対策を練る必要もあった。そのため今はこうして本拠地に籠り時が来るのを待っ  
ていた。  
「あれほど求めていたのに、いざ取り戻すとこんなに苦労するとはな……」  
再び握り拳を振り下ろそうとした瞬間、ナースの手がボディの腕を掴み押さえた。  
ボディをしっかりと見据えてナースが言う。  
「そう焦らないで。すぐ慣れるわよ。それが本体なんだから……」  
(そうだ……今はこの体を文字通り手足としなくてはならない)  
ボディは心で呟いて思う。ナースは生身と機械の混ぜ物だ。自分が直接手を下した分け  
ではないが、最初に彼女に改造を施したのは間違いなく自分(の生身)だし、再度彼女  
に手を加えたのも自分だ。そう思うと自然と申し訳ない気持ちが高まる。  
「すまない……そしてこれからも力を貸してくれ……頼む」  
「ええ……着いて行くわ、貴方に……」  
言い終わるのに合わせ、二人の唇が近づき触れた。  
(暖かい)  
久しく感じたことの無い、人の温度がボディの心を癒した。  
 
「抱くぞ!」  
「馬鹿……言わなくたって……」  
ナースはボディに身を委ねた。ボディはナースの服を脱がし露になった胸を包み込むよ  
うに揉んだ。  
「はぁぁん! 熱いわ……貴方の手。この前までと全然違う……」  
「私もお前の事が……よくわかる。振動が手に伝わる……鼓動が高鳴っているな?」  
「そ、そうよ……でも、貴方のここだってもう大きくなってるわよ……」  
言われてボディは気づく。機械体の頃は男性器を模した部分など無かった、勃起とはこ  
ういうモノだったか。  
ナースはボディのズボンを下ろして、むき出しになった彼の物をしごき始めた。その動  
きに釣られ、ボディもナースへの愛撫を激しくした。機械体の頃の冷め切った彼からは  
考えられない程に、本能に突き動かされた。  
ボディもナースも、どんどん液を溢れさせお互いの手をべたべたにしていった。やがて  
「くっ……はあ……ナース、もう出てしまうぞ」  
「わ、私の方もよ……一緒にイきましょう……」  
そう声を掛け合って互いの限界が近い事を知った二人は、更に攻めの速度を速め、つい  
にその時が来た。  
二人は高い声を上げて果てた。ボディは精が体内を走る感覚と放たれた精がナースの体  
を白く染める光景に、言葉では表せぬ嬉しさを感じた。  
「あはは……溜まってたのねドクター……私のお腹、肌色が見えないくらい……白い」  
「ふふふ……まだ尽きんぞ。今度は全身を染めてやろう……」  
ボディは薄っすらと笑みを浮かべ、ナースをベッドに寝かせた。二人の交わりはまだ終  
わらない。  
 
 
人通りの多い歩道を一人の男が回りをきょろきょろ見回しながら歩いていた。  
歳は二十歳前といったところで、炎のように波打つ髪が特徴的だ。  
その男が呟く。  
「どうも最近、美男美女が減っている……!!」  
そう、かつて日本全土で美男美女が増えだす傾向が見られたのだが、最近では彼らは元  
通りの外見に戻り始めていた。なんでもそれまで美男美女を増やす計画を実行していた  
組織が、突如その計画を中止し、無断無償で元に戻しているのだそうだ。  
「まぁ、それならそれで、世の中は平和だし俺が出る幕でもないか……」  
男はそう言って。人ごみから離れていった。  
燃える正義のバーニンガイ。それがその男の名前だった。  
 
 
場面は変わってこちらはドクターボディの本拠地。近頃はボディも本来の肉体の扱いを  
完全な物としたまに笑顔が見受けられることもあったが、やはり気になるのは行方しれ  
ずの機械体。そこへダイナマイトナースが一枚のチラシを持って現れた。  
「ねえねえ、ドクターこれ見てよ」  
「うん? 『助けが欲しいときの正義のヒーロー ガイファックス』 胡散臭いな……」  
「でも何かの助けになるなら呼んでみてもいいんじゃない?」  
「そうだな、巧くいけば儲け物。丁度、ここにファックスがあるしな」  
そう言ってボディはファックス用紙に『私の機械体を探してください』と書いて送信した。  
やがて、カタカタカタとファックスが音を立てる。  
「おう! もう返信か。早いなっ!」  
「きゃあ、何? なんか変なのが出てきたわ」  
送り出されるファックス用紙にはなにやら、人の形の様な物が印刷されていたが、印刷  
が終わり紙の送出が終わると、突如用紙のインクが滲み立体的に浮かび上がった。  
「ガイファックス 転参!!」  
ファックスを通して現れた、この珍客にもボディは落ち着きをはらって尋ねた。  
「私の機械体を知っているか?」  
「知っている。現在、君の機械体を所有しているのはビッグラバーという男だ」  
「そいつか……そいつはどこにいる」  
「教えはするが、彼は現在君の機械体が手放せない。もうしばらくで必要がなくなるか  
 ら、行ってその時まで待っているといい」  
ガイファックスはビッグラバーの住所をボディに教えたあと、掻き消えた。後に残った  
のもインクの跡も見えない無地のファックス用紙だけだった。  
 
 
――また、ガイファックスが動いているようだ。  
あれは私(首藤レイ)の発明品の中でもかなり特殊な存在だ。  
ファックスの送信音を操作し、一種の催眠効果をもたらす。ようは、自分で自分の人生  
相談をすることが出来る。しかも面白いことに、その相談相手がキャラクターとしてビ  
ジュアル化して見えるらしい。  
残念ながら私はそのキャラクター、ガイファックスを見たことは無いのだが……。  
本当、何でこんなの造ったのかな、私は――  
 
 
「おや? 貴方たちは……」  
「何……君は……」  
ボディとナースがビッグラバーの元を尋ね、その顔も見たとき三人は声を合わせてこう  
いった。  
「前にも会ったことありますよね!?」  
思わぬ再会に驚きと喜びを露にしてビッグラバーを二人をもてなした。  
「いやあ、それにしても貴方には、そうとは知らず迷惑を。申し訳ない。美形に整形し  
 た人々を元に戻す作業は、もうすぐ終わりますのでそれまではうちでゆっくりしてく  
 ださい」  
「うむ、ありがたく好意を受けましょう。ところで君の方も大変そうだったように思う  
 が」  
ビッグラバーは、女に持てないけどイイ男であり、外見がいい点のみを武器にして女を  
物にしようとする男たちを率いていた。だが、事あるごとにガイファックスに邪魔され  
やがて改心した。(この頃三人は一度会っている)   
だが、全ての人間の外見のレベルを同じにし、人間を外見で判断する基準を崩壊させて  
新しい価値観を問おうとしていた。  
「それで、私の空いている体が必要だったと……」  
「その通り……まあ手配したのは父ですが、言い訳にもなりませんね」  
だが、その計画も外見に拘らない価値観の違う男の出現とガイファックスの説得により  
崩壊。現在は、人々を元に戻すためにボディの機械体が使われていた。  
「ガイファックスか……一体何者なんだろうか、奴は」  
「まるで神のような……いやあいつは私にこう言いましたよ 『紙だ!』 と」  
「あはは、何言ってるのよビッグラバーさん。詰まんない洒落」  
ナースの笑いに釣られるように、二人も笑いだす。ははは…  
だがそこに、ビッグラバーの側近ラビアンが駆けつけ息を切らせながら言った。  
「た、大変ですビッグラバー様、ドクターボディの機械体が何者かに盗まれました!!」  
ボディとナースはその報告に心臓が凍りつくように感じた。  
 
 
   スタッフ     
 
原作 島本和彦 ログイン アスキー出版  
 
企画構成執筆 赤い垢すり  
 
出演 ドクターボディ (生身と機械体の二役)  
   ダイナマイトナース  
   ビッグラバーの父  
   改人の皆さん  
   バーニンガイ  
   ガイファックス  
   ビッグラバー     
   ラビアン  
   整形美人の皆さん(整形前後の二役)  
     
   首藤レイ  
 
 
 
――私(首藤レイ)は、久しく連絡の取れないライバル研究者がかつて使っていた施設  
を尋ねた。窓ガラスは割られ壁にはつたが覆っている。  
「中は、埃だらけだろうな……」  
それでも躊躇わず進入する。咳き込みながら目的の場所を目指す。  
「ここだな」  
完全な機械化人体の実験施設の跡。  
「どれもこれも、使い物にならないな」  
あちこち手で埃を払ううちに、奇妙なものが見えた。  
壁に……文字?  
ごしごし気合を入れて壁を磨く。DB、DNという文字が見える。  
DB……DN……ドクターボディとダイナマイトナース……か。  
戦いを終えた彼らが書き残したものであろうか。  
施設を出る。太陽のまぶしさに目が眩む。  
ふらっと、して地面に倒れこんでしまう。  
地面の温度、草の匂い、風の音を感じながら私は思う。  
「彼らは生きている……そう信じたい」  
ごろり寝返り打った視線の端を、白衣の二人組みが駆け抜けていったように見えた。  
 
おわり  
 

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