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雲のない夜空に、月と星が輝いている。  
食事も終わり、ゆったりと流れる夜の時間。  
護刃はのんびり風呂に入って、階段を上がってきた所だった。  
「うーん、さっぱりさっぱり」  
上機嫌で自分の部屋のドアノブに手を掛けかけて、ふと顔を上げた。  
「…?」  
視線が廊下の奥へ向かう。そちらから、声が聞こえたような気がしたのだ。  
声は嵐と空汰のもののようだが、とぎれとぎれで聞き取れない。だが、嵐と一緒にいて、幸せそうに顔を緩ませる空汰がすぐに想像できた。  
「ふーん……」  
仲が良いなぁ、と思う。  
思って、そのまま部屋に入ってしまえば良かったのだが、何故かその時、心の中に好奇心がムクムクと沸き上がってきたのだ。  
何をしているのか。何を話しているのか。空汰と二人きりでいる時の、いつもと違う嵐の顔は。  
声の出所を探すと、すぐに空汰の部屋だとわかった。  
(…いけないとは思うんだけど)  
護刃は、ドアをちらりと見た。  
それが閉まっていたら、ドアに耳を付けてまで聞こうとはしなかった。  
しかし、部屋のドアは金具が中途半端な所で止まっていて、中を覗ける隙間はなかったが、代わりに完全に閉まってもいなかった。だから声が漏れてきたのだろう。  
(ちょっと、だけ…)  
護刃はそろそろと部屋に近付き、ドアの隙間に耳を近付けた。途端、飛び込んできたのは。  
「…あ…っ……」  
嵐の短い声。それは、会話という雰囲気ではなかった。  
胸が、早鐘を打つ。この行為がいけない事だからだろうか。それとも、聞こえた嵐の声が、色っぽかったからだろうか。  
無意識に耳を更に近付けようとした時、ドアに頭が当たってしまった。  
(あ…っ!?)  
音は立たなかったが、中途半端だった金具が動き、小さな音と共に、ドアが僅かに開いた。  
もう駄目だ、と思った。  
これでばれてしまったら、素直に謝ろう。もし気付いていないのなら、申し訳ないがこのまま立ち去ろうと、細い隙間を覗き込む。  
だがそこに、こちらに向く視線はなかった。  
部屋の主である空汰はベッドの上で、背中を向けている所を見ると、全く気付いていないらしい。  
(…何だ)  
護刃はほっと息を吐いた。  
それにしても、空汰は上半身は何も着ていない。女の子ほど問題はないが、嵐がいるなら着ればいいのに、と思う。  
ぼやっと思っていると、再び嵐の声が部屋に響いた。  
「…う、…んっ…」  
 
胸の鼓動を早くする、その声の主を捜して視線を動かすと、空汰の奥に、嵐がいるのが見えた。  
「!」  
その瞬間、護刃は息を飲んだ。…目の前の状況が信じられない。  
ベッドに横たわる、嵐の姿。制服はしどけなくはだけ、白い肌と、護刃に比べれば僅かに豊かな胸の膨らみを露にしている。  
(うそ…)  
そこに固まったまま、護刃は動けなかった。  
「…やっ、ぁん…っ」  
空汰に胸を触られ、嵐が体をくねらせる。それが、嵐が嫌がっているようにしか見えなかった。  
(空汰さん…!?)  
いつでも空汰は嵐を大切にしていた。自分が怪我をしてでも、嵐を守ろうとする。  
だが、男と女では力の差が歴然としている。空汰が本気で押し倒せば、嵐も抵抗できないに違いない。  
(どうしよう…っ)  
護刃は慌てて、誰もいない廊下を振り返った。  
手を出すべきか、否か。これは女の子の一大事だ。嵐が本当に嫌がっているなら、止めなくては。護刃が間に入れば、空汰も行為を強行しようとは思わないだろう。  
(で、でも。とりあえず、もうちょっと様子を見て…)  
僅かにドアの隙間を広げ、二人の行動に見入った。すると空汰は、手を胸から足の間に移した。  
「あ……はぁん…っ」  
山育ちで目がいい護刃には、空汰に触られたそこが、濡れていくのがよく見えた。  
聞こえる嵐の声も、いつの間にか色っぽさを増している。嫌がっている様子など何処にもない。そうしている二人は、護刃の知る二人とは、およそ掛け離れて見えた。  
「…嵐……いいか?」  
「……はい」  
嵐が頷いて、空汰が足の間に構える。  
二人は同意の上での行為だったらしい。それがわかった時点で、護刃は立ち去れば良かった。これは、空汰と嵐と、二人の事だから。  
だが…二人を凝視したまま、護刃は動かなかった。否、動けなかった。  
そして二人は…繋がった。嵐の喘ぎ声が大きくなる。  
「んっ、…ぁあっ!」  
「嵐…ええやろ?」  
「は、はい……っ。…あんっ」  
空汰が腰を動かす度に、護刃の耳にまで水音が聞こえてくる。  
護刃は、人形のように動かなくなった身体を叱咤して、ドアも閉めずに自分の部屋へ駆け込んだ。  
 
 
「……」  
部屋に戻っても、あの光景は頭に焼き付いて離れない。心臓の鼓動が速くて、壊れて止まってしまいそうだった。嵐の白い肌が、喘ぐ声が…リアルに頭に浮かぶ。  
『嵐さん、空汰さんのこと好きなんですか?』  
そう聞いた時、普段冷静な嵐が頬を真っ赤に染めて慌てた。それを見て可愛いなぁと思ったのはそう昔の事ではない。  
それなのに、いつの間にか護刃の及びもつかないような所へ行ってしまっている。少なくとも、護刃は神威が好きだとは思っても、嵐達のような事をしたいと思った事はなかった。  
ただ側にいられればいい。神威も、そう思っているのだろうか。空汰のように、護刃を求めたくなった事はないのだろうか。  
(私も…神威さんと、あんな事したりするのかな…)  
思いかけて、ふと下を見下ろす。  
空汰に触れられていた嵐の胸。それに比べれば、まだまだ子供のような膨らみしかない自分。  
「神威さんは…胸の小さい子って、嫌いかな…」  
少しずつ大きくなり始めた膨らみに触れる。  
「…私、もっと大人だったら良かったのに」  
そうしたら、神威もそんな事を思うのかもしれない。  
「…神威さん…」  
 
 
興奮したまま殆ど眠れずに夜を明かし、翌日空汰や嵐の顔を見る度に赤面した。二人は本当に気付いていないらしく、逆に心配されてしまった。  
空汰と夕食の当番に当たっていたが、夜もそんな調子で、ご飯は作ったが片付けは嵐が代わってくれた。嵐が珍しく強い調子で言ってきたのもあるが、昨日の姿と重なって見えてしまい、まともに顔を見られなかった。  
「…散々だったなぁ……」  
一人で部屋に戻り、護刃は呟いた。  
今日、嵐も空汰もいつもと変わらなかった。という事は、これまでにもあんな夜を幾度と過ごした可能性もある。  
「……あうー」  
考えただけで、頭が爆発してしまいそうだ。  
体が、熱い。護刃、と呼んで、抱き締めてくれる神威の腕が、欲しい。  
…望めば、神威は護刃を抱いてくれるだろうか。  
立ち上がろうとした時、部屋に足音が近付いてきて、ドアをノックした。  
「あ、はいっ」  
急いで開けに行くと、嵐が立っていて、廊下の奥にいるらしい空汰に「先に行っていて」と目で合図していた。  
「具合は大丈夫ですか?」  
「はい。…ごめんなさい、心配かけちゃって」  
「いいんですよ。無理しないで、早めに休んで下さいね」  
嵐はとても柔らかな瞳で、護刃を覗き込んだ。  
「…はい」  
やはり顔は紅潮したが、少しほっとしたふうの嵐が、とても綺麗に見えた。嵐はもともと整った顔立ちをしているが、それがいっそう引き立つような、出会った頃とは違う美しさだ。  
それでは、と頭を下げて、嵐は廊下の奥へ早歩きで向かう。  
部屋から顔を出した空汰が、嵐の肩を抱いて部屋に戻っていった。  
「……」  
護刃は、今度はきちんと閉じた空汰の部屋のドアを見つめた。  
ただ一緒にいて、話すだけかもしれない。もしかしたら、また昨日のような事をするのかもしれない。  
「……」  
護刃は部屋に戻り、ドアを閉めた。だが何秒もしないうちに再び開け放ち、神威の部屋へと向かった。  
 
 
神威の部屋をノックすると、すぐに返事が聞こえて、護刃はそっとドアを開けた。  
「…神威さん」  
「護刃?具合が悪いんじゃ…」  
課題でもしていたのだろうか、机からすぐに出迎えにきてくれた。  
「ううん、大丈夫です」  
「でも……」  
「…入ってもいいですか?」  
「あ、うん…」  
頷いて、招き入れると、神威は再び机についた。だが、机には向かわずに、ベッドに腰掛けた護刃の方を向く。  
「どうかしたか?」  
「…えっと、あのですね」  
勢いでここまで来てしまったが、何から言い出せばいいのだろう。あまりに単刀直入に言うのも恥ずかしいし、かといって昨日の事から話し始めるのも何だか変だ。  
護刃の頭は空回りし続けた揚げ句、いきなりこんな事を言う結論に至った。  
「あ、あの…神威さんは、胸の小さい女の子って嫌いですか?」  
最初と最後が駄目なら真ん中から、そんな結論。  
勿論、急に言われた神威は面食らった。  
「どうしたんだ?急にそんな事……」  
「だって、嵐さんはもっと胸があるし、男の人は大きい方が好きだって…」  
「いや待て。だから何で、いきなりそんな話」  
「……だって…」  
何だか急に、悲しくなった。…やはり神威は、護刃をそういう対象には見ていなかったらしい。同じ好きでも、家族の好きと恋の好きは全然違うのに。  
「…神威さんが好きな女の子に、少しでも近付きたかったんです」  
「……」  
神威は、目を丸くした。…そして、何故か急に笑いだした。椅子を降りて、護刃の前に膝をつく。  
「その事なら、心配ないよ」  
「え?」  
護刃は神威を見返した。笑みを消した、真っ直ぐな視線だけが向いている。  
「それが護刃なら、俺は全部好きだから」  
「え……っ」  
「だから、その…胸が、とか考えた事ないし…」  
「……」  
口が、声を出せずにパクパクと動いた。  
よく考えれば、神威がそんな人でないくらい、すぐに解るはずなのに。昨日の出来事のせいで、思考回路がいつもと違う計算をしてしまったようだ。数式で掛け算より先に足し算をしてしまった、そんなふうに。  
しかも悲しい事に、一度出た言葉は引っ込められない。案の定、神威はこう尋ねてきた。  
「何で急にそんな事思ったんだ?」  
「えっと、それは、あの……」  
 
「俺が、そんな事で護刃の事を嫌いになるって…思ったのか?」  
「…違います!」  
護刃は慌てて否定した。違う。不安にはなったが、ずっとそう思っていたわけではない。ただ、昨日の…昨日の、空汰と嵐が。  
「あ、あの…ですね。実は、その……昨日の夜、空汰さんの部屋のドアが開いてて…空汰さんと嵐さんが、…え、えっちな事してるの…見ちゃって…」  
神威は頭を抱えた。  
「…それで今日、様子がおかしかったのか」  
「だって……」  
「うん、解ったから。でも、空汰達は空汰達だ。俺達は焦らなくてもいい」  
そう言って、そっと髪を撫でてくれる。  
撫でてもらうのは好きだが、これはどう見ても子供扱いだ。  
「神威さんは、私の事そうやって見た事はないのかなって…」  
「…やめてくれ、護刃」  
神威は気まずそうに、目を逸らした。  
途端に、護刃の胸の中に黒い影がせりあがってくる。  
「やっぱり、私は恋愛対象じゃないんですか?」  
だから、胸が小さくても良くて。護刃を求めることも、しなかった。  
「護刃」  
いきなり抱き寄せられて、唇が重ねられた。まだ数えるくらいしかない、小さな触れ合い。  
「…そういう事、俺の前で言うな」  
言って、顔が見えないように抱き締められる。  
「……俺…きっと止められなくなる…」  
「え?神威さん、それどういう…」  
「考えた事がないわけじゃないんだ。でも、護刃の前でそんな事を考えてたら…護刃の気持ちなんて考えないで、一人で走ってしまう」  
体を起こして、神威は護刃の瞳を見つめた。  
「それで護刃に悲しい顔をされるの、嫌だったから。…もう少し先でも、いいと思ったんだ」  
「……」  
護刃は押し黙った。恥ずかしかった。神威は護刃の負担にならないようにと、そういった気持ちを隠し続けていただけだったのだ。  
だが、それなら。護刃がいいと言えば、神威は……。  
「…神威さん…」  
胸の鼓動が早くなる。自分でも、一時の気の迷いかもしれない、と思う。同じクラスの子がこんな事をしていると知ったら驚く。  
しかし、それでも神威を近くに感じたかった。  
「…それでもいいって言ったら?」  
思い切って言うと、神威は目を丸くした。  
「…ゆず…りは?」  
「駄目ですか?」  
気を改める様子がない護刃を見やって、神威は軽く溜め息をついた。  
「途中で嫌だって言っても、やめられる自信はないからな。…本当に、護刃はそれでいいのか?」  
「……」  
怖くないわけではないし、途中で嫌だと言ってしまうかもしれない。しかも、それで神威がやめてくれないかもしれない。だから余計に怖い。しかし、このまま何もなかったように帰るのは…体が許さなかった。  
護刃が無言で頷くと、困ったように、神威は頭をかく。  
「その…初めてって、痛いらしいけど」  
「痛いんですか?」  
「らしい。それもあったから、…まだ先でもいいかなって」  
「……大丈夫です」  
真っ直ぐに神威を見上げると、神威は優しく笑った。  
「…ありがとう。あまり痛くないようにしてやるから」  
「はい」  
護刃も、微笑んだ。神威の笑顔が、嬉しかった。  
 
 
神威がそのまま、ベッドに上がってくる。  
「俺、女の子の服はよく知らないんだけど…その制服って前開きでいいのか?」  
「あ、はい」  
護刃はリボンをほどいて、前を開けだした。だが、その手を神威が止める。  
「いいよ。任せてくれればいい」  
「はい…」  
言われた通りに、黙って神威がするのに任せた。とはいうものの神威も初めての事だから、何をするにも手つきがぎこちない。だが、逆にそれが護刃を安心させた。  
制服の前を開けてから、そっとベッドに寝かされる。  
護刃は神威の顔を見上げた。  
「…あの、全部脱がなくていいんですか?」  
「脱ぎたいのか?」  
「あ、いえ…。そういうわけじゃないんですけど」  
思わず赤面する。そういえば、嵐も全てを脱いでいたわけではなかった。想像と現実には、微妙な誤差があるらしい。  
「護刃はそのままでいいよ」  
笑って、神威は護刃のブラジャーを押し上げた。小さな膨らみが二つ、顔を出す。  
「きゃ…」  
思わず目を閉じると、神威の手が遠慮がちに触れた。  
「あ…っ」  
触られた感覚より、普段隠している所が他人に触れられているという事の方が護刃の胸を高鳴らせる。  
だんだん、神威も大胆に触ってくる。  
「んっ…。…なんか、くすぐったいみたいな…変な感じ…」  
「俺は気持ちいいけど」  
神威は笑って、顔を近付けてきた。今、一番近くにいるのは護刃で。体いっぱいに神威を受け止められる。  
二つの唇が、重なった。  
「んっ……」  
 
神威の舌が滑り込んでくるのを感じて、護刃はそれより早く舌を滑り込ませた。  
一瞬、神威が驚いたように怯んだが、すぐに護刃に絡ませてくれた。…不思議な感じがする。  
唇が離れると、唾液の糸が伸びて切れた。  
「護刃、どこでこんな事覚えたんだ?」  
「…だって、空汰さんと嵐さんが…」  
「…まったく、空汰も不用心なんだから」  
神威は大きな溜め息をついた。  
「そのくせ俺が見たって言ったら怒るんだよな。きっと」  
「…かもしれない」  
妙に冷静な神威を見上げて、護刃は笑った。それにつられるように笑いながら、神威が髪を撫でてくれる。  
「…解らないでもないんだけど」  
「え?」  
「俺も護刃、空汰には見せたくないし」  
「……」  
何だか恥ずかしくなって、神威から視線を逸らした。偶然視界に入った部屋のドアは、きちんと閉まっている。  
「…俺しか、見てないから」  
護刃の視線の先を確認して、神威が微笑む。  
「……はい…」  
「だから全部、見せて欲しい」  
神威はスカートをめくり上げ、ショーツを足から外した。  
「か…神威さん……」  
「大丈夫だから」  
神威がそこに触れると、電気が走ったように護刃の体が震えた。  
「きゃぅっ」  
形に沿って、優しく撫で付けていく。  
「あっ、…恥ずかしいよぅ…」  
「大丈夫だから。濡らしておかないと、護刃も痛いし」  
「…ん、…はぁ……っ」  
濡れているのが、自分でも分かる。嵐も空汰に触れられて、濡れていた。  
「…あの、変じゃ…ないですか…?」  
「そんな事ないよ。…綺麗だ」  
そう言って、更にそこを撫でる。  
「んっ、あぅ…」  
言葉が無意識のうちに零れていく。…嵐も、空汰に抱かれてこんな想いをしていたのかと、僅かに考える余地のある頭で思う。  
 
「…指、入れるよ」  
「……それは…痛くない?」  
「うん」  
神威は頷いて、濡れたそこに指を差し入れた。  
「あっ……、はぁ…ん」  
「気持ちいいか?」  
「はい…っ。んんっ、…くぁ…っ」  
今まで感じた事のない感覚が、波打っている。これが何なのかと考えたが、言葉では上手く出てこない。でも「気持ちいい」事だけは、多分間違いなかった。  
そして、次々に巡ってくる感覚は護刃の心だけで処理しきれずに、勝手に体をくねらせる。自分が、自分じゃないみたいに。  
「…はぅ…っ。…私…変になっちゃったみたいだよぉ……」  
「うん、いいよ」  
神威は更に護刃の中を掻き回す。  
「やっ、駄目ぇ…っ。ふああぁっ」  
堪らず、護刃は声を上げた。言葉では駄目だと言っても、体は一番大事な場所で動く神威の指を待っている。  
「すごいよ護刃…。すごくよく濡れてる…」  
興奮したような神威の言葉に、護刃の胸が、大きく波打った。その言葉の次に来るのは。…きっと。  
不安と期待が半々になって、護刃の中を渦巻く。  
「…そろそろ、いいかな」  
神威が呟いて、ズボンのチャックを下ろした。…その時が、来たのだ。  
「……」  
護刃はそれを見上げた。一緒にいて意識した事はなかったが…神威も男だから、ついているのだ。  
それが何処に入れられるかは解るが、護刃はそこにどれ程の太さのものが入るか、考えた事もなかった。  
神威はもう足の間にいる。  
「…大丈夫か?」  
「……はい…」  
護刃は体を強張らせたまま、頷いた。  
 
…怖いけれど、神威に抱いてほしい。  
目を固くつぶって、シーツを握り締めていると、ふっと瞼に優しく口付けされた。  
「神威…さん…?」  
「…好きだよ、護刃」  
神威は髪を撫でて、笑う。  
その笑顔に、護刃はほっとした。そして、何処かで聞いた台詞をそのまま呟く。  
「…優しくして下さいね」  
「うん」  
頷いた神威を見て、再び目を閉じた。  
秘所に、指でないものが当たる。そしてそれが、蜜で溢れる中に、滑り込んだ。  
「あっ……やっ!」  
同時に押し寄せる痛み。逃げるように、護刃の体が反った。しかし、それによって痛みから逃れる事も、神威が出ていく事もなかった。  
「痛い、か?」  
「…んっ……えうぅ…っ」  
辛うじて首を微かに振れたが、それが強がりである事は明らかだっただろう。涙で滲んで、神威の顔はよく見えない。  
(でも…やっと…神威さんと……)  
気遣うように、神威が瞳を覗いてくる。  
「護刃…」  
「……大丈夫…だから…」  
「…わかった」  
頷いて、神威がゆっくりと動きだす。  
「あ…はぁぁ…っ!」  
また涙が零れ落ちる。  
神威が動く度に、痛みが襲いかかる。もうやめて、と言いそうになるのを、必死に堪えた。これは護刃の望んだ事だから。  
「…ん、……あぅぅ…っっ」  
でも…不思議だ。痛いのに、さっきと同じように声が上がる。初めてが痛いのなら、次からはもっと気持ち良く感じるだろう。  
「…神威、さん……っ」  
「ん?」  
「…ぁんっ。…わ、私……神威さん…大好きです……っ」  
「うん。…俺もだよ」  
笑って、神威が動きを速める。  
「…ふぁぁっ。……ゃ、ぁあんっ!」  
痛みはまだ消えない。だが、その裏にある快感と、この登り詰めていくような気持ちは…。  
「あ、あああぁっ!!」  
体が小さく痙攣した。神威を締め付けていた秘裂が解き放たれる。  
それと同時に、護刃の瞼が落ちた。  
 
 
ぼんやりと目を開けると、そこはいつもの神威の部屋だった。  
「…気がついたか?」  
神威が、少し不安そうに覗き込んでいる。  
「…神威さん……」  
「俺……無理させたかな」  
「ううん。…ありがとう、神威さん」  
護刃は微笑んだ。体中が疲れきってはいたが、それを上回る充実感があった。  
「ね、今日はここに泊まっていいですか?」  
「うん。いつでも来ていいよ」  
いつでも、と言われて、嵐の肩を抱いて部屋に入っていった空汰を思い出す。  
「そんな事言ったら、たくさん来ちゃいますよ」  
悪戯っぽく笑うと、神威もまた微笑んだ。  
その温かな笑顔の隣で、護刃は深い眠りに落ちた。  
 
 
 
 
 

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