『過ぎ去った夢(柚原)』
「ぅっ、っ、ぅう…」
その晩の夢の中で柚原は薄暗い部屋で数人の男たちに輪姦されていた。
それは彼女と交わってきた様々な男たち。
「くぅぅ…」
柚原は汗にまみれた裸体で鼻にかかった音を上げる。
実際のところ彼女は一人の男を跨ぎ、さらに菊座には別の男が入り込んでいる。
「くるしいよぉ…」
柚原の目は虚ろである。すでに彼女の感覚は半ば麻痺し、体に力も入らなかった。
しかしそれでも男たちは入れ替わり立ち代りやって来るのである。
「……!……………!……」
断続的な小さな絶頂の波が寄せては返す。柚原は下の男の厚い胸板に
自分の乳房を押しつぶしてぐったりとしていた。
尻の肉には男の十本の指が食い込み、腰にもまた別の男の指が十本。
「………!……………!…」
全身の汗は冷めかかっているというのに肌の奥から滲み出てくる。
擦り切れそうに痺れてしまったソコからは生理反応で愛液が少しずつ染み出していた。
「……!………!……」
揺すられるたびに柚原の全身の肉が震える。しかし彼女はもうイケなかった。
慢性的な疼きと痙攣が全身を侵しているばかりなのだ。
もう叫びのたうって気を遣るほどの力は残ってはいない。
「ぉォお゛!お゛!お゛!お゛!お゛!お゛!」
少し前に自分が上げたほとんど獣じみた嬌声が頭の中に蘇ってくる。
(肉の玩具じゃん…)
柚原は自嘲した。「断れない」ということが全てを壊して男たちを狂わせて
彼女を不感症まがいの性依存症に陥れたのだ。
小さく口を開けて声を絞ってみる。
「きもちいい」
しかし実際にはさほどでもない。
(もういやだ)
しかしもしも今止められてしまったらきっと「飢えて」しまうだろう。
だからやるせない喉で言った。
「もっとして、かわいがって…」
その声はどこか抑揚がなく棒読みのような台詞だったけれども行為に夢中に
なっている男たちはそんなことを気にとめたりはしない。
「嫌な夢」
妙な時間に目を覚ました柚原は窓際に腰掛けると煙草に火をつける。
その瞬間にライターの火が描き出した彼女の顔には憂いがある。
それは短い時間にあまりに多くを経験してしまった人に似て寂しい美しさ
を示していた。