カフェ・アルファに辿り着いた時、すでにアヤセとアルファはずぶ濡れだった。
「大丈夫ですか?今、おフロにお湯入れてますから…」
「あんか、すまねぇな。初めて会ったってぇのに、世話ぁかけちまって…」
アヤセは心底すまなそうに言った。
「気にしないで下さい、今日は良い物見せていただいたし。…あ、お風呂湧く前に、今温かい飲み物入れますね。何が良いですか?」
アルファが乾いたタオルを渡しながら、アヤセに尋ねる。
「あ〜…じゃあ、ホットミルクでお願いすんわ」
ありがたくタオルを受け取りながら、アヤセは嬉しそうに笑った。
今日初めて会った女の子、アルファ。
いや、厳密に言えば人間型ロボットなので、女の子という言葉はあてはまらないのかもしれない。
しかし共に過ごした今日の『個人的イベント』でのアルファの物の捉え方は、アヤセにとって十分人間の女の子と変わらない物だった。
「じゃあな」
と格好付けて別れたアヤセだったが、30分もたたず、にわかに天気が変わり雷雨になった。
周囲を見渡しても、雨宿り出来そうな建て物や遮蔽物はない。
急いでテントの準備をしていると、アルファがスクーターに乗って現れた。
「アヤセさん!良かったぁ…見つかって。ここじゃ危ないですよ、乗って下さい」
その瞬間、後ろで雷鳴が轟いた。とたんにアルファが頭をかかえてうずくまる。
見ると、その身体が震えていた。
「あんだえ?どうした?」
態度のおかしさに問うと、アルファは過去、スクーターに乗っていて雷に撃たれた事があると言う。
<自分も相当怖かっただろうに、わざわざここまで俺の事を心配して来たのか…>
アヤセはアルファのスクーターを運転し、このお人好しのロボットを家まで送る事にしたのだった。
「おまたせしました、ホットミルクです。…あっ」
寒さで手が震えていたせいだろう。アルファがホットミルクに添えたスプーンを落した。
急いで落ちたスプーンを取ろうとして、カップをテーブルの上に置き、身を屈める。
その置いたカップの不安定さに気付いたアヤセが、慌てて手を延ばしたが間に合わなかった。
ホットミルクをアルファが頭からかぶる。後を追うように床に転がるカップ。
沈黙が広がった。アルファの顔が、お客さんを前にした失態で真っ赤に染まる。
一方、アヤセは目のやり場に困った。白い液体で顔から胸まで汚されたアルファ。
一瞬沸き上がった自分の妄想で、この女の子を穢してしまった。
「熱くねぇか?汚れちまったし、風邪引いちまうだろうから、先ぃ風呂入んな」
ちょっと怒った顔で、アヤセは言った。
「あっ、いえ、大丈夫です!私は風邪引かないですし、先にアヤセさん入って下さい」
押し問答の末、結局アヤセが折れ、先に風呂に入る事になった。
<どうしよう…ミルク飲んじゃった>
アルファは零れたミルクを片付けながら悩んだ。実はアルファは動物性蛋白質が苦手だ。
ココネの話だと、ロボットでも動物蛋白の消化に無理はなく、どうやら自分だけの癖らしい。
<前に試した時と同じか少ないほどだし、コーヒーで薄めれば大丈夫かも>
そう考えたアルファはコーヒーを入れ、急いで大量に飲んだ。
<うん。なんか大丈夫みたい>
ほっとした。さすがに、今日知り合ったばかりのアヤセの前で、これ以上の失態は見せられない。
しかし暫くすると、やはり身体が痺れる様にじんじんして来た。
<……やっぱ、駄目みたい>
「おまたせしやした。お風呂、次どうぞ」
後ろからアヤセに声をかけられ、アルファはビクリと飛び上がった。
「どうした?」
「い…いえいえ、なんでもないです。…それじゃ、私もおフロ入って来ます」
アルファは真っ赤な顔で震えながら、後ずさる。
アヤセはちょっと心配になった。精密な作りだから、雷雨は体に悪かったのではなかろうか。
少したって、脱衣所からドサリと鈍い音がし、アヤセは驚いて立ち上がった。
風呂場の前まで行くが、さすがにいきなりアコーディオンカーテンを開けるのは躊躇われる。
「あんだえー、アルファさん。でぇじょうぶかぁ?」
声をかけるが、返事が無い。
嫌な予感がしてアヤセはカーテンを開いた。そこには、全裸で震えながら倒れているアルファがいた。
抱き起こすと身体が冷えている。アヤセは急いで風呂桶のフタを取り、アルファの身体を沈めた。
「アルファさん、アルファさん!」
頬を叩くが、アルファは呻くだけだ。手を離すと、そのまま身体が浴槽に沈みそうになる。
しかたなくアヤセは服を脱いで脱衣所に投げ捨てると、アルファと一緒に浴槽に入った。
後ろから、その身体が沈まぬ様抱きかかえる。まだひんやりとその身は冷たい。
「ん……う…」
真っ赤な顔でアルファが身悶えた。ゾクリ、とアヤセの体の芯が反応する。
<何を考えてるんだ。具合の悪い女の子相手に…>
「あの……アヤセさ…」
「おお、気が付いたかアルファさん。すまなかったけど、アンタの体支える為に、一緒に風呂ぉ入っちまった」
振り返ったアルファの目の縁が赤くうるんでいる。アヤセは必死に目をそらす。
「…んうっ!…ぁ…」
アルファの息が荒くなって来た。まるで、アヤセを誘うように。
「…ぅ。…わ、わたし…駄目…なんです…動物性蛋白質…。体が…痺れて…はぁっ!…」
背中でアヤセの胸が擦れたのが刺激になったようだ。アルファが甘い声を洩らした。
その声に、アヤセの理性の絲が千切れた。後ろからアルファの胸を揉みしだく。
「…ひゃあぁぁぁん!…ああっ…だめぇ…変に…変になっちゃう…」