穢れ一つない純白の部屋に、一人の少女が居た。  
日本人離れした目鼻筋の通った顔立ち。  
まるで神に加護されたかのように神々しい金髪。  
そんな類まれない物を持っているにも関わらず、少女の表情は憂鬱そうだった。  
少女の名前は梨々。  
この研究所の主のハミルトンの一人娘だ。  
 
梨々は部屋の隅で縮こまりながら、祈り続けている。  
あの足音がせずに、今日という日が終わってくれることを。  
それだけを願いながら、おびえ続けている。  
そんな日は、一度も無かったというのに。  
 
少女の希望を打ち砕くかのように、廊下からコツコツと足音が聞こえてきた。  
梨々の父親――ハミルトンだ。  
ハミルトンは梨々の居る部屋に入ってくると能面のような顔で言う。  
 
「梨々、薬の時間だよ」  
「はい……パパ」  
 
彼は憔悴しきっている梨々を少しも気にかけなかった。  
梨々もまたそれを期待してはいなく、ハミルトンに誘われるままベッドに腰掛けた。  
ハミルトンは持っていたフラスコを梨々に手渡す。  
中には、毒々しい緑色をした、延々と気泡を立て続けている液体が入っていた。  
錬丹術により生成された肉体を変化させる禁忌の薬。  
もう何度も飲んでいるはずの梨々も、これに口をつける瞬間だけは躊躇ってしまう。  
梨々がフラスコを握り締めながら途方にくれていると、ハミルトンは  
 
「どうした? 早く飲め」  
 
と言って、フラスコを梨々の口元にあてると、液体を一気に流し込んだ。  
梨々はふいを突かれ、容赦なくその薬を味わってしまった。  
 
「ッ……」  
 
吐き気を催すような最悪の味。まるで吐瀉物そのもののようなそれに、梨々は耐えた。  
以前、吐き出してしまったことを思い出したからだ。  
その時、ハミルトンにされたことに比べれば、こんな事は大したことではなかった。  
 
「…………げっ、ゲホッ! げほっげほっ!」  
 
最後まで飲みきり、思い切り咳き込む。  
口の中に僅かに残っていた薬物が、真っ白なシーツに染みを作る。  
ハミルトンはそんな梨々に構うことなく、手際よくフラスコを片付けた。  
そしてもう一度戻ってくると、無機質な声で梨々に問いかける。  
 
「どうだ、私の心が見えるか?」  
「……」  
 
薬の投与を受け始めた頃、少ししか感じ取れなかった人の心は、今ではもうはっきりと見えるようになってしまっていた。  
梨々は、初めて父親の心の奥底まで見たとき、絶望をもした。  
ハミルトンは研究のこと以外、何も考えていなかったから。  
 
「……はい、はっきりと見えます」  
「ふふ、そうか。……さて、そろそろか」  
 
ハミルトンがそう言ったとき、丁度梨々の体に変化が訪れた。  
 
「……あっ!」  
 
心臓が激しく動悸を繰り返し、呼吸が荒くなる。  
肌が剥がされているのではないかと思えるほど、焼け付くように熱い。  
全身の細胞一つ一つが呼吸困難になっているかのように息苦しい。  
次第に頬が真っ赤に染まってゆくのが、梨々自身にも感じられた。  
今、梨々の身に起きていることは、もちろん先ほどの薬が原因である。  
実は、あの薬には激しい催淫作用があるのだ。  
抑える方法はたった一つだけ。  
男性の精液を、その身に受けること。  
さもなくば、激しい痛みに苦しみあぐねいたあと、死ぬ。  
 
「あ、ああっ……!」  
 
梨々は自らを抱きしめながら、ベッドに突っ伏し、震え始めた。  
痛みと性的興奮で体がどうにかなりそうだった。  
そんな異常な様子の梨々を見ても、無表情を崩さずハミルトンは言う。  
 
「では、抗体をくれてやろう」  
「……は、い……! く、くださいっ……!」  
 
梨々は吃音交じりの声で懇願した。  
ハミルトンが徐に服を脱ぎだす。  
現れた胸板を見るだけで、梨々はゴクリと生唾を飲み込んでしまった。  
幾ばくかのあと、外気に晒されたハミルトンの局部に、梨々はおずおずと手を伸ばす。  
それが、実の父親だということにも気が回らない。  
まだ柔らかいそれにそうっと触れる。  
 
「はっ……! はっ……!」  
 
卑しい獣のように舌を出し、梨々は夢中でそれを扱きはじめた。  
にちゃにちゃといやらしい音を立てながら、何度も何度も、壊しかねないほどに強く激しく。  
次第にそれは硬度を増し、雁首を持ち上げていく。  
しかしそれも中程。この程度の刺激では射精には至らない。  
そう理解すると、梨々は迷うことなくハミルトンの股間に顔を埋めた。  
研究に忙しく、碌に風呂も入らない男の排泄器官。  
常人ならば、その汚臭を嫌悪するはずだろうが、今の梨々には芳しい香りにしか感じられない。  
茂みの中から半立ちの棒を取り出し、口に含む。  
ジュルジュルと音を立てながら吸い上げ、唇で擦りながら喉の奥へと埋没させる。  
まるで洗うかのように舌を満遍なくそれに走らせ、片手で睾丸を揉み、口圧でその全てを奪いつくそうとする。  
多量に分泌されはじめた液が、梨々の体の痛みを徐々に癒していく。  
しかしそれに反比例するように、梨々の興奮は加速していった。  
 
「じゅるっ!……ちゅっ……! んはっ!……ちゅ……ちゅぱっ、ちゅっ!……じゅるり!」  
 
激しく頭を前後させ、乱れる髪も気にせず、むしゃぶりつく。  
今や灼熱の鉄棒のようになったそれにほお擦りし、陶酔する。  
そうしながら、梨々は僅かに残った理性で何を求めたのか、父親を見上げた。  
ハミルトンは無表情で梨々を見下ろしている。  
心を読むまでもない。やはりそこには、何もなかった。  
 
「……ちゅっ」  
 
梨々は視線を元に戻し、僅かに残った理性すらも、快楽に埋没させた。  
もう何も考えられなくなった体で、本能のままに男性器をしごき続ける。  
 
「……くっ!」  
 
行為中一言も発しなかったハミルトンが、僅かにだが呻く。  
血走った肉棒がびくびくと何度か脈打つ。  
射精の瞬間が近いことを知った梨々は、肉棒を深くくわえ込んだ。  
 
びゅっ! びゅるっ! びゅるるっ!!  
 
物凄い奔流が梨々の口の中に押し寄せる。  
それは口内に収まりきらず、梨々の金髪まで汚した。  
その白濁のグロテスクさは先ほどの薬に勝るとも劣らない。  
それでも、今の梨々には甘美の飲料であった。  
梨々は口から零れ落ちたものまで残さずに舐めとり、尿道の中に残ったものまで飲みつくした。  
梨々の体から徐々に痛みと興奮が引いていく。  
全てを終えると、梨々はベッドに突っ伏す。  
激しい肉体の運動に、全身が疲労していた。  
そして、もう立ち上がりたくなくなるほどに、絶望もしていた。  
 
 
ハミルトンは手早く着替えを終え、立ち上がると、いつものように何も言わずに部屋を去ろうとする。  
だが、今日は違った。  
思い出したように梨々の元に戻ってくると、囁くように言った。  
 
「梨々、話があるんだ」  
「……はい」  
 
梨々は、まだ精液のしたたる虚ろな顔で、僅かに期待しながら返答した。  
父は何を言ってくれるんだろう、と。  
しかし、ハミルトンが口を開く前にそれは伝わってきてしまった。  
それは人を騙すための算段だった。  
 
「――――――――という段取りだ、分かったか?」  
 
ハミルトンは梨々の意思を問わない。ただ理解だけを求めていた。  
 
「…………」  
 
選択権などなかった。  
梨々はこの男の元でしか生きていけなかった。  
それでも梨々は思い巡らした。  
何か自分にも出来ることがあるのではないか、と。  
だけど、結局何も見つけることができなかった。  
長い沈黙の後、梨々は頷いた。  
 

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