「下着を盗るのって簡単ね…w」  
「さすがだよ梨々ちゃん、それでは下着抜き技巧の最終テストをしようか」  
「いいわよ!どんなテスト?」  
「今日の夕方までに、吉永家全員の下着を、相手に気がつかれないよう、盗ること」  
「…え、じゃあ、双葉ちゃんや和己さんのも?」  
「もちろん! あの家にはガ−ゴイル君がいるからね、梨々ちゃんには、難しいかな?」  
「そっ、そんなことないわ!」  
「危ないようだったら助けに入るから」  
「そんな必要はないわよ! おじさんは家に居て。私ひとりでやってみせるから!!」  
 
 
・・・ってな訳で、梨々は吉永家にやってきた。  
まず門番ガ−ゴイルがいつもいる門柱の上を見てみたが、お出かけ用の立て看板が置いてあいるだけだ。  
梨々は少しほっとした。  
(ガ−ゴイルさんが居ないなら、こんなテスト、楽勝だわ!)  
 
「なんだ梨々じゃねーか、どうしたんだ?」  
梨々が家のベルを押そうとしたちょうどその時、玄関から双葉が顔を出した。  
「遊びにきたの、双葉ちゃんとゲームをしたいなと思って」  
「おう! ちょうど東宮のおっちゃんから新作の格ゲ−もらったんだ〜 一緒にやろうぜ!」  
 
土曜の午後の昼下がり、吉永家にはどうやら双葉しかいないらしい。  
「ガ−ゴイルさんは?」  
「イヨねーちゃんの所、ママと兄貴はそろそろ買い物から帰ってくると思うよ」  
百色の屋敷にはTVゲームなどないので、格闘ゲームをやるのは始めてだったが、  
何でも飲み込みの早い梨々はすぐにコツを覚えた。  
「梨々、なかなかやるじゃねーか!」  
「まあね」  
梨々は適当にキャラを操りながら、双葉の下着を盗る機会を伺う。  
(双葉ちゃんって、まだブラはしてないわよね… 私だってまだだもん)  
梨々はお菓子を取る振りをして、さり気なく双葉の背中をタッチしてみる。  
「ん? どうした?」  
「なんでもなーい」  
(よし! ブラはしてないわ! それにしても、オーバーオールかあ……)  
これはなかなか難易度の高い服装だ。  
ズボンならウエストから、スカートなら下から抜けるのだが、  
オーバーオールは上下をカバーしている為、一度上半身を脱がせないと下着を抜く事が出来ない。  
似たような服装にツナギがある。 公園にいるウホ男で試した事があるが、その時は失敗してこっぴどく怒られた。  
 
「ただいまあ〜」  
双葉の様子を伺っているうちに、和己とママが帰ってきた。  
 
「あれえ? 梨々ちゃん遊びに来てたの?」  
「和己おねえちゃん、お邪魔してま〜〜す!」  
「…えっ? 梨々ちゃん今、お姉ちゃんって言わなかったっ!?」  
「おい!オカマ! 小さいこと気にしてんなよ〜〜〜」  
「もうっ! 双葉ちゃん! 僕はオカマじゃないって言ってるでしょー…ん?あれ? 今なんか……」  
「どうした? 兄貴」  
「…うん? 別に、何でもないみたい…」  
 
(うまくいったわ!!)  
梨々は和己の容姿コンプレックスを突き、和己が動揺している隙にパンツを盗ることに成功したのだ。  
 
(和己さんはパンツは、グレーのボクサーパンツ…?? 駄目だわ! こんなの全然似合ってない!   
和己さんにはもっと可愛いピンクのフリルとか、セクシーな赤いビキニとかで……)  
 
「おい梨々、かーちゃんが苺とチョコ、どっちがいいかって」  
「え?」  
「ケーキだよ! なに余所見してんだよ〜」  
「じゃあ苺を… あっ、そうだ! 今日は双葉ちゃんのママにお土産を持ってきたんです」  
 
梨々は和己のパンツをさり気なくポケットに隠しながら、カバンから1本のテープを取り出した。  
「梨々、それ何のビデオだ?」  
ケーキとジュースを運んで来たママも、興味深々で梨々の手許を覗き込んでいる。  
「このビデオは、百色おじさんの自己紹介ムービーです。すっごくレアなんですよ!!」  
「!!!!!!!!☆∀☆♪!!!」  
ママの瞳は夜空の星のごとくキラキラと輝きだし、口元はこれ以上ないほどの笑みが零れた。  
「よかったねママ! さっそく見てみる?」  
うん!うん!と和己に促されながら、ママがTVに向かったその瞬間‥‥‥。  
「‥‥‥??」  
「どうしたの? ママ」  
ママは一瞬の違和感に動きを止めたが、そんな事より今はビデオが気になってしょうがない。  
一瞬生じた違和感の事はすぐに忘れてTVに向かうや、後はもう、満面の笑みをたたえながら  
百色の派手な演出のビデオにかじり付いて離れない。  
「梨々、ありがとな! ママ、すげえ嬉しそうだぜ」  
「いいのよ、おじさんの家にいっぱいあったから」  
 
(ふう〜〜〜、ちょっとドキドキしちゃた! 双葉ちゃんのママって、何故か隙が無いし、妙にパワフルだし  
一番の強敵だと思っていけど、おじさんのビデオをエサにしたのは正解だったわ!)  
こうして梨々は易々と二枚目のパンツとママのブラをゲットしたのだった。  
 
「ただいまあ〜〜」  
「あれ? 親父今日は早かったな」  
「ああ、梨々ちゃんこんにちは。今週は残業が多かったからね、土曜日だし早めに上がらせてもらったんだよ」  
「ふ〜〜〜ん、って、親父。シャツに着いてるソレ、キスマークか?」  
「‥‥ええっ!? まさかそんなことはっ!!」  
青ざめるパパの背後に、ママの憤怒のオーラが怒濤のごとく押し寄せて来る。  
「ママ! 違うんだコレはっ! 僕にはまったく身に覚えがなっ‥‥、うわあ〜〜〜〜〜!!!!!!!」  
そして次々に繰り出されるママの無言のプロレス技に、パパは言い訳をする間もなく撃沈するのであった。  
 
(つっ強い!! 双葉ちゃんのママ、とっても強いわっ!!!)  
梨々は怯えながらもこの隙に、しっかりと3枚目のパンツを手に入れた。  
パパのシャツにキスマークを付けたのは、もちろん梨々だ。  
 
「ごめんね梨々ちゃん、喧嘩が始まっちゃうとなかなか終わらないんだ」  
和己が申しわけなさそうに梨々に謝る。  
「梨々、2階に行こうぜ。オレはケーキ持つから、梨々はジュースを持ってきて」  
「うん」  
双葉が立ち上がったその瞬間、梨々は手に持ったジュースを双葉に向かって思いっきりぶちまけた。  
「うわあっ!! なにすんだよっ! 顔も服もベトベトになっちまったじゃないかあ〜〜〜!」  
「きゃ… ごめんね双葉ちゃん! 手がすべっちゃったみたい」  
双葉は頭からジュースをかぶり、髪や身体からジュースを滴らせている。和己が慌てて雑巾を持って来た。  
「梨々ちゃんにもジュースかかってるよ!? 2人ともお風呂で身体洗ってきなよ 服は洗濯機に入れておいてね」  
「しょうがね〜な〜、梨々、風呂入るぞ!」  
「うん!」  
 
(うまくいったw)  
梨々は苦手なオーバーオールを避けたくて、双葉自らに服を脱がせる為にわざとジュースをこぼしたのだ。  
そして脱衣所で双葉のパンツをこっそり盗ると、さり気なく自分の服の中に隠した。  
(これで全部揃ったわっ!! 楽勝ね♪ お風呂から上がったら、成果を持っておじさんの所に帰らなくゅちゃ!)  
 
「梨々、風呂熱くないか?」  
「大丈夫」  
2人は身体を洗うと浴槽に入って身体を伸ばした。  
健康的に日焼けしている双葉の身体とは対照的に、梨々の肌は白く、湯にあたってほんのりとピンクに染まっている。梨々は双葉に借りたゴム紐で髪をアップに束ねた。  
「それにしても梨々ってさあ…、大人っぽい身体してんなあ〜〜」  
「!! やっ、やだ双葉ちゃんたら、何を言うの?」  
「だって、胸も出てきてるし、腰もオレや美森に比べると丸いっていうかさあ‥‥」  
「もうっ! 双葉ちゃん、ジロジロ見ないでよ〜〜 恥ずかしいでしょっ!?」  
梨々は慌てて手で胸を隠した。  
「‥‥‥でも、うれしいな」  
「なにが?」  
「大人っぽいって、言ってくれたでしょ? 私、早く大人になりたいの」  
「ふ〜〜ん オレは別に、早く大人なんてなりたいとか思わないけどな〜〜 大人って面倒臭さそうじゃん」  
双葉はそう言うと、梨々に笑ってみせた。  
「双葉ちゃんは、好きなヒトとかって、いる?」  
「好きな人〜〜〜? そうだな〜〜 今の所、家族の皆がスキかな」  
いかにも双葉らしい無邪気な答えに、梨々はくすくすと笑いだした。  
「そうゆうのじゃなくて」  
「うん? じゃあ、どうゆうのだよ」  
そんな風に切り返されると、あらためて好きの意味を説明するのも恥ずかしい気がする。  
「梨々が好きなのは百色だろ?」  
「‥‥‥!!!」  
梨々はハッとして双葉を見た。  
「だって百色のおっちゃんが、梨々の家族だもんなっ!!」  
双葉の眼には何も含むものがない。力強く、まっすぐな瞳が梨々を見つめている。  
「‥‥‥そう! そうよ おじさんが、私の家族よ!」  
梨々は不思議に暖かい気持ちになっていた。  
 
 
風呂から上がると2人は和己の用意してくれてた服に着替えた。  
双葉は新しいパンツをはいたので、自分の下着が消えたことには気が着かなかった。  
こうして梨々は、吉永家全員の下着をかばんに詰め込み、満面の笑顔で百色の待つ屋敷に帰ったのだった。  
 
「さすがだ、梨々ちゃん! あの吉永家全員の下着を物の見事に盗ってくるとは!」  
「ガ−ゴイルさんが留守だったのは、幸いだったけどね」  
「下着抜き技巧の最終テスト、合格だ! 明日からはまた違う技を教えてあげるからね」  
「やったあっ!! 今日の夕御飯は、私の好きなハンバーグにしても良い?」  
「もちろん! 梨々ちゃんのハンバーグ、楽しみだよ! 合格祝いもしなくちゃね!」  
「じゃあ、お台所に行ってくるね!」  
「ああ、いってらっしゃい〜〜〜」  
 
 
その頃、吉永家では。  
「やだっ! 僕いつのまにか下着をはいてないよ〜〜」  
風呂に入ろうとした和己が、脱衣所から戻って来るなりそう叫んだ。  
「何だと!? ‥‥そう言えば なんかスカスカすると思ったら、パパもパンツをはいてないぞ!   
え? ママもなのかい!?」  
うんうんとママも胸元を押さえながら頷く。  
「ったく、間抜けだな〜〜。何で風呂に入るまで、そんな事に気が付かないんだよ!」  
「双葉ちゃんは、はいてるの?」  
「あったりまえだろっ!? だいたい今日は何で皆パンツをはいてないんだよっ、ボケたんじゃねーのか?」  
「朝はちゃんとはいてたよっ!」  
双葉の馬鹿にした態度に和己がつっかかる。  
 
「下着ドロボーといえば、百色。 奴は今日、この家にこなかったか?」  
「ガーくん! おかえり〜〜」  
突如部屋に現れたガ−ゴイルに全員の注目が集る。  
 
「来てねーよ。梨々なら遊びに来たけどな」  
「梨々が、来た、だとぉ!?」  
「ちょっと、ガーくん。まさか梨々ちゃんの仕業だっていうの?」  
「うぅむ。 百色が梨々に、何かを言い付けたとも考えられる」  
「まっさかあ〜〜」  
「しかぁし、他に思いあたる事が何もなければ、唯一の来訪者である梨々を疑うのが筋であろう」  
「まあな」  
「一応だが、我が百色の所に行き、確かめて来よう」  
「そうか? 気を付けて行ってこいよ〜〜」  
 
「ふっふっふっ…、うまくいったな。吉永家には色々と恩があるから、自分で手を出すのは躊躇いがあったのだが」  
 
百色は自室に戻ると、いそいそとベットの裏に手を伸ばし、そこに仕込であるボタンを押した。  
するとベットの床が1回転し、その下から隠し部屋が現れた。  
「御色町に越して来てからの夢がやっと叶った!! 町人約3000人分の下着が今ここに!!」  
その隠し部屋の中には、御色町に住む全ての人から盗った、ほかほかの下着がコレクションされていたのだ。  
老若男女、様々なタイプの下着が壁一面に貼り出されたその個室は、正に変質者の館と言った感じだ。  
下着の一枚一枚に、持ち主の名前と住所の札が付けられているという手の込みよう。正に変態だ。  
「どれどれ、双葉ちゃんのは小学生らしい純白パンツか。可愛いいなあ。パパはトランクス派か。  
ママさんは以外と色っぽいのを選ぶんだな〜〜。ちょっとイメージが変わっちゃったなあ〜〜。  
そして和己君のは、グレ−のボクサーパンツだとっ?? 似合わないっ!! 彼は自分というものを分っていない!   
和己くんにはもっと可愛らしくかつセクシーな色と柄のっ!!   
まあここで言っても仕方がない、今度こっそり忍び込んで、私のセレクションした下着と総入れ替えしてやろう  
‥‥‥ふっふっふっ」  
 
「おじさん‥‥‥」  
「うわあっ!! りっ、梨々ちゃん?! 夕飯の支度をしてたんじゃあ‥‥‥!!!」  
突如背後から梨々に声を掛けられ、百色は文字通り飛び上がった。  
その拍子に、手にしていた和己のパンツが頭にのっかり、ママのブラが足に絡む。  
「ハンバーグ、ソースにするか、和風大根下ろしにするか、聞きにきたの‥‥‥」  
梨々は、下着で一面を覆われた異常な部屋を前にして、硬直したまま動かない。  
右手には、調理の途中なのだろう出刃包丁が握られていて、その切先が細かく震えている。  
「‥‥テストだなんて言って、私を騙したの?」  
逆光で、しかも顔を伏せている為、梨々の表情が読めない。  
「だっ、騙したつもりは、ないよっ!」  
今どんな言い訳をしても、梨々を納得させられるとは思えず、百色は言葉に詰った。  
「‥‥おじさんって、ヘンタイなの?」  
出刃包丁を握る梨々の手に力が入り、肩がわなわなと震え出す。  
「いっ、いや! 人には理解されにくい趣味だろうとは思うけど、けっして変態なんかじゃあ…っ!!」  
百色の声がうわずる。  
「‥‥‥‥‥‥そう」  
抑揚の無い、梨々の声が無気味に静まりかえった。  
百色は背筋に冷たい物を感じて、一歩後ずさった。  
「と、とりあえず梨々ちゃん、その包丁、危ないから、床に置いて‥‥‥」  
と、百色が手を差し出した、その瞬間。  
突如脱兎のごとく百色に駆寄った梨々は、体当たりで百色を押し倒し、その上に股がりマウントポジションを取る。  
全てが一瞬の事だった。  
梨々が百色の胸ぐらを掴むと、手にした出刃包丁が、自然と百色の喉の当たりに添えられる。  
「‥‥‥り、梨々ちゃん、落ち着いて…、話し合おう」  
百色の絞り出す様な声に、梨々は冷たく返した。  
「‥‥‥話し合うことなんて、何も、ないわ」  
梨々の突き放すような冷たい瞳に見据えられ、百色の身動きが止まる。  
そして、出刃包丁を握った梨々右手が、ゆっくりと宙に浮かび、  
「梨々ちゃっ‥‥‥!!!」  
躊躇い無く百色に向かって振り下ろされた。  
 
「うわあああああああああっ〜〜〜〜‥‥‥あっ‥‥‥あっ‥‥‥あ、あれ?」  
痛みも衝撃も訪れず、百色が恐る恐る眼をあけると、目の前にはピンクのパンツが突き出されていた。  
「こっ、これは…?」  
梨々が悪戯っぽい顔でニッコリと百色に笑いかけている。  
「御色町全員の下着を集めるのなら、私のパンツも入れてよね!!」  
振り下ろした梨々の手には、梨々のパンツが握られていた。  
腕を振り下ろす瞬間、パンツと包丁を入れ替えたのだ。  
「わっ私を、騙したな〜〜〜!!」  
「下着コレクションのこと私に黙って双葉ちゃん家に行かせた罰よっ!! 驚いた?」  
やっと梨々の行動の意味を理解した百色は、心の底から安堵した。  
「梨々ちゃん、勘弁してくれよ〜〜、本気で刺されるのかと‥‥‥」  
緊張が溶けて、ぐったりと弛緩した百色の上で梨々は楽しそうに笑っている。  
「おじさん? お仕置きはまだこれからよ! それっ!!」  
梨々は百色のズボンに掴みかかると、それを無理矢理脱がしにかかった。  
「わあっ! 何をするんだ!! こらっ 梨々ちゃん、止めなさいっ!!」  
「だって、御色町全員のパンツが飾ってあるのに、おじさんのだけ無いなんて変よ? 早く脱いでっ!!」  
「ばっ馬鹿な! 私の下着なら、衣装箱の中にっ!!」  
「何を言ってるの〜〜? 脱ぎたてホヤホヤじゃなきゃ皆と同じゃないでしょ!?   
大人しく脱がないと、おじさんの大事な所を包丁で切っちゃうからっっ!!!」  
「…うっ、うわあああああああああっ〜〜やめてえ〜〜〜‥‥‥!!!!!!」  
 
 
百色の絶叫が、ご近所さんに響きわたる。  
そしてその様子を窓の外から見ていたガ−ゴイルは。  
「うぅ〜〜〜む‥‥‥ 梨々! 恐るべしっ‥‥‥!!!」  
 

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