御色町を見下ろす山の中で美しい女性の姿をした植物が人間には聞こえない歌を唄っていた
緑の肌と黄金の瞳を持つその植物の名をオシリスという
世界最高の錬金術師の名を求めた主人とともに最強の門番に挑み
激闘の末敗北した彼女が主人ともども町の裏山に住み着いてから1年あまり
敵対する者には容赦無いが臣下(自分を創った錬金術師すらそう呼んで憚らない)の面倒見は良い
オシリスはいつの間にか山の草花達の守護者としてそれなりの敬意を払われる存在になっていた
「とっても素敵だったです」
唄い終えたオシリスに声を掛けたのは蕾をつけたばかりの鐘馗水仙だった
「去年の夏ここに咲いていた花が好きだった歌だよ」
崖の縁にやって来たオシリスは鐘馗水仙の隣に根を下ろす
「でも不思議です、お姉さんの歌を聞いているとなんだか懐かしいような切ないような・・・」
一瞬オシリスの瞳に浮かんだ陰は罪の意識かそれとも別の何かだったのか
「一緒に唄うか?」
「え!でも私なんか・・・」
うろたえる鐘馗水仙に優しく微笑むオシリス
「ぬしならきっと上手く唄えるよ」
憂いを秘めた歌声と瑞々しい生命に満ちた少女の声の合唱が夕闇の迫る初夏の空に流れていった