今日はもう遅いという事であたしは龍宮寺さんの家に泊めてもらう事になった。  
といっても龍宮寺さんはまた<かすみ>に戻るそうだから  
一緒に泊まるわけじゃないよ。  
龍宮寺さんが格好良くてもそれはいくらなんでもね。  
タクシーを拾う前に龍宮寺さんは少し話をしてくれた。  
龍宮寺さんの話では今は親はいないけど二人の女の人が家にいるらしい。  
両方とも<かすみ>のメンバーで一人は戸籍上はいとこの龍宮寺菜穂さん。  
この人は元々龍宮寺家を守護する化け猫だから一緒に住んでるのだそうだ。  
ただ、龍宮寺菜穂さんはあの妖怪のせいで今は人間の姿にされているらしい。  
もう一人は大岩三衣さんといって蛇石から生まれた妖怪だそうだ。  
この人は倒れた菜穂さんの為に無理をいって家にいてもらってるんだって。  
そもそも霧香さん達が神戸にいるのも、あたしが呼ばれたのも  
菜穂さんがあの妖怪に人間にされたからなんだそうだ。  
この時の龍宮寺さんの話し方で、あたしはピンときた。  
多分、龍宮寺さんは菜穂さんの事が好きなんだろうと思う。  
彼女なのかもしれない。  
ま、当たり前か。  
彼女いないはずないもん、この人。  
でもいいんだ、あたしは人間になったんだもん。  
これからは誰にも遠慮せずに付き合えるんだ。  
タクシーでは下手な事をいえないので黙っていた。  
静かにしていても嬉しさが後から後から沸いてきて  
歌いだしたい衝動を抑えるのに一苦労した。  
それに、先に<かすみ>に帰った霧香さんの言葉もあたしを喜ばせた。  
なんと、霧香さんの真実を映す能力でも  
人間の姿にしている封印が解けないのだそうだ。  
あの妖怪を倒さない限り解ける事はないらしい。  
これであたしが心配していた、すぐ効果が切れる可能性もなくなった。  
今朝の夢は正夢になるかもしれない。  
あたしがそんな浮かれた妄想をしているうちに  
タクシーはあっという間に龍宮寺さんの家に着いた。  
 
 
龍宮寺さんの家は古風な家だったけど大きかった。  
龍宮寺さんは夜の暗さに浮かれるあたしに  
(あたしは暗視能力があったせいで夜も明るかったのだ)  
家の中から出てきた女の人を紹介してくれた。  
それから、龍宮寺さんは菜穂さんの様子を聞くと  
乗ってきたタクシーですぐに立ち去ってしまった。  
この出てきた女の人がさっき話してもらった大岩三衣さん。  
薄い茶色の髪であたしよりちょっと長い程度のショートカット。  
二十代半ばぐらいの元気の良さそうな美人だ。  
「よろしくね、湧ちゃん」  
三衣さんは愛想よくあたしを迎えてくれた。  
そしてまるで自分の家みたいに慣れた様子でリビングに連れてってくれた。  
広い部屋の真中に大きな木製のテーブルが置いてあって  
周りを囲むように椅子が置かれている。  
龍宮寺菜穂さんはその椅子の一つに腰掛けていた。  
短い黒髪に白い肌。それにとにかく小さい顔。  
そして、パジャマでもわかるスレンダーな体形。  
菜穂さんはあたしと同じ歳ぐらいの、まるで人形のように美しい人だった。  
あたし、いつも思うんだけどなんで女妖怪は美人が多いんだろう。  
男の妖怪はおじさんとかも多いみたいなのに、  
女の妖怪って美人ばっかりなんだよね。  
だったら、あたしももうちょっと美人でよかったと思うんだけど。  
いや、あたしだってそう捨てたもんじゃないとは思ってるけどさ。  
「あの、あたし穂月湧です。  
 よろしくお願いします」  
「あ、うん。龍宮寺菜穂・・です」  
・・ど、どうしたんだろう?  
菜穂さんが凄く珍しいものを見るような顔してあたしを見てる。  
 
「どうしたの?椅子に座って」  
料理を運んできた三衣さんにうながされ  
菜穂さんの正面の椅子に座ると菜穂さんも視線をテーブルに移した。  
鯛の炊き込み御飯に鶏肉と大根の煮物、いわしの生姜煮。  
水餃子にトマトオムレツ、あさりのサラダに豆腐汁。  
ごちそうでありながら家庭的な料理の数々がテーブルに並んだ。  
三衣さんによると妖怪は好き嫌いが多くて  
下手すると○○を食べたら死ぬとかいう奴までいるのだそうだ。  
(そう考えるとそんな制約の無い蜘蛛女はマシな方かも)  
だから三衣さんは出来るだけバリエーションを増やして作ったのだそうだ。  
「蜘蛛女って聞いてたからまあ大丈夫だろうとは思ったけどね」  
笑ってそう言った三衣さんはとっても格好良かった。  
あたしが来るってわかったのって早くても昼過ぎぐらいだと思うんだけど  
こんなご馳走をそれだけの時間で作れるってすごい。  
それに三衣さんの料理は  
あたしが幸せという事を差し引いてもとても美味しかった。  
食事が始まると、すぐに菜穂さんの態度の意味がわかった。  
菜穂さんは龍宮寺さんがどうしてたのか気になっていたのだ。  
三衣さんに聞かれてさっきまでの事と龍宮寺さんの事を話したら  
菜穂さんの顔が明るくなった。  
体調は優れないみたいだけど、それからは笑顔も見せてくれた。  
いいね、カップルはさ。羨ましい。  
でもお似合いだと思うな、あたしは。  
へへ、昨日までのあたしだったらこんな素直に祝福する気持ちには  
なれなかっただろうけど今のあたしは純粋に応援できる。  
なんたってあたしも恋愛していいんだもんねー。  
明日からの事を考えると胸が躍る。  
お腹も減るってモノさ。  
あたしは全く遠慮せずに三衣さんの作ったご飯を食いまくった。  
 
食事が終わると三衣さんは廊下にでて電話をした。  
電話の内容は聞こえなかったが、戻ってきた三衣さんが話してくれた。  
<かすみ>の方では順調に相手の正体がわかりかけているそうだ。  
電話の話はそれだけで終わり、三衣さんはあたしに話を振ってきた。  
「ねえ湧は”わざと”なんだよね。そんなに妖怪って嫌だった?」  
三衣さんはそういってあたしを見つめてきたのでドキドキした。  
同性とはいえ美人に見つめられるとドキドキする。  
「・・・はい」  
あたしはちょっと迷ったがそう答えた。  
妖怪に対して妖怪は嫌って言うのもどうかと思ったけど  
変な風にとられるのも嫌だし、それなら自分から話すべきだと思ったのだ。  
「なんで?」  
「あたしも能力とかは便利で良かったと思いますけど、  
 エッチな気分になると変身しちゃうってのは…」  
「そんな体質だったんだ。あーそれはつらいねぇ。  
 ん!?という事は湧は今好きな人がいるんだ!?」  
三衣さんの言葉に顔がにやけてしまう。  
今までは恋愛の話なんてつらいだけだったから、その反動かもしれない。  
こんな話が出来るという事が嬉しくてたまらなかった。  
「どんな人?格好いいの?」  
「あー、ですね。へへ、うん、格好いいですけどー…」  
「どういう関係なの?」  
「部活の先輩だった人で三条院さんっていって優しくて格好良いんですよ。  
 あたしの片思いなんですけど・・・」  
あたし達はしばらくそんな話で盛り上がった。  
こうして三衣さんとこんな話をするのはとても楽しかった。  
考えてみると初対面の人と話す内容じゃなかったと思う。  
だけど、涌きあがる喜びがおさえられないから  
あたしの口は言葉を出さずにはいられなかった。  
 
「菜穂はいいよね。隆がいるもんね」  
恋愛話が盛り上がった所で三衣さんが黙っていた菜穂さんに話し掛けた。  
「あ、やっぱり二人は付き合ってたんですか」  
だろうと思ってたよ、あたしも。  
「ちっ、違うってば!そんなんじゃない!」  
菜穂さんは驚いた顔で慌てて手を横に振った。  
「じゃあ、何なの?」  
「隆は当主で、あたしはその守護者だよ!」  
「それだけ?」  
「それだけ!」  
三衣さんは普通に聞いているだけなのに  
菜穂さんは少し不機嫌な様子で三衣さんを見つめている。  
その様子がすでに二人の仲を証明しているように思えるんだけど。  
「でも、隆は菜穂の事好きだよ」  
面白そうに口元をほころばせながら  
三衣さんがそう言うと菜穂さんは目を丸くした。  
「・・・そんなわけないよ」  
少しうつむいて菜穂さんが答える。  
なんでそんなわけないんだろう?  
一回ふられたとか?  
それこそ、そんなわけないか。  
「なんで、そんなわけないの?」  
「っ!!知らない!!」  
菜穂さんは三衣さんから顔をそむけるようにテレビの方を向いた。  
「じゃあ、なんで隆が誰とも付き合わないんだと思う?  
 隆がモテるのは知ってるでしょ。なんでだと思う?」  
うん、たしかに龍宮寺さんはモテるだろうと思う。  
でも付き合うとかは勝手だと思うんだけど  
三衣さんもなんかムキになってるような気がする。  
なんでかは知らないけどね。  
三衣さんが誰にも相手されてないテレビを消すと静かな空気が満ちた。  
 
「なんで、隆ここに帰ってこないの?」  
「なんでって・・知らない。隆に聞きなよ」  
ありゃ、三衣さんがしつこいもんだから菜穂さんすねちゃったみたい。  
けどあたしも玄関まで来て  
自分の家に入らない龍宮寺さんは不思議に思ってたんだ。  
二人の間になんかあったからなんだろうか?  
ドラマみたいな展開にあたしはちょっとドキドキし始めていた。  
「いいの、聞いて?」  
三衣さんがこういうと菜穂さんは沈んだ表情でうつむいた。  
「……駄目」  
少しの沈黙の後、菜穂さんは小さく首を振った。  
「何があったの?」  
ついに菜穂さんは観念したのか、昨日の事といって話してくれた。  
あたしが聞いてていいのかなと思ったけど  
席を外せとは言われなかった。  
菜穂さんが言いにくそうに話してくれた話は凄いものだった。  
菜穂さんもあのおじさん妖怪に力を封じられたらしい。  
ただ、そこら辺の記憶はちょっと混乱してるからよくわからないらしい。  
気が付いたら自分の部屋で寝てたんだそうだ。  
そして、自分が妖怪の力を失った事に気付いたので  
その事を龍宮寺さんに告げてこの家を出て行こうとしたんだそうだ。  
菜穂さんは龍宮寺家を守るために生まれた妖怪なので  
守れないのならここにいる資格がないから。  
で、当然のように龍宮寺さんは菜穂さんを引きとめた。  
そして突然、菜穂さんに抱きついてキスしたと思ったら  
何故か龍宮寺さんの方が出て行ったらしい。  
菜穂さんは驚きはしたけど別に龍宮寺さんを拒んだわけじゃないそうだ。  
好きにしていい、とまで言ったらしい。  
だけど龍宮寺さんは飛び出していったんだそうだ。  
 
「隆ったら可哀想・・・」  
話を聞き終えた三衣さんがポツリと漏らした。  
「可哀想?」  
あたしは思わず聞いてしまった。  
だって、可哀想なのは菜穂さんじゃない?  
力を失ったからって、この家を出て行く決意までしたのに  
押し倒されそうになったなんて可哀想すぎるんですけど。  
龍宮寺さんなんか酷い人にしか思えないけどな。  
「だってさぁ、菜穂が出て行くとか言うから引き止めたわけじゃない。  
 結果抱きしめてしまった、と。そこでキスしちゃったのは不可抗力でしょ。  
 隆も男なんだから好きな子を抱きしめたらキスぐらいしたくなるよ。  
 どう考えても、好きだからって奴でしょ、それは。  
 それをそういう風に言われちゃったらさー。  
 菜穂を傷つけたと思って傷ついてるんじゃないの。  
 隆ったら純情だから」  
なるほど、そういう事か。  
体だけが目当てだったら菜穂さんが言った「好きにしていい」  
ってのは嬉しいかも知れないけど龍宮寺さんはそうじゃなかったんだ。  
だから、自分が菜穂さんを傷つけた事を悟って出て行っちゃったんだ。  
そういわれれば龍宮寺さんにも同情の余地はあるかな。  
「隆、あたしの事好きなのかな…」  
話し終えた菜穂さんがうつむいたままつぶやいた。  
確実に好きなんだと思いますよ。  
あたしがそう言おうとしたら先に三衣さんが口を開いた。  
「決まってるじゃない!隆が好きでもないコにキスすると思う?  
 そういう奴じゃないのは菜穂が一番知ってると思うんだけど」  
三衣さんの言葉を聞いても菜穂さんは暗い顔のままだ。  
「もしかして、嫌い…なの?」  
「違う。嫌いじゃない。けど…」  
「けど?」  
「あたしは妖怪で、隆は人間だから…」  
 
菜穂さんの言葉にあたしの胸はえぐられた。  
浮かれていたあたしの心を醒ますにはこれ以上ない言葉だった。  
「・・妖怪じゃ駄目ですか?妖怪だっていいじゃないですか!  
 好きなんだもん!妖怪でも好きなんだもん!  
 しょうがないじゃないですか!」  
あたしは胸の痛みを吐き出すように言葉を吐き出した。  
妖怪と人間・・・。  
あたしは妖怪で・・人間・・。  
あたしはエッチな気分になっても妖怪の姿に戻らないんなら  
問題は解決すると思ってた。  
それで万事OKなんだって思ってた。  
だけど違うんだ。  
そんな事、本当はあたしもわかってた。  
あたし達は寿命が無いし、歳をとらない。  
滅多な事じゃ怪我すらしない。  
妖怪の姿を封じられてても、あたしはやっぱり妖怪なんだ。  
「まあまあ、別に菜穂も湧に言ったわけじゃないんだからさ。  
 いいと思うよ。妖怪と人間が愛し合ったって何の問題もないわよ」  
三衣さんの慰めの言葉であたしは少し冷静になれた。  
ものすごく失礼な事をしてしまった事に気付いて謝った。  
「ごめんなさい」  
頭を上げると菜穂さんは悲しそうな顔であたしを見つめていた。  
「でも、湧は一族として長く続いてるから人間の子供が産めるんでしょう?  
 蜘蛛女は子供が産めるってきいてるもの。  
 でもあたしは違う、親なんていない。  
 子供も産めない。  
 隆があたしの事を好きでいてくれるんなら、なおさら駄目だよ。  
 龍宮寺家を守る為に生まれたあたしが  
 龍宮寺家の繁栄を妨げるなんて……」  
菜穂さんはこの言葉を最後に黙ってしまった。  
 
菜穂さんが部屋に引っ込んでしまったので、話はなんとなくお開きになった。  
あたしはお風呂を借りた後、リビングで考え事をしてた。  
もちろん、龍宮寺さんと菜穂さんの事だ。  
菜穂さんの言葉はあたしの胸に深く突き刺さっていた。  
妖怪と人間だから、好きあっていても結ばれない・・・。  
菜穂さんの場合は龍宮寺家を守る使命があるからで  
あたしはそんな使命はない。  
それに、蜘蛛女は子供だって作れるから  
菜穂さんが抱えている問題はあたしには関係ない。  
だけど、だからって本当に無関係なのだろうか。  
あたしは人間と付き合えるのだろうか。  
「どうしたの?」  
リビングに残ったまま考え事してたら、  
お風呂からあがってきた三衣さんが声をかけてくれた。  
Tシャツにジャージという油断しまくった格好だけど  
三衣さんが着ているととても色っぽく感じられた。  
あたしも似たような格好なのにこの差はなに?  
「ビール飲む?」  
冷蔵庫を覗きながら三衣さんが尋ねてきた。  
「あ、はい」  
あたしが返事すると三衣さんはビールの缶を二本持って  
あたしの正面の椅子に座った。  
お礼を言って受け取るとギンギンに冷えたビールのプルタブを開ける。  
「かんぱい」  
ビール缶がぶつかる鈍い音をさせて、三衣さんが小声で祝ってくれた。  
小声なのは菜穂さんに遠慮しての事だと思う。  
人間の姿になった喜びが半減してた時だったので  
三衣さんの心遣いがとても嬉しかった。  
三衣さんは乾杯してにこっと笑うと喉をぐいぐい鳴らしてビールを飲んだ。  
その飲み方はもすごく豪快で驚いたけどものすごく格好良かった。  
 
「はぁー、有月のおじさんじゃないけどやっぱおいしいわね」  
「三衣さん、有月さんと知り合いなんですか?」  
有月さんってのは<うさぎの穴>に所属してる妖怪うわばみのおじさんだ。  
あたしが驚いて聞くと三衣さんはきょとんとした顔であたしを見た。  
「あっ、湧は有月のおじさんと同じネットワークだったわね。  
 忘れてた。うん、まあ腐れ縁みたいなそんな感じなの。  
 同じ蛇妖怪だしウマがあうっていうか・・・そういうのよ」  
三衣さんはそういって新しいビールを取りにまた冷蔵庫に向かった。  
三衣さん、少し慌ててない?気のせいかなぁ。  
「あの、聞きたい事があるんですけど聞いてもいいですか?」  
三衣さんが戻ってくるのを待って質問をぶつけてみた。  
「いいわよ」  
「あの、菜穂さんにしつこく聞いたのはなんでですか?  
 もしかして三衣さん龍宮寺さんの事・・好きだったりするんですか?」  
失礼な質問だったかも知れないけど思い切って聞いてみた。  
あたしは怒られるかもしれないと思ってたのだが  
三衣さんはあははと笑って手を横に振った。  
「違うわよ。そうね、あたしはもっとこう渋い人とかがいいかな。  
 ああいう子供じゃなくてもっとこう大人!って感じの。  
 隆も顔はいいんだけど、純情で糞真面目だから。  
 その上、重度のシスコンだし」  
二本目のビールを開けながら軽い調子で三衣さんは笑った。  
「じゃあ・・?」  
「・・・湧は人間と妖怪が恋愛できると思う?  
 もちろん正体を知った上でよ、それでも付き合えると思う?」  
あたしは返事出来なかった。  
今まで出来るって思ってたけど・・・  
出来るって信じてたっていった方がいいかも知れない。  
そう考えないと自分の正体に押しつぶされそうだったから。  
「わたしは、出来ないと思う」  
あたしの迷いを断ち切るように、きっぱりと三衣さんは言い切ってしまった。  
 
「さっきはさ、気休めに適当な事言っちゃったけど  
 女の妖怪と人間の男は結ばれないのよ。  
 男妖怪はね、天狗とか龍とか結構うまくいった話もあるけどね。  
 だけど、女妖怪と人間の男が結ばれる話は  
 ほとんど正体がばれると破綻するじゃない」  
たしかに三衣さんの言う通りだ。  
正体を知られた上で人間と結ばれた話なんて  
ほとんど聞いた事がないような気がする。  
そういえばあたしのご先祖も蜘蛛女だとばれて破局したんだった。  
「でもさ、そう思うのと同時にそうじゃなくて欲しいなとも思うんだ。  
 隆は妖怪を化け物扱いしない。  
 菜穂と暮らしてるからそうなったんだろうけど。  
 隆は菜穂を妖怪と知った上で好意を持ちつづけてる。  
 だから、隆と菜穂にはうまくいって欲しいの。」  
三衣さんの気持ちはあたしも痛いほどわかった。  
妖怪の正体を知った上で  
好意を持ち続けてくれる人でも上手くいかないのなら  
もう誰だって無理なような気がするもの。  
あたしが龍宮寺さんに、あなたも妖怪なんですかって聞いた時の  
龍宮寺さんの悲しそうな顔を思い出した。  
龍宮寺さんもきっと苦しんでるんだ。  
人間と妖怪の間にある壁に。  
・・・あたしにもそんな人現れるんだろうか?  
あたしの正体を知った上で愛してくれるような人が。  
間にそびえる壁を乗り越えようとまでしてくれる人が。  
あたしは握っていたビールを三衣さんの真似をして一気に飲んでみた。  
少しぬるくなったビールが喉をごいごいと通り過ぎる。  
喉の痛みが胸の痛みを中和してくれた。  
慣れないことしたもんだから少しだけ涙がでた。  
 
「おおー!いい飲みっぷり」  
「へへー、あたしもいっちゃいました。  
 ・・・でも菜穂さんはいいですよね。  
 あんな格好いい人がいつも傍にいて  
 正体知ってるのに好きでいてくれて・・  
 あたしからしたら、羨ましくってしょうがないですよ。  
 それに正体は猫娘って可愛いじゃないですか。  
 あたしなんて蜘蛛女ですよ。  
 猫好きは多いけど蜘蛛好きなんて聞いた事ないですもん」  
あたしは調子に乗って二本目のビールを空けた。  
体が熱くなってきてるのはわかったけどもう止められない。  
「いいじゃん、蜘蛛女。美人で有名だし」  
「そうなんですか?」  
「そうなのよ。  
 ただ、その美貌で男を罠にはめて  
 食べちゃうっていうイメージも一緒にあるけど」  
「えー!?」  
「まあそんなもんだって。  
 蛇女だって恨んだり、執念深かったりするイメージがあるからね  
 怖がられちゃうのよ」  
「へー・・」  
「大体さ、男ってのは女が弱くないと嫌なんだよね。  
 だから、女妖怪ってうまくいかないんだと思うよ。  
 自分より強い女といれるほど自信がないっていうの?」  
あたしはおおげさにうなずくと三本目のビールを開けた。  
この夜、あたしは三衣さんと女妖怪としての愚痴をぶつけ合い  
楽しくビールを飲んで  
初めての二日酔いを体験する事になった。  

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