頭痛とともにやってきた月曜日。  
朝から<かすみ>に顔を出したら  
あたしにできる事はもうないとの事なので  
また遊びに来ると約束して昼過ぎに東京に帰ってきた。  
(往復の新幹線代も龍宮寺さんに貰った。)  
その頃には吐き気も頭痛も大分よくなっていて  
人間の姿に固定されたという喜びが全身を支配していた。  
ここで家に帰ってれば良かった。  
だけど、あたしは調子に乗って三条院さんの大学を見に行ってしまった。  
どうせ今日は休みだし会えるはずなんて無かったのだが  
万が一にも出会って、万が一にも付き合う事になったとしても  
今のあたしなら付き合えるんだって思いがあたしを動かしていた。  
失恋は一瞬だった。  
三条院さんの通っている体育大学の前に行くと  
どこかで見たことのある綺麗な女の人が校門に立っていた。  
そこに万が一という確率で三条院さんが現れた。  
昨日から奇跡が続いてると思った。  
だけどあたしの奇跡はそこで打ち止めになり  
三条院さんは待っていた女の人と肩を組んで出て行った。  
声をかける暇もなくあたしは立ちすくしていた。  
その女の人が三条院さんと同級生だった平林さんだって  
思い出した時にはすでに二人の姿は消えていた。  
気付かれもしなかったあたしは  
その光景をただ見ているだけしか出来ず  
ドラマチックに間抜けな失恋をした。  
不思議と悲しくなかった。  
あー、やっぱりね。  
そんな感覚が強くあたしの中にあった。  
告白すら出来ずに長かった片思いは終わりを告げ  
あたしは他にする事がないので家に帰った。  
 
 
父さんは出かけていて家には誰も居なかった。  
あたしは何をしていいのかわからなかったので  
とりあえずベッドに寝転がった。  
布団の柔らかさが懐かしい。  
楽しかった昨日が不意に思い出された。  
ビールがあんなに美味しかったのは初めてだった。  
頑張れって言ってくれた三衣さんの優しい笑顔が浮かぶ。  
菜穂さんはどうしてるんだろう。  
まだ、悩んでるのかな。  
龍宮寺さんとうまくいくといいけど。  
また神戸に遊びに行きたいなぁ。  
三条院さんの顔が浮かんで来た。  
思い出しても別に悲しくなんかない。  
詩織と亜紀にはなんて言おうかな。  
可哀想がられるのもやだし、しばらく黙っとこっかな。  
ちょっと胸がムカムカする。  
二日酔いはつらい。  
こうして見ると天井って結構汚れてる。  
ため息をついて首を動かしたら机の上にある大きな水晶が目に入った。  
前にラウがくれた奴だ。  
失恋したって言ったらラウはなんて言うんだろう。  
そんなこと考えてたら、半年前ラウに言った言葉を思い出した。  
『可能性はあるって信じてる。信じたいの。  
 だから、あせらず、のんびり行こうと思ってる』  
あの時、ラウは笑ってくれたんだった。  
その通りだってうなずいてくれた。  
あたし、あせってたのかなぁ。  
あたしはあんまり悲しくなかったけど  
あの時の自分がちょっとかわいそうだったので  
仕方なく泣いてあげた。  
どってことない失恋で最悪の月曜日は終わった。  
 
 
わりと目覚めの良かった火曜日。  
あたしはジャングルの中を歩いていた。  
何の比喩でもなく、夢でもなく本当のジャングルだ。  
池袋の<銀三角>に行って弥々子さんに連れてきてもらったのだ。  
弥々子さんってのは河童で昔は悪党妖怪だったんだけど  
ラウに欲望を食われて今は大人しい妖怪だ。  
水から水へワープする力があるので  
ラウの所へ連れてってくれるように頼んだのだ。  
人間の男性と女妖怪は上手くいかないなんて三衣さんと話してたけど  
考えてみたら上手くいってる人がいたんだった。  
鶴田大吉と鶴田弥々子の夫妻だ。  
元々は悪党同士の利害関係から手を組んでただけらしいが  
なんだかんだで気付けば二人ともちゃんと夫婦をやってるみたいだ。  
あたしが頼むと弥々子さんはラウの住む世界に連れてきてくれて  
一時したらまた来るといって帰っていった。  
ラウの世界は相変わらず太陽が無かったが、今日は霧は割と薄かった。  
透き通った水の流れる川を上流へ歩いていると大きな湖に出た。  
あたしが呼びかける前に湖の中からラウが現れた。  
くちばしの無い白鳥のような頭に大蛇のような体に触手が四本生えた妖怪。  
半年振りに会ったラウは相変わらず神秘的な美しさで優しい目をしていた。  
『久しぶりだな、湧。会いにきてくれて嬉しい』  
ラウの嬉しそうな声が頭に響いた。  
ラウは心を読めるしテレパシーで会話できるのだ。  
「久しぶりだね、元気だった?」  
『ああ、だが湧はあまり元気じゃないみたいだな』  
「・・・うん、ちょっとね。  
 それよりさ、頼みたい事があるんだけどいいかな?」  
ラウは心を読めるんだから隠し事したって無駄なのはわかってる。  
けど失恋した事はあまり言いたくなかった。  
ラウがそこまであたしの心を読んだのかわからないけど  
何も言わずにあたしの体を触手で持ち上げて触手の上に座らせてくれた。  
 
「出来るかな?」  
あたしは昨日考えた事をラウに話した。  
あたしの考えとは菜穂さんをここに連れてきて  
龍宮寺家を守るという使命だけをラウに食べてもらうという事だ。  
それなら龍宮寺さんと菜穂さんは遠慮なしに付き合えるだろうから。  
余計なお世話かもしれないけど  
あたしもあの二人には上手く行って欲しいし  
最終的にやるかどうかは菜穂さんに任せるのだから  
出来るのならこういう選択肢もあるという事を知ってもらおうと思ったんだ。  
『出来無い事もない』  
「出来るの?やった!ありがと、ラウ。  
 本当にしてもらうかはわからないけど話してみる」  
『湧・・・話をしてくれないか?何があったのだ。  
 話したくないところは話さなくてもいい。  
 何があったのか聞かせてくれ』  
やはりラウにはお見通しだったようだ。  
あたしが蜘蛛女の姿になれなくなった事も。  
あたしは霧香さんからの電話を受け取った辺りから話をした。  
あたしの話はあまりわかりやすかったとは思えないが  
ラウはじっと聞いてくれた。  
初めは話すつもりは無かったのだが  
気付いたらあたしは失恋した事も話していた。  
あたしは誰かに話を聞いて欲しかったのだろうか。  
ラウに話しながらあたしの目から涙がこぼれ始めた。  
なんでかはわからない。  
ただ、にじんで見えたラウの瞳はとても優しかった。  
あたしが言葉になってない言葉を発していた時、  
ラウは触手で背中を撫でてくれた。  
 
涙が一段落するとあたしが座っていたラウの触手が動いた。  
少しだけずれてショートパンツの上からではあるが  
あたしのふとももの付け根の間にあてがわれた。  
そこに体重がかかり、軽い痛みとふわっとした快感が伝わってくる。  
ちょっとだけ覚悟はしていた。  
ラウはあたしが振られたら花嫁にしてやるって言ってくれてたし  
前にやられそうになったように処女を奪われるかも知れないと思ってた。  
そして、それでもいいかって気持ちもあった。  
ラウはあたしが蜘蛛女でもいいって言ってくれた。  
あたしの真の姿を見て、それでもいいって言ってくれたから。  
あたしが抵抗しないでいると一本の触手があたしのパーカーの下に潜り込み  
胸を包むように巻きついた。  
「んっ・・」  
胸を優しくまさぐられあたしは思わず声を出してしまった。  
その声が思ったより色っぽくてびっくりした。  
別の触手があたしの脇の下に廻ってあたしの体をぶら下げた。  
食い込んでいた触手がショートパンツのジッパーを下げて入り込み  
下着の上からあそこをなで始めた。  
最後に余った触手も後ろの方からショートパンツに入り込み  
下着の中にまで入ってきた。  
触手にお尻を直接なでられて、ぞわぞわが全身を駆け抜ける。  
あたしはゆっくりと全身が熱くなっていく中、覚悟を決めた。  
ラウにならいいかなって。  
ラウは優しいし、いい奴だし、あたしを好いてくれているから。  
だけどそれは甘い考えだった。  
お尻をなでまわしてた触手はあたしの隙をついて  
お尻の穴に入ってきたのだ。  
「あっ!駄目っ!」  
すぐに力を入れたけど少し遅かった。  
 
触手を入れられたせいでお尻が痛い。  
『力を抜いた方がいい、痛いぞ』  
力を抜いたらもっと入ってっちゃう。  
そんな事出来るわけが無い。  
必死にふんばっているとラウはお尻からようやく触手を抜いてくれた。  
『ふむ、困ったな。そんなに嫌か?』  
うーん、そういわれると困る。  
興味が全くないわけじゃないけど、怖い。  
処女を奪われる覚悟はしてきたけど  
お尻の方をされる覚悟はしてなかったし・・・  
『わかった、お前が痛がったら止める事にしよう』  
ラウはそういうとあたしのショートパンツと下着を  
触手に引っ掛けてずり降ろした。  
ひやっとした空気が下半身を包んだ。  
裸のお尻を見られていると思うと顔から火が出そうだが  
触手をつかんでないと落ちそうな気がして顔を隠せない。  
ショートパンツと下着が木の枝に引っ掛けられる光景は  
妙にエッチな気がした。  
「やっ・・」  
ラウの触手はあたしのお尻とあそこを優しくなで始めた。  
ぞわぞわむずむずして、くすぐったい。  
「・・はぁ・・あぁ・・・」  
自分の呼吸音が色っぽく聞こえてきて不思議な気分。  
なんだか暑い。  
ぬちゃぬちゃという音がジャングルに響き始めた。  
『力を抜け。あまり力を入れると痛いぞ』  
お腹に巻きついているラウの触手があたしを持ち上げ  
お尻を突き出した格好にされた。  
あそこを触っていた触手が動きを止めると  
お尻にゆっくりとなめくじのような触手が入ってきた。  
 
正直なんだか気持ち悪い。  
だけど、とても優しくしてくれているのはわかったので  
あたしは出来る限り力を抜いた。  
まだ、そんなに入ってないみたいだけど  
おなかが圧迫されて息苦しい。  
あそこをいじっていた触手がまた動きを再開してきた。  
触手はまるであそこを舐めるように触り少しずつ圧迫感が消えていった。  
お尻のなかの触手もうねうねと動き出した。  
だんだん頭が真っ白になっていく。  
いつもならここで弾けるような感覚があって変身していただろう。  
だけど今のあたしの体は何も起こらない。  
別の衝動が湧き上がってきた。  
お腹が熱くなってきた。  
おしっこがしたい。  
『いいぞ、出せ』  
駄目だ、出したくない。  
恥ずかしすぎる。  
ラウ、降ろして。  
もう駄目・・・本当にもうでちゃう。  
『恥ずかしがる必要は無い、だしてくれ』  
お尻の中を引っかかれ、浮くような快感に体の力が抜けてしまった。  
「やっ・・っぁ・・・」  
・・・・・・・・・・・・・  
やっちゃった。  
漏らしてしまった。  
恥ずかしい、けど、なんだか今のすごく気持ち良かった。  
宙に浮かされておしっこするのが癖になったらどうしよう。  
 
ラウはあたしを普通の、お尻を下にした状態にすると  
触手であそこに湖の水をかけてから洗ってくれた。  
おしっこして洗われるなんて子供みたいで恥ずかしかったけど  
すごく優しい触手の動きが嬉しかった。  
洗い終わると触手はまたあそこを撫で始め  
お尻の触手はさらに深く入ってきた。  
あたしはもう一切抵抗しないことにした。  
気持ちよくしてくれるのならそれでいいや。  
お尻から入った触手があたしの頭にまで伸びてきて  
あたしをエッチに変えていっているような気がする。  
「あ・・あっ」  
お尻の中の触手が動くたびにあたしの口から声が漏れる。  
その声はしびれたあたしの頭でもわかるほど甘くて  
自分の声じゃないみたいだった。  
頭の中が白くなっていくのがわかる。  
キタナイ話だけど、入り込んだ触手がうねうねと動くたびに  
あたしはトイレの時の感覚を味わっていた。  
し続けているような脱力感は不思議な感覚だった。  
あたしは自分が壊れてしまいそうで  
脇の下に廻された触手にしがみついた。  
あたしの中で触手がぐるぐると回っている。  
触手に操られてあたしは踊るようにお尻を振っていた。  
 
あたしがどんなにせつない声をだしても  
ラウは動きを止めてはくれない。  
おだやかに弄ってくれるのがせめてもの救いだ。  
「ぁん・・・」  
ヌチャヌチャという音が聞こえてくる。  
ぷわぷわと空を歩いてると  
あたしの中から何かがこぼれ落ちていく。  
時々、全身に電気が走る。  
「ぅんっ・・・んっ・・んっ・・」  
出し入れされると声が漏れる。  
出すつもりが無いのに出てしまう。  
ゆっくりと触手が出たり入ったりしている。  
ラウにいじられるたびにあたしの体から  
いやらしい音がでているのがわかった。  
あたしの体はどうしちゃったんだろう。  
声をこぼす度に少しずつ意識が薄れていく。  
本当なら、とっくに変身してるだろうな・・  
『湧、我慢するな  
 恥ずかしがる事はない』  
ラウの声が響く。  
あつい。体が内側からやけている気がする。  
本当にあたしの体なんだろうか。  
鳥の鳴き声が聞こえる。  
・・またおしっこが出そうになってきた。  
これがイクって奴なんだろうか・・  
・・あたし、お尻でいっちゃうんだ・・・  
・・・駄目だ・・・ラウが何か言っている・・  
聞こえなくなってきた・・・・  
 
・・・どうして?あたし覚悟を決めてきたのに。  
『湧は男に振られて、自棄になっているようだった。  
 処女を失った事を後悔して欲しくない』  
お尻にこだわったのって、あたしの事を思ってだったんだ。  
確かにあたしは自棄になってかもしれない。  
けど、だからって誰だってどうだっていいって  
思ってたわけでもないんだけどな。  
『それにな、実は私も人間の姿になる修行をしているのだ。  
 処女の方は人間の姿になってから貰おうと思ってな』  
ラウが・・?人間の姿に?  
『そうだ。この間、お前が言ってただろう。  
 そんな姿で花嫁を欲しがるな、と。』  
・・・ごめん。確かに言った。  
自分の事を棚に上げて酷いこと・・・。  
『私は別に傷ついてなどいない、気にするな。  
 いつになるかわからないが  
 変身できるようになったらお前を貰いにくる』  
ふふ・・うん、待ってる。  
だけど、あたしと付き合うなら一夫一婦制を守ってね。  
『前もそういっていたな。  
 なんだ?イップイップセイとは?』  
男と女が一人同士で付き合う事だよ。  
つまり、奥さんいっぱい作ったりしちゃ駄目なの。  
『なんと!?そうなのか!?  
 ・・・・・・・・だが、仕方あるまい。  
 湧がそうしろというならそうしよう』  
ラウったらそんな悲しそうにしないでよ。  
当たり前の・・・・な、なに、これ?  
『どうした?』  
 
『「っ!!」』  
この感覚は・・・。  
懐かしく忌まわしい感覚が体内を駆け巡ると  
ピクリとも動けなくなっていた体に力が漲っていく。  
毛むくじゃらの脚が宙でわしゃわしゃと動いた。  
そして、あたしは蜘蛛女になった自分を発見した。  
「なんで・・・!?」  
『おそらく、湧が言っていた妖怪が倒されたのだろう。  
 だから封印が解けたのだ』  
この間までのあたしだったら怒っていたかもしれない。  
倒しただけで封印が解けるなんて思ってなかったから。  
だけど、今のあたしは怒る気になれなかった。  
あたしは蜘蛛女だから、告白も出来なかった。  
だけど、蜘蛛女だから三衣さん達とも知り合えた。  
蜘蛛女だからラウと出会えた。  
彼氏が怪物ってのも正体が蜘蛛女なのも、そんな捨てたもんじゃない。  
それに、あたしは再び蜘蛛女になったけど前とは少し違っていた。  
エッチな気分の時でも人間の姿になれるようになったのだ。  
なんでかはわからない。  
もしかして女の悦びって奴を知ったからだろうか。  
しばらくすると弥々子さんが迎えに来たので  
あたしはラウにまた来るって約束のキスをしてジャングルを後にした。  
人間にも女にもなり損なった火曜日。  
あたしは蜘蛛女になった事を喜ぶ自分を発見した。  
 

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