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いつか、わたしは言った。  
すごく、すごく嫌な予感がして。  
行ってしまえば、もう二度と逢えなくなるような気がして。  
 
わたしは言ったのに。  
 
 
再び平穏が戻ったカナン諸島。  
赤毛の冒険者《アドル=クリスティン》は、彼の地に生きる種族であるレダ族の巫女オルハと、  
その妹のイーシャに収穫祭の案内をすると言われ、滞在していた。  
或る一族の祖先の忌まわしいしがらみが解けて、はや数日。  
波乱の後の平和と言う物は、波乱が訪れる前よりもより生き生きとしている。  
それは、アドルが各地を冒険しながら見続けて来た事だ。  
そんな、ある日の夜の事だった。  
「アドルさん!」  
後ろから声を掛けられ、アドルは振り返る。そこには、オルハが居た。  
オルハは、にっこりと笑うとアドルの方へ歩み寄った。  
「もうじき収穫祭が始まる時期で、あまりもてなしが出来なくてごめんなさい」  
「ううん、良いよ」  
オルハの言葉に、アドルは首を横に振った。  
もともと、もてなしてもらう為に居る訳でなく、アドル自身、レダ族の収穫祭を楽しみたいと思っていたのだ。  
そんなアドルの様子を見て、オルハはしばらく申し訳なさそうな顔だったが、やがて再び微笑んだ。  
「ところでアドルさん…イーシャを見ませんでした?」  
イーシャが居ないのだろうか。  
 
とにかく、心当たりが無いのでアドルは首を横に振ると、オルハは  
「そうですか……」と言って目を伏せる。  
「あの子……とっくに歌を教え終わったはずなのに、何処に居るのかしら。探しに行きたいんですが、  
やっぱり巫女ともなるとなかなか個人的な用事で外出は出来ないんです……」  
本当に心配しているオルハの様子を見て、アドルは自分が探してくると伝えた。それを聞いて、  
オルハが目を見開いてアドルの方を見る。  
「そんな。だって、アドルさんは私達、この島の為に感謝してもしきれない事をしてくれました。  
これ以上アドルさんの手を煩わせる訳には行きません」  
首を横に振るオルハに、アドルはそれでも探しに行くと言った。煩う事など無いし、イーシャの事を  
心配しているのはオルハだけでなく、自分も一緒だと言う事も言って。  
オルハは申し訳無さそうに、けれども少し嬉しそうにアドルを見た。  
「ありがとう、アドルさん。本当に、何と言ったら……」  
そう言って少し涙ぐむと、オルハは慌てて目頭を軽く抑えた。  
「以前みたいに危ない事は無いと思いますけど……イーシャの事、よろしくお願いします」  
オルハが言うと、アドルは肯いて村の外へ出た。  
 
 
魔物が全く居なくなった訳ではない。  
この土地は、魔の力に支配されていた訳ではないので、普通に生物として魔物が存在していた。  
だからこそ、子供がたった一人で出歩く事が100%安全と言う訳ではなかった。  
オルハが心配していたのも、それが在ったからだろう。  
アドルは何処にイーシャが居るか、始めの内は見当が全く付かなかった。けれども、  
ふと思い当たる場所を思い出すと、そちらに向かい始めた。  
かつて、自分が流れついた(らしい)と言われ、イーシャが良く来ていた、『月の渚』。そこに、  
イーシャが居るかもしれない。そう思ってアドルは月の渚へ向かったのだ。  
……  
イーシャは、浜辺に立っていた。  
「イーシャ……」  
アドルはイーシャの名前を呼んだ。呼ばれて、イーシャが振り返り、「あ…」と言って微笑んだ。  
「アドルおにいちゃん!」  
嬉しそうにアドルの元に駆け寄り、目の前で少し恥ずかしそうにはにかんだ。  
「どうしたの?」  
アドルはオルハがイーシャの事を心配していた事を伝え、身動きがあまり取れない彼女の代わりに、  
自分が探しに来た事を伝えた。それを聞いて、申し訳なさそうな顔をするイーシャ。  
この辺りは、オルハとイーシャの似ている点かもしれない。  
「わざわざ、その為に?」  
イーシャの言葉に、アドルは肯く。  
「…ありがとう。おにいちゃんは優しいね」  
笑顔がほころぶイーシャの顔を見て、アドルは少し照れ臭そうに笑った。  
 
「……わたし、海の先を見ていたの」  
「……」  
「アドルおにいちゃんがやって来た、この大海原の先が……見えるかなって、思って」  
イーシャは海の方を再び見る。  
「おにいちゃん…ずっと……わたし、不安で仕方ないの」  
そう言ってイーシャが自身の両腕を抱え、少し肩をこわばらせた。  
「おにいちゃんが、今は居てくれる。だけど……あそこで感じた別れの予感が、消えないの」  
「イーシャ……」  
「このまま、おにいちゃんが何処かに行ってしまいそうで。おにいちゃんが来たこの海から、  
あの広い海の向こうに、行ってしまうんじゃないかって、そればっかり、考えちゃうの」  
不安そうに呟いてから、イーシャは屈み込んで足元の砂を掬う。  
白い砂は、イーシャの白い指をすり抜けて、さらさらと落ちて行った。  
「……おにいちゃん、出て行ったり、しないよね?」  
イーシャの言葉に、アドルは何も言えなくなった。  
自分から冒険を抜かしたら、何も残らない。今までそう思って冒険して来た。そして、これからも。  
けれど、それを伝えるにはイーシャはあまりに幼すぎる。ゆえに、アドルが思う以上に  
傷ついてしまうだろう。  
「ねえ……どうして、黙ってるの?」  
見る見る内に、イーシャの身体が震えた。砂を弄ぶ細い指が、救いを求めるように、震えた。  
白い砂浜に、雫の染みが広がって行く。  
イーシャは、泣いていた。  
「……あのね、イーシャ。僕は……」  
どう、言えば良いのだろう。アドルは困惑した。  
こんなにも小さな身体で、あんなにも大きな宿命(さだめ)を負わされ、やっと何もかもの束縛から  
放たれた彼女の心を、もう二度と傷付けさせたくないと言うのに。  
 
「……」  
痛いほど、切ない。  
漣(さざなみ)だけが、辺りの音として存在する。  
そこにはアドルの声も、イーシャの声も存在しては居なかった。  
「……」  
「……」  
震え、声も立てずに泣き続けているイーシャの隣に立つと、アドルも屈んだ。  
そして、そっとイーシャの頭を撫でる。  
「これだけは分かって。僕は、イーシャ達が嫌いな訳じゃない」  
「……」  
「僕は、どうしても行かなくちゃならないんだ」  
「……どうしても?」  
イーシャの言葉に、アドルは肯いた。  
凄く、酷な事を言っている、とアドルは思った。  
「それはおにいちゃんが、冒険者だから?」  
再び、イーシャの言葉にアドルは肯く。その様子を見て、イーシャは目を伏せた。  
「わたし、冒険なんて嫌い……アドルおにいちゃんが遠くに行っちゃうから」  
言われてアドルは困った顔をした。イーシャは涙を流し続けている。  
そんなイーシャの頬の涙を、そっとアドルが拭った。  
「だけど……」  
イーシャが言葉を続ける。  
「冒険が無いと、おにいちゃんはここには来なかったの……おにいちゃんと逢える事も無かったの。  
だから、冒険が嫌いなのに、冒険が無くっちゃいけないの」  
とても複雑な事を言っているのだろう。まさに、ジレンマ。  
そんな思いから、イーシャの涙は止まる事が無い。拭い続けるアドルの手袋は、やがてイーシャの  
目から溢れる涙でしっとりと濡れてしまった。  
 
「…アドルおにいちゃん、行っちゃいや!」  
やおらそう言うと、イーシャは立ち上がり、アドルの腕の間に入って、しっかりとアドルの服を掴んだ。  
突然の事に思わずアドルは尻もちを付く。腕の中で、イーシャはやはり泣き続けていた。  
震えるイーシャの肩を、アドルはそっと抱いた。  
首をアドルは振る。そのお願いは、聞けないと、微かに、けれどはっきりとアドルが言うと、  
イーシャは黙ってしまった。ただただイーシャの口から、鳴咽だけが微かに聞こえているだけだ。  
月明かりが、哀れに二人を照らす。  
こんなに月が綺麗な夜なのに。  
こんなに星が瞬いた夜なのに。  
何故、こんなにも哀しいのだろうか。  
アドルはやるせなさから、イーシャの身体を抱き締め、じっと月を見た。  
相変わらず、哀れに照らし続ける月は、何もかもを慰めるような、青白い光を放っていた。  
その青白い光に照らされる二人。  
アドルは、腕の中で泣き続けるイーシャを見詰めた。  
こんなにもイーシャは想いを寄せてくれている。  
けど、アドル自身がここで止まるには、あまりにも探求心が強すぎた。  
「イーシャ」  
アドルがイーシャの名を呼ぶ。呼ばれ、泣きながらであるがそっと、イーシャはアドルの顔を  
見詰める為に、涙に濡れ続けている顔をアドルの方に向けた。  
そっと、アドルはイーシャの頬に手を添える。  
「僕は、君と逢えて、本当に良かったって思ってる」  
「おにいちゃん……」  
「今、僕から冒険を取ったら、何も無くなっちゃうんだ。少なくとも、僕はそう思ってる」  
「……」  
「だから、ごめんね」  
アドルがそう言うと、イーシャの目から先程よりも大粒の涙がこぼれた。  
哀れに照らす月の光で、涙が微かに光る。  
アドルはそっと、イーシャの顔を引き寄せた。  
 
唇に在る温もりを、アドルはしっかりと感じた。  
アドルとイーシャの影は、一つになり、砂浜に伸びている。泣き続けていたイーシャは、  
今自分に起こっている事を瞬時には理解しかねて、目を見開いている。  
そんなイーシャの唇と、アドルの唇は触れ合っていた。  
柔らかな、暖かい唇の感覚が、微かに冷たささえ感じる月夜の光と相対していた。  
アドルはそっと、イーシャの唇から自分の唇を離した。  
「……」  
目を細め、何が起こっていたのかまだよく理解していないイーシャは自分の唇にその白くて細い指を  
何度も押し当てた。愛しく、切なく。  
一方のアドルの方は、そんなイーシャの事を先程より強く抱き締めた。  
「っ…アドルおにいちゃん?」  
強く腕に抱かれながら、イーシャはかろうじて顔をアドルの方に向ける。  
アドルは、今何をしたのかを説明した。  
そしてそれが、どんな事を意味するかを。  
「……っ」  
一気に、イーシャの顔が赤く染まる。  
「好きな人が、する事……」  
アドルの言葉を反復すると、イーシャはますます赤くなる。  
好きな人、と言う風に言ってしまった事は、なまじアドルに対して抱く想いが的中しているだけに、  
イーシャにとってはくすぐったく、そして恥ずかしい事であった。  
そんな小さな想い人を見て、アドルが微笑んだ。  
「イーシャ…好きだよ」  
「…アドル、おにいちゃん……」  
伏し目がちに、イーシャはアドルの言葉を受け取った。  
「わたしも、アドルおにいちゃんの事…………好き」  
やっと、精一杯の勇気と引き換えに、イーシャは自分の想いを初めて、言葉にして伝えた。  
 
今まで、そうした言葉を意識して使った事は無かったのだろう。  
じわ、とイーシャの紅の瞳に再び涙が浮かんだ。  
アドルの髪の毛と同じ、紅色の瞳。  
静かに、アドルはもう一度、イーシャの唇と自分の唇を重ねた。  
今度は先程よりすこし強くイーシャの顔を引き寄せ、長く重ね合わせた。  
互いの息遣いが、微かに耳に付く。  
切なさが募る、月夜の海辺には、二人以外誰も居なかった。  
響く音も、漣の音、そして二人の存在から微かに聞こえる、生きている証だけ。  
長く、長く二つの影が、一つになっていた。  
永遠とも思えるような、永い時が、二人の心を引き寄せていた。  
そっと、アドルは唇を離し、再びイーシャの顔を見た。  
もはやアドルの髪の毛に勝るとも劣らないほど、彼女の白い肌は赤く染まっていた。  
「…ねぇさまが、心配してると思う、から…帰ろう?」  
微かにイーシャが口を開き、小さな声でアドルに囁いた。  
アドルは微笑むと、もう一度、口付けをした。  
今度は先ほどまでとは違う、彼なりの口付け。  
 
そっと、アドルはイーシャの唇を舌で押し上げ、そのまま舌を突き入れた。  
口内を侵食されて、イーシャは目を見開き、喉の奥で小さく悲鳴を上げた。けれど、アドルは  
イーシャを離しはせず、そのままイーシャの舌を求めて自らの舌を進めた。  
やがて求めた物の場所へ行き着くと、そっと舌をイーシャの物と絡み合わせる。  
暖かな口内と、柔らかな舌が、アドルにイーシャに対する愛しさを抱かせた。  
アドルは唇を離す。つ、と二人が一つになっていた証が細い糸のようになって、静かに伸び、落ちた。  
「…っ!」  
イーシャは目を伏せ、もはや声も上げられず、真っ赤になった。  
そんな彼女の肩を抱くと、そっとアドルはイーシャの細くて小さな身体を砂浜に横たえた。  
月明かりに照らされ、白い肌が儚(はかな)く淡くイーシャを表している。  
「アドルおにいちゃん……?」  
何がこれから起こるのか全く分からないイーシャは、身体中がこわばり、すがるようにアドルの名前を呼んだ。  
そんなイーシャを見詰めると、アドルは静かに涙の跡を残した手袋を外すと、月明かりに照らされ  
神秘性さえもかもし出す彼女の身体にゆっくり手を伸ばす。  
そっと、アドルの手がイーシャの身体に触れた。  
「ぅっ……」  
小さく喉で悲鳴を上げ、アドルの手をぎゅっと掴むイーシャ。身体は先程よりこわばり、その瞳には  
未知の出来事に恐怖さえ浮かんでいた。  
 
アドルはイーシャの髪を撫で、大丈夫だからと伝えた。  
良く、その言葉自体が指し示す物の意味は分からなかったけれども、アドルの言葉を信じ、  
イーシャはおずおずと肯いた。そしてそっと、身体中の力を抜く。  
それを見届けるとアドルはそっと、イーシャの服の上から、ゆっくりと何度もイーシャの身体を撫でた。  
優しく、まるで壊れ物を壊れないように扱うように、そっと……  
やがて、アドルの指が、イーシャの服の分け目へ入って行く。  
「んっ……う…」  
羞恥心から来る溜息にも近い声が、微かにイーシャの唇から漏れた。  
アドルの指先の感覚が、イーシャを過敏に反応させる。  
イーシャの小さな身体は、アドルの優しい愛撫により、徐々にほてって来た。  
そうした身体の反応に、戸惑うイーシャは不安がり、アドルの事をじっと見詰めた。  
そんな不安を取り除く為だろうか、アドルが愛撫を行っている手を止め、イーシャの名を呼んだ。  
すっ、とイーシャの身体から安堵の為に過剰な力が抜けた。不安感が溶けた。  
「イーシャは僕の事、本当に好き?」  
「うん……」  
「これは、好きな人同士がする事なんだよ」  
「好きな人、同士……」  
イーシャの言葉に、アドルが肯く。  
「イーシャが僕の事を思ってさえいれば、これは少しも怖い事は無いんだ」  
「……うん」  
小さく、イーシャが返事をした。アドルはその言葉を聞いてから、再び指先を動かした。  
 
しばしの間、アドルの指先は、イーシャの身体に触れ、その形になぞって撫でていた。  
「ん……うう…っ」  
思わず切なげな声を上げるイーシャ。そして、あまり声が漏れないように、口元に手を置いて塞ぐ。  
そんなイーシャの反応に、アドルは一層愛しさを感じる。それが愛撫にも繋がり、循環する。  
やがて、アドルは服の隙間から手を引き抜く。まだ僅かに、指先にイーシャの温もりが残っていた。  
砂に横たわったまま、イーシャは切ない吐息を吐き続けていた。  
「イーシャ…」  
アドルの声に、イーシャは微かに目をアドルの方に向ける。  
「服、上げて」  
「……っ」  
その言葉が指し示す事は、流石にイーシャにも分かっていた。  
困った顔をしてアドルの方を見るが、アドルはただにっこりと微笑み、彼女の中から不安を取り除いた。  
イーシャは目を閉じた。そして、両手を服の端まで持って行くと、そのまま裾を指で掴み、ゆっくりと持ち上げた。  
顔が赤い。  
そして、今こうしている事実を見ない為か、羞恥心の為か、イーシャの目は先程よりもさらに  
ぎゅっと閉じられていた。そんなに恥ずかしく思っても、アドルと今の時を共にしたいと思う気持ちが、  
アドルにひしひしと伝わって来た。  
「イーシャ、大丈夫だから。足、開いて」  
「う…ん……」  
微かに震えるイーシャの頭を撫で、アドルはそっと囁くと、イーシャはそれに答えるように肯き、足の力を抜いて、  
足を少し広げた。それを見たアドルの手は、そのイーシャの白い足の間に滑り込んだ。  
 
イーシャが微かに声を上げたけれども、アドルはもう止まらなかった。そして、  
そっとその部分にアドルの指が触れた。  
「あっ……」  
良く分からないが、いきなり身体に微かに走った感覚に、イーシャは思わず声を上げる。  
そして慌てて口を閉じ、やるせなさの為に、指で掴んだ服を更にきつく掴んだ。  
明らかに不安がっているのだが、アドルが平気かどうか尋ねると、イーシャはこくりと肯いた。  
答えようとしてくれている、その事実がアドルにとっての、そしてイーシャ自身にとっての救いであった。  
指先で触れ、何度も撫でている内、アドルの指が突然在る部分で引っかかった。  
そして、その場所でアドルは指の動きを止める。  
「ちょっと、痛いかも知れないけど、我慢してくれる?」  
アドルが尋ねると、イーシャは何も言わずに肯いた。もはや彼女は口から漏れ掛ける声を  
抑えるのに必死で、拒む余力さえ無かった。  
それが少し可哀想な気がしたが、アドルもそれ以上何も言わずに指を突き進めた。  
「ひぅっ……」  
いきなりの挿入感に、イーシャは驚き悲鳴を小さく上げる。未知の感覚が襲いかかる、  
そしてそんな感覚を生み出すアドルに対し、恐れすら感じた。必死に首を横に振り、目をきつく閉じて、  
出て来る悲鳴は喉から絞り出したような、かすれたイーシャの声だった。  
胸が痛むアドル。思わず切なく声を上げるイーシャの体を抱き締める。  
「ン……大丈夫、だよ…っ、う…」  
必死に平気な事を伝えようと、切ない吐息混じりの言葉がイーシャの唇からこぼれ出る。  
そんなイーシャの反応に、アドルは思わず胸の痛みと共に愛しさも抱いた。  
 
動かし続ける指先が、イーシャのその部分が、濡れて来た。  
それに付随して、音が響き始める。  
「う…あ、あぅっ……」  
唇を噛み締めても、漏れ出るイーシャの声が、砂浜に響く。それが自分の耳にも  
入って来ているのだろう。イーシャは赤面しながら何度も自身の声を止めようとした。  
だが、そう出来るより前に、アドルの指が、彼女の集中を解いてしまう。  
「ア、ドル……おにい、ちゃんっ、あぁっ…」  
切なくイーシャがアドルの名を呼ぶ。アドルはイーシャの事を抱き締めたまま、愛撫を続けた。  
アドルの指先が熱い。  
イーシャはと言うと、未知の行為から来る微かな快楽さえも受け入れられず、快楽と苦悩の中で  
戸惑い、苦しい表情のままアドルの行動をそれでも受け入れ続けていた。  
ぐ、とアドルは指をより奥へと侵入させて行く。  
イーシャの小さな身体には、大きな負担となっている事だろう。けれど、イーシャが嫌と言わず、  
受け入れようとしている時に、ためらう事はより負担が掛かってしまう。  
苦しい事だとは分かっていながら、アドルはそれでも止める事は無かった。  
だんだんと、高揚して行く互いの気持ちに、各々(おのおの)は気付いているのだろうか。  
月が、イーシャの身体を神秘的な物から艶やかな物へと照らし変えた。それが更に、アドルの気持ちも、  
イーシャの気持ちも高めて行く。  
二人の想いは、いまやあの告白の時からずっと同じであった。  
愛撫を止めないその理由はアドルはそれを感じた事も在ったからかもしれない。  
「あ、ああ、う……ふ、あああっ」  
イーシャの身体が突如跳ねた。そして身体はひくついたまま、ぐったりとなってしまう。  
そんなイーシャを見てアドルは急いで指を引き抜き、イーシャを抱えて大丈夫かと聞いた。  
「う、ん……平気、だ、から……」  
ちっとも平気そうでないのに、それを否定し平気だと言うイーシャは、本当にアドルの事が好きだったから、そう言ったのだろう。そうでなければ、全く訳の分からない行為を続けさせられて言えるはずが無い。  
それくらい、イーシャは優しかったし、アドルが好きだった。  
 
しばらくそんなイーシャの体調を整える為、アドルはイーシャの事を抱き締めたままでいた。  
やがて、アドルは身に付けていた防具を外し、砂浜に置いた。  
そして、アドルはそっとイーシャの頭を撫で、そっと頬にキスをする。そして自らの頬を  
イーシャの頬にすりつけ、愛しさを伝える。  
「……力、抜いて」  
アドルはそのまま耳元で囁いた。  
言われたイーシャはまだ息が整ってはいなかったが、それでもアドルの言葉に肯き、  
ふ、と力を抜く。そして、全ての事をアドルに任せるように、そっと目を閉じて、  
アドルの頬に顔をそっと押し付けた。  
イーシャの頬も、アドルの頬も、熱かった。  
アドルはイーシャの身体を抱き抱えると、そのまま自分の方へと引き寄せた。  
イーシャの顔は赤かったけれども、ぎゅっとアドルの服を手で掴み、それ以外には  
力を入れないようにして、全てを委ねた。  
ぐっ、とアドルはイーシャの身体を引き寄せ、身を進める。  
「あっ、うぅぅっ……!」  
先ほどとは比べ物にならない挿入感に、イーシャは声を上げる。アドルの服は  
掴んでいるイーシャの指によって、ひだが多くなる。  
「う、アドルおにいちゃんっ!!」  
悲痛な叫びにも似たイーシャの声が、アドルの事をひたすらすがるように求める。  
そんなイーシャの身体を抱き締め、離さないようにするアドル。  
「ん、んうぅっ…」  
「大丈夫、イーシャ?」  
アドルの問いに、微かにイーシャは肯く。けれども、決して大丈夫な事ではないだろう。  
 
アドル自身、意識がくらくらしてしまうほど、そこは狭く、そして熱かった。  
同じような感覚は無いだろうが、恐らくはイーシャの意識も同じだろう。意識が無くなるか  
無くならないかの瀬戸際で、唯一繋ぎ止めているのが、アドルの声である。  
「イーシャ、まだ、まだ僕の事を見て」  
「ふ……あっ…!」  
行為を続けながら言うアドルに、イーシャは微かに目を開き、切ない吐息と声を出した。  
紅の瞳に、アドルの事が映る。そして、イーシャの目じりに、うっすらと涙が浮かんだ。  
顔はもう真っ赤で、本当はアドルの事を見るだけで羞恥心が増すのだろう。けれど、  
そんな状態でもまだ、アドルの言葉に従い続けるイーシャ。  
「好きだよ…イーシャ」  
「う、んっ……おにいちゃん、の、事っ…好きッ!」  
声は震えながら、それでもアドルに自分の情を伝えるイーシャ。  
一つになり、互いを繋ぎ止めている。  
そうした事実が再び、徐々に二人を高揚させて行く。  
本当は、もっとイーシャを感じたい。その為にもっと、もっと抱き締めて、自分の事をより深く  
感じてもらいたい。身を進められるだけで、恐らく精一杯のイーシャに、これ以上は何も出来ない。  
アドルはそう思い、ただひたすらイーシャの中へと探って行く。  
「んん、いっ……」  
「痛い? 大丈夫? それとも、嫌?」  
アドルが心配して尋ねるが、イーシャは首を横に振り、「大丈夫……」と微かに返事をした。  
これ以上は見ていられない、そう思いアドルは身を引こうとした。  
その時、イーシャの手が、指が、アドルの事を引き止める。  
 
「止っ、め……ないでぇっ」  
「イーシャ…」  
「好きな、人同士がっ、する事な、んでしょ……、だったらわた、し…大丈夫、だから。  
おにい、ちゃんが……好き、だから……だから、止めちゃ、いやぁ……っ」  
精一杯首を横に振り、涙を浮かべながらアドルに訴えるイーシャ。その想いが、  
痛いくらい伝わった。イーシャは先ほどのアドルの言葉を信じ、好きな人同士であると言う事実を喜び、  
そこに付随した痛みや快楽、苦悩を全て受け入れようとしてくれているのだ。まだこんなに  
小さいと言うのに、誰よりも重い宿命を背負わされた後の彼女は、何よりも強い想いを持っていた。  
そして、その強い想いは今、自分に向けてくれている。アドルはそう思った。  
意識がくらくらしながらも、アドルはイーシャの事を強く強く抱き締める。そして、それと同時に  
イーシャの小さな身体を更に自分の方へと引き寄せた。  
イーシャの身体が、つかえながらも徐々に近付く。  
「ん、うう、ぁ……っ」  
苦痛に耐えている泣き顔で、しかしそれでもアドルの導くままに従い続けるイーシャの口からは、  
切ない吐息と微かな悲鳴が混じり、声となって出て来る。  
イーシャを愛したい。もっと。そうアドルは思った。  
二人の意識は月夜に踊り、背徳と愛の狭間で揺れうごめく。  
「ア、ドル…おにいちゃ、んっ……」  
イーシャは必死にアドルの名前を呼び続けた。アドルの服を掴んでいた指先が、続けられる行為に  
耐える為にも、アドルの赤い服に先程より更に強く絡められている。  
「イーシャ、愛してるから」  
「あ、い…」  
アドルの言葉を微かに反復するイーシャ。もう意識は無くなりかけているに等しい。  
 
「駄目だよ、イーシャ…まだ、僕の事を、見てて……」  
酷い事を言っている事は重々理解している。それでも、今のイーシャの視界に、  
自分の事が映らなくなってしまう事が怖かった。自分の事を見て欲しい。  
イーシャの事をアドルが見続けているように。  
「う………んっ…」  
アドルの言葉に、微かにイーシャは肯いて、うっすらと、うっすらとではあるけれども、  
その目を開き続けた。  
瞬きをするたびに、そのまま目をきつく閉じてしまいそうになるのを、イーシャは  
何とか耐え、アドルの姿を見続けた。  
アドルが目の前に居る、イーシャが目の前で見てくれている。  
そうした事実が、辛い行為であってもお互いの支えとなった。  
そしてアドルがイーシャの耳元に口を近付けた。そして、愛していると何度も何度も言った。  
愛しさと、ある意味での独占欲が彼にそうさせている。  
「ん、くっ………、ぁっ…」  
一方のイーシャは、繰り返される言葉に翻弄され、またその指す意味に赤面し、  
押し殺そうとする声は虚しく、唇から先程よりも大きな音量で漏れている。  
 
「く、ぅっ…!」  
アドルはやがてイーシャの最奥へと自身を突き上げた。  
「あ、あああっ! い、っ…ひゃうううううっ!」  
突然先程のリズムを崩し、胎内へと入って来たモノの感覚に、イーシャの身体はがくがくと震え、  
悲痛にも近いイーシャのあえぎ声が砂浜に響いた。  
そのイーシャの声に、アドルの性がうずき、本能が彼を掻き立てた。  
激しい動きをイーシャに与えると、イーシャは涙を浮かべながらまるで懇願しているかのように  
アドルの名を呼んだ。  
「アドルおにい、ちゃんっ…! ひぅ、あっああッ!」  
その時、彼の与える快楽に、アドルとイーシャが繋がっている『部分』がきゅううっ、と締まった。  
「うっ……あ…」  
アドルはイーシャの狭さを感じながら、思わずその中めがけ、欲望にまみれた愛を注ぎ掛けた。  
慌ててアドルは自身を引き抜く。  
イーシャの白い身体に、アドルのモノから出る『愛』が降り注いだ。  
「は、あぁ……アドル、おにいちゃん……」  
白くふっくらとした腹部に、そしてその下部に、白濁とした液体がねっとりと塗りたくられた。  
アドルの熱を感じながら、イーシャの意識はそこで途切れた。  
 
 
目が覚めると、アドルの姿がイーシャの視界一杯に広がった。  
「え……?」  
イーシャは思わず目を丸くした。アドルはイーシャが起きたのを確認して、笑いかけた。  
良く見ると、服を着せられている。  
「…わ、わたし……」  
気絶しちゃったの? と尋ねるイーシャに、アドルはうなずいた。  
それを見てから、ふとイーシャは自分が寝転んでいる事にも気付いた。  
イーシャの視線が、自分の横に向かう。  
「!」  
そこには、アドルの足が在った。イーシャはアドルに膝枕される形で、寝転がっていたのだ。  
慌ててイーシャは起き上がった。  
「ご、ごめんね、おにいちゃん! お、重かった?」  
びくびくと耳を震わせて尋ねるイーシャに、重くなんて無かった、とアドルは答え、立ち上がった。  
そして、イーシャの頭を優しく撫でてやる。  
「帰ろう、オルハが待ってる」  
「……そうだねっ、おにいちゃん!」  
イーシャはアドルの温かな腕に抱き付きながら言った。  
 
 
数日後。  
イーシャはアドルを乗せた船を見送ってから、そっと海へと視線を降ろした。  
涙を浮かべた自分が、波に歪んで映っている。  
あの時、自分が感じた不安は、現実の物となった。  
すごく、すごく嫌な予感がして。  
行ってしまえば、もう二度と逢えなくなるような気がして。  
ナピシュテムの匣の中で、イーシャが感じた、あの感じ。  
もう、ニ度と逢えないかもしれない。  
それが、現実の物となった。  
(けど……分かってる)  
イーシャは思った。  
予言なんて、当たらないのだと。  
 
 
それを、『彼』が教えてくれたから。  
 

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