「ごめんなさい。私、あなたのお気持ちにはお応えできません」  
 クローゼさんの言葉は、予想通りだった。  
 それでも、やっぱり胸は痛んだ。  
「そうですか……。そう、ですよね……」  
 そんなことしか言えない自分が情けない。  
 
 ずっと憧れていた。  
 いつも礼儀正しくて、清楚で気品があって、誰にでも優しくて、  
明るくて、笑顔がとても眩しい、優等生のクラスメート。男子なら  
きっと誰もが好きになる、女の子の理想そのままだった。  
 そんな素敵な女の子が、僕なんかの手に届くわけがない。  
 まして相手は、リーベル王国のお姫様だ。  
 立ち聞きするつもりはなかったけど、資料室に行くときに、偶然、  
生徒会室の前で聞いてしまった。ジルさんとハンス君は、クローゼ  
さんが女王陛下の孫娘、クローディア姫殿下だということを知って  
いるみたいだった。  
 だからクローゼさんは、僕にとって、高嶺の花どころじゃない。  
 まさに雲の上の天使だった。手が届くわけがない。  
 今までは、それでもよかった。  
 遠くから眺めるだけで、ときどき話ができるだけで十分だった。  
 そう思って、必死に諦めようとしていた。  
 でも……。  
 
「好きな人が……いるんですよね?」  
「えっ」  
 僕の質問に、クローゼさんは少し驚いたようだった。  
「あの、一緒に劇をした遊撃士の男の人……なんて言いましたっけ?」  
「ヨシュアさん、ですか……?」  
「そうです。クローゼさんは、彼のことが好きなんですよね?」  
 僕が訊くと、クローゼさんは頬を染めてうつむいた。  
「どうして……分かったんですか? まだ誰にも話したことないのに」  
「気がついたんですよ。僕はいつもクローゼさんを見てましたから」  
「でも、そんなに見て分かるほどでしたか?」  
 クローゼさんは恥ずかしそうに尋ねた。  
「いえ、僕でなければ気づかなかったでしょう。決定的だったのは  
やっぱり劇でしょうか。あのキスシーンで……」  
「あ、あれは本当にしたわけじゃありません」  
 クローゼさんには珍しく、赤くなって慌てる。  
「分かってますよ。でもクローゼさん、あれは演技だけじゃない  
ですよね?」  
「えっ?」  
「クローゼさんみたいな人は、お芝居と割り切ろうとしたって、  
あんなキスシーンはできないはずです。もしお姫様役がヨシュア君  
じゃなくてハンスや僕だったら、同じように演技できましたか?」  
 クローゼさんは、その綺麗な眉を寄せ、困った顔でうつむいた。  
「たぶん……できなかったと思います」  
「ですよね。じゃあ、それが答えです」  
 クローゼさんは苦笑して僕を見た。  
「私のこと、私以上によくご存知みたいですね」  
「だって、それは……クローゼさんのことばかり見てましたから。  
初めて会ったときから、ずっと……」  
「あ……」  
 ついさっき僕を振ったことを思い出し、クローゼさんが気まず  
そうに目を伏せる。  
 今が、チャンスだ。  
 
「クローゼさん」  
 目を上げる彼女に向かい、僕はすかさず言葉を継ぐ。  
「クローゼさんがヨシュア君のことを好きなのは分かってます。  
頭では分かってるんですけど、僕はクローゼさんのことを、どう  
しても諦め切れないんです」  
「ごめんなさい。でも私は……」  
 困惑するクローゼさんに、僕は言った。  
「だから……もしよければですが……その、ヨシュア君のことを  
教えてくれませんか?」  
「え?」  
「クローゼさんが、ヨシュア君のことをいつから好きなのか、  
どうして好きになったのか、どれくらい好きなのか……それを  
教えてもらえたら、諦めもつくと思うんです。クローゼさんが  
本当に彼のことが好きで、そのことがよく分かったら、じゃあ  
仕方ないなって納得できると思うんです」  
 クローゼさんは黙ってうつむいている。  
「もちろん、クローゼさんにそんな義務はありません。これは  
僕の一方的な、ただのわがままです。だから……」  
「いいですよ」  
 クローゼさんは、凛とした笑顔で言った。  
「私だって、せっかく好きって言ってくれた人を、ただ傷つけた  
ままにするのはイヤですから」  
「ありがとう、クローゼさん」  
 僕はお礼を言いながら、ポケットに手を入れ、すべすべした  
小石のような物に触れた。使い方は知っている――。  
「それじゃ、クローゼさんがどのくらいヨシュア君のことを好き  
なのか、僕によく分かるように教えてくれますか?」  
「え? ええ、いいですよ」  
 微かな違和感にはこだわらず、クローゼさんは快諾してくれる。  
 僕はポケットのアーティファクトにもう一度触れた。  
 言霊拘束、完了。  
 込み上げる期待に胸が溢れそうになり、必死で呼吸を整えた。  
 
「どうしました? 大丈夫ですか?」  
 クローゼさんが心配してくれる。  
「ありがとう。ちょっと緊張してるだけです」  
「そうですか? 無理はしないでくださいね」  
 僕は、こんなに優しくて綺麗な女の子を……。  
 そんな罪悪感までもが、僕の鼓動を熱くする。間近で向かい合う  
クローゼさんの、美しく整った中にもまだあどけなさを残した顔立ち  
や、華奢に見えるが意外に均整のとれたしなやかな身体つきに改めて  
意識を揺さぶられる。  
「では、聞かせてくれますか? ヨシュア君のこと、どう思っている  
のか」  
 改めてそう訊くと、クローゼさんは照れたように目を伏せ、可憐な  
唇を開いた。  
「ヨシュアさんのこと、好きですよ。こんな気持ちって初めてで、  
自分でも戸惑ってますけど。ヨシュアさん、とても優しいのに、  
いつもどこか寂しそうで、初めて会ったときから惹かれてしまって」  
 分かっていたことなのに、改めてクローゼさん自身の口から他の  
男への思いを聞くと、心臓を毟られるように辛かった。苦痛を無理に  
抑え込み、平静を装って質問を続ける。  
「劇のキスシーンですけど、ひょっとして、あのとき本当にキスしても  
いいと思ってましたか?」  
 クローゼさんの頬が赤くなり、恥ずかしそうに告白する。  
「……はい。お芝居だけど、ヨシュアさんとだったら、それでもいい  
かなって」  
 許せない、と思った。  
 この天使のような少女の心を、これほどまでに奪ったヨシュアと  
いう男が。  
 クローゼさんの心はもう、すっかりあいつに奪われてしまっている。  
 いいだろう。でも、この瑞々しい少女の身体は、これから僕が好き  
にさせてもらうよ。ヨシュア君への思いを利用して。  
 僕は、用意していた台詞を口にした。  
 
「クローゼさんは、舞台の上で、人前でキスしてもいいと思うくらい、  
ヨシュア君のことが好きなんですね?」  
「はい」  
 まっすぐな返事が、僕の嫉妬を掻き立てる。  
「じゃあ、キスじゃなくて、他のことを求められたら? それでも  
応えてあげるほど、彼のことが好きですか?」  
「はい。ヨシュアさんが求めることなら、できるだけ応えてあげたい  
と思います。……初めて好きになった人ですから」  
「どんな恥ずかしいことでも?」  
 さすがにクローゼさんの顔色が変わり、一瞬、言葉に詰まる。  
 そうだ。ここがボーダーラインだ。  
 普通なら、ここで拒絶されるはずだ。  
 でも、さっきの言霊拘束がちゃんと効いていれば……。  
 僕が息を呑んで見つめる中、クローゼさんは、顔を赤くしながら答えた。  
「は、はい……」  
 成功だ!  
「ヨシュア君が求めることなら、どんな恥ずかしいことでも応えてあげる  
くらい、彼のことが好きなんですね?」  
「はい」  
 僕の念押しに、彼女は恥じらいながらも、はっきり答えてくれた。  
 
「では訊きます。もしヨシュア君が、パンツを見せて欲しいと言ったら  
どうしますか?」  
 クローゼさんは顔を赤らめ、小声で答えた。  
「え、はい……見せて……あげると思います……ヨシュアさんにだったら」  
「どうやって? どんなふうに? 詳しく教えてくれませんか」  
 クローゼさんはさらに赤くなりながら、説明を始める。  
「その……両手で、スカートの端を持ち上げて……」  
「どこまで持ち上げるんですか?」  
「え? えっと……胸のあたりまで……でしょうか」  
「それでパンツが見えるんですか?」  
「どうなんでしょう……分かりませんけど」  
 僕は呆れたように肩をすくめてみせる。  
「ダメですね、それじゃ。まるでお話になりません」  
「だ、だって……そんなこと、したことないですし……」  
 僕は、やれやれと大げさにため息をついた。  
「誰だって最初は初めてなんですよ。当たり前でしょう? 問題は経験  
じゃない。初めてでも、好きな人のために、そうするだけの覚悟と勇気  
があるかどうかだ。違いますか?」  
「……そうですね」  
「クローゼさんには、本当にその覚悟があるんですか? ヨシュア君の  
望みに応えてあげる覚悟が?」  
「覚悟はあります」  
 その返事には迷いがなかった。  
 僕はすかさず畳み込む。  
「じゃあ、ヨシュア君の望みにどう応えてあげるのか、口先だけじゃ  
なくて、実際にやってみせてください」  
「……ええっ?」  
「今の言葉が嘘でないことを、証明してください。ヨシュア君のために、  
スカートを自分で上げるようなことが、本当にできるかどうか」  
「で、でも……それは……」  
 さすがにクローゼさんは、もじもじとためらった。  
 言霊拘束の力をもってしても、心理的抵抗は大きいらしい。  
 
 僕は最後の一押しをした。  
「僕に教えてくれるんでしょう? クローゼさんがどのくらいヨシュア  
君のことを好きなのか。今のままじゃ、覚悟なんて言っても言葉だけで、  
本当に好きかどうか分かりませんよ。それとも……嘘だったんですか?」  
 嘘という言葉に、クローゼさんはびくりと震えた。  
「う、嘘なんかじゃありません」  
「じゃあ、もう一度訊きます。もしヨシュア君が、パンティを見せて欲しい  
と言ったら、クローゼさんはどうしますか?」  
 クローゼさんは真っ赤になって、黙ったままうつむき、白い指で制服の  
スカートの裾を握った。  
「こ、こうやって……」  
 恥ずかしさに消えそうな声で言いながら、徐々に両手を上げていく。  
スカートの下から、すらりと伸びた白い両脚が見えてきた。息を呑んで  
見守る僕の目の前で、ついに憧れの少女の白い下着が露になった。  
 王立学園クラブハウスの資料室で、あのクローゼさんが自分でスカート  
をまくり上げ、パンティを人目に晒していた。姫殿下のパンティは純白  
で、淡いブルーのレース飾りがついている。清楚で上品な下着は確かに  
クローゼさんにふさわしかった。  
 僕は、激しい鼓動を抑えて言った。  
「うーん、まだそれじゃヨシュア君にはよく見えないんじゃないですか」  
「……っ!」  
 クローゼさんは耳まで真っ赤になり、きっと泣きたいほどの羞恥に  
耐えながら、スカートの裾を顔が隠れるほど思い切り引き上げた。  
 クローゼさんの下半身は、おへそまで丸見えになり、少女の大切な  
部分を覆う逆三角の白い布地は、その全貌を明るみに晒し出された。  
剥き出しになった艶やかな白い太腿は、羞恥のあまり内股に閉じられ、  
小刻みに震えていた。  
「なるほど。そうやって見せてあげるんですね」  
「…………はい……」  
 クローゼさんの返事は消え入らんばかりだった。  
「ふうん、なるほどね」  
 言いながら彼女に近づき、背をかがめて白い股間に顔を寄せる。  
「なっ、何を……!」  
 クローゼさんが身を引こうとした瞬間、僕は言った。  
「もっと近くで見たいってヨシュア君が言ったら、どうします?」  
 その一言で、魔法のようにクローゼさんの動きが止まる。スカートを  
たくし上げ、パンツを丸出しにしたまま硬直したように立ち尽くした。  
 そこで僕は存分に時間をかけて、薄い布地一枚に包まれたクローゼ  
さんの下半身を、息がかかるほどの至近距離からじっくりと視姦した。  
なだらかな白い下腹部から、柔らかそうにふっくらと盛り上がる恥丘、  
肌に貼りつき微かな縦じわになった股間のラインまで、舐めまわすよう  
に観察するうち、熱っぽい視線を感じるのか、それとも羞恥のせいか、  
クローゼさんの白い素肌が、ほんのりと淡いピンクに染まっていく。  
 ちらりと目を上げ、クローゼさんが赤面した顔を背けているのを  
確認すると、僕は神秘のデルタゾーンに顔を近づける。クローゼさんの  
アソコに鼻先を寄せ、パンティのクロッチに触れるほど間近でこっそり  
息を吸い込んだ。するとたちまち、クローゼさんの朝から一日分の蒸れ  
た芳香がほんのり鼻をくすぐり、僕の脳裏を痺れさせた。  
 
 だが、僕は何食わぬ顔で身を離し、憧れの姫にさらなる恥辱を課す。  
「それじゃ、ヨシュア君がクローゼさんのおっぱいを見せてほしいと  
言ったら?」  
 クローゼさんは、ぱっとスカートを戻して、そのまま固まった。  
「私の……お、おっぱい……ですか?」  
「そうです」  
「む、胸は……その……」  
 クローゼさんは赤くなり、薄い胸を隠すようにうつむいて、もじ  
もじとためらった。  
「……恥ずかしい……です」  
 可憐な姫殿下は胸にコンプレックスを持っているらしい。だけど、  
そんな抵抗は許さない。今日は、あなたの一番恥ずかしい部分も  
大事な部分も、残らず見せてもらうんだから。  
「どうして恥ずかしいの?」  
「だ、だって……」  
 普通なら、高潔なクローディア姫が、こんな質問に答えるはずが  
なかった。だが、彼女は言霊拘束の影響で、基本的に僕の質問は拒否  
できない。だからクローゼさんは、問われるままに白状してしまう。  
「私の胸、小さい、ですから……恥ずかしくって……」  
 そんなに恥ずかしがっている胸を、君は今から僕にさらけ出すんだ。  
そう思いながら、僕は笑顔を作る。  
「ヨシュア君なら、こう言うでしょうね。大きさなんか関係ない、  
クローゼさんの胸だから見せてほしいんだって」  
 そんな歯の浮く台詞に、クローゼさんは決意したようだった。凛と  
した姿勢でまっすぐ背を伸ばし、衣服のボタンに手をかける。ほどなく  
胴衣と、続いて胸のスカーフ飾りが床に落ちた。そして、クローゼさん  
の細い指が、ブラウスのボタンをひとつひとつ外していく。ボタンが  
外れるにつれ、ブラウスの隙間から、透き通るような素肌と、白いブラ  
が見え隠れする。  
 僕は息を呑んで、憧れのクラスメートの脱衣現場を見守っていた。  
 やがてボタンを外し終えると、クローゼさんは恥ずかしそうに  
うつむき、そっとブラウスの前をはだけた。クローゼさんの白く滑らか  
な素肌が露になり、パンティとおそろいのブラジャーが姿を現す。淡い  
ブルーのレースが入った純白のブラジャーが、姫君の慎ましい膨らみを  
包んでいた。  
 
 クローゼさんは、両手をブラジャーの下端にかけ、少し唇を噛む。  
赤い顔をそむけながら、震える手でブラジャーをめくり上げる。  
 たちまち、瑞々しいふたつの膨らみが、ぷるっとこぼれ出た。  
 クローゼさんの、おっぱい。  
 なだらかに隆起した少女の胸は、控えめながら美しい膨らみを描き、  
ふっくらと張りつめていた。慎ましい膨らみの先には、ほんのり桜色の  
乳輪がぷくりと突き出している。乳首はまだ未発達で、乳輪全体が乳首  
を中心に盛り上がり、幼さの抜けない乳房の先端を形作っていた。  
 あんなにも大人びて、気高く毅然とした優等生のクローゼさんが、  
ひとたび制服をはだけると、まるでミルクの匂いがしそうな、あどけ  
ない膨らみかけの胸を露呈していた。  
「こ、こうやって……」  
「ヨシュア君によく見せてあげるんだ? こんな可愛いおっぱいを」  
「は、はい……」  
 でも、実際にクローゼさんが乳房を見せてしまっているのは、  
この僕だった。ヨシュアもまだ見たことのないクローゼさんの乳房を  
初めてこうして鑑賞していると思うと、密かな優越感を覚えた。  
 クローゼさんは、耳まで真っ赤になって、自らブラウスをはだけ、  
ブラをめくり上げて、まだどんな男にも見せたことのない初々しい  
純白の乳房と、淡いつぼみのような乳頭を、僕の前に晒している。  
(くそっ……!)  
 露になった裸の胸を存分に撫で回したい。  
 柔らかそうな胸の膨らみに触れたい。揉みたい。弄りたい。  
 幼い乳輪を摘み、舐め回し、乳首を固く尖らせてやりたい。  
 だが、言霊拘束の条件は、あくまで「クローゼさんがヨシュアの  
ことをどれくらい好きか証明すること」だ。いかに古代のアーティ  
ファクトでも、その制約は曲げられない。ここで僕がクローゼさん  
の身体に直接触れるわけにはいかなかった。言霊拘束が解けてしま  
えば、すべては水の泡だ。  
 僕は欲望を必死に抑えこみ、次なる恥辱の試練を課した。  
 

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