ナピシュテムの匣の崩壊によりカナンの地が大渦から解放されて数日後の昼過ぎ、“赤毛のアドル”ことアドル・クリスティンはレダ族の集落の一角にて大きな樹木にその背を預け、一時の微睡みを楽しんでいた。
降り注ぐ優しい陽光が昼食を取ったばかりのアドルの身体を心地よく暖め、風に揺られる木立の音が何とも言えず心を落ち着かせてくれる。
燃え盛る炎のような赤毛の下にはすらりと通った鼻筋や、今は閉じられているものの意志の強そうな澄んだ黒い瞳などなかなか整った顔立ちを覗かせており、おそらくきちんとした格好をして大きな街の通りを歩けば多くの女性達に黄色い声を上げられるだろう。
しかし今現在の彼はお世辞にも上等とは呼べない簡素な服で大木に寄りかかり、だらしなく口を半開きにさせて安らかな寝息を立てている。
その寝顔は実年齢に似つかわしくないほど幼く見えてしまい、通りがかったレダ族の住民達がそんなアドルを見て思わず苦笑に似た微笑みを浮かべてしまうのも無理は無かった。
だが、一見頼り無さそうに見えるこの青年こそが集落の危機を何度も救い、何百年と続いたこの島の因果の鎖を断ち切ったことを彼らは知っていた。
彼らの内何人かはロムン艦隊の軍船に囚われていた時にアドルによって助けられていたし、
何より一族最強と謳われた族長オードを打ち倒した長い黒髪のエレシア人、ロムン艦隊副長エルンストを撃破し囚われたイーシャを救い出したことをイーシャ本人から聞かされていたからだ。
類稀なる剣技と適切な判断能力、そして何者にも負けない強固な意志を持つ戦士。だが一歩でも戦いの場を離れればその気性は言葉少なく穏やかで、成功者や強者にありがちな傲慢・不遜さを感じさせることも無かった。
そんなアドルだからこそ、排他的な所があるレダの民達も何時の間にか心を許し、目前に迫ったアドルとの別れを惜しんでいたのだった。
そう、ラドック船長率いる海賊船《トレス=マリス》号は港町リモージュの顔役バスラムとの交渉により資材を入手し、傷ついた船体の修理を既に終えていた。
その気になればアドルはすぐにエウロペに向かって出発できていたのだが、二つの理由で今しばらくカナンの地に留まる事になったのだ。
一つはアドルの身体の傷が完全に癒えていない事。
一連の大冒険で負った傷は思ったよりも深く、特にロムン艦隊が襲来して以降は精霊神アルマの加護があったとはいえまさしく激戦と表現するしかないほどのもので、ほんの一歩間違えれば命を落としかねない戦いの連続であった。
歴戦の勇士であるアドルといえどもその戦いで負った大小の傷は数日程度では回復せず、回復効果の高い祈りの泉の清められた水で傷を癒していたのだった。
そしてもう一つ。こちらが最大の理由であるのだが、アドルと出会い、共に自らの運命に立ち向かった二人の少女、オルハとイーシャの姉妹を筆頭とするレダ族の民に激しく引き留められたからだ。
オルハは物言いたげな、だが無言のまま悲しそうな瞳でアドルを見つめ、イーシャはもっと直接的に涙を流しながらアドルに縋り付いて別れを拒んだ。
そんな二人を前にしては、アドルも困ったように微笑みながらイーシャの頭を撫でることしか出来なかった。
アドル自身もオルハやイーシャ、レダ族の住民、リモージュの住民、そしてこのカナンの地に情が湧いてしまっていたからだ。
だがアドルはそれでもエウロペに帰ることを決めた。
新たなる旅、新たなる未知との遭遇、新たなる冒険に対する好奇心が、アドルをここに留まらせることを許さなかった。
これが無くなった時、自分は自分で無くなってしまう。そんな風に思える時すらあった。
だから泣きじゃくるイーシャや切なげに見つめてくるオルハに向かい、アドルははっきりと出立を告げた。
数日後に迫ったレダ族の祭りの翌日にエウロペに帰る、と。
そう言い切ったアドルに対し、尚も言い寄ろうとしたイーシャを抱きとめ、オルハは微笑み、
「それでは素晴らしい祭りを行いますので存分に楽しんでいってくださいね」
と言ったのだった。
僅かに唇を震わせながら、ではあったが…。
暗闇の中、アドルはふと目を覚ました。
軽く身を起こして周囲を見渡すと、夜目に映った貸し与えられた部屋に一瞬ぼんやりしてしまう。
だがすぐに状況を把握したらしく、軽く寝惚けてしまった自分に苦笑しながらも再び寝台に寝転がる。
昼間、微睡みを楽しんでいたアドルはあの後すぐにやって来たテラに叩き起こされ、雑事を手伝わされることとなってしまった。
尤も雑事というのは単なる建前らしく、もっぱらテラにあちこち連れ回されるだけだったが…。
祭りの準備に忙しいレダの民を横目に観光するのはさすがに憚れたのだが、
「アドルだってぐーすか寝てただけじゃん」
と言われてしまうと何も言い返せないアドルだった。
そうして散歩がてらクアテラ島を巡っていたアドルとテラは、途中から合流したアドルの親友ドギらと共にレダの集落で夕食を頂戴し、部屋を貸し与えられているアドル以外は《トレス=マリス》号へと帰っていった。
夕食後、部屋で今回の冒険のあらすじを自らの手記に書き連ねていたアドルだったが、しばらくして入室してきたイーシャと歓談していると、知らず知らずのうちにいつの間にか遅い時間になってしまっていた。
渋るイーシャを自室に帰し、自らも寝台に入ったアドルであったが、昼間に少しの間とはいえ眠ってしまったのが悪かったのか、このような夜更けに目を覚ましてしまったようだ。
ばつが悪そうに頬を掻き、再び眠りにつこうと瞳を閉じたアドルだったが、どこからか音が聞こえてきたような気がして再度瞼を開いた。
木々の葉擦れの音かと思ったが、それよりは高い音だった。
虫の鳴き声かとも思ったが、それよりは低い音だった。
僅かに、だが確かに聞こえてくるその音が無性に気になって、アドルは寝台から身を起こした。
家人を起こさぬよう音を立てずに族長一家の家から出たアドルは耳を澄ませて音の出所を探った。
すると、風に乗って運ばれてくるその音が、西の方向から聞こえてくることに気づいた。
先程よりはっきりと聞こえてきたその音に、アドルはその正体を察して柔らかく微笑むと、西の夜空を見上げ、ゆっくりと歩き出した。
無数の星々と共に双子の月が夜空の中天にはっきり写し出され、その光がアドルの行く手を導くように優しく照らしてくれ、灯りが無くとも充分に歩き回ることが出来た。
はじまりはいつだっただろうか?
この場所で彼を見つけたのは、偶然だった。
助けようとしたのは単なる道徳心。
巫女として、一族を導かなければいけない自身の立場を顧みれば、決して褒められたものではなかったかもしれないが、彼が必死に生きようとしていることが何となく分かってしまったので、見捨てることが出来なかった。
自分には妹のように強い予知の力は無い。
だからそれは偶然でしかない筈だった。
だが、思えばそれこそが運命、母なるアルマの導きだったのかもしれない。
目を覚ました彼はそれからすぐに妹の危機を救い、その後母からの形見であり、巫女としての重圧に苦しむ自分の心の拠り所であった鏡を取り戻してくれた。
その頃からだろうか? それとももっと前からだろうか?
いつの間にか、心惹かれていた。
気がつくと彼の姿を目で追っていたし、彼が来てくれたとはしゃぐ妹の姿を見ながら自分も心躍らせていた。
彼に優しい微笑みのまま見つめられるだけで心臓が高鳴り、胸が締め付けられるように苦しくなった。
それをはっきり自覚したのはエレシア人の大きな船に囚われてしまった自分を彼が救い出してくれた時だった。
彼の胸に縋り付いてしまった時、テラという少女が止めてくれなければ自分はずっとそのまま彼の胸に縋ってしまい離れられないでいただろう。
彼の腕の中はそれほどまでに心休まる場所だったのだから…。
彼はまさしく風のような人だと思う。
時に激しく、烈風として吹き荒れることもあるけれど、その本質はあくまで穏やかで優しく流れ、人々を暖かな場所に導いてくれる涼風――
「…こんばんは、アドルさん。ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
奏でていた笛を下ろし、振り向いたオルハは眼前に佇む青年に微笑みを浮かべた。
青年−アドルはゆっくりと首を振り、気にしないように告げてきた。
風に乗って運ばれてきた音。
その音、いや旋律に導かれるようにしてアドルは月の入り江へと辿り着き、一心に笛を奏でるオルハを発見し、その姿を黙って見つめていたのだった。
「この場所…でしたね。アドルさんと初めて出会ったのは…」
遠くを見つめ、呟くオルハ。だがアドルはそんなオルハの言葉にただ苦笑を返すことしか出来なかった。
「…ふふっ、そうでしたね。あの時アドルさんは意識を失っていたので覚えていませんよね」
くすくす笑うオルハ。
そう、アドルは文字通りこの入り江に“流されて”きた。
ロムン艦隊の砲撃を受け、《トレス=マリス》号から投げ出されたアドルは気を失ってこの入り江に打ち上げられた所をオルハとイーシャに見つけられ、助け出されたのだった。
「不思議ですね…。あれからそんなに月日がたったわけでもないのにすごく懐かしく感じてしまいます」
目を細め、その時のことを思い返すオルハにアドルも小さく頷く。
それはひとえにその後に激動のような出来事が重なり続けたことが要因だろうとアドルは思った。
はぐれ龍の襲来。レダ族と港町リモージュの人々との確執。暗躍する謎の妖精達。大渦の消滅とロムン艦隊の襲来。ナピシュテムの匣の復活と再び現れた大渦。囚われたままのイーシャ。
何百年もの間、時間が止まったかのような状態だったカナンの地はまるでそれまでの鬱憤を晴らすかのように時の歯車を急速に回し、この地に住まう人々に試練を与えたのだ。
そして、その中心にいた人物こそがアドルとオルハ、イーシャだった。
「色々なことがありましたけど、結果として全てが良い方向に進んだと思います。…全てアドルさんのお陰です。改めてお礼を言わせてください」
そう言って深々と頭を下げるオルハにアドルは慌てて首を振る。
確かに自分はこの地に根付く様々な問題を解決したが、それは決して自分一人の力で行えた訳ではない。
様々な人達と出会い、その想いやその人達の手助けのお陰で成し遂げられたことであって、自分一人では何も成すことは出来なかったとアドルは思っていた。
自分はただ人々の想いを纏め、人々の代わりにその想いを世界に示しただけ。
自分は自分の思いのまま、心のままに動いただけ。
だから皆に讃えられたり、礼を言われたりするたびにアドルはこそばゆい思いを感じてしまうのだった。
そう伝えると、オルハは目を丸くしてアドルを見つめていたが、しばらくして可笑しそうに笑い始めた。
「…やっぱり、アドルさんはアドルさんですね」
オルハの言葉の意味が分からず、首を捻るアドルにオルハはまた可笑しそうに笑い、夜空を見上げ、表情を改めてそっと呟く。
「そんなあなただからこそ…私は…」
訝しげにこちらを見つめてくるアドルにオルハは首を振って何でもないことを告げ、再び夜空を見上げる。
「しばらくはこのまま良い天気が続くと思います。きっと祭りの日も良いお天気になりそうですね」
雲一つ無く広がる満点の星空に数日後の祭りを思い口を開くと、アドルも同じように夜空を見上げていた。
「今日、イーシャがまたここで歌の練習をしていたんですよ? あの子、アドルさんに祭りを楽しんで貰うんだって一生懸命でした」
その時の様子を思い浮かべて微笑みながら告げるオルハ。
アドルもそのことは知っていた。本人から聞いたからだ。
夕食後、部屋にイーシャが来たこと、歌の練習をしているので楽しみにしていて欲しいと告げられたことを伝えると、オルハはまあ、と口元に手を当てる。
「あの子ったら…。本当にアドルさんが好きなんですね。今までは私にべったりだったから、ちょっと妬いてしまいます」
悪戯っぽく微笑むオルハだったが、すぐに表情を改める。
「ごめんなさい、折角お休みしてらした所をイーシャがお邪魔してしまって…。でも、あの子も少しでもアドルさんと一緒にいたいのだと思います」
すまなさそうに頭を下げると、アドルは微笑みながら気にしていないと告げた。
嘘偽りの感じられないアドルのその微笑みにオルハは軽く頬を染め、表情を和らげた。
そうして少しの間、沈黙が続いた。
何か言いたげなオルハにアドルが首を傾げると、オルハはしばし迷っていたようだが、やがて真っ直ぐにアドルを見つめてゆっくりと語り始めた。
妹の、イーシャの想いを。
「アドルさん…聞いて頂けますか?」
何故か動悸が激しくなっていた。
「あの子は…本当に…アドルさんが…………好き…なんです…よ…」
何故か声が詰まり、震えていた。
「…本当に…とっても……好きだから……」
何故か拳をぎゅっと握ってしまっていた。
「…離れたく…なくて……」
何故か視界がぼやけ始めた。
「…ずっと……ずっと一緒に……いたくて……っ!」
どうしてこんなに胸が苦しいのだろうとオルハは思った。
(イーシャの想いを、伝えているだけなのに……っ!)
だが、自分でも既に気付いていた。
いつの間にか、いや最初から自分の想いを伝えてしまっていたからだと。
妹の想いを口実に、秘めていた、いや秘め続けていようと決意していた筈の自分自身の想いを告げてしまっていたのだという事を…。
知らず知らずのうちに俯いていたオルハは、いつの間にかアドルがすぐ側にいたことに気付かなかった。
アドルの両手で優しく顔を上げさせられる。
月明かりに照らされているのに、こんなに近くにいるのに、アドルの顔が滲んではっきり見えなかった。
アドルの指に優しく目元を拭われて、オルハは初めて自分が泣いていることに気付いた。
「…ご、ごめんなさい。私…こんな、泣くつもりなんてっ…」
慌ててそう言うオルハだったが、涙は止まることなく更に溢れ流れ行くばかりだった。
アドルはそんなオルハを黙って抱きしめた。
引き締まった、だが折れそうな位細く柔らかなオルハの肢体に、彼女が巫女である以前に一人の年頃の少女であることを改めて感じさせられた。
そして同時に、その細い身体に重い責任や重圧、苦悩を抱えてきた少女に深い憐憫と尊敬の念を感じた。
「ア、アドルさん…!?」
突然の抱擁に身を堅くしてしまうオルハだったが、やがてその力を抜くとアドルの背に腕を回し、その胸に顔を埋めて泣き続け、溢れる涙を染み込ませた。
どれ位の間そうしていただろう。
抱擁を終えた二人は無言のままただ見つめあっていた。
視線を絡ませることで、お互いの想いを言葉を発することなく伝えることが出来るような気がした。
だが、最後の一線を越えるのにはやはり明確な意思を言葉で伝える必要があった。
アドルがそれを口にしようとしたその寸前、オルハが躊躇いがちに口を開いた。
胸に満ちる暖かな気持ちを頼りに、精一杯の勇気を振り絞り、ほんの少しの恐怖を押さえ込んで。
「…アドルさん……抱いて…下さい……」
それだけ呟くと、オルハは瞼を閉じた。
何かを口にしようとしたアドルだったが、その言葉を飲み込むと真剣な表情で頷き、ゆっくりと自分の唇をオルハのそれと重ねさせた。
(アドル…さん…)
暖かく柔らかな感触にオルハの目尻から再び涙が一筋流れた。
オルハの頬を伝う涙をアドルはそっと唇で拭い、そのままオルハの顔に口づけの雨を降らせだした。
柔らかな頬、前髪を掻き上げた額に、優美なラインを描く細い顎に、と。
くすぐったそうに、だが決して不快ではないらしく、オルハは目を細めてそれを受け入れる。
そうしてついばむ様な口づけを終えると、アドルは再び唇同士を重ね合わせた。
「…んっ、ふぅん、ア…ドル…さん、…はぁ…」
深い口づけにくぐもった声をあげるオルハを愛しく思い、アドルはオルハの僅かに青みがかった長い銀髪を掌で撫で付けながら口づけを激しくさせていった。
嬉しそうに睫毛を震わせていたオルハだったが、突如として自らの口腔内に異物が進入してくると、驚愕に身体をびくりと固まらせて目を見開く。
そして、混乱しながらもその異物の正体を推測し、それがアドルの舌だと気付くとさらに混乱してしまった。
だがアドルが優しい瞳のままこちらを見つめているのに気付き、その視線がまるで『心配しないで』と告げているような気がして、オルハは徐々に身体の緊張をほどいてアドルにその身を委ねていった。
アドルの舌で先端をつつかれて、オルハもおずおずと自らの舌を伸ばす。
するとアドルの舌がオルハのそれに絡みつき、激しく吸い付いてきた。
「んんぅ…っ! ん、ん、むぅぅ…っ!」
口元から立つぴちゃぴちゃという水音に羞恥を感じ、真っ赤になってしまうオルハ。
アドルはそんなオルハの様子を可笑しそうに目を細めて見つめていたが、口づけを緩めることはせず、それどころかさらに激しくさせだす。
歯の裏側から頬の裏、舌の根元付近や味蕾まで、アドルの舌はオルハの口腔内を至る所まで存分に蹂躙していった。
そうしている内に、やがてオルハの方にも変化が訪れていた。
頭に霞がかかってしまったようにぼんやりとしだし、身体の奥底、芯の部分が熱くなり始め、それに何より四肢に全く力が入らなくなって来ていた。
薄紅色に染まった頬、力を無くし下げられた目尻、縋り付くようにアドルにもたれ掛かりながらオルハはアドルを受け入れ続ける。
そうしてさらに数分間口づけを続けてようやくアドルが身体を離すと、オルハはぼんやりしながらその場にぺたんと尻餅をつくようにして座り込んでしまった。
軽く放心してしまったらしいオルハの様子を見てアドルは苦笑しながら自らの着ていた上着を脱ぎ捨て、上半身裸になった。
全体的に見れば細身だが、鋼のようにしっかりと鍛え上げられたアドルの上半身。
名工の手で打ち鍛えられた刀剣を思わせる強固な、それでいてしなやかなその肉体を見てオルハはようやく意識をはっきりさせたらしく、途端に真っ赤になってしまう。
以前にもアドルの半裸姿を見たことはあったが、今の状況とはまるで違っていた。
以前は単なる治療行為で、当時はアドルのことをそういう目で見てはいなかった。
だが今回のは男性との逢瀬の為。これから目の前の男性と結ばれることを意味していた。
真っ赤になって固まってしまったオルハにアドルも照れたように微笑みながら膝立ちになり、オルハを振り向かせると再び唇を重ねさせた。
唇を離すとオルハを軽く抱きしめてその耳元に口を寄せ、レダ族特有の長い耳を唇で弄びながらゆっくり背中を撫でる。
「ひゃん! アドルさん、くすぐったいです…!」
くすぐったさに首を竦ませるオルハ。
だが執拗に繰り返される耳への愛撫に徐々にくすぐったさだけでなく甘い痺れを感じ始めていた。
ゾクゾクと背筋に感じる未知の感覚に震えながら、熱を帯びた吐息を吐きだすオルハの姿にアドルは少女の背中に回していた手をその肩にやり、ゆっくりとオルハの身を包むレダの巫女の装束を脱がせ始めた。
「ア、アドル…さん…」
アドルの行動に一瞬身を震わせ不安げな表情を浮かべるオルハだったが、特に抵抗することはなく、黙ってアドルを見つめ続け、そのされるがままに着衣を脱がされていく。
そうして、アドルの手によってオルハは一糸纏わぬ姿にされた。
大きめの岩に腰掛け、星々の光と月明かりに写し出されたオルハの裸体はどこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。
僅かな光の中、浮かび上がる白い肌。
すらりと伸びたしなやかな四肢。
股間部に僅かに茂る、髪と同じ色の柔らかそうな恥毛。
そして、どうやら随分と着痩せする方だったらしく、豊かに膨らんだ形良い乳房。
清らかさと艶やかさを絶妙な均衡で保たせたその美しさに、アドルは呆然としてただ見とれてしまっていた。
「…アドルさん…は、恥ずかしいです。…あまり、見ないで…」
思わず言葉を飲んで見入ってしまったアドルにオルハが蚊の鳴くような声で囁く。
羞恥に耳の先まで真っ赤にさせて視線を逸らすオルハの初々しい仕草にアドルもようやく我に返ったらしく、詫びの言葉を述べるものの、食い入るようにその裸身を見つめ続けながら一言綺麗だと呟いた。
アドルの言葉に更に真っ赤になって黙り込んでしまうオルハ。
だがすぐに顔を上げ、ぎゅっと目を閉じてアドルに口づけを求めてきた。
オルハからの求めにアドルは柔らかく微笑むと、オルハの身体を優しく抱きながらその求めに応じて唇を重ねさせた。
(……ああ…アドルさん……)
アドルと唇を重ねる度に、自分の中から迷いが、躊躇いが、羞恥が、恐怖が、一つずつ溶けて消えていくのがオルハには分かった。
唇を重ねる行為が、こんなにも安らぎと温もりを与えてくれるとは、少し前の自分には想像もつかなかっただろうと思った。
しばらくして名残惜しげに唇を離した時、オルハの中に躊躇いも恐怖も無くなっていた。
「……アドルさん…」
目の前の男性に向かって小さく頷き、髪を結っていたリボンと髪飾りを一気に取り外す。
するとその瞬間、長い銀髪が翼のように広がり、月光を反射させて宝石を散りばめたかのようにキラキラと輝いた。
まるでその翼を求めるかのように思わずアドルは手を伸ばし、その銀髪を一房掌に掬い上げていた。
しばし呆然としていたアドルだったが、やがてオルハの髪を優しく掌の上で弄び、オルハの髪に顔を埋め、その匂いと感触を一通り愉しむと再びオルハの耳へ愛撫を始めた。
「ぁ…! はぁ、ぁぁ…」
瞬く間に深い吐息を漏らし始めるオルハに、興奮が高まってきたことを悟ったアドルは耳を弄んでいた唇を徐々に下ろしていく。
頬を伝いながらオルハの唇に一度音を立てて軽く口付けると更に下げ、オルハの細い首筋に辿り着くとその柔らかな白い肌に唇を押し当てる。
それと同時に右手でオルハの豊かな乳房にそっと触れる。
当初オルハは首筋に気をやってしまってアドルの手の動きに気付かなかった。
だが、アドルの右手がオルハの左の乳房を揉み出すとさすがに気付いたらしく、激しく身体を引きつらせた。
「あっ…そこ…はっ…!」
軽い悲鳴にも似たオルハの声を無視してアドルはオルハの首筋を舌で舐め、その張りのある乳房を揉み続ける。
優しく円を描くように、軽く押し込み捏ねまわすように、下から包みあげるように。
アドルの無骨な手が動く度に、オルハのたっぷりとした質感の乳房が厭らしくその形を変えていく。
「…は、ぁっ…は、んんっ…ぁぁっ…ぁあっ…ああっ…!」
アドルの愛撫に熱い吐息を漏らし続けていたオルハだったが、やがてその小さな唇から甘い声があがり始めた。
快感という名の未知の感覚がオルハの身体の奥底から湧き出し、その甘くとろけそうな感覚に身体が反応してきていたのだ。
「…あああっ! ア、アドルさん…そこ、はっ…ああっ…!」
突然それまで以上の嬌声を発するオルハ。
アドルが空いていたオルハの乳房にしゃぶりついたからだ。
オルハの乳房の先端、淡い桜色の突起を舌で舐め転がしながら強く吸う。
それと同時に乳房を揉んでいた手の動きを変えてこちらも先端を弄り始めた。
アドルの口内と手の中でどんどん固くなってくるオルハの乳首。
「ひんっ! あ、ああっ…! ああぁ…っ!」
いつしかオルハは己の乳房に顔を埋めるアドルの頭を抱きかかえるようにして自らに押しつけていた。
柔らかな乳房を弄んでいたアドルの手がそっと胸から腹部、腹部から腰、そして臀部へと流れるような動きでオルハの肌を撫でていく。
それと共に赤子のように乳首を含んでいた口も徐々に下半身へと向かっていった。
そして、無意識に閉じていたであろうオルハの両足をゆっくりと開かせ、今まで誰の目にも触れる事の無かったであろうその秘所を露わにさせた。
「あ、あぁぁっ……!!」
か細いオルハの悲鳴と共に鼻腔に広がる女性の匂いに、アドルは乱暴にむしゃぶりつきたくなるのをぐっと堪え、指でオルハの花弁を優しく開いた。
雪のように白い肌とは対照的に、淡い紅色をした美しい花は朝露を受けたようにしっとりと濡れていた。
僅かにひくつくその中心に、アドルはそっと口付けると溢れる蜜を啜りだした。
「あうっ!」
電流を流されたように、オルハは背筋を震わせる。
無意識に腰を引いてしまいそうになるものの、それを見越してかアドルは腰に腕を回しており、オルハを逃がそうとしなかった。
「ひんっ、ひっ、ひぁぁっ、あっ、あっ、ああっ!」
執拗に続くアドルの愛撫にオルハは為す術もなく息を荒げ続ける。
そうしてオルハがその刺激に慣れ始め、腰を引かなくなってきたのを見計らい、アドルは腰に回していた手をオルハの臀部に移し、髪と同じ色をしたその尻尾を優しく撫で始めた。
「きゃぅん! ひゃぁっ! そ、そこはぁっ!?」
普段全く感じた事のない、尻尾から背筋に走るぞくぞくする感覚に身を縮みこませてしまうオルハ。
甘い声を上げるオルハに、レダ族の尻尾にもきちんと感覚があるのだなと妙に感心してしまうアドル。
尻尾を弄る手をそのままに、それまで放置していたオルハのもっとも敏感な場所、陰核を舌でつついてみた。
「んああぁっ!!」
急激な刺激にそう一声上げて、オルハは縮み込ませていた身体を急に仰け反らせた。
アドルは一瞬オルハの様子を伺うように動きを止めるものの、そのまま陰核を優しく剥きだして丁寧に舐め、転がす。
「アドルさん…もう…もう、だめです…。私、私…!」
遂にオルハはすすり泣きを始めた。
襲い来る未知の感覚の連続に恐怖を感じたらしいオルハにアドルは優しく微笑み、オルハの髪を撫でながら唇を重ねさせる。
そうしてオルハが落ち着くのを見計らい、唇を重ねたまま再び秘所と乳房を優しく、ゆっくりと愛撫する。
「んっ、んっ、んんぅ…! ふぅ、んん…! ん、んぁ…!」
舌同士を激しく絡ませ、くぐもった声を上げるオルハ。
溢れ出るほどの大量の蜜を湧き出させる秘所と、痛いほどぴんと尖った乳房の先端に、自分の身体がアドルを受け入れる準備を済ませたことを知った。
オルハはアドルから身を離すと腰掛けていた岩に手をつき、四つんばいの姿勢になって尻を上げ、尻尾をずらして自らアドルに秘部をさらけ出した。
「アドルさん…来て、ください……」
僅かに震えるその声に、アドルは黙ったまま頷き、全ての衣類を脱ぎ捨てるとオルハの腰を掴み、天を衝かんばかりに屹立した己の分身をオルハの花唇に押し当てると、ゆっくりと挿入を開始した。
「ううっ…うぁぁ……!」
痛みに呻きながらも必死に耐え続けるオルハに半分ほど侵入した所で進むのを止め、アドルはオルハの様子を伺った。
「…だ、大丈夫です。大丈夫ですから、続けて、ください…」
振り向き、そう告げてくるオルハ。
だが身体を支える為に岩に置かれた小さな手はぎゅっと握りしめられ、その紫がかった薄いブルーの瞳からはとめどなく涙が溢れて流れていた。
それでも必死に微笑もうとしている健気な少女にアドルは深い愛しさを覚え、力を抜いてと一言呟くと、一気にオルハを貫いた。
「ああっ! あああぁぁぁぁっ…!」
オルハの悲痛な声が辺りに響いた。
荒い息をつくオルハ。
想像以上の痛みとそれに続く圧力に身体を支える両手足ががくがくと震えていた。
視界は滲み、頬に熱い雫が流れるのが分かった。
だが、その雫は決して痛みだけのためではなかった。
アドルに純潔を捧げられたこと。
胎内に感じる熱く固いアドルの感触。
胸中に満ちる充足感。
それは安らぎであり喜び。
この痛みも、アドルを受け入れたことの証だと思えば、それはオルハにとって大きな喜びに思えた。
「…今、アドルさんと私が、一つになってるんですね…」
この瞬間のことを生涯忘れない。オルハはそう思いながら呟く。
「アドルさん、ありがとうございます。先程からずっと私を思いやって下さって…。とても、とても嬉しかったです。だから、これからはアドルさんの好きにして下さい…」
痛みに僅かに顔を顰めながらも、頬を桜色に染め、潤んだ瞳を煌めかせながら微笑むオルハにアドルは思わず赤くなってしまう。
愛しさ故に沸き起こる、目の前の少女を滅茶苦茶に攻め立てたいという欲望の衝動を、それでも必死に押さえ付け、アドルはゆっくりと動き出した。
「…うっ、はっ、ぁっ、あっ!」
破瓜の血と愛液が混ざり合ったものを潤滑油に、オルハの窮屈な膣内に出し入れを繰り返す。
だが尚も苦悶の表情を浮かべ続けるオルハを何とか楽にしてやりたいと、アドルはオルハに覆い被さるようにのし掛かると、背後から乳房を揉みしだき始めた。
「はぁ、んっ、あっ、ふぅっ!」
獣同士のような交わり。
そうしているうちにアドルの緩やかな動きにオルハの胎内も徐々に異物に馴染みだしたのか、少しずつその動きを滑らかにさせていった。
その証拠にオルハの声にも少しずつ甘いものが混じり始めていた。
アドルの方もオルハの窮屈な膣内、複雑に絡みついてくる襞々に脳を痺れさせるような快感を味わい、無意識に腰の動きを早めてしまっていた。
「あっ、あっ、アドルさんっ、気持ち、いいですか?」
未だ痛みも止まないだろうに自分のことを気遣う少女にアドルは胸を熱くさせた。
この少女を精一杯愛したい。気持ちよくさせてあげたい。
そんな思いにアドルは理性を振り絞って腰の動きを止め、己の分身を引き抜いてオルハを起きあがらせた。
「あ、あの…どうして…? 私、良く、なかったですか?」
アドルの行動に不安げな表情を浮かべるオルハ。
泣きそうになっているオルハにアドルは軽く微笑みかけるとオルハに自らの首に両腕を回すように指示する。
きょとんとして、だが素直に従うオルハ。
アドルはそんなオルハの両足を持ち上げるようにして抱き上げると、それまでオルハが手をついていた岩に腰掛けた。
そしてそのままオルハを自らの身体に跨らせるようにして再び挿入を試みる。
そのころになってようやくアドルの意図を察したオルハは嬉しそうに微笑むと、自らも体勢を調整して再びアドルと繋がりあうことに成功した。
「ふぁぁぁっ! アドルさんのが、奥までっ、届いて、ますっ…!!」
先ほど以上の痛み、だがそれを上回るほどの喜びに歓喜の声をあげるオルハ。
向き合ったまま抱き合い、先程よりも深く繋がりあった二人は一度唇を重ねさせると、お互いに身体を動かし始めた。
「ああっ、あっ、アドルさんっ! アドルさんっ!!」
ひたすらにアドルの名を呼び、裸身を踊らせるオルハ。
先程の体勢よりも更に深く繋がり、アドルの剛直に膣内を抉られているにも関わらず、その表情にはもはや痛みは浮かんでいなかった。
苦痛に勝る想いが、安らぎが、快感が、オルハの身体を支配していた。
その口から漏れ出すのはアドルの名と快楽の旋律。
その瞳に浮かぶのは愉悦の光。
「好きですっ! アドルさん、好きなんですっ! あなたが、誰よりもっ!」
無意識に零れ出た愛の言葉。
だが、その言葉を吐き出すと同時に涙が溢れだしてしまった。
分かっていた筈だった。
彼は風。ただ吹き抜けるだけ。
愛を告げても、永遠の安らぎが叶う事は無いのだということを。
それでも、一度それを告げてしまうと、止める事は出来なかった。
ちらつく別れの予感を吹き飛ばすかのように、オルハは身体の動きを激しくさせた。
アドルもまた、引き裂かれそうな思いを胸に、歯を食いしばってオルハを突き上げ続けた。
この島での冒険を終えた後、何度か思ってしまったことが再びアドルの脳裏に浮かびあがった。
それは、このままここに留まっても良いのではないかという思い。
大渦が無くなったといってもこの地は絶海の孤島に近い。
外界の喧噪など感じることなく穏やかに過ごす事が出来る。
レダ族の人々は排他的なところもあるものの、皆気の良い人達ばかりだ。いずれ完全に自分を受け入れてくれるだろう。イーシャもきっと喜んでくれる。
そうしてこの地で暮らし、オルハを抱き、彼女との間に何人も子を成して、この地で年老いて生涯を終える事も悪くないように思えた。
悪くないどころか、当てもなく旅を続けてどこかで野垂れ死ぬ可能性もある生活よりは格段に素晴らしい事のように思えた。
だがそれでも、アドルは冒険を、旅を続けることを選んでしまった。
未知の世界を知りたいと願う好奇心。新しい世界や謎を知り、そこに向かって一歩一歩進んでいる時の興奮。冒険を終えた時の充足感。
かつて海を目指して村を抜け出た幼少の時と同じ気持ち。それらは自分の、アドル・クリスティンのルーツであり、全てだと思えたからだ。
やがてオルハがアドルの背中に爪を立て、しがみつくようにして頬をすり寄せてきた。
「あっ、あっ、ああっ! アドルさぁんっ! アドルさんんっ!!」
月光に照らされたオルハの銀髪が羽のように舞う姿にアドルは酔いしれ、自らの名を呼ぶその声に応えるようにがむしゃらにオルハの身体を突き上げ続ける。
アドルの分身は滾々と湧き続けるオルハの蜜に包まれ、その最奥に吸い取られそうになりながらもより硬度を増し、出し入れを繰り返すたびに結合部から粘液質の音が響き渡り、その間隔が徐々に短くなってきた。
「あんっ! あっ! あっ、あっ、あっ、あっ………!!!」
激しい動きに切羽詰った、泣き声にも似た声を上げるオルハ。
そんなオルハの様子にお互い限界が近いことを悟ったアドルはオルハの身体をきつく抱きしめると、腰を動かすたびに跳ねるように揺れるオルハの尻尾をぎゅっと握る。
「ああーーーっ!?」
不意打ちに近いアドルのその行動に、オルハはびくりと身を震わせ、反射的に秘部も今まで以上にアドルの剛直を締め付けだした。
「あんっ! あんんぅっ! もう、もう駄目!! おかしく、なっちゃう!!」
全身を駆け巡る快感に、涙を流しながらかぶりを振るオルハ。
アドルもまた、己の分身がオルハの中で熔けてしまいそうな感覚に顔をしかめ、歯を食いしばりながらオルハを激しく攻め立てる。
「んぅっ! ああっ! あんっ、あっ、アドルさんっ! アドルさんっ!! ああぁっ………んああああぁぁぁぁぁ………っっ!!!」
そうして遂に絶頂へと達し、体を弓なりに反らして絶叫を上げるオルハ。
それと同時に起こった強烈な収縮。
そのあまりに強い締め付けに、アドルの方も限界を迎え、オルハの尻尾を握り締めたまま少女の胎内の一番奥に自らの精を一滴残さず吐き出した。
「…ぁぁ、ぁ……アドル、さん……」
アドルの精を身体の奥底に感じ、オルハは感極まったように涙をこぼしながら絶頂の余韻に浸る。
アドルがそんなオルハの髪を梳き、その涙を拭ってやると、オルハは頬を染めてアドルの首に両手を回してぴったりと密着する。
しばらくの間、そうして抱き合ったまま無言の時が続く。
双子の月の光が優しく二人を包みこみ、照らしていた。
(ありがとうございます、アドルさん。……これでもう私は大丈夫です)
アドルの肩に顎を乗せるようにしてオルハが瞳を閉じ、微笑を浮かべる。
喜びとも悲しみとも受け取れる、せつない微笑み。
(これでもう、別れの瞬間に涙を流さずにいられます……)
閉じた瞳から再び涙が一筋、その頬を流れていった。
アドルの方もまた、オルハの髪を撫でたまま、せつない表情で双子の月を眺めていた。
その時、ふと思った。
いつかもし、父のように自分の冒険を後世に残そうと思い筆をとる時がきたとしたら、この島での冒険も必ず書き記そう、と。
そして、先ほど翼のように見えたオルハの長い銀の髪の感触を手にしていると、アドルの胸にある文章が思い浮かんだ。
それはその冒険記の題名。
アドルはゆっくりとそれを胸中で呟いた。
〜翼の民を求めて〜と