自分の灯りが欲しくなった。  
 他人が照らす灯りへ虫のように寄っていくのではなく、自分と一緒に進む灯りが欲しくなった。  
 
 
※※※  
 
(……驚いたな)  
 こんだけギラギラしてんのに、夜空に月がないだけで、ここまで燻った雰囲気になんのか。  
 特務支援課のビルの屋上からクロスベルの夜景を眺めながら、ランディは息をつく。  
 手すりに右肘をついて頬杖をつきつつ、ウイスキー瓶を握った左手はビルの外へぞんざいに投げ出  
して適当に揺らし続けている。  
 瓶の中では半分に減ったウイスキーがチャプチャプと波がたて、時折通り過ぎる夜風へウイスキー  
の香りをプレゼントしていた。  
「にやゃゃあ〜」  
 ランディの足下から、コッペの満足げな声があがる。  
「ん? もう食い終わったんか?」  
「にゃおーん♪」  
 ランディが顔を下へ向けると、コッペが嬉しそうな声で頷き、口の周りについたチーズの残骸を舌  
で舐めとる。  
 そして、ランディの脛に身体を数度すりすりすると、そのまま立ち去っていった。  
 綺麗に舐め取られた皿が、ランディの足下に残される。酒の肴にと持ってきたが、コッペに殆ど食  
べられてしまった。  
「いいねぇ、猫は気楽で」  
 ため息と共に呟くと、ランディはまた手すりの外へ目を転じた。  
 星も月もない夜空の下で無数の導力灯を瞬かせているクロスベルの夜景。それはまるで、闇しかな  
い夜空に押し潰されまいと必死に抗っているかのよう。真っ暗の道をただ進むしかない自分の人生と  
よく似ている。  
「……」  
 ランディは唇を歪ませて笑うと、左手に持ってたウイスキーをラッパ飲みする。少しぬるくなった  
ウイスキーと共に、火が直に流れ込んでくるような熱さが喉と腹の中に走った。  
「……っはー!」  
 盛大に息をついて口を離すと、顎に垂れたウイスキーを服の袖で拭う。瓶の中身は、今の一飲みで  
だいぶ減っていた。  
(うーむ、こりゃ全部飲んじまうか?)  
 ウイスキーの瓶を揺らしながらランディが悩んでいたら、首の後ろがチリっと痺れた。  
 ランディが表情を僅かに強ばらせて振り向いた直後に、屋上の出入口が開き、部屋着姿のロイドが  
現れる。  
「……おやぁ、こんな夜更けにどうしたのかねロイドくぅん?」  
 眠れないのならオニーサンが付きやってやるぞーと、ランディがへらへら笑いながらウイスキーの  
瓶を向けると、ロイドが少し呆れた風にため息つきながら寄ってきた。  
「随分と飲んでいるようだが、大丈夫か?」  
「ん。へーきへーき。酒に呑まれるような飲み方はしてねぇよ」  
 隣に来て尋ねるロイドに、ランディは手すりに背中を預けながら答える。実際、左手のウイスキー  
を未開封の状態から飲んでいるというのに、酩酊感は全くなかった。  
「で、お前はキー坊とお嬢にフラれたからこっち来たのか?」  
「まぁそんなとこかな」  
 ランディが冗談めかして言った言葉を、ロイドがあっさり認めてくる。  
「なっ?!」  
「ティオの部屋で、女の子だけのパジャマパーティーだそうだよ」  
 思わず素に戻って驚いたランディへ、ロイドが説明してきた。  
「……ここ最近のティオ、何か思い悩んでいるみたいだからね」  
 視線をティオの部屋のある辺りへ落としてロイドが独り言つ。  
「……そうだな」  
 ランディも相槌をうつと、そのままウイスキーを口にする。動揺で跳ねた鼓動の乱れをウイスキー  
の熱と一緒くたにさせる。  
「ま、お嬢とキー坊ならティオすけもすぐに元気になるだろ」  
「そうだね。エリィになら、ティオも相談しやすいだろうし」  
 何もない夜空を見上げるランディへ、横からロイドの明るい声が届く。ついでに、頬の辺りにロイ  
ドの視線も突き刺さってきた。  
 
 止まった会話の代わりに、夜風がビルの屋上を通過していく。  
(こりゃ完璧に探り入れられてんなー)  
 届く視線の様子からすると、ロイドも確信がある訳ではなく、とりあえず聞きに来た程度なのだろ  
う。  
(ま、お嬢がティオすけのとこに行ってんのなら、俺が説明する事もねぇな)  
 ランディはウイスキーを一口煽ると、夜空を見たまま唇を開いた。  
「……グノーシス事件の時もそうだったが、ティオすけはマジメすぎるんだよ」  
 物事の元凶を自分と結びつけて、背負い込んで。  
「自分にも原因があるんじゃないかって思いこんで、自分で自分をいじめてしまう」  
 そんな必要ねぇのにな、の言葉を唇の上で転がすと、ランディはまたウイスキーを煽った。  
 ――確かに、強制的に据え膳を押しつけてきておいて突然嫌がられたのには腹がたった。が、ティ  
オの真面目すぎる性格と、彼女が前に進む為なら喜んで卑怯者になるという宣言をしていた以上、怒  
りを露わにするべきではなかった。いつものように、適当にいなしてフォローするべきだった。  
(結局、戦場から理由もなく這い出てきた時と同じ。何もかもが中途半端なだけって事か……)  
 恋とか愛とか、強い想いによって得られるモノなんざ、俺には一生手に入らないって事か。  
「……ランディ?」  
 横からロイドの心配そうな声が届き、ランディは我に返る。  
「やっぱり、かなり無理して飲んでいるんじゃないか?」  
「いやいや、そんな事はねーぞ」  
 相変わらず酩酊感は全くないし、ロイドが屋上に来る事も察知出来た。  
 ランディはウイスキーから口を離すとロイドの方を見て笑う。それから急に表情を切り替えた。  
「……ところでロイド、お前はツマミと酒を用意してきたのか?」  
 真剣な顔して問うランディに、ロイドが、え? と、きょどる。  
「え? じゃねーよ。女の子だけでパジャマパーティーやってんなら、ここは俺達も対抗して野郎ど  
ものパーティーをだな……」  
「ランディ、やっぱり酔ってるな」  
 両手を大きく広げて騒ぐランディに、ロイドが盛大にため息をつく。  
「何を言う、俺は酔ってなんかいないぞー!」  
 ランディが、調子はずれの陽気な声を出してロイドへ抱きつこうとすると、するっとかわされてし  
まった。  
「全く……明日も早いんだから無理するなよ」  
 そう言うと、ロイドが出入口へ向かっていく。  
「んー? もう帰るのかよー」  
 酒よこせツマミよこせーと、ぶーたれるランディに、ロイドが盛大に肩を落としてため息つくと、  
立ち止まって振り返ってきた。  
「さっき、ランディが言った言葉、ティオにもちゃんと伝えて貰えないかな」  
 夜風が止み、ロイドの声がよく響く。  
「きっと、何よりの救いになると思うんだ。お互いに」  
 僅かに見開いたランディの瞳を真正面から射貫くように見据えて告げると、ロイドは屋上から出て  
行った。  
「……何だよ、ハナっから解ってたんじゃねぇか」  
 扉の閉まる音が消えて数秒後、ランディが頭を抑えて呻く。  
(まぁ、折を見て伝えとけってのは俺も賛成だが……あからさまでないけど避けられてんだよなー)  
 さてどうしようかと考えながら、ランディはウイスキーの瓶をラッパ飲みする。が、舌の上に滴が  
落ちてきただけだった。  
「……って、もう空っぽかよ」  
 まるまる一瓶空けてしまったのに、酩酊感はどこでサボっているのやら。  
 ランディはため息つくと、足下の皿を回収して、自室へ戻る事にする。  
 今夜は、幾ら飲んでも酔えそうになかった。  
 
※※※  
 
 二日酔いほど律儀なものはない。  
 どんなに飲んでも酔えなかった身体にも、次の日になればきっちりやってくる。  
「だから無理して飲まない方が良いって言ったのに……」  
 昼食を食べ終えた後なのに未だ二日酔いで顔色が青いランディを見上げて、ロイドがため息をつく。  
「いやー、すまん。俺もついにリベール王国に住むと噂の大酒豪になれたかと思ったんだが……」  
 ズキズキ痛むこめかみを抑えて苦笑いを浮かべると、ランディは前を向いて歩き出した。  
 もこもこした雲があちこちで泳ぐ青空の下、ぽかぽか陽気に涼しげな風がアクセントとなって通り  
すぎていく西クロスベル街道は、今日も魔獣が徘徊している。  
「で、問題の強盗魔獣はどの辺にいるんだ?」  
「セルテオさんの話によると、もう少し行った先にある池の辺りで襲われて、荷物の赤いリュックを  
奪われたらしい。聞いた限りの外見だとサージヒツジンの群れのようだな」  
 歩きながら問うランディに、ロイドも横で歩きながら捜査手帳を開いて答える。  
「もしかして、セルテオさんって、私達に新作レシピを考える手伝いをしてくれって支援要請をして  
きた人?」  
 しんがりを務めていたエリィが、ロイドの説明を聞いて声をあげる。  
「あぁ。奪われた赤いリュックの中身も、ピクニックと思って用意した料理だそうだ」  
「それは支援要請も緊急の案件になるわね……人間の食事の味を覚えた魔獣は、それを求めて積極的  
に襲うようになるっていうもの」  
「だな。次の被害者が出る前に、早いとこ見つけて退治しておこう」  
 捜査手帳を仕舞って会話するロイドの足が自然と遅くなり、エリィの横を並んで歩くようになる。  
 必然的にティオが二番手にあがり、ランディの後ろについた。  
「……そういや、俺は支援要請のボーナスで貰ったグラールロケットがあるけど、ヒツジン戦の対策  
はちゃんととってあるか?」  
 ランディが歩きながら後ろを向く。  
「あぁ。流石にあの睡眠攻撃は厄介だからな」  
「今回は、前もって対策がとれるから有り難いわね」  
 ティオが肩とライトブルーの髪を揺らして驚く一方、ロイドとエリィがそれぞれスターペンデュラ  
ムを掲げてきた。  
「お揃いとは、また見せつけるねぇ」  
 ランディがヒュゥッと口笛鳴らすと、ロイドとエリィが顔を赤らめ焦りだす。  
 面白いくらい素直な反応の二人にランディは思わず口元を綻ばすと、ティオへ話を振ろうと視線を  
落としかけた瞬間、首の後ろがチリっと痺れた。  
「!」  
 スタンハルバードを構えて前を向くランディの視界に、空飛ぶオムライスの映像が飛び込む。  
「へっ?」  
 間の抜けた声がランディの口から漏れる中、オムライスはティオと後ろ二人の中間へ落ちてきた。  
 ぼむっ! と、盛大な音を立ててオムライスが爆発する。  
 香辛料の爆煙と衝撃波が四人の身体を押し出し、ランディとティオ、ロイドとエリィの二手に別れ  
る格好になる。  
「なっ……!?」  
「なんでボムライスが……!」  
 ロイドとエリィが咳き込みながらボムライスの煙の中から出てきた途端、甲高い鳴き声と共に近く  
の茂みから赤紫色の毛玉――もといサージヒツジンの群れが飛び出してきた。  
 
 とっさに背中を庇い合ったロイドとエリィを、六匹のサージヒツジンが取り囲み、一斉に襲いかか  
る。  
「そうはさせるかっ!」  
 ロイドが素早くトンファーを構えて身体を軽く捻る一方、エリィが腰のホルスターから導力銃を取  
り出しその場に屈み込む。  
 次の瞬間、ロイドがその場でアクセルラッシュを発動させた。  
 ロイドの身体が独楽のように躍り回り、エリィの頭上をトンファーが猛烈な勢いで掠めていく。襲  
いかかってきたサージヒツジン六匹全てをトンファーで弾き飛ばす。  
「そこっ!」  
 続けてエリィが導力銃の連射によるクロスミラージュを発動させ、サージヒツジン六匹を順に撃ち  
抜いた。  
 サージヒツジン六匹が宙を舞う。が、軽やかにバク転して着地すると、再びロイドとエリィを取り  
囲む。  
「前に戦った群れよりも統制がとれている……!」  
「ねぇロイド。奪われた荷物の料理ってまさか……」  
 眼前にいるサージヒツジン達へトンファーを突きつけて牽制するロイドへ、すぐ後ろにいるエリィ  
が立ち上がりながら呟く。  
「……考えたくはないが、セルテオさんへボムライスを渡したのは俺だからな……」  
「つまり、このサージヒツジン達は、別の意味で人間の料理を――標的へ投げつける攻撃料理として  
の味を、覚えた訳ね……」  
 ロイドとエリィのこめかみに冷や汗がうっすら浮かぶ。そこへ、サージヒツジン六匹が、今度は波  
状で襲いかかってきた。  
「ティオ、セルテオさんの荷物を持ったサージヒツジンがどこかにいる筈だ! そいつを見つけ出し  
てくれ!!」  
 エリィと分担でサージヒツジン六匹の攻撃をいなしながら、ロイドがティオの方を向いて叫ぶ。  
「……」  
 ティオはロイドに背を向けたまま、何も言わずに歩いていく。ふらふらした足取りで、イヤリング  
状に加工したティンクルピアスをチリンチリン鳴らしながら、ランディの方へ寄っていく。  
(まさか……)  
 中に詰まった大量の香辛料で標的の精神を変調させるボムライス。ティオの着けているティンクル  
ピアスでは、それを防ぐ事は出来ない。  
 息を呑むロイドの前で、ティオが魔導杖をランディの背中へ振り下ろした。  
 扇状に広がる光の軌跡が、ランディの背中をもろに抉っていく。  
「うをっ!?」  
 後ろから突然きた衝撃波にランディが仰け反った瞬間、彼の目の前に立ちはだかっていたサージヒ  
ツジン――ロイドやエリィを囲んでいる六匹に比べて、身体が一回り大きな個体――が地面を蹴って  
飛び出した。  
 ランディがとっさに振るったスタンハルバードの刃を易々とかいくぐり、大きなサージヒツジンが  
距離を詰める。尻尾一本で立ち上がると、連続蹴りの体勢に入る。  
 が。  
「ちぃっ!」  
 ランディが顔をしかめてクラッシュボム用の手榴弾を掴んだ途端、彼の腹めがけて伸ばしていた足  
を横にずらした。  
 大きなサージヒツジンの足が、ランディの手からクラッシュボム用の手榴弾を弾き飛ばす。  
 誰もいないエリアにクラッシュボムが炸裂し、広がった黒煙は空しく消えていった。  
(何て奴だ……あのタイミングで弾きやがった……!)  
 すぐに距離をとった大きなサージヒツジンを睨んでランディが歯噛みする。  
 体格や筋力は勿論の事、とっさの判断力と反射神経も通常の魔獣を超えている。毛皮の中身はベテ  
ラン猟兵でしたと言われても驚くどこかむしろ納得できるレベルだった。  
(さらにあと一匹、攻撃料理を持ったサージヒツジンの伏兵か……)  
 ボムライスの扱いの的確さから考えれば、目の前にいる大きなサージヒツジンと同レベルの知能と  
判断力がある。もしかしたら、そいつが群れのリーダーであるかもしれない。  
「少し油断してた……と言ったらちと厳しいかな、これは」  
 後方で混乱中のティオがふらふら彷徨っている足音を聞きながら、ランディはスタンハルバードを  
構え直した。  
 
「――エリィ! ティオへレキュリアを頼む!」  
 ロイドが意を決して叫ぶと、両手を胸の前に交差させ全身の筋肉を震わせる。  
 エリィも覚悟を決めた顔で頷き、銃からエニグマに持ち替えた。  
「エニグマ、駆動……治癒モードの発動展開……!」  
 エリィの元で風が吹き、彼女の全身が仄かな光に包まれる。  
「キキッ!?」  
 ロイドとエリィを取り囲んでいた六匹が喚声のような鳴き声をあげ、焦った様子で襲いかかる。が、  
六匹の攻撃が届くより先に、ロイドのバーニングハートが発動した。  
「うおおおぉおおおっ!!」  
 咆哮と共にロイドの全身から炎のような闘志が噴き出す。自ら熱風となって、ランディの動体視力  
ですら捉えられない程のスピードで、サージヒツジン六匹の攻撃を弾いていく。  
 サージヒツジン六匹も数の優位に任せて何度も攻撃を仕掛けるが、それ以上の勢いでロイドのトン  
ファーが唸る、回る、突き上げる。  
「無茶しやがる……」  
 だがこれで何とかなるか……と、ランディが大きなサージヒツジンの連続蹴りをスタンハルバード  
で受け流しながら考えていたら、鋭い鳴き声が少し離れた場所から聞こえてきた。  
 サージヒツジン六匹が突然下がり、包囲網の円が大きくなる。  
 茂みの一角が微かに揺れ動いたかと思ったら、弁当箱が飛び出してきた。  
 
「仰天悪戯ボックスまであんのかよ!」  
 顔を青ざめて叫ぶランディの前で、悪意の詰まった弁当箱がロイドとエリィの元で炸裂する。  
「うおっ!?」  
「きゃぁあっ!」  
 ロイドが呻く横で、エリィが悲鳴をあげて膝を折る。続けて、ピキピキッ……と薄氷がひび割れる  
ような物音が響き、エリィの全身へ石が蔦のように巻き付いた。  
 エニグマの風と光もぷつりと消え、石の中に呑み込まれる。  
「くっ……うぅっ……!」  
 苦悶の表情を浮かべて呻くエリィに、周囲にいたサージヒツジン六匹が歓声のような鳴き声をあげ  
て拍手する。  
 ちゃんすだー! とばかりに襲いかかる六匹へ、ロイドが獣のような咆哮をあげてトンファーを振  
るった。  
「エリィに指一本触れさせはしないっ!!」  
 燃える心のままにロイドが動く。全身から噴き出す炎のような闘志は怒りで更に勢いを増し、トン  
ファーから起きる風は衝撃波レベルにまで強まる。  
 が、その一方で、ロイドの顔色から血の気がひき始め、額からは脂汗が垂れ始めていた。  
「……キキッ!」  
 大きなサージヒツジンが、ロイドを見て愉快そうな鳴き声をあげる。  
(まずいな、ロイドの身体が限界に近づいてきているのに気付きやがったか)  
 エリィは仰天悪戯ボックスで石化し、ティオは開始のボムライスで混乱。ロイドもやがてはバーニ  
ングハートの反動で倒れるだろう。  
 そうなれば、後は自分一人だけ。  
「余裕でテメーらの勝利ってか……?」  
 喉の奥を揺らして笑うランディに、大きなサージヒツジンが怪訝そうな鳴き声をあげる。が、その  
視線が後方にいるティオへとんだ途端、気配から余裕めいたものが無くなった。  
「そゆ事。うちの年少は、いつまでも混乱してるようなのんびり屋じゃねぇんだよ」  
 徐々に力が戻ってきているティオの足音を背中で聞きながら、ランディがスタンハルバードを構え  
直す。普段よりも若干後ろで握ってリーチを伸ばす。  
 大きなサージヒツジンの気配が針のように尖るや、弾丸のような勢いで突進してきた。  
「あま……ぃっ!?」  
 スピードはあるが単純な動きにランディが笑って駆け出した矢先、背中に魔導杖の光と衝撃波がき  
た。  
「っ――!」  
 呼吸の出来ない痛みに歯を食いしばりつつランディは走る。こちらへ向かってくる大きなサージヒ  
ツジンへ一気に距離を詰めると、全力でスタンハルバードを振り落とした。  
 ドガァッ!! と、重たい音がたつ。ランディの振るったスタンハルバードが地面を抉り、土塊を  
周囲へ撒き散らす。  
「キキィッ!」  
 スタンハルバードの攻撃を紙一重で避けた大きなサージヒツジンが、嬉しそうに顔を歪ませて鳴く  
と、尻尾で身体を支えながら連続蹴りの体勢に入る。  
 スタンハルバードの刃は地中、ランディはスタンハルバードの柄を両手で握ったまま、たたらを踏  
んでいる。とっさに下がって避ける事も、別の得物で応対する事も不可能。  
 ……の、筈だった。  
 
 ランディが両足に力を込めると、スタンハルバードを握ったまま地面を蹴る。前のめりになった身  
体をさらに前へ傾け、足を空へ向かって勢いよく回す。  
 そして、大きなサージヒツジンの上を、スタンハルバードの柄を支えに空中で前転しながら、跳び  
越えた。  
「キッ……!」  
 大きなサージヒツジンが呻くような鳴き声をあげると、無理矢理身体を回してスタンハルバードの  
柄を蹴り、その反動を使って後ろへ飛び退く。  
「いい反応だ」  
 大きなサージヒツジンの蹴りがくる寸前に柄から手を離したランディが、空中で素早く体勢を整え  
地面に降り立つ。  
「だが……それが命取りだ!」  
 ランディはスタンハルバードを再び握ると、大きなサージヒツジンへ向かって力任せに薙ぎ払った。  
 刃から土塊を撒き散らし、スタンハルバードが唸りをあげる。大きなサージヒツジンの懐へ勢いよ  
くめり込み、刃についた衝撃増幅ユニットからゴシャァッ! と、盛大な音がたつ。  
「うぉぉおおおぉっ!!!」  
 スタンハルバードの柄を弓形にしならせ、ランディは、大きなサージヒツジンを仰天悪戯ボックス  
が出てきた茂みへ向けて弾き飛ばした。  
 茂みの中から焦る鳴き声が響いたかと思うと、そこへ大きなサージヒツジンの身体が吸い込まれて  
いく。隙間から赤紫の毛皮と赤いリュックらしきものが見えた次の瞬間、爆発が何度も発生した。  
「キキッ!?」  
 ロイドへ襲いかかっていたサージヒツジン六匹が、爆発が起きた茂みを見て固まる。  
(! 今なら!)  
 攻撃の手が止まった一瞬、ロイドは懐からキュリアの薬を取り出すとエリィの唇へ素早く流し込ん  
だ。  
 清らかな白光がエリィの身体を包み、全身に絡んでいた石の蔦を消していく。  
「ありがとう、ロイド……」  
 エリィが微笑み、導力銃を構えて立ち上がる。その姿にロイドが安堵の笑みを浮かべ、サージヒツ  
ジン六匹が絶望に満ちた鳴き声をあげた。  
 サージヒツジン六匹が、ロイドとエリィの包囲を放棄し逃げ出していく。  
「ティオすけ、お嬢、逃がすな!」  
 ランディが吠えるように叫びながら、ロイドとエリィの横を走り抜けていく。ぽんぽん跳ねながら  
遠ざかるサージヒツジン六匹の後を追いかけていく。  
 そんなランディに、ロイドとエリィが一瞬戸惑う。が、続けて近づいてくるティオの足音に――ボ  
ムライスによる混乱から回復した彼女の足音に全てを悟り、それぞれ動き出した。  
 ランディの後を追ってロイドもサージヒツジン六匹を追いかける。  
「エリィさん、三つ目の導力灯に位置指定でお願いします……!」  
 入れ替わる形で駆けつけてきたティオへエリィが頷き、薄く目を閉じて集中に入った。  
「エリィさん、行きます……!」  
「いつでもいいわ!」  
 ティオとエリィの身体が青白い輝きに包まれる。溢れた光は銀糸となって、背中合わせで立つ二人  
の足下に導力場を描いていく。  
「コールドゲヘナ!」  
 凛とした声をあわせてエリィとティオが叫んだ刹那、二人を包む輝きは閃光となり、柱となって天  
を貫いた。  
 二人がいる場所から三つ目の導力灯に天から飛来した閃光が着弾し、冷風を巻き起こしながら地面  
に導力場を描いていく。  
「キィッ……!?」  
 すぐ目の前の地面で輝く導力場にサージヒツジン六匹が焦るが、全力で逃げていた足は止まらない。  
そのまま吸い込まれるように飛び込んだ途端、導力場の光は無数の氷柱へと姿を変えた。  
 地面から生え出た無数の氷柱がサージヒツジン六匹を上空へ突き上げる。ぽぽぽぽーんと身体が浮  
かび、強制的に急停止させられる。  
 そこへ、ランディとロイドが追いついた。  
「いくぜぇ、ロイド!」  
「いつでもいいぞ!」  
 ランディとロイドが声を掛け合い、それぞれの得物を振りかぶる。  
 次の瞬間、二人のバーニングレイジが撃風と轟音を幾度も巻き起こし、サージヒツジン六匹を吹っ  
飛ばした。  
   
   
 地面に描かれていたコールドゲヘナの導力場が静かに消えていく。  
 再びのどかな雰囲気を取り戻した西クロスベル街道。その一角で、ランディとロイドが盛大に息を  
吐きながら引っ繰り返った。  
「ロイド、起きてるかー……?」  
「あぁ。何とか……限界がくる前に、闘志の抑制へ回れた、よ……」  
 青空の中を滑っていく雲を眺めながら問うランディに、ロイドがか細い声で頷く。真っ青になった  
顔には大量の脂汗が流れているが、瞳の光はしっかりしていた。  
「そりゃ良かった……」  
 ふぅっと安堵の息をつくランディの耳へ、爆音にも似た轟音が二度届く。  
「あ、やべ」  
 残り二匹の存在を思い出し、ランディが上体を起こして向かおうとしたら、先にエリィとティオが  
駆け寄ってきた。  
「二人とも大丈夫?」  
 心配そうな顔で尋ねるエリィに、ランディとロイドは右手をひらひら振って応える。  
「悪ぃな、お嬢、ティオすけ。トドメの後始末やらせちまって」  
「ううん、大丈夫よ。ランディのと攻撃料理のダメージでボロボロだったから、クリムゾンレイ一回  
ずつで済んだわ」  
 エリィが首を横に振って微笑むと、鈴蘭の刺繍が入ったレースハンカチを取り出してロイドの顔の  
汗を拭き取り始めた。  
「お嬢、膝枕もつけてやれー」  
「い、いや、そこまではいいって……!」  
 ランディの囃し立てに、ロイドがわたわた焦る。  
 その反応にランディがニヤニヤ笑っていたら、後ろからブレスの柔らかな光が降り注がれた。  
「……すいません。わたしが、ちゃんと混乱対策してなかったばかりに……」  
 振り向くランディに、エニグマを握りしめたティオが頭を下げてくる。一瞬だけ見えた瞳は涙で少  
し歪んでいた。  
「いやいや、まさか魔獣が攻撃料理を使ってくるとは想定外だったんだし、しゃーねーだろ」  
「そうね。私も、石化対策をちゃんとしてなかったばかりに、ロイドに無茶させちゃったわ」  
 ランディが返せば、エリィもロイドの汗を拭いながら言葉を続けてくる。  
「いや、そもそも俺がボムライスをセルテオさんに渡さなければ、こんな事態を招かなかったと思う  
んだ」  
 更にロイドまで話にのっかってきた。  
「ティオすけが悪いってんなら、俺達も悪い。俺達が悪くないなら、ティオすけも悪くない……ま、  
そーゆーこった」  
 まごつくティオへ、ランディがからから笑って言うと、後ろ頭についた土を手で払い始める。  
「……」  
 ティオは、すいません、と動きかけた唇を一度止めてから、三人へ礼を述べた。  
「ありがとうございます……」  
 ティオの顔に浮かぶ微笑みに、三人も嬉しそうに安心したように笑い返す。  
 ぽかぽか陽気に相応しい雰囲気に包まれる中、ふとランディが表情を変えた。  
(あれ、そういや……)  
 手を首の後ろにあてたランディがティオの方を向く。  
 見つめられたティオがライトブルーの髪の毛を微かに揺らした時、ランディの首の後ろがチリっと  
痺れた。  
「あのね、ランディ。疲れている所悪いんだけど、ロイドに肩を貸してあげて貰える?」  
 ランディが振り向くと同時に、エリィが申し訳なさそうに請うてくる。  
「あ、いや大丈夫。一人でも歩けるよ……」  
「無茶すんな。気ぃ失わないようにすんので精一杯なんだろ」  
 よろよろと起きようとするロイドを、ランディは手で制して立ち上がった。  
「つーか俺も、今の戦闘で武器がイカれたっぽくてな。お前に肩貸す名目でもないと、帰り道の戦闘  
をサボれねぇんだよ」  
 ため息つきながらランディが右手のスタンハルバードを軽く振ると、先端の衝撃増幅ユニットの辺  
りからガシャガシャと怪しい物音がたつ。  
「ははっ……それじゃあ遠慮無く肩を貸して貰おうかな」  
 ロイドが力なく笑うと、ランディの肩へ寄りかかる格好で立ち上がる。  
 街道に漂うのんびりした雰囲気に合わせるように、四人がゆっくり歩き出した。  
 
※※※  
 
 時が流れ、暖かな陽気と光が消えて夜になる。  
「……っと、これで大丈夫かな?」  
 ドライバーを軽やかに回して衝撃増幅ユニットのネジを締めると、ランディは、自室のソファーに  
座ったままスタンハルバードを軽く振った。  
 ヴゥン、と、虫の羽音のような振動音が刃の辺りから聞こえ、小刻みに揺れる風が赤茶色の髪を撫  
でていく。  
「やれやれ……部品の取り替えだけで済んだとはいえ、結局オーバーホールに近い作業になっちまっ  
たなー」  
 スタンハルバードをソファーの脇に置くと、ランディは肩を軽く叩きながら息をついた。  
 ふと時計を見やると、いつもなら寝酒を飲んでる時間帯だ。  
「……今日のは随分と埃と金属臭の強い酒だなオイ」  
 テーブルの上に散乱する工具と土埃と壊れた部品を見下ろして自虐的に笑った後、ランディは首の  
後ろを撫でた。  
(あれは、やっぱり気のせいじゃなかったな……)  
 ランディの瞳と唇に優しい笑みが自然と浮かぶ。  
 首の後ろに手を当てたままランディが時計の秒針の進む音を聞いていると、コンコンとドアがノッ  
クされた。  
「? 開いてるぜー」  
 ランディが首の後ろから手を離して呼びかけると、ティオがおそるおそる扉を開けて入ってくる。  
 いつも頭に装着しているヘッドセットはなく、ベージュ色のコットン布地にみっしぃの顔が大きく  
プリントされたルームワンピースを着ていた。  
「あの……昼間の戦闘で、わたしの魔導杖の攻撃を受けた背中は大丈夫かと心配になりまして」  
「ん? ああ、へーきへーき。さっき風呂入った時に鏡でチェックしたからな」  
「そうですか……それなら良かったです」  
 ランディがふざけ半分に両腕に力こぶをつくって笑うと、ティオもつられて少しだけ唇を綻ばして  
きた。  
「つーか、ティオすけこそ大丈夫か? 今日の夕食やら報告書やら全部一人で請け負って」  
「大丈夫です。あの戦闘で皆さんの負った負担に比べたら軽いものです」  
 両腕をおろしてソファーから身を乗り出すランディに、ティオは淡々と答える。  
 本来の当番や担当であったエリィやロイドは固辞したのだが、それ以上にティオが頑として譲らず、  
結局、『まぁ本人がやりたいっつーなら気の済むまでやらせてやれ』と、課長が仲裁に入って決着が  
ついた。  
「あの……この前は、すいませんでした」  
 時計の秒針が数回進んだ後、ティオが膝におでこをくつける勢いで頭を下げてくる。  
「わたしが、本当に大切な事を見失っていたばかりに、ランディさんを傷つけてしまいました……」  
 ライトブルーの髪の毛先が床を払っていく中、ティオは、もう一度、すいませんでしたと頭を揺ら  
した。  
「んなの気にすんなって」  
 ランディはソファーからたつと、頭を下げたまま動かないティオの前へ膝をつく。  
「ティオすけが嫌がってんのに強行したら、俺は教団の奴らと一緒になっちまうだろ」  
 右手でティオの肩を優しく叩くと、左手で彼女のライトブルーの髪を優しくすくって毛先を床から  
浮かせてあげた。  
「何で……そんなに怒ってないんですか?」  
 むしろ、とても上機嫌で嬉しそうなランディの雰囲気に、ティオがおそるおそる頭を上げる。  
「もしかして、わたしのお願いは迷惑だったのでしょうか……」  
「んな訳ゃねーだろ」  
 暗い顔して悲観するティオへ、ランディは時計の秒針が動くより早く斬り捨てた。  
 
「……昔から、さ。後ろで誰かが何かしたり近づいてくる直前、首の後ろが軽く痺れるんだ」  
 ランディが首の後ろに手をやって語りだす。  
「それは敵だけじゃない。どんなに信頼している仲間でも、家族でも、そうだ」  
 ミレイユやカーターやラフィなど、警備隊時代の同僚達でも。  
 ロイドやエリィ、課長やキーアが相手でも。  
「どんなに止めようと思っても、油断が出来ない。信頼より先に警戒がくる。首の後ろに痺れが走  
る」  
 それは戦場と殺し合いに生きる猟兵ならば必須の能力だろう。でも、ここは戦場ではない。  
「……最近は、もうどうしょうもねぇなと諦めてた。生まれついての癖だなこれはと開き直ってた」  
 だけど。  
「その首の後ろの痺れが、ティオすけ、お前にだけは起きなかったんだ」  
 そう言った時のランディの顔に、満面の笑みが浮かんだ。  
「あの戦闘の時、混乱したお前に二度背中をボコられても、首の後ろは痺れなかった。生まれて初め  
て、俺ん中で信頼が警戒に勝ったんだ」  
 何もかもが中途半端だった存在に、初めて、強く想う事で得られるモノが手に入ったんだ。  
「だからティオすけ……お前には感謝してる。俺に、信頼を与えてくれたお前にな」  
 ランディは、今まで首の後ろに回していた手でティオの頬を撫でると、笑顔で告げた。  
   
「ありがとな、ティオすけ」  
   
 ランディの暖かな声は、ティオの中で大きく膨らむ。今までずっと、申し訳なさと自己嫌悪で凍り  
付いていた身体の芯が暖かくなって、雪解け水のような涙が目端から零れる。  
「っ……!」  
 ティオは慌てて涙を拭うと、ランディから背を向け、エニグマを取り出した。  
「? ティオすけ??」  
「エニグマ駆動……完全防御システムの構築と展開を開始……」  
 戸惑うランディを置いて、ティオは導力魔法のアダマスガードを発動させる。  
 金色の障壁がティオの身体を包み込んだかと思うと、何事もなかったかのように消えていった。  
「ランディさん、わたしの背中をスタンハルバードで思いっきり薙ぎ払って貰えますか?」  
 背を向けたままティオが請う。  
「へ? いや、おま、昼間の件なら気にすんなってさんざん言っただろ!」  
「違います。昼の件を詫びるつもりなら、そもそもアダマスガードをかけたりしません」  
 声を荒げるランディに、ティオは背を向けたまま首を横に振った。  
「わたしも知りたいんです。ランディさんが得たモノを」  
 今までの人生において、ずっとついて回ってきた壁を乗り越えた想いを。  
「もしかしたら、それは……」  
 ティオは言いかけた声を止めると、背筋を伸ばし、両手を胸の上に置いて、身体の芯に灯った温も  
りを抱き締めた。  
 ティオの瞳が自然と閉じられ、身体から気負いが抜ける。  
「ランディさん、お願いします」  
 改めて請われて、ランディが少し迷った表情で頭を数度掻いた後、ソファーの脇に立てかけてあっ  
たスタンハルバードを手にとった。  
「んじゃ……いくぞ」  
 宣言と同時に、強い風が室内を巡る。  
 ティオの背中を抉るように通過するスタンハルバードの刃にアダマスガードが反応し、衝撃波を相  
殺しながら砕け散った。  
 
 アダマスガードの光が周囲に散らばり消えていく中、ティオは唇を綻ばす。身体の芯に灯った温も  
りが、ほんの少し強まったのを感じて。  
「ティオすけ〜、いくらアダマスガードがあるって言っても、ちったぁ身構えた方がいいぞ」  
「ランディさんこそ、昼の戦闘では混乱しているわたしに対してノーガードだったのに、それを言う  
のですか?」  
 困惑しきりの顔でスタンハルバードを近くの壁に立てかけるランディに、ティオは目を開きながら  
振り向く。  
「うっ……」  
 指摘されて息を詰まらせるランディに、ティオはにっこり笑いながら言った。  
「確かめたかったんです。わたしも、ランディさんをどれだけ信頼しているのかを」  
 そして解ったんです。  
「わたしの信頼も、きっとランディさんと同じ。もし昼の戦闘の立場が逆でしたら、きっとわたしも  
ランディさんと同じ事をしていました」  
 身体の芯に灯った温もりは全身に広がり、ティオを優しく包み込む。どこまでも清らかで柔らかな  
雰囲気を外へ放っていく。  
「もし、許されるのなら、わたしはそれを愛と呼びたいです」  
 顔が自然と優しい笑みを浮かべ、溢れ出る想いを小さな唇から紡がせる。  
「それはロイドさんやエリィさんのような愛とは全然違うものです。もしかしたら、わたしは、また  
根底から間違えているかもしれません」  
 恋人同士になる努力をせず、世界で一番優しい音楽だけを求めていた頃のように。  
 過ちに気付かぬまま間違ったアプローチをして逃げ出した夜を思い出して、ティオの身体がブルっ  
と震える。  
「信頼は信頼であって、決して愛になる事はないのかもしれません。そもそも欠けた存在であるわた  
しが愛を得る事など不可能なのかもしれません……」  
 次々と出てくる悪い考えに、ティオの手足の先がピリピリ冷たく痺れだす。蛇が這いずるように、  
身体の中央へ向かって伸びてくる。  
「正直、それはとても怖いです。でも、今は……」  
 身体の芯に灯った温もりまで掻き消そうとしてくる冷たい痺れを前に、ティオが、胸の上に置いた  
両手をぎゅっと握りしめて叫びかけた刹那、ランディの手がティオの頭に乗っかってきた。  
 彼の大きな手に包まれて、ティオの中から冷たい痺れが霧散していく。  
「ティオすけ。お前はマジメすぎんだよ」  
 知らぬ間に俯いていた顔をあげるティオへ、ランディは優しげな光をたたえた眼差しで言ってきた。  
「どんなに他人を憧れたって、その他人に俺達は絶対なれねぇんだ。当然、愛の形だって同じだ。他  
人のがそのまま自分に適用できる訳がない」  
 それにな、と、ランディが続ける。  
「俺達ゃ神様なんかじゃねぇ。結末を見越しての行動なんか出来る訳がない。その時その時を積み重  
ねて進むしかない。たとえその結果が……積み上げてきたものが過ちだったとしても、そうして生き  
ていくしかないんだ」  
 唱えるように響く彼の声は、砂漠に降る雨のようにティオの心へ吸い込まれていく。握り締めてい  
た両手は自然とほぐれ、知らぬ内に強ばっていた表情も再び穏やかなものになる。  
「……さて、ティオすけ」  
 ランディは咳払いを一つ入れると、ティオの瞳をじっと覗き込む。  
「もし、お前が構わないってんなら、俺も、この信頼を愛と呼びたいんだがいいか?」  
 少しだけ首を傾げて問われた途端、ティオは、身体の芯に灯っていた温もりが一気に溢れ出すのを  
感じた。  
   
「ぁ……」  
 身体の震えが止まらない。とても暖かいのに身体の震えが止まらない。  
「は……い……」  
 頷く声も掠れてしまう。満面の笑みを彼へ贈りたいのに、顔の筋肉がひきつって上手く笑顔をつく  
れない。  
 でも、彼は、嬉しそうに笑って、頭に乗せたままの手で優しく撫でてきてくれた。  
   
   
「まぁ当然、結末が過ちになんかならんように最大限努力はするさ」  
 片手でティオの頭を撫でつつ、もう片方の手で自分の胸元まで彼女を抱き寄せ、ランディは誓う。  
「わたしも頑張ります。ただでさえ、一度は盛大に間違えてしまったのですから。そんな事、もう繰  
り返したくはありません」  
 涙で少し潤んだ瞳でティオがランディを見上げると、頭を撫でていた彼の手が顎まで滑り下りてき  
た。  
 近づいてくる吐息の気配に、ティオの目が自然と薄く閉じられる。  
 ランディの赤茶色の髪の毛がさらりと零れ、ティオの肩へ抱きつくように触れてくる中、二人の唇  
が重なり合った。  
 お酒の匂いのしないキス。なのに、今まで彼と交わしてきたどんなキスよりも、身体が火照って鼓  
動が強まる。  
 その熱と鼓動の変化が間違いじゃないと教えてくれて、ティオは喜びで胸が一杯になる。  
 突き動かされるように、両手でランディの頬と耳へ触れると、重ねた唇から舌を突き出した。  
「っふ……」  
 指先で彼の耳をなぞったり耳たぶを優しく揉んだりしながら、ティオが口と舌を咀嚼するように動  
かす。感覚をフル解放して彼の反応する箇所を探して見つけて、そこを精一杯撫でて舐めて摘んで触  
る。  
 ランディも負けじと唇と舌をティオの口や歯や舌へ這わせつつ、両手を耳から顎・首筋を経て胸骨  
まで滑らすと、また顎と首筋を通りながら耳たぶまで撫で上げるを繰り返す。  
 時折生まれる隙間から二人の吐息と唾が漏れ、口端をつたって垂れていく。  
 お互いの髪が相手を求めるように揺れて交わり、二人の顔の横で赤茶色とライトブルーが混ざり合  
う。  
 時計の秒針が刻む音にピチャクチャと唾が混ざる音が加わったかと思うと、室内で響く度合いが  
徐々に大きくなってくる。  
 やがて、零れた唾液が銀糸のように伸びて床に落ちた頃、二人が手を止め唇をそっと離した。  
「っ……ふぅっ、ふぅ……」  
 真っ赤に染まった顔で、ティオが切なげに息をつく。胸骨から上の部分だけをいじくられていただ  
けなのに、履いているパンツの中はオイルの中に浸ったかのようにヌルヌルして、足をちょっと動か  
すだけで、ぐじゅ……と布からいやらしい音がたって太股の内側に生暖かい愛液が垂れてしまう。  
「ティオすけ、大丈夫か? 嫌とか、やっぱ止めときたいっつー気持ちはねぇか?」  
 少し心配そうな顔で確認してくるランディに、ティオは静かに頷く。  
「大丈夫です、問題ありません……」  
 むしろ、身体がドロドロに溶けてしまいそうな程に熱いので、早く着ているモノを脱ぎ捨てたい位  
だった。  
「……そっか」  
 ランディが安心したように笑うと、ティオのルームワンピースの襟に指をかけ、ん? とくぐもっ  
た声をあげる。  
「このワンピ、被り物か?」  
「はい……すいません」  
 こんな事ならこの前のルームワンピースを着てくれば良かったとティオが少し後悔していたら、ラ  
ンディがニヤっと怪しい笑みを浮かべてきた。  
「ならば一気に剥ぎ取るのみっ」  
 いつもの軽い調子で笑う声が聞こえたと同時に、ティオの視界と身体が急回転する。  
「きゃっ」  
 驚いて声を漏らすティオをランディはお姫様抱っこで軽々と抱き上げると、そのままベッドまで歩  
き始めた。  
 足音のリズムに合わせてティオの身体は上下に揺れ、耳には彼の鼓動が流れ込んでくる。  
(ぁ……)  
 二つの音と振動に、ティオは、教団のロッジから助け出された時の事を思い出す。あの時も、あの  
人にこうして抱っこされながら、光のある場所へ連れ出されたのを思い出す。  
(ガイさんといいランディさんといい、どうやら、わたしは、兄属性の人がキーパーソンになる運命  
のようですね……)  
 ティオがランディに隠れて微笑んでいたら、足音が止まり、ルームワンピースの裾を掴まれた。  
 
「そ〜らよっと!」  
 ふざけた調子でランディが叫ぶと、掴んだルームワンピースを思い切りまくりながらティオをベッ  
ドの上へ落とす。  
「きゃっ!?」  
 どさっ、と布が擦れあう音とベッドのスプリングが軋む音がティオを揺らし、ルームワンピースに  
プリントされた特大みっしぃの顔が眼前を通過していったかと思うと、身体が急に涼しくなった。  
 ベッドの上で、ティオが下着姿になって寝転がる。  
「おっ、やっぱり下着もみっしぃか」  
 みっしぃのイラストが布地にプリントされたブラとパンツを見て口笛吹くと、ランディは剥ぎ取っ  
たルームワンピースをソファーの方へ放り投げた。  
「やっぱこっちの方がティオすけらしいや」  
 朗らかに笑いながらベッドに乗ると、ランディはティオの上に被さる。両手の人差し指をブラのス  
トラップに引っかけると、掌の付け根部分をブラのカップに押しつけた。  
 ささやかな丘陵を描く膨らみが、カップごと圧されて形を変える。布地の摩擦と彼の手の暖かな重  
みは、知らぬ間に固く尖っていたティオの乳首にこそばゆい刺激を与えてきた。  
「んっ……」  
 ティオは反射的に肩を竦めて吐息を漏らす。そこへ、彼の人差し指が、引っかけていたブラのスト  
ラップを指先で弾いてきた。  
 ぱちん、と、ストラップで両脇を軽く叩かれる音と感触は、ティオの中で細波に変わる。  
「っ……!」  
 ティオが思わず瞼を揺らして震える中、細波に押し出されるように履いているパンツの股部分から  
愛液が滲み出た。  
 ランディは、もう一度両手の人差し指をブラのストラップに引っかけると、ブラのカップに乗せた  
掌の付け根部分を動かし始める。  
 布地にプリントされたみっしぃの絵柄が、彼の掌の付け根に圧され揉まれて姿が歪む。完全に固く  
なって尖った乳首が、ブラの中で曲がって潰れて歪む度に、微弱な電流にも似たくすぐったさを体中  
へ吐き散らかしていく。  
 時折、彼の人差し指がストラップをぱちんと弾いて、与える刺激に変化をつけてきた。  
「んっ……ん、ぁ、っ……」  
 甘えるような声を出して、ティオが首を左右に振って悶える。  
 くすぐったくて気持ち良くて、そして焦れったくてたまらない。もし彼の手が直に胸を触れてきた  
らどうなるのだろうという疑問と共に、早くそうしてきて欲しいと願ってしまう。  
「ふっ、ん……んんっ……」  
 でも口から零れるのは、ブラと一緒に乳房と乳首をいじられ揉まれるこそばゆさが変化した声。下  
の口から零れるのは、原始的な反応。汗と愛液で濡れきったパンツは股へ張り付き、秘部の形にそっ  
て凸凹を浮かべていく。  
 そんな自分の一挙一足を、彼は少しでも見逃すまいと唇を結んで凝視してくる。その強い眼差しに  
射貫かれる感覚も、焦らす動きと合わさってティオを更に感じさせて、心臓と頬と下腹部が否応なし  
に熱くなる。  
「ん、あっ……ぅっ……んっ……」  
 さらさらと、鈴のような音をたててシーツの上で踊るライトブルーの髪の毛が、キスの間ずっと絡  
み合っていた赤茶色の髪の毛を探して求めるような動きが、ティオの今の意思を一番現していた。  
「あっ――!」  
 ふいに一際強い声がティオの口から出る。パンツの股の部分が微かに盛り上がり、愛液がごぽりと  
染み出てくる。  
 その声が聞きたかったとばかりに両手を離したランディの前で、ティオはベッドへゆっくり沈んで  
いった。  
「はぁっ……はぁ、はっ……」  
 涎でテカる唇で短い呼吸を繰り返しながら、ティオが歳月が染み込んだ古い天井をぼんやり見てい  
ると、ランディがベッドから降りた。  
 視界の外から、ランディが着ている服のボタンを外して脱いでいく音が聞こえてくる。  
 ティオが顔を横へ倒すと、丁度ランディが上着を脱ぎ終えた所だった。  
 室内の明かりに照らされて、スタンハルバードを易々と振るえる程に鍛え抜かれた上体の筋肉が肌  
の上で微かな陰影を描く。それはまるで一つの彫刻作品のよう。動きに合わせて揺れる赤茶色の髪や、  
体のあちこちに残る古傷が、装飾品のように彼の身体を一層惹き立てる。  
(ランディさんが女性のグラビアを見ている時もこんな気持ちなのでしょうか……)  
 新たな発見にティオが胸をときめかせる中、ランディがズボンを脱ぎ、下着のボクサーパンツを脱  
いだ。  
 
 布の抑圧から解放された彼の一物が、風を切る勢いで飛び出し、屹立する。  
「――!!!」  
 生まれて始めて見る男の部分に、ティオの中で恥ずかしさが噴火した。  
(な、な、な……!!??)  
 データ上の知識では知っていたし、模写された映像データも見た事がある。が、現物の生々しい迫  
力は、そんなものなど薄っぺらいわと言わんばかりに、ティオの理性を根こそぎ吹っ飛ばす。  
「……暗くした方がいいかな、こりゃ」  
 完全にパニクってあわあわしているティオの様子に、ベッドへ戻ろうとしていたランディも少し恥  
ずかしくなってきたのか、人差し指で頬を軽く掻きながら言うと、室内灯のスイッチがある方へ顔を  
向ける。  
(あ……!)  
 そのまま遠ざかろうとするランディに、ティオは前の夜を――帰ってくれと言われた時の彼の背中  
を思い出す。  
 ベッドから転げ落ちる勢いで彼の背中へ飛びつくと、爪を食い込ませる勢いでしがみついた。  
「このままで大丈夫です、大丈夫ですから……!」  
「いやでも、そこまで恥ずかしがられると、俺もちょーっとやりづらいっつーか……」  
 捕まえた背中に頬を強くくつけて請うティオに、上からランディの困った声が返ってくる。  
「なら、わたしが、恥ずかしい気持ちを落ち着かせれば解決しますよね?」  
「んー……まぁ、そういう事になるかな……」  
 少し考え込むような間の後に、ランディは認める。  
「けどよ、ティオすけ。そういうのって簡単に出来るもんか?」  
「出来ます。だからベッドの上に足を乗せて座ってください」  
 訝るランディにティオは声を強くして告げた。  
(……まぁ、とりあえず本人の気の済むようにしてみっか)  
 少し迷ってからランディがベッドへ両足を乗せて座った途端、腿の上にティオが跨り、そのまま顔  
を落として覆い被さってきた。  
 ライトブルーの髪がランディの腰を覆い隠し、彼女の身体や腕の重みが腿の上に乗っかってくる。  
 屹立した男根に暖かい風が――ティオの吐息がかかったかと思うと、亀頭が唇で挟まれた。  
「!? ちょ、おまっ!?」  
 焦るランディを無視して、ティオは彼の男根を呑み込んでいく。ぷっくり膨らんだ亀頭部分、血管  
が蔦のように絡んでいる竿の部分、その二つの境目に線引くように在る筋と凹み。それらの熱と感触  
を、ティオは自身の唇と舌と口の裏でしっかり味わって、情報として取り込んでいく。  
 一方で、情報過多にならぬ程度に感覚を解放して、ランディの反応も探る。彼の分身ともいえるこ  
の部分のどこに触れていけば良いのかアナライズしつつ、男根を根元まで呑み込もうとした矢先、喉  
を亀頭が押してきた。  
 とたんに吐き気を催し、ティオは慌てて口から男根を引き抜く。  
「す、すいません……」  
 けほけほむせながら謝ると、落ち着いた頃合いをみて再び彼の腰元へ覆い被さる。  
 下唇に舌をのせて彼の亀頭を咥えようとした寸前、  
「いや、ちょ、待てっ! ティオすけ!」  
 ランディが大慌てで止めてきた。  
 
「ティオすけ、お前、何で恥ずかしいのを克服する為に、めっちゃ恥ずかしい行為に走るんだ? そ  
の辺、頼むからオニーサンに解るよう説明してくれ」  
 上体を起こしたティオへ、ランディが頭を下げてくる。  
 ティオは、はい、と頷くと、素直に述べた。  
「わたしなりに現状を分析した結果、今までの人生で遭遇した事のない対象物に対して何も解らない  
という恐怖が、元来の気持ちの昂ぶりと合わさって、常態を失する程の羞恥心を起こしたとの結論が  
出ました」  
 ならば。  
「わたしなりに対象物……この場合はランディさんのアレですね……を調査し把握すれば、混乱する  
気持ちも収まり、ついでにランディさんへご奉仕も出来て一石二鳥だと思ったのです」  
 淡々と、でも堂々とティオが述べた途端、ランディの顔が盛大にひきつった。  
「ティオすけ、お前って……セシルさん並の理論展開する事があるんだな……」  
 笑いたいけど笑えず困っている顔でぼやくランディに、ティオはショックを受ける。  
「そんな、わたし、そこまで天然じゃありません」  
 頬を膨らませて顔で軽く睨むと、ティオはぷいとそっぽ向いた。  
(とても良いアイデアだと思ったのに……)  
 なのに相当な――ロイド関係では特に強烈な――天然ぼけを炸裂させるセシルさんと同クラスと言  
われるなんて。  
 ティオがしょんぼりしていたら、後ろからランディが抱きしめてきた。  
「悪ぃ悪ぃ。ティオすけもティオすけなりに考えての事だったのにな」  
 ティオの耳元に顔を近づけ、ランディが熱っぽい声で囁く。動きに合わせて赤茶色の髪の毛が零れ、  
ティオの耳や肩をあやすように撫でてくる。  
 密着する彼の温もりと匂いは、ティオの心の曇り空を一気に晴らしてきた。  
「いいですよ。別に怒ってませんから」  
 肩に触れたランディの髪の毛を人差し指で遊びながら、ティオは唇を少しだけ綻ばす。  
「そりゃ良かった」  
 ランディも安心したように笑うと、ティオの耳たぶを軽く噛んでから、抱きついていた手を解いた。  
「所で……調査して、恥ずかしさは無くなくなったか? ティオすけ」  
 いつもの軽い調子の声で顔を覗き込んでくるランディに、ティオは正直に頷き、ですが、と続ける。  
「まだ調査が足りません。もっともっと知りたいです、把握してみたいです」  
 いいでしょうか? と、ティオが小首を傾げて尋ねた途端、解放し続けている感覚が、ランディの  
頬の熱が一気に高まったのを感知した。  
 それを了承の合図と受け取り、ティオは再び顔を落とす。竿の中程を右手の指で軽く掴むと、さっ  
き呑みきれなかった根本部分を舌で丁寧に舐め始めた。  
 裏筋や血管の膨らんだ箇所を舌で舐めていく度、頭上から聞こえる彼の呼吸音が乱れる。男根もピ  
クビュクと脈動し、接触しているティオの舌や唇を押し返してくる。  
(気持ち良いようで何よりです……)  
 ティオは、竿を掴んでいた右手を睾丸の下に差し入れると、根本から亀頭にかけて一気に舐めあげ  
た。  
「……!」  
 ランディの呼吸音が大きく乱れたかと思うと、睾丸が引きつけのように震える。  
 男根も驚いたように脈動したかと思うと、内部の熱反応に変化が出た。  
 
「……?」  
 ティオが男根をしげしげと眺めていると、鈴口から透明な液がじわりと染み出す。  
「我慢汁、というものですか……」  
 ティオは頬を嬉しさで緩ませると、亀頭全体に垂れていく液をペロっと舐めた。  
 強い塩味と苦味が口に広がるのを感じた途端、ティオの頭の中に霞がかかり、下腹部が沸騰する。  
(あっ……)  
 パンツの布地を押して零れ出た愛液の感触に背中をぞくぞく震わせながら、ティオは上から男根を  
呑み込み始めた。  
 同時に、睾丸の裏に回した右手の指をわきわきと動かし始める。柔皮の向こうにある、ころんとし  
た珠の感触を、指先で優しく撫で上げ転がす。  
「っ……」  
 頭上から奥歯を強く噛み合う音が微かに聞こえたかと思うと、彼の鼓動と体温が一気に高まった。  
(すごく敏感なんですね、ここは……)  
 舌と唇を竿と亀頭の間へ行き来させながらティオは右手でいじくっている睾丸へ視線を飛ばす。と、  
解放し続けている感覚が、睾丸の内部で何かが蠢くのを察知した。  
「ティオすけ、流石にそろそろヤバい……!」  
 同時に、ランディが少し苦しげな声で告げてくる。  
(あぁ、出るという事ですね)  
 ティオは睾丸内部の蠢きへ視線を固定したまま、男根を咥えていた唇を勢いよく引き抜いて身体を  
起こす。  
 頭上でランディが苦しげに息を漏らしたかと思うと、睾丸内部の蠢きがさらに強まった。  
「それじゃあ調査の仕上げに入りますね」  
 快楽の熱で溶けきった心と裏腹に、ティオは淡々とした口調で告げると、左の親指と人差し指で竿  
の根元を掴み、睾丸の下に添えていた右手で竿を思い切りしごき始めた。  
 ランディの呼吸がさらに苦しげなものになり、睾丸内部の蠢きが溶岩のように煮立って勢いを増し  
てくる。男根自体の脈動も速まり強まり、ティオの右掌を何度もノックしてくる。  
 それらの変化を、ティオは解放した感覚でじっと見つめ続ける。彼の熱にあてられるように、ティ  
オ自身の身体もグツグツ茹だり、股下がヒュクヒクとひきつけを起こす。ぐっちょり濡れたパンツが  
更に濡れて、臍やお尻の方にまで染みが広がっていく。  
 そしてやがて、解放を続けるティオの嗅覚が新しい匂いの気配を捉えた刹那、ランディが腰を震わ  
せた。  
 睾丸内部にあった蠢きが爆発し、男根へ一挙に流れ込む。  
 予想以上のスピードにティオが驚き息を飲む前で、亀頭がブルッと震え、鈴口の部分が白く染まっ  
た。  
 びゅく、びゅくびゅくっ! と、鈴口から迸った白い精液が、ティオの胸元からお臍へ降り注ぐ。  
雪のように白い彼女の肌を、色欲の白で汚していく。  
「っ――!」  
 火の玉のように熱く勢いのある色欲の礫が肌にぶつかってへばりついてくる感覚に、ティオもたま  
らず身体を震わす。肌についた箇所から強烈な快楽が体内へ染み込み、意思と理性がオーバーフロー  
を起こす。  
「あっ……くっ、ぅ……!」  
 口端から涎を垂らしながら、ティオが嬌声をあげて悶えていると、右掌をノックし続けていた男根  
の脈動が止まった。  
 少し遅れて、鈴口からの放出が収まる。  
「ふっ……はっ、はぁっ……はぁっ……」  
 お互い荒い息をつきながら、ランディとティオが身体の力を抜く。男根を握っていたティオの手が  
するりと抜け、シーツの上に力なく投げ出される。  
「よいデータがとれましたー……」  
「データって何のだよオイ」  
 はふぅと一息をつくティオへ、ランディが間髪入れずに突っ込み入れた。  
 
「……ってか、すまんなティオすけ。下着汚しちまった」  
 ランディが、ティオのブラについた白濁液を指で拭い取ると、そのまま彼女の背中へ手を回す。  
「大丈夫です。けしからんみっしぃが、さらにけしからんものになっただけですから」  
 背中のホックが外される音と感触を聞きながらティオが返すと、ランディが、そっか、と笑ってブ  
ラのアンダーベルトを掴んできた。  
 卵の殻を剥くように、ランディの手がティオのブラを外していく。ささやかな丘陵を描く乳房の中  
心では桃色の小さな乳首がピンと尖り、鼓動のリズムに合わせて切なそうに揺れていた。  
「へぇ……なんだかんだ言って、ティオすけも気持ち良くなってたんか」  
 ランディが下唇を舌で軽く舐めて笑うと、ティオの左乳首へキスをする。  
「ぁ――!」  
 ちくりと刺されるような気持ち良さにティオが声を漏らして痙攣していると、彼の左手が後ろ頭を  
撫でてきた。  
 左手でティオの頭を支えながら、ランディは彼女ごとベッドへ倒れ込む。ベッドのスプリングが二  
度三度と弾むのに合わせて、固く尖ったティオの左乳首がランディの唇へ何度も押しつけられる。  
 何度も乳首をキスされて、快楽が何度も身体を震わせた。  
「っあ……!」  
 ティオはベッドシーツをくしゃくしゃに乱して身悶える。解放していた感覚を慌ててカットし、体  
内にくる快楽への感度を下げる。  
 が、ちゃんと通常レベルにまで下げた筈なのに、彼の歯が左乳首を軽く甘噛みしてきた途端、カッ  
トする前と全く変わらぬ快楽が体内を駈け巡った。  
「んあぁっ……!」  
 頬を赤く染めてティオが声を震わせる下で、ランディが彼女の左乳首と乳輪を舌で舐め回し、唇で  
強く挟んで吸い上げる。  
 その一方で、右手を彼女の股下に回すと、下腹部と秘部を隠しているパンツを一気に引き抜いた。  
 ティオの両腿の内側に愛液を擦り付けながら、パンツがベッド下へ落ちていく。外気に晒された涼  
しさに、愛液の中に浸されていたティオの花弁が微かにたじろぐ。  
 それを解きほぐすように、ランディの右手が触れてくる。  
「あっ――!」  
 身体の中心を駆け昇ってくる快楽の波動にティオが目を見開いて仰け反る中、花弁のひだとひだの  
間にランディの中指が割り込み、そのままゆっくり入ってきた。  
 
 這いずるような感覚と共に、ティオの蜜壷へランディの中指がずぶずぶ沈む。同時に、ヒヨコの嘴  
のように小さな肉芽と尿道を親指で押し潰しつつ、薬指で後ろの菊花を触れるか触れないかぐらいの  
力加減でくすぐり始めた。  
「あ……! あっ、あ、んっ……!!」  
 同時多発する快楽の電流を前にティオが何度も身を震わせ悶える中、彼の左手が右乳房にのっかっ  
てくる。  
 彼の大きな手で右乳房全体がすっぽり覆われたかと思うと、尖りきった乳首を掌の凹みでコロコロ  
転がされ始めた。  
「あ! ふぁ、んぁっ! んあぁっ……あんっ!」  
 ティオが目と口を大きく開いて嬌声あげる。彼の左手の動き一つとっても、ブラ越しから焦らされ  
ていた時とは比べものにならない程の気持ち良さなのに、唇と右手まで一緒になって身体の敏感な箇  
所へ触れて蠢いてくるものだから、頭の中は快楽の情報過多で熱くなってくる。  
「あっ、あはぁ、あ、んっ、あっ……ああっ!!」  
 内蔵が全て溶けてしまいそうな程の熱がティオの身体を炙り、雪のように白い肌がじっとり汗ばん  
でくる。  
 彼の右中指を咥えた花弁からは愛液が源流のように滴り落ち、すぐ傍にある彼の右手はもとより、  
ティオ自身の股や太股、はてはベッドシーツを盛大に濡らしていく。  
 そして、根元まで入り込んできた彼の中指が、蜜壷の中を眺め回すように指先で円を描いて肉壁を  
擦ってきた途端、ティオの脳裏で花火のような閃光が幾度となく炸裂した。  
「あぁぁああぁっ!!」  
 一際大きな声をあげてティオが頤を逸らす。膝が勝手に折れ曲がり、腰がガクガク揺れ動く。中指  
と花弁の隙間から愛液が噴水のように吐き出される中、ヒヨコの嘴のように小さな肉芽は咳き込むよ  
うに痙攣し、お尻の菊花はギュっと小さく引き絞られる。  
 そんな彼女をランディは自分の体重で優しく抑えながら、唇で吸い付いた左乳首へ舌をニュルニュ  
ル這わせつつ、左手で摘んだ右乳首を爪で優しくひっかく。  
 ティオから出る嬌声のオクターブがさらに高まり、絶頂で揺れる身体の動きに合わせて、彼女のラ  
イトブルーの髪の毛がシーツの上に波紋を描いて広がった。  
「あ……ぁ……つ……」  
 ランディの中指が入っている蜜壷が一端強く引き絞られて緩んだかと思うと、ティオが、声を擦ら  
せながらベッドへ力なく身を投げ出す。  
 天井を見つめる瞳は焦点が少しずれ、口端からは涎が糸を引いて垂れていた。  
 
「ティオすけ……そろそろいいか?」  
 力と熱を取り戻した男根が起き上がるのを感じながら、ランディはティオから身体を離す。彼女の  
右乳首と唇の間で唾の橋がかかる一方、蜜壷から引き抜いた右中指の先から多量の愛液が糸を引いて  
滴り落ちていた。  
「……は、い……」  
 蚊の鳴くような声でティオが頷くと、ランディも安心と嬉しさを混ぜた笑顔を浮かべる。  
「んじゃちょっと待ってろ。今ゴムとってくるから」  
 そう言ってランディがティオから背を向けてベッドから下りようとした矢先、  
「待って、ください……」  
と、ティオが引き止めてきた。  
「? どーしたティオすけ」  
 ランディが振り向いて首を傾げる中、ティオは何かを考えるような表情で天井を見つめ、唇を数度  
動かす。  
「わたしの月経パターンと女性機能の推移を照らし合わせて計算した結果、今日の妊娠確率は17%  
と出ました」  
 かすれたままのティオの声は、不思議な程よく響いた。  
「勿論、あくまでも確率です。不測の事態で月経パターンがずれていた場合は、導き出した確率自体  
も大きく変わってきます」  
 それでも。  
「もし、ランディさんが構わなければ……そのまま、でも、いいです……」  
 絶頂の余波でとろんとしたままの目と共に告げられた言葉は、ランディの中で、心臓が引き絞られ  
る程の鼓動と熱を起こした。  
「……確率とかギャンブルみてぇな事を言われたら、のらない訳にもいかねぇなぁ」  
 ランディは、ティオの両脇に両手をあてて抱き上げると、ベッドの上に座り込む。そして、彼女の  
顎を自分の肩に乗せて身体を支えてやりながら、彼女の両足を開かせ、露わになった秘部を屹立した  
己の男根へ乗せた。  
 ずぶっ……と、愛液に濡れた花弁から微かに音がたったかと思うと、蜜壷の入口が開いて亀頭を呑  
み込み始める。  
「あぁっ……!」  
 指やクスコとは比べものにならない程の熱と質量と太さ――そして痛み――を前に、ティオがライ  
トブルーの髪の毛を揺らして切なげに顎を震わせた。  
「くっ……う、ぅう……」  
 股の位置がもっと上へ行くのではと錯覚してしまう程の痛みを、ティオは両目を強くつぶって耐え  
る。正直、全くの未通ではない身体――教団にクスコを突っ込まれた経験があるのだから、初めてで  
も痛くないだろうとたかをくくっていた。  
「ティオすけ……力を抜いて、息を止めるな……」  
 蔦が幾重にも絡みついて締め上げてくるようなティオの肉壁に理性をもっていかれそうになるのを  
堪えながら、ランディは、ゆっくりと、彼女の中へおのが一物を挿入していく。  
「っ、あっ……は、ぃつ……」  
 ティオは瞳を開いて頷くと、硬直していた身体の力を抜いて肺に長く留まっていた息を吐き出す。  
下半身が内側から裂かれていくような激痛が、ほんの少しだけ治まったような気がした。  
 
「っふ、あ……っ」  
 ティオが安堵の息を零した途端、蜜壷の最奥にある肉壁へランディの亀頭が当たり、少しだけめり  
込む。  
「っあ!?」  
 たちまち炭酸が弾け飛ぶような衝撃波が下腹部に巡り、ティオの意思や思考をグチャグチャに攪拌  
してきた。  
「あぁあっ!!」  
 瞼を大きく剥いてティオが身悶える中、花弁から愛液がトロトロ滴り、蜜壷へ入りきってない竿の  
根元部分をしとどに濡らす。  
 ランディは、開きっぱなしの彼女の口端へそっとキスをすると、右手でティオの指と自身の指を絡  
ませて握り合った。  
 彼の赤茶色の髪の毛が、ティオの頬を撫でながらライトブルーの髪へ絡まっていく。  
 衣擦れのような音をたてて交わる互いの髪の感触と、指の股と手の甲に触れてくる彼の温もりに、  
ティオは少しだけ我に戻る。  
「ランディさ……んっ……!」  
 快楽に艶めいた瞳でランディを見つめ、握り合った手にぎゅっと力を込めると、ティオは自ら腰を  
落とした。  
 入りきってなかった竿の根元が花弁の中へ隠れていく。  
 蜜壷の最奥にある肉壁が、ランディの男根によって更に奥へ押し込まれていく。  
 激痛と快楽という真逆の感覚が、ティオの中で混沌と融合していく。  
「無茶すんな、ティオすけ……!」  
 少し苦しげな声で忠告してくるランディに、ティオはいやですと首を横に振った。  
「知りたい、んです……わたしの、この場所で、ランディさんの事、を……」  
 ティオが激痛に顔の筋肉を引きつらせながら腰を揺らす。  
「ここは、赤ちゃんが通る道です……ならば、この位の融通は利く筈、です……」  
「いやでも、初めてでメッチャ痛いのを無理したってしょうがねぇだろ?」  
 いつ涙が零れてもおかしくないほど瞳を潤ませるティオに、ランディが嬉しいような困ったような  
顔で返す。  
「それに……全部呑み込まなくたって、俺の事を知る術はあるぜ?」  
 少しだけ眼光を鋭くさせて告げると、ランディはティオと重なり合ったままベッドの上へ倒れ込ん  
だ。  
 ティオの内部で男根のあたる感触が大きく変わり、その痛みと快楽に全身が内側からビリビリ痺れ  
る。  
「あぅっ……!」  
 たまらず呻くティオの左右にランディが両肘をついて己の身体を支えると、腰を繰り返し振るって  
きた。  
 ぎっし、ぎっし、とベッドのスプリングをリズミカルに軋ませながら、ランディは腰を動かす。亀  
頭から竿の中程までを使って、ティオの蜜壷を何度もしごいて押し開き、肉壁の締まりと柔らかさを  
堪能していく。  
 竿の出入りに合わせて花弁が微妙に形を変えつつ、愛液を周囲に撒き散らす。  
「あ、あぁっ! あ! んふぁ!」  
 悲鳴のような嬌声をあげるティオの脳裏では、絶頂による閃光の花火が再び炸裂していた。  
「……っと、すまん、大丈夫か?」  
 ようやく腰を止めたランディが、ティオの顔を心配そうに覗き込む。と、指を絡ませたままの右手  
をぎゅっと強く握られた。  
「もっと……教えてください……」  
 ティオが掠れた声で請う。悦楽で艶めいた瞳に、汗ばんだ頬へ乱れ髪が数本貼り付いた彼女の顔は、  
言葉と合わさって強烈な色香を放つ。  
 それを何の身構えもなく見てしまったランディは、脳を直にブン殴られるような衝撃と、下腹部へ  
の熱と血流が――それこそ立ち眩みを起こしそうなほどの勢いで――集まるのを感じた。  
 
「っ……!」  
 ランディは慌てて歯を食いしばって暴発を耐えると、ティオへ顔を近づける。  
「んな事言われると、マジでとまんねーぞ?」  
 いいのか? と笑って囁くランディに、ティオは唇を綻ばして返した。  
「信じてますから、ランディさんのこと」  
 彼女の表情と言葉は、ランディの中で僅かに残っていた理性を潰す。  
「っは……!」  
 ランディは笑うように吐息を吐き出すと、止めていた腰を再び振るい始めた。  
 蜜壷へ挿入されたままだった男根が動き出す。進み、擦って、突いて貫き、少し下がってまた潜る。  
 互いの腰と腰が深く強く触れ合う度に、ずぽっ、じゅぷっ、ぐぷっ、と卑猥な水音と飛沫がたち、  
ベッドのスプリングが呻くように軋む。  
「あぁっ! あっ、はっあ、んふあっ!」  
 身体の芯を直接えぐっていく男根の動きに、ティオが顔を真っ赤に染めて仰け反る。下腹部を裂か  
れる痛みは、彼のモノで自分の肉体が作り替えられていく悦びの気持ちを呼び起こし、上下の口が零  
す嬌声と愛液の勢いを増させる。  
「あっ! んっ、は、あ、ふぁ、あ、あぁっ!」  
 ティオの髪がシーツの上で波打つ上で、ランディの髪が振り子のように揺れ動く。時折、赤茶の髪  
の先端から汗の滴が飛び散っては、ライトブルーの髪の中へ吸い込まれていった。  
「あぁっ! あ! ふぁああ! ああんっ!!」  
 ティオの目の奥で、絶頂による閃光の連続花火があがり始める。熱と情報のオーバーフローで意思  
と理性が完全に焼き切れ、すぐ目の前にある筈の彼の顔がぼんやりしたものになってくる。  
「はぁんっ! あ!! はっ、ふぁっ!!」  
 閉じる事を忘れた口からティオが涎と嬌声を垂れ流して悶えていたら、彼の髪の毛が頬を軽く撫で  
てきた。  
 全てが曖昧になった視界の中で、彼の顔がぐっと大きくなる。かと思ったら、吐息と嬌声の上に被  
さる格好でキスをしてきて、舌と舌を絡めてくる。  
 ざらざらした舌の表面と暖かな弾力を感じた途端、ティオの首骨と頭蓋骨に岩を砕かんばかりの強  
い快楽の震えが駆け下り、それを受け取った蜜壷が絶叫をあげるように打ち震えた。  
「んっ――!!」  
 ベッドを凹ます勢いで身体を揺らすティオを、ランディの腰が容赦なく突き上げる。男根を根元ま  
で押し込んで、蜜壷の奥行きを何度も伸ばす。  
 ティオのお尻へランディの睾丸が繰り返し当たり、ぱしんっ、ぱしんっ、と、乾いた音が、メトロ  
ノームのように響きだす。  
 一方、花弁のひだから零れる卑猥な水音は、零れる愛液が少し泡立ってきた為に濁った音色へ変質  
していく。  
「んっ、ん、んんっ、ん!」  
 唇と舌を貪り合う二人の顔の横では、ライトブルーと赤茶の髪が激しいダンスを躍りながら縺れて  
いく。  
 互いを求める行為が激しさを増す中、指と指を絡めて握り合った二人の手はベッドの上にそっと置  
かれたまま、時折相手の存在を確認するように指先を軽く動かしていた。  
「ん……!?」  
 何度目になるか解らない貫きが蜜壷を抉って奥行きを伸ばしてきた時、ティオの体内で、内臓と骨  
の全てを四散させそうな程の衝撃が走る。  
「っ……!!!」  
 一瞬で視界がホワイトアウトし、眩しさに意識と蜜壷が眩暈を起こす。  
 蜜壷の肉壁が甲高い悲鳴をあげるように蠢き、その振動と刺激を間近に浴びた男根もつられて身を  
震わせる。  
 そして、蜜壷の中へ、男根が、おのが欲の塊である精液を解き放った。  
「んんんんんんんっ!!!!」  
 身体の芯へ直に浴びせられる精液の感触と熱に、ティオが塞がれた唇の中で絶頂の声をあげる。  
 肉や肌がめり込むほどに密着した股と股の間では、男根と蜜壷が抱き合って震え続けていた。  
 
※※※  
   
 それは夢の中だった。  
 ただひたすら暗い闇の中、灯りの消えたランプが転がっていた。  
   
 やがて、闇の中を転がっていたランプの前に、ほんのり小さな灯りを付けたランプが現れる。と、  
今まで転がっていたランプが、小さな灯りへ噛みつくように飛びかかった。  
   
 灯りが消える。再び暗い闇だけが世界に広がる。  
   
 でもすぐに、灯りは戻ってきた。元あったランプの中にだけではなく、今まで消えて転がっていた  
ランプの中にも光が灯された。  
   
『ああ、そっか――』  
 一連の様子を眺めていたティオの耳に、声が聞こえてくる。  
『灯りってのは、こうして増やす事も出来るのか』  
   
※※※  
 
「……」  
 自然と開いたティオの視界に、古ぼけた天井の光景が飛び込む。  
 気が付けば、上に薄手の毛布をかけられた状態で彼のベッドに寝ていた。  
(今の夢は……)  
 闇の中にあったランプの事を考えながらティオが顔を横へ回すと、すぐ隣でランディが眠っている。  
 同じベッドの中、密着した彼から伝わる体温と規則正しい寝息は、ティオの心をほんのり温める。  
彼の残滓を抱えた蜜壷も切なげに揺れ、蒸発しそうな程の熱の記憶を呼び覚ます。  
「……」  
 起こしてしまうかも……と思いながらも、ティオはランディの赤茶の髪を指でそっと弄くった。  
「ん……」  
 ランディが僅かに身動ぎ、口から声が漏れる。が、またすぐに表情が和らぎ、規則正しい寝息へ戻  
る。  
 ティオはほっと安堵すると、彼の髪から指をそっと離した。  
 やがて、ランディの寝息のリズムが乱れたかと思うと、瞼が開く。  
「おはようございます、ランディさん」  
 ランディの耳元へティオが唇を寄せて囁くと、ランディが少し驚いた顔で振り向いてきた。  
「……やっべ、俺、完全に寝入ってたんか」  
「ええ。わたしが髪の毛をいじくっても起きませんでした」  
 どこか嬉しそうな表情で頭を掻く彼に、ティオは正直に教える。  
 ランディが、え、と、目を少し丸くした後、どこか嬉しそうな顔がとても嬉しそうな顔になった。  
(良かった……)  
 そんな彼の変化に、ティオも嬉しく感じていたら、頭に彼の手がのっかってきた。  
「俺達にも出来たな。世界で一番優しい音楽」  
 ランディが、優しい声でティオに囁く。  
「――はい!」  
 素直な気持ちで笑うティオの頭をランディは優しく撫でながら、顔をぐっと寄せた。  
 乾杯でもするように、二人のおでことおでこが軽くくっつく。  
「ふふっ……」  
「ははっ……」  
 ベッドの中、お互い抱き合って見つめ合って笑い合う。その声は、部屋の中にどこまでも優しく響  
き渡っていった。  
 
 
 
 
 

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