唐突だがアルカンシェルは間違いなくクロスベルの顔の一つである、アルカンシェルがあるのとないのとではクロスベルに
来る旅行客の数は大きく変わるだろう。要はアルカンシェルに、特にスター二人に何かあると新聞にも大きく取り上げられる
だろうし、延いてはクロスベルだと「警察無能!」といわれる可能性もあるのだ。なので、アルカンシェルの共和国公演のガ
ードに警察が付いて行くのは、ある意味「やりすぎ」ではないのだ。そしてガードに付いていく警官の中でもイリア・プラテ
ィエの専属ガードにアレックス・ダドリーが、リーシャ・マオの専属ガードにロイド・バニングスが付くことになったのだ。
夜の部の公演も終了し、リーシャが控室の扉を開けるとロイドが濡れたタオルとスポーツドリンクを持って立っていた。
「お疲れ様、リーシャ。これ、どうぞ」
「ありがとうございます、ロイドさん」
冷たいタオルと冷たい飲み物、どちらも舞台で火照った体を癒してくれる。
「着替え終わったらそのままホテルに直行かい?」
「そうですね、ちょっとデパートで買いたいものがあるので寄ってもいいですか?」
今日はデパートでとある秘密兵器を買い、この朴念仁に告白し、彼女たちと決定的な差をつけてやるのだ。二人きりな上にい
つも牽制し合っている邪魔者共もいない、これ以上ないチャンスだ。共和国公演の護衛を利用した形なので少し罪悪感を感じる
が、構うものか、恋は戦争なのだ。利用できるものを利用して何が悪い。そうだ、今日の今日まで告白できなかった彼女たちが
悪いのだ。私は悪くない。
そう自己完結しロイドに問う。
「わかった、でもあと一時間程でデパートが閉まるから、普段着に着替えたらすぐに行こうか?」
「はい。じゃあちょっと待っててくださいね。すぐに着替えますから。」
そう言ってロイドと別れ、リーシャは控室を出て更衣室に向かう。
「ロイドさん、ホテルに着いたら私の部屋でちょっとお話に付き合ってもらえませんか?お酒を飲みながら」
デパートで買い物を済ませ、ホテルへの帰り道にそう尋ねる。
「いいけど、話って?」
「いろいろです。」
賛同してもらえたのはいいが、夜、女が、部屋に、誘っているというのに本当に本当にただの話だと捉えているのが忌々しい。
この唐変木め。ちなみにデパートで買った秘密兵器とはこの酒である。さすがにシラフで告白するのは恥ずかしいし、酒が回るま
でたわいもない話もする。酒の力に頼るのは卑怯?さっきも言ったが利用できるものを利用して何が悪いのだ。
「それにしても、不思議な感じだな」
会話が途切れてから、ロイドが言う。
「何がです?」
「いや、俺がリーシャを護衛しているって状況がな、リーシャは俺よりずっと強いのに」
私の裏側も知っているロイドさんはそう漏らすが、それは謙遜というものだ。
「まぁ私もまだ負ける気はしませんが、ずっと強いっていうのは言いすぎです。ロイドさんはすごいスピードで強くなってますし、
そのうち追い抜かれるかもしれません。それに私一人では勝てなくても、ロイドさんと二人なら勝てるようになる相手もいっぱいい
るんですから、頼りにしてるんですよ?」
そう言うとロイドさんは少し顔を赤くしてそっぽを向く。かわいい奴め。
そうこうしてる内にホテルに着いた。