「クロスベル解放作戦」  
クロイス親子を中心とし、大陸西部最強の猟兵団「赤い星座」や謎の結社「身喰らう蛇」の協力によって占拠されているクロスベル市を解放するための作戦だ。  
「月の僧院」と「星見の塔」を守護する結社を何とか退けたロイド達は、鐘の共鳴を止めることでようやくクロスベル市を覆う結界を消滅させることができた。  
よって明日、「黒月」やレジスタンス、星杯騎士であるケビンらの力を借りてクロスベル市に突入、市内ですでに動いているダドリーやセルゲイらと共にオルキスタワーを目指す。  
 
そんな重大な作戦を控えた前夜。  
ノエルは工房で自分の武装の確認と手入れをしていた。  
向かい側ではランディがベルゼルガーの手入れをしているようで、明日の戦いに備え細かい部品を一つ一つ丁寧に整備していくランディを見て手慣れたものだと感心する。  
その様子に影響され自分の手入れにも自然と丁寧になっていく。作戦を成功させるためにも、この作業を疎かになどできない。  
 
「あ、いたいた。お姉ちゃーん!」  
 
そんなノエルのもとへ妹のフランがやってきた。  
自分の準備を手早く済ませたフランは少しでもノエルの傍にいたくてやってきたそうだ。  
ここ最近の事件のせいでお互いに心配をかけ合っていたので、二人で話せる時間が少しうれしく感じた。本当に仲の良い姉妹だと自分でも自覚している。  
また、力が入って視野が狭くなりがちなノエルを上手く和ませてくれるようだった。  
 
 
「あーあ。お姉ちゃんと一緒にお仕事するのもこれでしばらくお預けかな…」  
 
 
ふと、フランが少し残念そうに言った。  
この作戦がどう転んだとしても、ノエルの特務支援課への出向は一区切りつくだろう。  
本当の意味でクロスベルに平和が戻るまで彼女らの戦いは終わらない。  
場所は違えどクロスベルのために各々が出来ることをしていくだろう。  
とはいえ一緒に仕事をする機会が減ってしまうことがフランにとっては残念でならないようだ。  
 
 
「ワガママ言わないの。すごく有意義な出向だったから、機会があればまた一緒に仕事できるかもしれないじゃない」  
 
「お姉ちゃんすごく楽しそうだったもんね。私も見てて楽しかったよ」  
 
「そ、そうかな?」  
 
 
短い期間ではあったが、さまざまな出来事を通じて成長できたとノエル自身も感じていた。大変ではあったが毎日が楽しかったのもまた事実だ。  
また、一度敵対してしまったことも含めてロイド達には本当にお世話になったと思う。  
たくさんの思い出と教訓を得られたことを女神に感謝した。それに…  
 
 
「それに…ロイドさんとも仲良くなれたしね!」  
 
「!?」  
 
自分が考えていたことをそのままフランに指摘され、ノエルは焦った。  
ノエルがロイドのことを気にしていたのを彼女はなんとなく察していた。  
たまに二人で恋愛話をすることもあったが、まさかここまで直球で来るとは思っておらず、ノエルの動揺も隠せない。  
 
 
こうなってしまったのも、全部ロイドのあの発言のせいだ。  
 
 
『俺が勝ったら、君は俺がもらう』  
 
 
その発言を聞いたときは誰もが耳を疑った。  
いくら天然弟貴族とはいえ、まさかそこまで大胆な発言をするとは予想していなかったからだ。  
思い出しただけで顔が熱くなるのがわかり、フランもそんなノエルの様子を楽しむように顔を覗き込んでくる。  
普段のノエルからはなかなか見られないような、まさに恋する乙女の表情だった。  
 
「ふふっ。大丈夫だよお姉ちゃん!私が協力してあげるから!」  
 
「べ、別にそういうのは…」  
 
ノエルを勇気づけようと拳を握り立ち上がったところで、工房のドアが開く音がした。  
そちらを向くとロイドが入って来たようで、フランはこれはチャンスだとロイドの方へ手を振った。  
 
「ロイドさーん。お疲れ様です」  
 
(ちょっ!フ、フラン!?まだ心の準備が…)  
 
慌てて武器の手入れを再開し、平静を装おうとする。  
手を振るフランに気がついたロイドは、まっすぐこちらに向かってくる。  
いつも通りの対応を心がけながら会話の流れに身を委ねる。  
 
「お、お疲れ様です!」  
 
「お疲れ様、ノエル、フラン。明日の作戦が迫ってるのにここはなんだか和んでるなあ」  
 
「その、すみません。武器の手入れ中にフランが入ってきちゃって…」  
 
よし、上手く対応できた!とノエルが心の中でガッツポーズをする。  
上手くフランの方に話題を振って自分は相槌を打ちながら話を進めた。  
フランはいつもと変わりなく話しているようで、一先ずは安心できるようだった。  
三人でしばらく談笑し、ノエルにとって楽しい時間が過ごすことができた。  
 
(ねえねえお姉ちゃん、このままじゃ今日のお喋りが終わりそうな雰囲気だよ?せっかくのチャンスなのに本当にこのままでいいのー?)  
 
(チャ、チャンスって…フラン、いい加減に…!)  
 
会話の合間にフランがこそっと耳打ちする。  
確かに、このまま会話が終わるのは少し残念ではあるが、作戦前夜の準備の時間をこれ以上お喋りで費やすのは生真面目なノエルには抵抗があった。  
 
「どうかしたのか?」  
 
「い、いえ、えっと…」  
 
(がんばれ、お姉ちゃん!)  
 
フランはワクワクしながらノエルの出方をうかがう。  
完全に動揺しているノエルは、ロイドに見つめられることでさらに緊張し、返答に困っていた。  
会話をつなげるか、それとも作戦の準備を重視すべきか。  
頭の中が真っ白になったノエルは、思わずこう口にしていた。  
 
 
「その…後でいいんですが、甲板に来ていただけませんか?大したことじゃないんですけど、ロイドさんにぜひともお願いしたいことがあるんです」  
 
 

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