会場を震わせるほどの観客の盛大なる拍手。それを受けるステージの役者達。その中心に居る二人が  
劇団アルカンシェルを牽引する二人の舞姫である。異国の地を大いに湧かせた星々は拍手の渦に包まれ  
それに一礼で答えると、光の満ちたステージから降りてゆく。鳴り止まぬ拍手の中、舞台袖に下がれば  
それぞれが小声でそれぞれの健闘を称える。月の舞姫は、目を合わせた太陽の舞姫のその胸にぎゅっと  
抱かれる。褒詞の代わりのそのくすぐったい感触を束の間味わった月の舞姫――リーシャは、それを眩  
しく感じたあと、ふと小さな拍手のする方に振り向く。精悍なその面立ちの中にあどけなさを残した青  
年、ロイド。リーシャが彼に返した笑顔の愁いが、彼女という月を翳らせ、そしてその笑顔を美しく見  
せた。  
 
 リーシャが二年以上の歳月の間いつの間にか育んでしまった想いに自覚出来たのは、クロスベル解放  
が成り間もなくのことだった。皆で揃っての記念撮影。そこには二年間の間、顔を合わすことが出来な  
かった懐かしい面々の姿があった。イリアと二人で、渋るシュリをひっぱってのことで、時間ギリギリ  
になってしまったのを彼女は覚えている。撮影後で懐かしさに感慨に耽る者達の中で、自然とリーシャ  
の目は、誰かの姿を追っていた。ポンポンと肩を叩かれたリーシャが振り返るとイリアがどこか思わせ  
ぶりな表情で一つの方向を指差していた。その先には、リーシャが無意識に探していた人物の姿があっ  
た。以前からのどこか幼く見える顔立ちはそのままに、性格通りの精悍さを強く纏い始めた青年、ロイ  
ドである。そんな彼と和やかに談笑している妙齢のおっとりとした美女セシルが、ふとこちらを見ると  
手招きしている。親友で幼馴染であるイリアの姿に気がついたらしい。イリアはどこかまごついている  
リーシャの背中をぽんと軽く叩きぱちりとウィンクすると、手招きする親友の元に駆け寄り抱きしめ合  
う。冷や汗をたらしながらリーシャはそれを見ていたが、同じようにしてその光景を眺めていたロイド  
とふと目線が交わった。  
「あ、リーシャじゃないか」  
「……あ、ロイドさん」  
 言葉に一瞬詰まるも、何か引き寄せられるようにして彼の近くに寄る。彼の傍にぴったりついていた  
緑の髪の、あの時より少し大人に近づいた少女キーアも、こちらを見ている。  
「あ、リーシャにシュリー、こっちこっち♪」  
 相変わらずの破壊力抜群の笑顔に思わず破顔するリーシャ。リーシャの傍にいたシュリもちびすけは  
しょうがない、とぶつぶつと文句を言いながら頬を朱に染めてリーシャの後ろにつきながら彼らに近寄  
る。  
「皆が来てくれて良かったよ。やっぱり君達が居ないと様にならないからさ。クロスベルの皆が希望を  
もてたのは、一重にアルカンシェルという存在があったからだと思う」  
「いえ、そんなことは……皆さんの弛まない努力を、クロスベルの皆さんが見ていたからです」  
 穏やかに微笑んで真っ直ぐな視線を向けてくるロイドの顔を直視できずにリーシャは視線から顔を逸  
らしてしまう。感じたことが無いほどに心臓が高鳴るのを確かに感じながら、あの時のことをそっと思  
い出す。あの時のメルカバの甲板で、ロイドが自分に向けてくれた台詞。出来れば俺も、お父さんの代  
わりに見守らせて貰うよ――。あの時感じたのは只管なる安らぎ。今感じているものとはまるで違う。  
それでも、今自分を揺さぶっているものはあの時奥底で燻っていたもののような気がした。  
「ふっふー、褒めてくれるのは嬉しいけど、褒めるなら貴方が戦っていた二年の間に成長した私達を見  
てからにしてくれた方が嬉しいわね。二年前とは比較にならないくらいには良くなってるわよ」  
 イリアはセシルに抱きつきながら不敵な笑みでロイドに向かって語りかける。ロイドは目を丸くして  
感心しているようである。  
「二年前でも、信じられないくらい凄い舞台だったのに……まぁ、イリアさん達なら当たり前のことか  
も知れませんね」  
「ふふ、まぁ何より頑張ってくれたのは、私の居ない間も引っ張ってくれたリーシャよね」  
「え、ええ?そんな、私は……私なんかよりシュリちゃんが」  
「あら?私も観にいったけど、リーシャちゃん本当に凄かったと思うわよ。イリアの看板奪っちゃうん  
じゃないかって言うくらいに」  
 謙遜でなく本心からそう告げるリーシャに、セシルが暖かい言葉を冗談交じりで被せる。  
「そんな、私なんてまだまだで。イリアさんの足許にも及ばないですし」  
「あら、私としてはもうリーシャのことを可愛い後輩だなんて思っていないんだけど。誇りなさい。貴  
方はもう私のライバルよ」  
「イリアさん……」  
 
 自分をこの道に導いたイリアが、こういったことで嘘を言わない人物なのは把握している。胸の奥底  
からじんと湧き上がるものを感じるリーシャ。  
「イリアさんがそこまで言うなんて凄いな。リーシャの今の演技、凄く観たくなってきたよ。チケット  
の倍率も以前より高くなってるって聞くけど、何とかして取らないとな」  
 そういえば、彼には今の私を見てもらっていなかった。二年前は視聴暗殺未遂事件の縁から、度々足  
を運んでくれたものだったけれど。碧の大樹事件の後、自分が復帰した回以来、彼が劇場に足を運んで  
くれる余裕は無かったことをリーシャは今更ながらに思い直す。今の自分を見せることは、あの時の自  
分の感情の奔流をただ受け止めてくれた彼に対する恩返しになるような、そんな予感がリーシャにはし  
た。  
「それでしたら、チケットはお渡しします」  
「いいのかい?以前もだったけど、なんだか悪いな」  
「いいんです。ロイドさんは大恩ある方ですし……勿論、他の支援課の皆さんにもお送りします」  
「そーそ、弟君達はもう立派なクロスベルの英雄なんだしね。変なところで遠慮しないの」  
「英雄って……止めてくださいよ、その言い方は」  
 やや顔を引きつらせながらその言を聞くロイド。先ほどからそこらじゅうでカメラのフラッシュを炊  
きながらインタビューを続けているグレイスの手による、クロスベルタイムズの記事を思い出したよう  
である。リーシャも二年前のメルカバでのインタビューを思い出して乾いた笑いを浮かべる。  
「と、兎も角、お時間が合いそうな時があったら是非いらして下さい。お忙しいのだったら、チケット  
はお送りしますし」  
「いや、取りにいくよ。警察に戻ったらいよいよ忙しくなりそうだけど、顔見せるくらいはわけないさ」  
「それじゃあ、取りに来られる日を待っていますね。出来れば、近いうちがありがたいですけど」  
「約束するよ。ちゃんと空けられる日を作れるくらいに頑張らないとな」  
 リーシャはロイドの満面の笑顔を眩しく見る。ロイドのそれはイリアのそれと微妙に似通う何かがあ  
る。イリアもロイドも太陽のような強い力を発しているように見える。ロイドはイリアの輝きをいつか  
君も持てる、と自分に言ったけれども、自分から発する光でも、矢張り彼らのとは性質が違うように見  
える。イリアとロイドにも違いはあって、言わばイリアはその眩しさで人を惹きつける夏の太陽、ロイ  
ドは近くで癒しを与えてくれる冬の太陽、という違いがあるかのようにリーシャは思っている。こうし  
て傍にいるだけで不思議な暖かさを感じることが出来る。クロスベルがようやく平穏を取り戻して、新  
たなスタートを切り始めるのだ。多忙を極めるであろう彼に、こちらから気を利かすことがあってもい  
いのかもしれない。供に戦って感じた、その暖かさにまた触れる為にも。だがそこでふとリーシャに疑  
念が湧く。特務支援課は解散して、支援課メンバーはこれからもそれぞれがそれぞれの場所で力を発揮  
していくということは間違いない。最初の解散から再結成までの間は、再結成が約されていることから  
彼はあの支援課ビルに住居を据えていたという話だが、再結成の予定が無いとなればどうなるのか。  
「そういえば、ロイドさんはこれからはどちらに住まわれるんです?」  
 ここ二年はキーアをつれて動き回っていた為、仮住まいの日々が続いたという。定めるような居は今  
は無いはずである。支援課を変わらず使うのか、捜査一課の独身寮住まいか、はたまた家族のような仲  
であるセシル一家に暫く世話になるのか。住居を決めかねているなら、自分の経験が彼の役に立つだろ  
う。丁度ゲバル元議員が住んでいたところに空きが出来ていることに思い至って、はっとその時浮かん  
だことを心の中で消す。リーシャは動揺を抑えるのに必死になる。ひょっとしたら、この感情は――  
だが、その言葉にロイドは顔を背けてなにやら言い辛そうに頬をかく。  
「いや、えっと、その、ははは……」  
 痛いところをつかれたような、それでいてどこか照れくさそうな曖昧な笑みを浮かべるロイド。今ま  
で見たことのない表情だった。隣でふふ、と思わせぶりに微笑を浮かべたセシル。  
「ふふふ、私としては家に来てくれれば、家族みんなが喜んでくれると思ったんだけど……ロイドがあ  
あいうなら、ね。流石に邪魔をする気にはなれないかな」  
「せ、セシル姉!」  
 顔を真っ赤にして声を上ずらせるロイドをセシルは軽くいなす。イリアは珍しくぱちくりと目をしば  
たたかせる。先ほどまでシュリと話し込んでいたキーアもはにかんでロイドの方を見ている。  
 
「こ、こほん……まぁ、俺も最初は寮住まいを考えていたんだけどさ。ありがたい申し出があったから  
ご好意に甘えることになったんだ」  
「え?それって……」  
 彼に好感を持っている人物は多い。宿を貸すくらいなら喜んでというものは決して少なくないだろう。  
ただ、このロイドの慌てようからすると、言葉通り単純にそういった好意に甘えたというわけではない  
ことが見て取れる。まさか――。胸の奥がなぜかチクリと痛むが、刺さった棘を抜くことは出来ない。  
「もう、ロイドったら。さっきから大きな声をあげてどうしたの?」  
 凜とした、それでいて温かみのある落ち着いた女性の声。以前よりずっとその声色は柔らかく聞こえ  
る。パールグレーの髪をクロスベルの風にふわりとなびかせたその女性から感じる少女らしさは幾分か  
薄れて、浮かべる微笑も大人びたものになっている。自然と顔をほころばせる彼の横に寄り添う彼女の  
雰囲気は、時の力だけが変えたものではないことがリーシャにも一目でわかった。  
「――エリィさん」  
 その瞬間、リーシャは自分の中で芽生えた感情の正体と、それが叶わぬものであったことをまざまざ  
と見せ付けられた。  
 
 
***  
 
 
「ロイドさん――」  
 カルバートの最西端であるアルタイル市の高級ホテル。窓から月を見上げながらいつかのやりとりを  
思い出す。確かに、彼が言うように彼と話をする時は月が綺麗だったような気がする。丁度今見上げて  
いる月の形と同じように。  
 でも、今は出来ない。隣室に居るロイドに想いを打ち明けることなぞできるわけが無い。初の外国で  
の公演。アルカンシェルはクロスベルの至宝とも言われるほどで、その劇団が国外へ出て公演を行うと  
なると、クロスベル警察からも警備の人員が割かれることになることは必然だった。クロスベル解放を  
経て国内外への知名度を高めたロイドがそのメンバーに加わったことも、想定の範囲内だった。にも関  
わらず出立一週間前にその話を聞いた時、リーシャは胸の痛みを止めることが出来なかった。そして同  
時に高鳴りを覚えることも。エリィには決して叶わないと、この恋は諦めると決めた筈だったにも関わ  
らず。燻った感情はリーシャの中で増幅を始め、瑞々しい肉体はその感情の発露に流されるままに自ら  
を慰めることを求めた。イリアに言われた女であることを忘れるな、という言葉。初めて自らを慰める  
ことで達した時に、その言葉を何故か思い出した。  
 一度それを覚えたリーシャの体が欲する欲望は止まることはなく、夜な夜なその行為は加速した。声  
が漏れないよう耐えながらの密やかな行為は、リーシャの女を更に開花させる。眠りにつくまで行為に  
いそしんで、目覚めと供に嫌悪感と胸の痛みを思い出す日々。そんな日々を経てからのアルタイル市へ  
の国外公演。警備の任につく彼の存在を意識してしまうのは無理からぬことだろう。実際、彼女自身の  
夜の火照りも増した。彼が劇を観て感激してくれた、ということすら、その夜を燃えさせる原因となっ  
た。そして女を増すリーシャの演技は、人を惹きつける力を加速させる。あのイリアが目を見張るほど  
に。明日は長期国外公演の中日で、休演日でもある。窓から目を離したリーシャはぴと、と壁に手をつ  
ける。今日はこの壁の一枚向こうにロイドがいる。一番で無くてもいい、彼を居てほしい時に傍に居て、  
欲しい言葉をくれると評したのは、彼の思い人である。人づてに聞いた話だけれども、リーシャもそう  
感じる。二年前、確かに彼は欲しい言葉をくれて自分を癒してくれた。いつの間にか、そんな彼を傍に  
置けるエリィを素直に羨ましく思えるようになった。  
 
「ん……」  
 想い人が体を重ね求め合う姿を妄想して、思わずぞくっとした感覚を覚える。獣のようになったロイ  
ドが、エリィのたおやかな肢体に覆いかぶさり、貪欲に貪る姿を。  
「ああ……はぁ……」  
 貪られるエリィに、次第に自分の姿を重ねていくリーシャ。『銀』の時は内功で隠さねばならない程  
の乳房に、自らの左手の指をあてがい始める。空しさをどこかで感じつつも、止めることは出来ない。  
「ロイドさん……もっと……」  
 次第に熱を帯び始めるリーシャの体。目尻に雫を溜め始めた瞳は右手をついている壁の向こうに向け  
てしまう。こうして想うだけでこれほど体が熱くなるなら、彼を前にしながら慰めたら――。  
はっとしてリーシャは首を横に振って妄念を払おうとする。  
「わ、私なんてこと……」  
 あまりにふしだらな妄想に耽っていたことに自己嫌悪するリーシャ。しかし、自分には確かに先ほど  
の妄想を実現してしまう力がある。この壁を術で抜けて、気配と姿を消せば愛おしい彼を眺めながら湿  
り気を帯びるそこを――。  
「そ、そんな変なこと出来ないけど……でも、それだったら……」  
 彼に気がつかれさえしなければ、迷惑は誰にもかけないで済む。それに、この昂ぶりを高めるところ  
まで高めることが出来れば、彼に対する想いも満たされて、今のように空しく自分を慰め続ける必要も  
無くなるかもしれない。心の中の言い訳を言い訳と気がつかないまま、リーシャは『銀』の時纏ってい  
た東方風の装束に、熱に浮かされた体のまま手を伸ばし始めていた。彼の心に一番近かったであろうあ  
の時を思い出して。  
 
 
***  
 
 
 
 そんなリーシャの隣室で、体を休めるロイドは月明かりを見つつ黄昏ているようでもあった。  
「はぁ……喧嘩して出てくるんじゃなかったな」  
 ため息一つついたロイドから出てくる言葉は、後悔の念。この仕事の前に家を出る時に、恋人となっ  
たエリィと小さな喧嘩をしてしまった。  
「でも、エリィもあんなに怒ることはないよな。帰ったらマリアベルさんと同じ格好で『洗脳されて悪  
に堕ちたエリィ』プレイしてくれってお願いしただけなのに……」  
 専属秘書プレイも裸踊り強要プレイもおねショタ風プレイも、最初はイヤとかいいながらなんのかん  
のでヤる時にはノリノリになってくれるエリィだから、今回のもイヤというのはポーズかと思ったら本  
気で怒られて傷心かつ珍しくほんんのちょびっと文句をたれるロイドである。  
「特務支援課発足から今までの108の妄想の半分は再現したいのに……ドローメプレイとかアーネストさ  
ん風味で触手プレイとかは諦めるけどさ」  
 クロスベル解放までDTを貫き通したが故に、エリィと結ばれてからは堰が切れたかのようにロイドは  
エリィの艶かしく男好きする極上の美体を貪欲に求めた。妄想の中で育んだ理想の感触以上の肌触りや  
やわらかさ、ことに及ぶ前の清純さと、求め始めてからの彼女の自分以上の性欲にロイドは耽溺したと  
いってもいい。結ばれる前はまだ男に征服されたことのなかったことが信じられないくらいにエリィは  
ロイドのことをしなやかに受け入れていった。高くあげるふしだらな嬌声も、この手に残るようなやわ  
らかな感触も思い返しただけで一部に血流が集まりそうなほどである。  
「……ゴクリ」  
 思わず生唾を飲んでにやついてしまうロイド。が、自らの醜態に気がついたのかはっと我に還る。  
「じゃ、なくて。まぁしょうがない。無理強いは良くないもんな。エリィにはきちんと謝らないと」  
 でも恋人なんだからそれくらいいいよなぁ、普通。とよくわからない普通の概念を持ち出して愚痴を  
呟くロイド。よほど未練があるらしい。  
「っと、こんなことじゃいけないな。まず仕事をしっかりとこなさないと。アルカンシェルのカルバート  
公演、全部成功させて貰うためにも」  
 
 ロイドも警備にあたりながらではあるが、アルカンシェルの気迫のこもった舞台を目にしている。警備  
がおろそかになりかねないほどに目と心を奪われる素晴らしい舞台である。この舞台を台無しにされるよ  
うなことが起こってはならないし、アーティストの身に災いが降りかかるなどということは論外である。  
新生クロスベル警察としての質も問われることになろう。  
「気合入れてかないとな。圧倒されるばかりじゃなくて……それにしても、リーシャ、凄いよな」  
 あのイリアと間違いなくお互いを高めあえるレベルまでの域に達している、と素人目にも感じることが  
出来る。戦いを供にした仲間でもあったから、ということと、元々どちらかというとリーシャのような性  
質の演技に惹かれるという贔屓目を抜きにしても、である。  
「なんというか、本当に色っぽさも出てきたっていうか……」  
 「艶が出てきた」とは専らの評判ではあるが、実際目の当たりにすると実感できる。無論それは舞台の  
完成度を高めるためのもので、過剰に男心をかき乱すものではない。とはいえ、さきほどまで恋人のふし  
だらな痴態を思い浮かべていたせいか、リーシャの舞台上での演技を思い返すだけで一部へ血流が集中す  
るのがより早まる。  
「……何考えてるんだよ、俺」  
 自己嫌悪に陥りかけるロイドだったが、ふと二年前供に戦った頃のリーシャの姿が頭の中に蘇る。東方  
の装束を纏い大剣で戦場を舞う彼女は儚さをたたえたままながらに美しかった。東方風の衣装は動きやす  
さを優先したが故に大きく太股が覗き、また彼女の抜群のボリュームを持つ胸を誇張するように体にぴっ  
ちりと張り付いたようなあつらえとなっていた。彼女は近接戦を得意とするが故に縦横無尽に戦場を駆け  
る。そのせいで前掛けが風に靡いたり、剣を振り回すたびにバストが揺れるのがたまにチラチラ目に映っ  
たりしてしまうせいで集中力に欠けてしまいがちになるということも、確かにあった。ふぅ、とため息を  
ついて腰をベッドに下ろすロイド。いけない、こんなことでは明日からの警護に支障が出かねない。こう  
いう時は冷静になって解決策をひねり出すに限る。腕組みしたロイドは、よし、と一つ頷いて前を向く。  
「よし、抜こう」  
 爽やかな笑顔で、最も単純な解決方法をクロスベルきっての捜査官は口にした。そうと決まれば話は  
早いと、ロイドはティッシュを取り出してベルトを外し下半身を一気に露出させる。若干恋人への罪悪感  
はあるが、アルカンシェルの警護で来ている以上、リーシャで抜いたほうがこれからの業務に支障をきた  
さなくて済む、と名推理を生み出すその頭脳でロイドはロイドなりに論理的に判断した。ロイドは目の前  
にリーシャの姿を夢想しながら、自らの股間に手を伸ばして自らを刺激しはじめる。自らを扱きあげると  
いうのも考えてみれば久しぶりである。まぁ毎日のようにエリィとベッドインしていれば当然そうはなろ  
う。仕事で離れているからこそこういう行為に及んだとも言える。  
「エリィ、ごめん。これも仕事だから」  
 恋人への罪悪感を爽やかにその一言でふっきったロイドはいよいよ行為に没頭する。息を段々と荒げな  
がらシコシコとしている姿はみっともなくはあるが、本人はいたって真剣である。  
 
「くっ……リーシャ……!」  
 妄想力を更に強めるロイド。不思議なことにぼんやりと目の前にリーシャの姿があらわれているように  
見え始めてきた。段々と輪郭がはっきりして見えてくるような気がして、更にロイドは扱く手を早める。  
当然のように固さと反りを増すペニスの先からは粘液がこぼれはじめる。  
「はぁ……はぁ……」  
 浮かび上がった妄想の産物である幻像に視線を向けながら懸命に扱く。不思議と幻影は今までロイドが  
見たこともないようなリーシャの蕩けた表情をその場に再現してみせる。餌を待つ仔犬のように物欲しげ  
に自分のペニスを見つめるリーシャの姿は男の欲情をかきたてる。四つんばいになったリーシャの太股が  
チラリチラリとロイドの視界に入り、またその姿勢から迫力ある乳房がよりロイドに迫って見える。お尻  
も若干突き出しているおかげでロイドの前にはまさに絶景が広がっている。  
「……ロイド、さん……」  
 ついでに幻聴まで聞こえてくる。なんだかいつもよりはっきりとした幻像のせいで、興奮も二倍、いや  
三倍増しだ。ギラギラした獣性を瞳の中で燃やすロイド。  
「リーシャ、もう限界だ……!」  
「ろ、ロイドさん……」  
 妄想が生み出した幻像は蕩けた顔をロイドの爆発寸前のペニスの近くにまで寄せる。眦に雫を溜めて潤  
んだ瞳は発情した雌そのものだった。リアルな幻像はその吐息すらもロイドのペニスに感じさせてしまう  
ほどである。  
「リーシャ、いくぞ!」  
「ふぁ……ふぁい!」  
 コンビクラフトのように幻像と息を合わせるように掛け声をあげるロイド。最早ティッシュで受け止め  
ることすら忘れてロイドは猿のように扱いて上り詰める。リーシャの幻像は小さな舌を可愛く伸ばして射  
精を待ちわびているようだった。  
「うあ……ああ!」  
 限界まで達したそれははちきれそうだった竿の先から弾けて、ぴゅ、ぴゅっとリーシャの幻像の桃のよ  
うに赤らんだ頬や唇、小さく開けた咥内に降り注ぐ。リーシャの幻像はぽうっとどこか呆けたような表情  
で白く粘ついたロイドの体液を受け止めて、膝立ちになる。粘度の高い液体は頬から顎を伝い、首筋をな  
ぞるようにして紺色の装束の胸の上に至る。汚されていくリーシャの幻像にぞくりとしたものを覚えたロ  
イドは、そのまま萎えかけたペニスを揺らして残った汁をリーシャのドレスを汚していくのに使う。紺色  
に精液の白がところどころ散っている姿は、男の征服欲を刺激する。  
「……っはぁ……はぁ……そ、それにしても……」  
 
 今日の妄想から生み出された幻像はやたらとリアルである。普通一度達してしまうと、こういった妄想  
は力を失って目の前から消えうせ、後で若干自己嫌悪に陥るというパターンになるのだが、今日の幻像は  
消えるどころか恍惚の表情を保って余韻を愉しんでいるようでもある。息をついてから再び起き上がろう  
としてしまう竿の汚れをとりあえず始末しようとティッシュを被せようとするロイド。  
「……あ、お手伝い、します」  
「……へ?」  
 おもむろに幻像はドレスの前を捲るような形にして、その布でロイドの竿を包むようにする。ロイドの  
視線はドレスの布地の感触を敏感な部分で味わいながらも、捲られているせいで丸見えのリーシャの白い  
三角に釘付けである。  
(純白の紐パン……こ、これはこれで)  
 帰ったらエリィにもお願いしようと思いつつそれに目を奪われるロイド。その間も上質の布の感触がロ  
イドの竿を幾度も擦る。拭き取る筈だったのにこれではまた大きくなってしまうではないか。しかし悪い  
気はするはずもない。  
「はぁ……ロイドさんが、またかちこちになってる……」  
 リーシャの幻像からこぼれる台詞がまた男を興奮させる。それにしても自分の妄想力が生んだ幻にして  
は恐ろしいものである。自分の精を受け止めてくれて、純白の紐パンとむちむちのこすり付けたくなるよ  
うな太股を見せ、のみならず淫猥な台詞を口にしながら自分のペニスを拭いてくれている幻なのである。  
「……ってあれ?」  
 いや、ちょっと待て。いくらなんでもおかしくはないか。この状況。ロイドは今更になって状況を整理  
しはじめる。  
「……ふぇ?どうしたんです?ロイドさん……」  
「いや、そのさ……」  
 いやいや、そんな筈は無い。だって彼女とは別に部屋を供にしているわけではないのである。扉が開け  
られた気配は一度も無い。彼女がこの場所に居るはずはないのである。しかし、頭の回転の良さを取り戻  
したロイドは顔を段々と蒼くしながら一つの事実に思い至る。彼女の裏の顔は『銀』である。隣室から壁  
抜けを使ってここに来ることは造作もないことではないのか。目の前にいるこれは妄想の幻像がリアリティ  
を帯びたわけではなく、単純に戦技『月光蝶』の効果が切れていくのが、逆に段々明瞭になったように見  
えただけのこと――。  
「あの……君はひょっとしてひょっとすると」  
「?」  
 きょとん、と首をかしげてリーシャはドレスの裾でペニスをつつんだままにロイドのほうをあどけなさ  
を残した顔で見る。  
「本当に本当の、リーシャさん?」  
 こくん、と顔を真っ赤にしながらリーシャが首を縦に振った瞬間、ロイドは対照的に顔を真っ青にしつ  
つも、どく、と脈動してドレスの裾に再び精をぶちまけてしまった。  
 
 
***  
 
 
「ゴメンナサイ、リーシャサン」  
 とりあえず下着を穿いてから、東方風の所謂土下座スタイルで床に頭をつけてロイドは平謝りをする。  
そんなロイドをみたリーシャは、どこかまだ夢心地のようであって、裾にぶちまけられた精を指で掬って  
ぺろりと舐めてしまっている。  
「いいえ、そんな……私がこっそりお邪魔したからこうなってしまって、それなのに。謝らなくてはいけ  
ないのは私の方です」  
 申し訳なさそうにしてロイドを宥めようとするリーシャの心遣いは本心からであろうが、流石にロイド  
のほうとしては色々気まずい。  
「いや、こんな一方的に女の子を汚すような真似をしてしまって、本当に済まない。どう償っていいか……」  
「いいんです。何だかお陰で色々すっきりしたというか、ちょっと気持ちが整理出来ましたし。何より、  
私、嬉しかったんです。ロイドさんが少しはそんな風に思ってくれているってわかって」  
「へ?」  
 目尻に雫を溜めながらの言葉にロイドは素っ頓狂な声をあげる。  
「好きな人がちょっとは私のことを『女』として見ている、ということが判って、です」  
「……あの、それって詰まり……」  
「ええ、私はロイドさん、貴方のことが好きみたいです。異性として……」  
 グラールロケットを装着しているにもかかわらずぴしっと一瞬で石と化したロイド。微笑を浮かべたリ  
ーシャはロイドに身を僅かに寄せる。ロイドは石と化したまま状況の拙さに気がついて後方に自らをスラ  
イドさせる。  
「安心してください。ロイドさんの一番はあの人――エリィさん。それは私もわかっていますから」  
 どこか愁いを感じさせるリーシャの笑顔に、ロイドは一瞬心を奪われかける。けれども、それでも一番  
大切な人を裏切ることは出来ない。  
「リーシャ、ごめ――」  
 ロイドのその口に、人差し指をたてて次の台詞を塞ぐリーシャ。その顔からは先ほどの愁いは薄くなっ  
て見えた。  
「言わなくていいです。私、ちょっとわかったんです。一番に成れなくても、好きであることは辞めなく  
ていいって。だから、私、ロイドさんの愛人を目指します」  
「……は?」  
 きっぱりとしたリーシャの宣言にロイドは耳を疑う。目の前の彼女は自分で何を言っているか判って  
いるのだろうか。  
「いやいや、ダメだから!愛人なんて絶対!もっと自分を大切にしないと!」  
 手をぶんぶんと振ってロイドはその言葉を否定する。一瞬「愛人リーシャ」を想像してしまったこと  
を打ち消すがごとく。  
「別に今すぐ、なんて言いません。目指すだけですから。だからそれまでは……先ほどのような関係、  
続けませんか?」  
「先ほどのような、って……」  
 まじまじとリーシャを見つめると、先ほど自分がリーシャをたっぷりと己の欲望で汚してしまったこと  
を思い浮かべずには居られない。ふと見るとリーシャの息が再び荒くなっているように見える。それに男  
を刺激されてしまう以上、こんなことを続ければ一線を越えてしまう日が遠くないのは目に見えたことで  
ある。  
 
「だ、ダメだって、本当に!」  
「こういう時限定、でもですか?」  
「こういう時?」  
「ええ。この共和国公演が成功すれば、他の国からも公演依頼が届くようになるでしょう。そうしたら、  
やっぱりロイドさんが一緒についてこなければならなくなる可能性は高いですよね?」  
「それは、まぁ。劇団長からも一応俺への指名があったぐらいのようだし」  
 警察関係者の中では何かとアルカンシェルと縁があるロイドが指名されることはおかしなことではない  
し、劇団側と警備する警察官側の折衝にあたるという意味でも確かに適任ではあるし、これからも自分が  
警護メンバーに組み込まれることはあるだろうとは思っている。  
「……夜中、寂しくなってしまいますよね。エリィさんがいなくて……」  
「うっ……」  
 痛いところをつかれてロイドは目を泳がせる。色々溜まってしまったからこそ自慰に勤しんだのには間  
違いはない。  
「気持ちよく、なってくれたんじゃなかったんですか?ロイドさん……」  
 潤んだ鳶色の瞳を向けられると、返す言葉に詰まる。まずい、本当に拙い。ロイドは無理矢理やりとり  
を打ち切る。  
「と、兎も角、ダメといったらダメだから!一晩寝て冷静になろう!」  
「え、でも……」  
「お、お休み、リーシャ!」  
 言葉を続けようとするリーシャを無視して急いでロイドはベッドに潜り込み、瞼を閉じて眠ろうとする。  
「ロイドさん、ロイドさん……」  
 話しかけられても無視、無視!とばかりにロイドは布団を被り聞かザル状態に突入する。少しの間微かな  
リーシャの声が耳に届いた気がしたが、それを振り払うようにだんまりを決め込めば、完全に寝たと思った  
のか静寂が部屋を満たす。ほっとしてロイドは布団から顔を出して、本当に眠りにつこうとする。なんとか  
さっきまでのことを忘れて……。が、しかし、忘れようとすればするほど思い出すのが人というものである。  
精液に濡れて潤んだ瞳でこちらをじっと見るリーシャの姿がありありの瞼の裏に映し出されてしまう。この  
ままじゃ眠れない。なんだか足のほうがずっしり重くなった気がするし、それに何だか自分の息も荒くなっ  
て来た。  
「はぁ……はぁ……」  
 うう、リーシャの喘ぎまで聞こえてきたし、やっぱりもう一回抜かないと落ち着かないか、でも……と逡  
巡をはじめたロイドがパチリと目を開けると、そこにはまたも信じられない光景が広がっていた。  
「ロイドさぁん……」  
「り、リーシャ、何やって……」  
 口元をひきつらせながらそう尋ねるロイドだが、聞くまでもなくナニをやっているかは見ればわかる。自  
分の上にまたがって自らの量感のある胸に指をぎゅっと食い込ませて形を歪ませているリーシャの蕩けた顔  
を見れば一目瞭然である。  
「慰めてしまってます……私、ロイドさんで……」  
「り、リーシャ、頼むからこんなことは……」  
 そういいつつもロイドの視線はリーシャの艶かしい痴態に釘付けである。根っからの弟体質もあってか、  
ロイドは騎乗位が大好きであり、当然のことながらこのアングルは大好物であるからしょうがないといえば  
しょうがない。  
 
「先ほどのお返しです……。先ほどは私がロイドさんのおかずになったから、今度はロイドさんが私の……」  
「だ、だから……」  
「ダメっていいませんよね。自分だけしっかり気持ちよくなっておいて……」  
 流石に後ろめたさがある故にそういわれると言い返すことが出来ない。言葉に詰まったのを肯定と受け取  
ったのかリーシャはロイドにまたがったままに腰を動かし始める。ベッドがゆるやかに軋みはじめて、リー  
シャの吐息が更に桃色に染まっていく。ベッドの立てる音と、リーシャの吐息という二つの音が耳から官能  
を刺激し、また、リーシャの腰の動きにあわせて揺れるバストもロイドの目を釘付けにしてしまうせいで、  
生理現象としてまたロイドのそれは起立してしまう。ヤバイ、本当にヤバイって、と内心思いながらも、ど  
こかで興奮している自分を否定しきれずにいた。リーシャは当然のようにそれに気がつけば、とろんとした  
瞳をロイドに向けながら、腰の位置をややずらす。すると湿り気の帯びた何かがロイドの竿に触れて擦れる。  
「ロイドさん、凄くえっち……」  
 いや、エッチなのは君だから、と言い返したいロイドだが、ついつい意識は股間のほうに向いてしまう。  
この湿り気の正体は間違いない。微かに感じる布の感触といい……。先ほど目に焼き付けたばかりの純白を  
脳内にフラッシュバックさせるロイド。リーシャはロイドが何を悟ったか知った上で、ロイドの胸板に掌を  
乗せる。そして微かに腰を浮かせはじめて、上下前後に微かに体を揺らしはじめる。  
「あ……あん……」  
「ちょ……ちょっとリーシャ?こ、これって……」  
 ぬるっとした感触が竿を刺激する。びしょ濡れの布一枚越しのやわらかな感触がロイドの理性を崩しかけ  
る。  
「や、ヤバイって……こ、こんなこと」  
 ロイドから見えるのはリーシャの蕩けきった顔と、たゆんたゆんと揺れる乳房のみである。それでもロイ  
ドの敏感な部分に与えられた刺激は脳内に今何が起こっているかを明確に再現させてしまう。リーシャが下  
着越しにそこを押し当ててる……。  
「ん……凄い、これ……擦れて気持ちいいです……」  
「り、リーシャ、止めてくれ、こ、これ以上は……」  
 これ以上は、本当に……苦悶の表情を見せつつ、快楽の渦の中でロイドは理性を必死に保ち続ける。リー  
シャはそれを上から見下ろしながら、蕩けた笑顔でわけのわからないことを言う。  
「せ、セーフですから、大丈夫です」  
「せ……セーフ?」  
「はいっちゃってませんから……大丈夫。ロイドさんにエリィさんを裏切らせるような真似じゃありません  
から、これ」  
「いやいや!おかしいからその論理!セーフって、そんな馬鹿な……」  
 
 しかしぬるぬるとしたその感触は、次第にその馬鹿げているはずのリーシャの言葉を、魅惑的な倫理に適  
った言葉にロイドに聞こえさせてしまう。男としての本能は素直にこの状況を喜んでいるのだ。  
「セーフ、セーフ……」  
「んん……そうです……。下着越しですから、大丈夫です」  
「そ、そうだよな……。ちょっとした事故みたいなもんだよな……セーフだったら許される筈さ」  
「はい、ですから……ああ!」  
 突然ロイドは腰を動かして下からの突き上げをはじめる。下着越しの割れ目ににゅる、にゅるとロイドの  
竿が往復して、雁首が時折引っかかってリーシャへの刺激となる。  
「ロイドさん……もっと……もっと……!」  
「応……!」  
 リーシャの腰の動きとロイドの腰の動きがシンクロしていき、リーシャのそこのひくつきさえ、ロイドに  
直接伝わっているような気さえしてくる。はぁ、はぁというお互いの喘ぎ声も、バラバラだったものが阿吽  
の呼吸に近くなり、お互いを更に高めようとしていく。コンビクラフトの時以上の集中力で互いの息を無意  
識にあわせる二人。お互いの掌をしっかりと握って、リーシャはロイドの上で淫靡な舞を踊る。ステージと  
はまるで別ながらそれに魅入られてしまうロイドは、本能のままに腰を動かしリーシャの淫らさを引き出す。  
リーシャの紅潮した肌を伝う汗は散り、差し込む月光にそれが彩られる。その光景に限界が早くなるのを感  
じたロイド。リーシャもそれに伴い絶頂間際の自分を思い人に伝える。リーシャの下着からこぼれる彼女の  
愛液と、ロイドの先走りが混じりあって奏でる音が、お互いを決壊させる。  
「ロイドさん、もう……らめぇ……」  
「うう……おおおおお!!」  
 どく、どくと三度目にも関わらず今日一番に濃い白濁液をリーシャのドレスの中にぶちまける。どろっと  
した液体はドレスの内側をつたって太股や下着を汚す。リーシャは注がれた欲情の塊をたっぷりと受けなが  
ら、目尻に泪を浮かべたまま満足そうにロイドにしなだれかかる。  
「り、リーシャ?」  
 自分の上に覆いかぶさるリーシャに射精間際で余韻に浸りつつも色々後悔まっさかりのロイド。次こそは  
ちゃんと断らないと、と慌てながらもリーシャの意思を確かめようとする。  
「すぅ……すぅ……」  
「……寝ちゃったのか」  
 とりあえずほっと胸を撫で下ろしてリーシャのあどけない、満足そうな寝顔を見ながら髪を撫でてやるロ  
イド。しかし、である。ほっとしたところで、たとえリーシャから言い寄られたとはいえ、自分のしたこと  
は消せるわけではない。というか、あんなことした後でリーシャが自分のベッドで眠りについてしまったと  
いうこの状況に、よくよく考えれば拙い状況はかわっていないことにロイドは思い至る。  
「どうしよう、俺……」  
 悲哀交じりの男の呟きが、リーシャの寝息をバックにホテルに一室に木霊した。  
 
 
***  
 
 
 警護の仕事を終えてアルカンシェルと供にクロスベルに帰ったロイドはため息をついて家路についた。  
「はぁ……ごめん、エリィ」  
 結局国外公演中は毎日のようにリーシャに付き合うことになってしまった。二回、三回と繰り返す内に  
抵抗もなくなって、リーシャに色々オプションをおねだりしたりしてしまったのだから、流石にバレたら  
言い訳出来ない。ただし一線は超えはしなかったのだが。  
「よし、セーフ、セーフだよな。うん。しょうがない」  
 バレなければエリィを傷つけずに済む、と精一杯の楽観視をしたロイドはマクダエル家までの道をとぼ  
とぼと歩く。思い返せば家を出るときに下らない喧嘩をしてきたのである。余計に顔を合わせづらい。マ  
クダエル邸の門の前まで来たロイドは再びため息をつく。そんなロイドの耳にたおやかな声が届く。  
「ロイド?帰って来たの?」  
「あ……」  
 振り返れば、最愛の人が笑顔を浮かべて佇んでいた。手提げ鞄には買って帰って来たばかりであろう食  
材が突っ込まれている。エリィはそのままロイドに駆け寄り、ねぎらいの言葉をかける。  
「ロイド、カルバートでのお仕事、お疲れ様。そして、おかえりなさい」  
「エリィ……うん、ただいま」  
 こんなやりとりがロイドの胸にはじんと来る。やっぱり彼女を選んでよかったとつくづくと思う瞬間で  
ある。すっかり出て行くときの諍いなど忘れたような顔のエリィにほっとしつつも、ちょっと申し訳ない  
気持ちが出る。ロイドの表情を察したのか、エリィは翡翠の色を閉じ込めた瞳でロイドの顔を覗きこむよ  
うにする。  
「ロイド、どうしたの?顔色が良くないけど……」  
「ああ、いや……その、怒ってないのかなって」  
「怒ってって……ああ、あのこと」  
 エリィは頬を染めながら僅かに膨らせて腕を組む。  
「もう、あの時は何を言い出すのかと思ったわ。ベルの格好をしろ、だなんて……」  
「ご、ごめん。いや、本当に悪いと思ってるよ。もう無理強いはしないからさ」  
「……でも、してほしいとは思ってるのでしょう?」  
 目を細めてジト目で表情を伺うエリィ。しかしそのジト目が愛の篭ったジト目であることに気がつき、  
ロイドはこくんこくんと頷いて本心を伝える。  
「……今晩、特別にしてあげます」  
「え?ええ?本当かい?エリィ」  
「ちょ、ちょっと、いきなり大声出さないで。皆に聞こえちゃうから……」  
 テンションがあがりすぎてエリィを揺さぶる勢いのロイドだが、エリィの顔を真っ赤にしながらの台詞  
に声をあわてて落とす。しかし顔は夜のお楽しみを想像してニヤつきっぱなしだ。  
「もう、そ、そんなにしてほしかったの?ロイドったら……」  
「そ、そりゃあもう……」  
「……それじゃあ、ちゃんと準備もしてあるから、夕食とお風呂の後はお楽しみ、ね?」  
 よっし、よっしと内心ガッツポーズを決めまくるロイド。エリィはそのままロイドの腕に胸を押し当て  
ながら耳元で囁く。  
「明日はお休みとったから……」  
 その一言でロイドは一気にCPMAXからのバーニングハートである。エリィの肩を掴むと、目線を絡ませた  
ロイドはエリィをせかすようにする。  
「エリィ、夕食は軽めに済まそう!な!」  
「きゃ、ろ、ロイドったらもう……本当にエッチなんだから。ふふ、でもちょっとちょっと不安になってし  
まうかも」  
「へ?」  
 微笑を浮かべたエリィはロイドの反応に悪戯っぽく言葉を返す。  
「いいえ、ちょっと長い間私と離れてしまうし、こんなにエッチな貴方なんじゃ、間違えて他の女の人に  
いけないことしてしまうんじゃないかなって」  
「…………」  
 
 真っ赤になりながらのジト目は、責めているというよりは照れているようである。しかしロイドは当然  
その台詞に絶句せざるをえなかった。  
「何?どうしたの?急に黙ってしまって。まさか……」  
 ロイドは再び恋人のジト目に晒される。今度のジト目は愛情よりコールドゲヘナな冷たさがはるかに勝っ  
ているように見える。冷や汗を背中にだらだらかきながらロイドは慌てて誤魔化す。  
「いやいや、なんでもないって」  
「なんでもない、なんて言われると却ってあやしいのだけれど」  
 ジト目から発せられる温度がいよいよ下がっていく。じりじりとにじりよるエリィにロイドは一歩一歩と  
後ずさりながら言い訳の台詞を考えていくが、全くもって上手くまとまらない。  
「ああ、本当に大丈夫だったんだ、セーフ、セーフだったから!」  
「……セーフ?」  
 しまったああああ、とロイドは自分の迂闊な発言に心の中で叫ぶ。下手に言いつくろうと墓穴を掘りまく  
るであろうことを自覚したロイドはエリィの視線の冷たさに耐えながらも口を閉じる。  
「あ、リーシャさん」  
 エリィは突然振り返って首を階段のほうに向ける。びくぅ、と体を硬直させたロイドは恐る恐るそちらの  
ほうに視線をやる。が……  
「あれ?」  
 誰も、いない。呆けた顔をしているロイドの耳元で、甘さのかけらもない冷たい声が届く。  
「やっぱり、彼女なのね……」  
 確信を持った声でロイドを追い詰めるエリィ。勘弁してくださいと平謝りしたいところだがそれが許され  
る雰囲気ではない。  
「ふふ、なるほど……ロイドは私が貴方に会えなくて寂しい、って思ってた間、リーシャさんとイイコトを  
していたのね。ふーん。役得ね。モテる男ロイドさんは」  
 あえてさん付けして、出会った当初に戻るようなよそよそしさすら言葉に潜ませながら、張り付いた笑顔  
を向けるエリィ。紛れも無く支援課最強と呼ばれた怒った時のエリィの顔である。ガクガクと恐れ戦きなが  
らその場から動くことが出来ないロイド。こうなった彼女には逆らうことが出来ない。  
「いいわ。今晩はたっぷり聞かせてもらうとしようかしら。ロイドさんの楽しい楽しいアルカンシェルとの  
お仕事を……」  
 笑顔のエリィはそのまま手提げ鞄から極太の大根と見事な山芋を取り出して両手に持って意味ありげにロ  
イドにそれをつきつける。  
「あ、あの……つかぬことを伺いますがエリィさん、それは……」  
「これ?いつも私が使っているの見ているじゃない。聖と魔の刻印銃よ。魔獣退治にも絶大な威力を発揮す  
るけれども、不埒な男性を懲らしめるのにも抜群の威力を発揮するらしいわ」  
 目が笑っていないは顔は清清しいほどに笑っている。ガクガクと膝をふるわせながらロイドは返事をする  
のに精一杯だった。  
「へ、へぇ……そうなんですか」  
「そうそう。はぐらかしたり逃げようとしたりする男性には、これの比ではないものを使うことになるかも  
知れないわね」  
 一瞬頭を過ぎった退路というものは即座に封じられる。  
「…………」  
「ふふふ、そんな怖がらなくていいわ。セーフ、なんでしょう?」  
 セーフ、という言葉を殊更に強調するエリィは淡々と上品な声で処刑宣告を述べる。  
「は、ハイ……」  
 すみません、どう考えてもアウトでした。かつて味わったことない恐怖を既に体に刻みつつ、ロイドはマ  
クダエル家という名の処刑台に執行官である最愛の人にずるずると引っ張られて登るハメになった。そして  
真夜中の極・ディバインクルセイドは、ロイドに大いなる反省を促すことになる。だが彼は後に語ることに  
なる。最初の刻印銃はまだ優しかったことを。  
 
 
***  
 
 パタン、とマクダエル邸の扉が閉じられた音と同時に住宅街に一つの影が音もなく突然あらわれる。紺色  
の髪の少女はいつも通りのラフな臍出しルックではあるが、少々挙動不審でもある。  
「バレて、ないよね」  
 先ほどエリィが自分の名前を呼んだ時は月光蝶がまた切れてしまっていたのかと内心冷や汗をかいた。も  
しくは恋する乙女のセンサーとやらがステルスを無視して自分の存在を感知したのかと。リーシャは階段の  
上からマクダエル邸に向かって頭を大きく下げる。  
「ごめんなさい。お二人とも……」  
 流石にちょっとやりすぎたという自覚はリーシャにはある。とはいえ、夜になると体が熱く火照ってしま  
って、一度求めた後はどうにもならなかった。幾度がこのままロイドを奪ってしまえ、と思ったこともある。  
それでもそこまで思い切れなかったのは、彼自身の獣欲との葛藤の間に、エリィへの愛情を垣間見てしまっ  
たからである。だが一方で、「これっきり」という風にできなかった理由もある。ロイドが自分に欲情して  
くれることに女としての喜びを覚えてしまったから。最初の約束では国外の公演の時くらいにしか求めない、  
と彼に告げたけれども、今現在ですらロイドを思うと体の芯が疼いてしまいそうになるくらいなのに、正直  
我慢できる自信がある筈もなかった。しかし、彼女が居る場では流石にああいった行為に耽るのは無理であ  
ろう。リーシャはちゅぷ、と自らの人差し指をしゃぶるようにして思案に耽る。  
「それなら、エリィさんに許可をとれば――」  
 いや、恋人が他の女といかがわしい行為に耽るのを容認するような女性では彼女は無い。でも、ひょっと  
したら、ちょっと混ぜてもらうくらいなら――。淡い希望を浮かべながらついつい彼の立派なモノを彼の恋  
人兼自分のある意味恋敵な彼女と一緒に挟み込んでしまうのを夢想する。  
「一か八か、アリかも」  
 でも、流石に今それを告げにいくほどリーシャは空気を読めないわけではない。下準備に下準備を重ねる  
ことが大切なのは重々承知だ。要求を呑んで貰うのは簡単なことではないけれど、それだけの価値はある。  
 恋人がダメなら愛人で――。つい口にでてしまった願いではあるが、今となってはリーシャにとっては目  
指すべき道である。一番大切なアルカンシェルの道にも良い影響を及ぼすであろうことは、あの後の舞台で  
の評判を考えれば瞭然であった。そう、ある意味舞台の為の努力という見方で自分に言い聞かせれないこと  
もない。  
「だから、これからもよろしくお願いします。ロイドさん」  
 聞こえるわけもない小さな呟きを、リーシャはクロスベルに吹く穏やかな風に乗せる。彼女の笑顔から消  
えた愁いが、いい方向なのかは兎も角彼女が前に進んでいることを如実にあらわしていた。  
 

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