「コイツらおかしいッスよ」  
 加賀見は左にそう告げた。左は加賀見の肩越しに、パソコンの画面を覗き  
息を呑んでいる。その揺れる瞳には微かな怯えがあった。  
 そこは左の父親の部屋。折しも、「残業で遅くなる」と電話があったばかりだ。  
加賀見の両親は町内会の旅行で家を空けており、彼女はこの週末、左の家に泊ま  
りに来ていたのであった。  
「そうやったら、こんなことが思いつくんだか」  
 加賀見はぼやきつつ、キーを叩く。  
 左は微かに息を荒くして、画面を見つめている。ローティーンの少女に特有の  
「怖いもの見たさ」がその目を支配しているのだ。加賀見は左の息遣いの変化  
を敏感に察知していた。  
 実のところ、加賀見はこの状況を「好機」として捕らえていた。ふたりが2ち  
ゃんねるのエロパロ板にアクセスしているのも、彼女がそれとなくリードしたの  
である。直接にではなく、絡め手から攻める。そのやり方を本能的に知っていた。  
「男って、汚いッスよ」  
 加賀見はさりげなく、核心に触れた。その唇はちょうど、身を乗り出した左の  
耳元から数センチの位置。すべては計算づくだった。そっとささやく、暗示の  
言葉。微かに浮かべる確信犯の笑み。左に気がついている気配はない。  
 左のこわばった視線はレスを黙々と辿っている。その瞳にははっきりと動揺  
の色が見て取れた。加賀見はおなかの中からあふれそうになる「何か」、サデ  
ィスティックな欲情を感じたが、顔には出さない。  
「教室にいても、たまに、粘ついた視線感じるし」  
 加賀見は左の肌の匂いを鼻腔に感じつつ、冷静に新たな暗示をかける。  
あくまでも気のない声で、よそ事のような口調で続ける。  
「見回すと男子と目が合って、相手が慌てて目逸らすんスよ」  
 左ははっとしたように加賀見を見た。  
「うそ…?」  
「まじッスよ」  
 
「左は、ニブいもの」  
 あえて、あきれたような表情をつくる加賀見。左は驚きを隠そうともしな  
かった。大きく見開いた目が震えている。  
 (やっぱり左、かわいいッス)  
 そんな感情を押し殺し、あえて小さくため息をつく加賀見。  
「この間だって、道ですれ違った高校生が私たち、そんな目でみてたし」  
「高校生…」  
 案の定、左は「高校生」という単語に反応した。  
「ホントに、たち悪いッスよ」  
 加賀見は真意を悟られないように、独り言のように告げる。左は困った顔を  
する。そしてついに、予想通りの抗弁をした。  
「でも、紀くんは…」  
 加賀見は内心で「食いついた」と手を叩いたが、あえてポーカーフェイス  
を保つ。無論、加賀見は由紀の存在を知っていた。しかし、それを自分から口に  
するほど馬鹿ではなかった。  
「幼馴染の?」  
 加賀見は左の言葉を促した。人間は自分の大事なものを批判されると意固地に  
なって反発する。それだから直接に由紀を叩くのは得策ではない。むしろ左に  
しゃべらせ、それに疑問を突きつける。左の由紀に対する信頼を徐々に揺さぶる  
作戦である。  
「紀くんは、そんなことないよ。子供のころから、ずっと優しくしてくれて…」  
 左はにわかに饒舌になり、由紀を弁護し始める。  
 加賀見は数分の間、適当に相槌をうちながらいかにも真剣な表情で左の話に  
耳を傾けた。しかし彼女は正直な話、弁護の内容はほとんど間に受けてはいなか  
った。むしろ加賀見は左の無意識的な不安を嗅ぎ取る。なぜなら、「弁護する」  
という行為自体が「容疑」を前提としているからだ。  
 
 一気に畳み掛けても良かった。しかし加賀見はあえて慎重なやり方を選ぶ。  
「小さいころから、ずうっと一緒だったんッスね。いいなあ、左は。ボクはそん  
な幼馴染いないから、うらやましいッス」  
 加賀見はあえて同意しているふうに装う。  
「うん」  
 うれしそうに頷く左。その無邪気な表情に、加賀見は黒いものが下腹部で蠢くのを感じた。それでも彼女は平静な表情を崩さない。スリリングな感覚の促され、彼女は次のトラップを仕掛ける。  
「ボクも、知り合いの高校生の男の子がいることにはいるんだけど」  
 彼女は「男」にアクセントを置いて切り出した。  
「そうなの?」  
 左は加賀見の意図も知らず、不思議そうな顔をする。しかし左が加賀見の話に関心を抱いたのは明白だった。  
「でも、やっぱり紀くんとは違うみたいで…」  
「違う?」  
 加賀見はつとめて、深刻そうな眼差しをこしらえて見せた。へその下のあたりが熱くなり、何か重いものが入っている気がするがおくびにも出さない。彼女は自分の演技に酔っていた。  
「小学生のころから知ってて、昔はよくトランプやオセロで遊んでたんだけど…」  
「私と紀くんみたい…」  
 左は目を丸くしてそう言った。  
「ボクの頭、よくポンポンってして」  
 左は頷く。加賀見の「紀くんとは違う」という台詞の意味を理解しかねている様子だった。しかしその反応は加賀見にとって好都合だった。左は加賀見の作り話の高校生と、由紀を重ね合わせている。  
「半年くらい前に…オセロしてたときに…」  
 加賀見はあえてためらうような口調で続けた。予想通り、左は興味深げな表情をしている。加賀見は目を伏せる。  
「目つきが、変で…服の襟元とかスカートの裾とか、ジロジロ見て…そしたら急にの背中撫でてきて…お腹とかべたべた撫でまわして…」  
 加賀見には確信があった。由紀もまた、高校生の男子。一度くらいは、そんな目で左を見たことがあるだろう。それに胸や秘所を触らなくとも、背中を撫でたことくらいは絶対にあるはずである。  
「そのときは、怖くなって逃げたけど…」  
 
 横目で左を見る。左は少し考え込んでいる様子だった。由紀との思い出を手繰っ  
ているに違いなかった。加賀見は一気に揺さぶることにした。  
「子供のころから、触られることは結構あったけど…優しいと思ってて、撫でられ  
るの嫌いじゃなかったけど…ホントにあの人は優しいだけだったのかなって」  
 左の顔がこわばっていく。そこにははっきりとした当惑と、恐怖の色が現れていた。唇が微かに震えている。  
 (左、怯えてる…)  
 もう日が暮れ、窓の外には青い闇が迫っている。薄暗がりの中で見る左の顔。  
それはぞっとするほど美しく、いとおしく見えた。  
 そのとき、加賀見は圧迫感を感じた。さっきまで下腹部で滞っていた重くて  
熱いものが、支えていた肉を押し、ほんの少しだけ進入してきたのだ。思わず、  
悟られないように左に頭をくっつける。両腕は立っている左の腰に回した。  
「加賀見…?」  
 左の小さな手を背中に感じたとき、自分の肌が異常に敏感になっていることに  
気がついた。息をする方法がわからない。加賀見は肩に力を入れて、左の腹に額  
を押し当てている。左が優しく、背中をさする。しかしそのいたわりは、加賀見  
の中で渦巻くものを押し出そうとしているに等しい。  
「大丈夫?」  
「う…ん…」  
 深い息を吐き、何とか答える加賀見。何かが、じわじわと肉の溝に流れ込んで  
くる。もうそれが液体だということは悟っていた。ゆっくり、ゆっくりと肉の襞  
の間をこじ開けるように下ってくる。もう自分の意思ではどうにもならなかった。  
それは例えば、背中に垂らされた水滴が流れていくくすぐったさに似てもいた。  
「流れ出す」感覚。加賀見は秘所が溢れ出してくる、自らの欲情に「犯されていく」  
感覚に耐えるのに必死だった。  
 最初の一筋が肉の溝に水路を開いたとき、加賀見は小さく息を呑んだ。秘所の肌  
に密着した下着が濡れていくのがはっきりとわかった。スカートの下、ゆっくりと、  
止めようもなく広がっていく沁み。柔らかく湿った布が、一番繊細な部分に張り付いている。  
「惚れたほうが、負けなんスよ…」  
 幸か不幸か、その声にならない呟きは左には聞こえなかったらしかった。  
 そのとき、左がぽつりと、意外なことを口にする。もちろん、無邪気な優しさからだ。  
「加賀見、お風呂入ろっか…」  
   
「え?」  
 加賀見は左の提案に軽いめまいを覚えた。  
「だから、お風呂。嫌なことって、熱いお風呂に入ると吹っ飛んじゃうから」  
 加賀見は内心、焦った。左が加賀見を椅子から立たせる。濡れた下着の感覚。微笑む左。  
動くたび、擦れる振動が背筋から這い上がってくる。  
「お湯…入れなくちゃ…」  
「もう、入ってるよ」  
 左は明るい声で答え、加賀見の手を引いて行こうとする。そして抵抗する加賀見の顔を覗き込む。  
「さきに…入ってて…後から、行くから…」  
 左は加賀見の背中を軽く叩いた。そして白い歯を見せて笑う。  
「遠慮しないでって」  
 その笑顔がまぶしい。思わず半泣きになる加賀見。  
「先に…」  
 そう言いかけたとき、左が加賀見を抱きしめていた。そして太陽のような笑顔で促した。  
「ね?」  
 思わず頷いてしまう加賀見。そのまま浴室へと連行される。  
 浴室に着くと左はすばやく服を脱いだ。そして服を着たまま、ボタンさえはずしていな  
い加賀見に怪訝そうな顔をする。加賀見は機転を利かせ、襟の第一ボタンに手を掛けて告げた。  
「すぐ、行くから。先に入ってて…」  
 左はいぶかしむふうでもなく、浴室のドアを開けて入って行った。  
 加賀見はほっとして、服を脱ぎ始める。シャツとスカートを脱ぎ、肌着を脱いだ。そして問  
題のものに手を掛けたときだった。突然、ドアが開き左が顔を見せたのである。  
「かーがーみー」  
 最悪のタイミングだった。びくりとした加賀見。左の視線は目ざとく、濡れた部分に注がれ  
ていた。二人はしばし、硬直する。しかしやがて、左が相好を崩した。  
「漏らした?」  
「ち、違うッス」  
 加賀見は思わず声を高くした。  
 
「嘘、パンツ濡れてるし」  
 楽しげに冷やかす左。とても無邪気な、悪気のない笑顔だ。  
 加賀見は顔を赤らめたが、あえて抗弁しないことにした。そして素早く下着を引きおろす。  
 それがいけなかった。普通の液体ならともかくとして…「それ」が糸を引くのを、左は  
見逃さなかったのである。浴室に入ると、左がおもむろに尋ねた。  
「加賀見、どうしたの?」  
「何がッスか?」  
「それ…」  
 左は加賀見の秘所を指差した。  
「まだ言うッスか?」  
 加賀見はウンザリしたように答えるが、自分のそこを見て仰天する。一筋の、液体が太もも  
に付着し、糸を張っていたのだ。そして、加賀見もとうとう観念した。  
「女の子、だから…」  
 左はしゃがみこみ、そこをじっと見つめた。そして言う。  
「病気、じゃないの?」  
 加賀見はため息をついた。  
「女の子は、好きな人の前だと誰でもこうなるの」  
「ふうん」  
 左は納得したように、頷いた。  
「でもわたしは…」  
「左はまだ子供だから……あうッ!」  
 加賀見が言い終わらないうちに、左の指先がそこに触れていた。  
 
「な、何するッスか!」  
 左は相変わらず、不思議そうな顔をしている。その瞳は「どうしたの」と問い掛けていた。  
「やめるッス。汚いから……!!!」  
 その指先は繊細な部分を弄ることを止めようとしない。もちろん加賀見の変化は、左も悟っ  
ていた。しかしそこは左。むしろ子供に特有の好奇心が先に立ち、いっそう拍車がかかっていく。  
「ぬるぬるしてる…」  
 左は感心したように、呟いた。もう、人差し指だけでなく、中指まで使っている。左の手は  
湯で濡れていたから、たまったものではない。加賀見は顔を歪め、脹脛が震えた。  
「や、止めるッス…左…」  
 加賀見に肩を押しやられ、左は一端、手を離した。加賀見はそのままプラスチックの椅子に  
へたり込んでしまう。  
「もう! 左は!」  
 少し怒ってみせる加賀見。しかしその声はどこか力の抜けたものだった。左は加賀見の前に  
立て膝になる。いたずらっぽく笑う左に、加賀見は柳眉を逆立てたが。その表情はどこか恍惚  
としていた。焦点の定まらない瞳で左を睨みつけている。  
 左はさっきの指をそっと加賀見の胸に伸ばした。抗う余裕さえなかった。防ごうとしたとき  
にはすでに、加賀見の固くなった乳首に触れていた。  
「んぅ!!」  
 とろりとした指先は素早く、小さな円を描く。ピンクの乳首は完全に勃起し、にわかに赤味  
が増していく。  
「ひぃ、だーりィィー!!!」  
 悲鳴なのか、呼びかけなのかもわからない声。左はその隙を突き、加賀見の脇に手を回し、  
抱きつく。指先は腹を滑り、速やかに下って行く。  
「んッぅあッ!!!」  
 加賀見はようやく、左の真意を悟った。左の掌が秘所を覆っている。それは、動きを止めない。  
「や、止めるス! 左! ダメッ!」  
 
 左は子供らしい残酷さを余すところなく発揮した。小さな、柔らかい指で弄り続ける。加賀見は  
もはや、左の頭にしがみつくしかなかった。逃れられない以上、下手に暴れれば転倒の危険があっ  
たからだ。小さな愛らしい暴力が、もっとも繊細な部分をこねくり回している。  
「止めるッスやめるぅッスぅッぅぅぅ、う、ぅうぅぅ…」  
 残忍な指先は薄い襞をめくり上げ、もはや核に達している。露出した肉は充血し、赤く染まって  
いた。左は冷徹な好奇心を剥き出しにして体を密着させ、加賀見の変化を全身で感じようとする。  
「はっ、やめ…はぁッぅ、んうぁッ、そんなッ、いじったら…うぅ!!」  
 加賀見の秘所は流れ出した液体でぐしょ濡れだった。止めようもない、垂れ流しの状態だ。あと  
からあとから流れ出してくる。それを左の手が捏ね上げ、執拗に泡立てている。  
「どうしたのぉ?」  
 左がとぼけたように尋ねる。  
「ボクッ、こんなのっ!」  
 加賀見が抗弁しようとしたところへ、掌が激しく動く。  
「やあっ! やだぁッ!」  
 容赦など微塵もなかった。普段の清楚な加賀見、その華奢な体からは想像もつかないような、  
生々しい音。密閉された浴室ではことさらによく響いた。  
「エスプレッソって、呼ぼうかな?」  
 泡だった秘所を横目に見て、左が告げる。その指は恥骨の間の薄い肉を鷲掴みにし、揉み解す  
ように押し当てられる。  
「うっ、うっ、ん! んぅっ…」  
 加賀見の悲鳴はやがて、すすり泣くような声に変わっていった。  
「もう、ひゃめてぇ…ゆるひてぇ…」  
 もはやろれつが廻らなくなっている加賀見。それでも左は行為を止めようとはしない。それどこ  
ろか、そっと耳元で囁く。  
「かがみ、乳首かたいよ…」  
 加賀見のそれは、左のつややかな肩に押し当てられている。左は加賀見の鎖骨の窪みを舌でなぞ  
り、その首を軽く噛んだ。  
「とろとろにしちゃって…いけないんだなあ、かがみは」  
 糾弾する声は微かに上気している。左もまた、すでに濡れているようだった。左の乾き始めた  
太ももに水滴が伝いはじめている。浴室には加賀見の乱れた呼吸が反響していた。  
 
 二人の少女は後に、その禁じられた遊びを「ゆびさきエスプレッソ」と名づけた。  
 

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