そのときたじろいだのは、別に夢のせいだけじゃあなかったと思う。俺は  
男であることに、ある種の劣等感を抱いていた。この間見た、加賀見をめち  
ゃくちゃに犯す夢。あれはきっと、単に欲望のせいだけじゃなくて、「嫉妬」  
みたいなものがあったんだと思う…(由紀)  
 
「加賀見、ちゃん」  
 夕暮れ時の橋の上で偶然出くわして、先に声を掛けたのは由紀の方だった。  
どこか軽蔑されている気がして、無視されることが怖かった。もちろん、  
当の本人が由紀の夢のことなど知るはずもなかったが。  
「ユキさん?」  
 頭に大きなリボンをつけた少女は、なんらいぶかしむふうでもなく由紀に  
応じた。由紀はなんとなく、加賀見の隣で欄干にもたれかかる。幸い、女装  
しているから、通行人に不信がられることもあるまい。  
 並んで赤く染まった川を見ながら、ユキはぽつりと言ってみた。  
「加賀見ちゃんは、左となかいいんだよね? 凛々しいし、宝塚の王子様み  
たいで不思議な感じがして。いっそ、男の子だったら良かったかも」  
 少々無茶な言い方だったが、根本に迫るためには止むを得なかった。  
 加賀見は少し黙っていてから、頭を振った。  
「左の方が、不思議だよ。すごくかわいいのに、ときどき「少年」みたいな  
気配がして」  
「左が?」  
 ユキは怪訝そうな顔をして、小さく繰り返した。加賀見は欄干に頬杖をつ  
きながら答える。  
「ノリくんは左にとって男の子だから。女の子の面しか見せないんじゃない  
のかなって、思うッスよ。ボクなんかだと、やっぱり…」  
 加賀見はそれきり黙ってしまう。  
 
「俺が、男だから、か」  
 由紀は心の中で反復する。  
 左が、自分にはけっして見せようとしない、「少年」の部分。月の裏側  
のように見ることが出来ない側面。見たい。知りたくてたまらなかった。  
 
 数日後。左が由紀のマンションにやってきた。未記はまだ帰っておらず、  
ちょうど二人きりになる。幸か不幸か、そのとき由紀はユキの姿で写真を  
撮っている最中だった。  
「ユキさん」  
 左は正体を知っているにもかかわらず、由紀に「ユキさん」と呼びかけ  
た。そのとき、由紀の頭がひらめく。いま、左は由紀を「ユキさん」とい  
う「女」として認識しているのではないか? だとすれば「少年」を見せ  
てくれるかもしれない。そんな考えが頭から離れなくなる。  
「左ちゃん」  
 由紀はあえて、「左」ではなく「左ちゃん」と呼びかけた。  
「何ですか? ユキさん」  
 由紀は左にデジタルカメラを差し出した。  
「撮ってみてくれない?」  
 左はその頼みごとに、やや怪訝そうな面持ちになる。  
「わたしより、ユキさんのほうが上手なんじゃ…?」  
 由紀は「ユキ」らしく、人差し指を立ててウインクしてみせた。  
「左ちゃんに撮ってもらいたいの。自分一人だと行き詰まっちゃうし」  
 左はその言葉ににっこりと頷いた。さっそくカメラのレンズから、ユキ  
を覗いている。  
「どんなポーズがいいかな?」  
「そのソファで…とりあえず、ユキさんの好きなポーズで…」  
 確かに左は、「由紀」といるときよりもリーダーシップのようなものを  
発揮している気がする。これまで気がつかなかったけれども。  
 
 
 左の指示に従って、撮影を進めて行く。横槍が入らないように、「部屋の  
中で」という限定つきだったが。  
「じゃあ、そこの壁にもたれて、立てひざで…」  
 左の指定するポーズは、たしかに「ラフな」ものが多かった。逆に令嬢  
風や「乙女チック」なものは少なかった。ウエディングドレスのモデル代行  
からこの道に入った由紀にとって、この点はやや意外だった。  
 無邪気にシャッターを切る左。確かにこの表情は「少年」的なものかもし  
れない。しかし、由紀にとって左は左だった。  
「次は?」  
「そこの壁にもたれて、手はポケットに…」  
 やがて気がついた。自分が追求していた写真は、あくまで自分の心に描い  
た「乙女像」でしかなかったことに。  
 由紀は近くにきた左に顔を寄せた。あえて抱き寄せることはしない。その  
かわりに黙って目を瞑った。数秒の後、ユキの唇に少年ひだりのキスが降っ  
てきた。ひだりはユキの唇を少し噛んだ。  
 
 このとき由紀はまだ知らなかった。少年ひだりの恐ろしさを。加賀見を  
何度も何度も失神させた、魔法のゆびさきのことを。後に由紀、否、ユキは  
それを身をもって体験することになるのだが、それはまた別の話。  
 
「!…」  
 その瞬間、ユキは驚愕した。唇に触れた、滑らかで温かい左の唇。その  
隙間から舌が延び、それはユキの唇を割って侵入してくる。左の細い腕では  
いつのまにかユキの首に廻されていた。  
 左の舌がユキの歯の間に押し込まれる。ユキはあえて抵抗しなかった。  
目を閉じているから左の表情は分からない。しかしユキは確かに、左の中の  
「少年」を感じていた。  
(ひだり…)  
 ユキは左に身を任せていた。ユキは腰を落として背後のソファに身を沈め  
る。そしてその上に左が体を投げて、馬乗りの姿勢になる。それは由紀が  
想像さえしたことのないシチュエーションだった。  
 由紀は確かに、左を「おかず」にすることが少なくない。しかし夢想の中  
の左はしおらしく、自分から迫ってきたためしなどなかった。  
 その左にユキは組み敷かれていた。  
「フーゥッ、フーッ…」  
 左の息はどこか野蛮に聞こえた。左の舌はユキの口内を貪っている。上歯  
の上の歯茎のあたりをなぞり、ユキの舌に絡み付こうとする。それは男の  
由紀の前には決して現れることのない、少年ひだり。  
 ユキは局所がざわめくのを感じた。思えばそこは、ジーンズの布越しに左  
の秘所に接していた。左が身を揺らしてユキの唇を荒らすたび、ユキの局所  
は刺激される。悲鳴をあげるにも口がふさがっているし、流れ込んだ左の唾  
液が喉の自由を奪っていた。  
(ひだりに…襲われている…?)  
 
 ユキは下半身の感覚がおかしくなっていくのを感じていた。それは徐々に  
膨らみ始めている。そして……濡れてきていた……! そのときふいに、左  
が身を離した。そしてユキの肥大したクリトリスに体重がかかる。「ユキさん」  
 呼びかけられて目を開けるユキ。左はほんのりと上気した顔で、いたずら  
っぽく笑っていた。その双眸は野生の小動物を思わせる光を湛えている。  
「ひだり…」  
 ユキはかすれた声で愛する人の名を呟いた。その器官はすでに勃起しきっ  
ている。ユキは気恥ずかしさで胸が詰まった。  
 ひだりは突然、何を思ったかカーペットに降りた。そしてユキの前にに膝  
まづく。ユキの両足はひだりの腰を挟んでいた。ひだりは意味ありげに口の  
端に笑みを浮かべる。そして小さな両手を、ユキのスカートに滑り込ませた。  
「!」  
 当惑している間に、ひだりの指はユキのそれを捕らえていた。  
「ユキさん…年上だけあって、加賀見のよりも、ずぅっと大きいねぇ? こ  
んなにかたくしちゃって…」  
 ひだりの細く、滑らかな指はユキを弄び続けている。  
 ユキは驚愕のあまり声も出なかった。完全に予想を凌駕する事態。思考能  
力は失われてしまっていたかわりに、嫌がおうにも敏感になってくる感覚。  
「ひだり…やめて……」  
 状況を理解することが出来ず、そう言うのがやっとだった。しかしその  
制止の言葉さえ、半ばあえぎ声に変わってしまう。何がなんだかわからない。  
全身がぐったりとしてしまって首が据わらない。ソファの背もたれの角に  
後頭部を持たせかけ、顔は天井を向いていた。  
 ひだりの手がスカートの中で熱心に蠢いていた。それは下着の上から勃起  
してしまった部分を握り、ひとさしゆびで先端の濡れた部分をこね回してい  
る。ゆびにはときおり、硬さを確かめるかのように力がこもる。急所もまた、  
小さな指で撫で回されている。  
 
 やがてひだりはユキの腰に手を伸ばし、下着に手を掛ける。そして半分  
ずり下げてしまう。ユキは頭がぼうっとして抵抗することができなかった。  
しかし尿道口にスカートの布が触れた一瞬だけは、大きく目を開く。  
 天井が、落ちてきそうな錯覚を覚える。  
 ユキはひだりに「犯されている」ことをはっきりと自覚した。  
「やめて…ひだり…」  
 ひだりに応じる気配はない。滑らかな指で、ユキの局所を玩具にするば  
かりだ。ユキは体を細かく震わせていた。目頭に涙がにじむ。沁み出した  
液がスカートの生地を浸し、表面にまで小さなしみが浮き出ている。  
 ひだりをみやると、微笑んでいた。本当に無邪気な笑み。赤味が差した  
頬は左もまた感極まっていることを語っている。  
「ユキさんって…〈ミダラ〉なんだね…?」  
「…ひわらいで……言わないへ……」  
 思わず言葉が崩れてしまう。そして涙がユキの頬を伝った。  
 ひだりは残酷だった。ユキの表情に興奮するかのように、大きく息を吸う。  
たまらなくなったかのように口を開け、薄いスカートの上からユキの性器  
を含んだ。  
「ぅ」  
 ユキはくぐもった悲鳴をあげた。  
 歯でえらを引っ掛けて、甘噛みする。舌でチロチロと亀頭を弄り、喉の奥  
に押し当てる。そのまま口をすぼめて引き出す。柔らかく濡れた、温かい舌  
に擦れる。歯の細かい刺激。入れるたびに押し付けられる唇。  
 
 幼き日の左の姿が脳裏にフラッシュバックする。  
 ユキは気が狂いそうだった。陵辱するひだりの頭に手を添えるのがやっと。  
 突如、ユキの性器は跳ね上がり、どろりとした白い液を噴出していた。  
再び口に含もうとしていたひだりは、驚いたように顔を離す。精液はスカート  
に染みとおり、生地の表面にまで浮き出して広がる。  
 ひだりは舌を伸ばし、それをぺろんと舐めた。ユキは赤くなった顔をこわば  
らせる。  
「変な味…」  
 ひだりは上目遣いにユキの顔を見た。もうそのとき、ユキの顔は涙でぐしょ  
ぐしょだった。ひだりは一瞬、すまなさそうに目じりを下げる。まるで悪戯を  
見つかった少年のように。  
「ユキさん、ごめんね…」  
 ひだりはとても優しい眼差しをおくって、再び舌を伸ばした。そして丁寧に  
舐めとっていく。  
「あ、あう、あ、はあ…」  
 布越しとはいえ、そこは敏感になった場所。ユキは情けなく喘ぎ、身を震わ  
せて耐えていた。やがて舐めとってしまうと、ひだりは立ち上がった。  
「ユキさん」  
 ひだりはユキに優しくキスをする。ユキはもう、唇に付着した精液は気にな  
らなかった。そして、ひだりがユキの頭を自分の胸に抱く。  
(ひだりのにおいがする…)  
 由紀は左の腕の中で、いつしかまどろんでいた。  
 

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