「叔父さん、今日は何するんスか?」  
 すみかは不思議そうな顔で叔父に尋ねた。そのとき叔父さんはベッドの上にビニルシートを敷いている最中だった。  
「汚すわけにはいかないからね」  
 振り返った叔父さんは隈のある目を微かに綻ばせて、そう答える。たしかに、そこはホテルの一室。勝手に汚せば損害賠償でも取られるかもしれなかった。でもすみかが聞きたかったのはそんなことではないのだけれど。  
「汚す?」  
 すみかは怪訝そうに鸚鵡返しした。これから「何を」するのか? それこそが彼女の知りたいことだった。  
「そうだよ。でも、キミを汚すわけじゃあない」  
 叔父さんはすみかの肩に手をかけ、バスタオルをそっと取り除いた。  
「下着も取って、その上に寝て」  
 すみかは一瞬、目を伏せ、チラと叔父の顔をうかがう。  
 真剣な、目だった。彼女はその眼差しに逆らえず、ショーツをそっと引き下ろした。  
「あ、ちょっと待って」  
 叔父さんはビニルシートの上に真っ白なバスタオルを敷いてから、全裸のすみかに手招きした。  
 視線をそらし、ベッドに横たわる。タオル越しのゴワゴワが背中に伝わってきたし、手足には冷ややかな感触。まるで手術台の上に寝かされたようで、胃のあたりがそわそわする。  
 
 落ち着かないすみか。目の前の天井にはシャンデリアがぶら下がっていた。  
それが落ちてきそうな気がする。何よりも、一糸だに纏っていない状況が不安感を呼び起こしていた。  
「楽にして」  
 叔父さんはそう言って、すみかの顔を覗き込んだ。そして微かに上気した頬にキスされ、すみかの呼吸は多少なだらかになる。淡く膨らみかけた胸が光に映えつつ、規則正しく上下していた。  
「何…するんスか…」  
 かすれ声のすみかの問い。しかしその問いは無意味だった。なぜなら答えはすぐに示されたからだ。叔父さんは鞄から、黒くて細長いものを取り出した。その表面には金色の文字が光っている。  
 それは一片の墨。  
 叔父さんはベッド脇に立ち、そっと、それをすみかの秘所にあてがった。  
「ん!」  
 微かに震える彼女に叔父さんは微笑んだ。  
「力を抜いて…」  
 叔父さんの手は墨をするかのように、ゆっくりと上下に動き続ける。  
 微かな感触と異様な状況。それはすみかの肌をほんのりと紅潮させるに十分な刺激だった。彼女はシャンデリアの飾りの数を数え、呼吸を安定させることに集中する。…耐えるために。  
「……は―……フゥ――……は――……」  
 唇で小さな円を作り、すみかはつとめて瞼を開けている。それは、奈落に落ちないための本能的な対処だった。天井の無機質な視覚はある程度、感覚を中和してくれる。  
「いッ…!」  
 油断していたところに何か、酷く柔らかい感触が走った。突然の違和感に、すみかは視線を下げる。見れば叔父さんが、すみかの秘唇に顔を近づけていた。さっきのは叔父さんの息だったらしい。  
「叔父さん…」  
 恥ずかしい、見ないで、と言おうとした矢先。叔父さんは無言で、墨を持ち上げた。光が照らす黒い糸。それは、墨の混じった黒い愛液。  
「湿ってきた」  
 叔父さんはそういうと、黒い糸で秘所と臍を結ぶ。  
 
 そこから、叔父さんの手はせわしなく動いた。墨片と肉の硯はひっきりなしに擦りあわされた。  
「うぅっ…ふう…はァっ……んぅ!ん!う!うぅう!」  
 すれるような音が、次第に濡れた音にかわっていく。違和感はすでに快楽にかわっている。  
すみかの鼻から漏れる吐息は媚びるような響きに換わっていった。こういうことは別に初めてではなかった。  
「う、ふ、んふぅんぅぅうぅん、ぅはァ、ア、あァあぁァあ!あ!あ!あ!…」  
 彼女はそれでも耐えていた。普通なら少しくらい身を捩ってもよい程度のものだったが。  
「ぅ……ぅ…、ぅ……ぅ……」  
 すみかは身を強張らせていたが、肩や腰のあたりが細かに震えてくるとそれは四肢にも伝わって行く。  
 そのことに気がついた叔父は、すみかに手を差し伸べる。彼女はそれに縋りつくようにして半身を起こした。  
「だめ、なんか…もう……」  
 叔父さんはすみかのわきの下に腕を入れ、抱きかかえるようにする。そして耳元で、そっと囁いた。  
「敏感に、なっちゃったね」  
 その一言がすみかの胸に刺さる。叔父さんはすみかを「大理石のような」少女、と呼んでいた。大理石は震えたりしない。  
「違う!」  
 叫ぶすみかに、叔父さんは小さくため息をついた。彼女の目には涙がにじんでいる。高ぶった性感は感情のタガをも緩めているようだった。  
「捨てないで」  
 小さな涙声だったが、強い言い方だった。叔父さんはそれに答えず、次のリクエストをした。  
「今度は、立ってみて」  
 
 すみかは諾々とピクニックシートの上に立った。叔父さんは無言のままで、肉の硯から引いた黒い愛液で線を引いて行く。  
それは下腹から這い上がり喉へと続いた。局所から新しく始まった曲線が骨盤をなぞる。  
すみかは体内に沈み込むようなくすぐったさに震える。尾てい骨を通り、背筋を伝い、這い上がってくる。  
 墨片の触れ方は絶妙で、微かに触れる。そして不意に骨や筋肉の線に沿って、強く刻まれたりする。  
 肌の毛細血管がざわめく。真っ白だった肌は火照り、汗ばんで、鮮やかな淡い桃色に染まっていた。  
「からだが…へん…」  
 朦朧とした頭は思わぬことを口にしてしまう。墨片が乳房の下、あばら骨の上にきつい線を描いたとき。ついに体を動かしてしまう。  
それが叔父さんの筆致を乱し、書き損じてしまった。  
「ご、ごめんなさい、ボク…」  
 我に返って、たどたどしく詫びるすみか。しかし叔父さんは何も言わない。そのかわりにそっと舌を伸ばした。  
そして墨で汚れた胸を丁寧に舐めあげる。彼女の鼻にかすかに届く、生臭い息。  
叔父さんの目は昼間とは違い、獣じみた輝きを湛えている。  
 彼女はこういうときの叔父さんが好きではなかった。  
 叔父さんは舌先で、薄い乳房の肉に窪みをつける。溝を刻むように舐め上げ、乳首を吸うようにしてきれいにする。  
 すみかはこういうとき、頭が体と乖離したような感覚に襲われる。肌はざわついているのに、頭の中だけがやけに静かだった。  
いったい、いつからこんな風になってしまったのだろう? 自分が「女」になってしまったことへの報いだとでもいうのだろうか?  
 
「あぁ、ん、ぅうぁうん、あ、ぁ、うんんぅ……」  
 心と体は別物。舐められている間、すみかは自分に官能の暗示を掛けるかのように鼻にかかった声で喘ぎ続けていた。  
二人して、溺れてしまうために。  
 それが終わってしまうと、すみかは小さな舌で叔父さんの唇をなぞった。付着した黒い愛液をぬぐってあげるために。  
叔父さんと目が合ったが、その瞳は何も考えていないような虚ろな闇。  
 パタリ、と小さな音がした。  
 視線を足元に注ぐと、自分の恥部からの雫がピクニックシートに落ちたのだと分かった。そして思い出す。  
このピクニックシートは、幼いころによく叔父さんと出かける際に使ったもの。  
 急に涙が溢れてしまう。叔父さんは驚いたような、困ったような顔でうろたえていた。それを見るのがなお辛く、涙が止まらなくなって声をあげて泣いた。  
 
「すみかちゃん。晩御飯、何がいい?」  
 叔父さんはシャワーを浴びたすみかに、遠慮がちに尋ねた。  
「ボク、おにぎりが食べたい」  
 すみかは髪を拭きながら、小さな声で答えた。  
 

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