「う、あ…」  
 茅は思わず口を覆った。  
 深夜二時の暗い部屋の中、パソコンの画面から流れ出す毒々しい光が彼女の姿を映し出している。  
茅は一糸だに纏っていなかった。眠るとき、彼女が服を着ないのは小学生のころからの習慣である。  
肌が人一倍敏感な彼女は陽の光を吸ったシーツの感覚がヤミツキになっていた。それは茅にとっての、誰にでもあるようなありふれた秘密だった。  
 放射能のような青白い光は、彼女の薄い胸や華奢な腕に陰影を落としている。眠られぬ夜の戯れ。それは思いもよらぬものを彼女の前にぶちまけている。  
快感のために服を着ていなかった。腐臭を放つ冷たい光はその肌に染みとおり、犯していく。俄かに吐き気を催した彼女は、パソコンの電源を落とした。  
 茅はベッドに身を投げた。  
 お日様のにおい。彼女は安堵して目をつぶる。暖かい布団に包まれて、まどろむ。それは天上の快楽に等しい。肌に浸透してくる温もりの残照。  
鼻腔から喉に満ちる優しい香り。茅はうっとりとした気分で寝返りを打ち、剥き出しの背中やお腹をシーツに擦り付ける。  
 性癖との関連はともかくとして、茅は基本的には光を浴びることが好きだった。サッカー部のマネージャーになったのも、日の光を浴びるためだったと言っても良いかもしれない。  
焼けたグラウンドの土の匂いもまた、彼女は愛していた。それは季節によって様々に味わいを変える。例えば、もうすぐやってくる、夏のグラウンドは香ばしいコーヒーのような風味。  
茅の脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。  
 
 鼻の奥に蘇る、汗の匂い。あのとき、頭の芯が痺れたようになったのを覚えている。そのことが忘れられず、茅は彼の居残り練習に付き合うようになった。彼女が少年に思いを寄せたのは、彼が優秀なストライカーだったからではなかった。  
もっと違う次元の、肉の感覚が茅を彼に惹きつけていた。  
 ふいに、体がざわついた。奇妙な、くすぐったいような何かが皮膚の辺りで湧き出てくる。  
 うつ伏せになっていた茅はシャクトリムシのように身をくねらせ、胸や腹を布団に擦りつける。突き上げられるおしりが薄い掛け布団を起伏させている。衣擦れの音と浅い呼吸。  
時おり掛け布団が秘部に優しく触れる。陰毛が擦れるだけだったかもしれなかったが、その刺激は確かなものだった。茅は暗闇の中、布団に包まれて喉元までを上気させて繰り返し猫のように伸びをした。自分でも乳首が勃起しているのがわかる。  
小さく固い粒が布団に押しつぶされた乳房にめり込んでいる。やがて彼女は身を起こした。シンナー中毒者のような目で。茅はおぼつかない足取りでベッドを降り、鞄を開く。  
取り出したのは一枚のタオルだった。今日の練習の後、「彼」にかしたもの。湿ったそれは土ぼこりに汚れ、生臭いにおいを放っている。そっと鼻を寄せ、彼女はそれを吸い込んだ。そしてそっと、誰かに遠慮するかのようにそれを舌先で舐める。  
「ふぁぁ」  
 汗まみれのタオルはけっしておいしくはなかった。しかし茅は抗うことができない。そのままタオルを乳房に押し付け、揉みしだくようにする。  
「汚れちゃう…」  
 そんな口先ばかりの言い訳のような言葉を呟きながら、湿った布で乳首を弄う。少し痒い。痒いから、掻く。自分に言い訳をしながらも、茅は行為を止めようとはしなかった。  
彼女は手を止め、少しの間物思いに耽る。迷っていたが耐え切れない誘惑だった。ゆっくりと、それを下にずらしていく。秘所に押し当て、肉襞を掻き分ける。  
彼女は指を止めることも忘れ、よろめきながらベッドに戻った。土ぼこりと汗にまみれたタオルが肉の奥にまで食い込む。そんなあられもない姿で茅はベッドに倒れこんだ。  
「病気になるかも…」  
 頭では分かっていたが、止めることができない。溝を丁寧にぬぐうようにして、陰核の周りを何度も何度も拭いた。  
「無理だよ…」  
 止めるなど無理だ、と茅は自分自身に呟く。  
 
 汗と土ぼこり、そして愛液にまみれたタオルをベッドの角にあてがう。床に片膝をつき、もう片方の足をベッドにあげてまたぐようにする。  
茅はそのまま腰を振った。彼女の中から湧いて出た液体がそれをひたひたに濡らし、音を立て始めたころ、茅は布団の端を噛み締めていた。  
(タオル、凄い汗だったんだ…高槻くん、いっぱい練習したもんね…)  
 納得したかのように鼻からため息を吐く。茅は自分に嘘をつきながら、会陰をベッドの角で摩擦する。重い感覚が腹腔を満たしていく。滲み出た汗が背中を暑く湿らせ、脇から乳房も良く筋かの液が流れている。布団を噛み、シーツを握り締めながら彼女は腰を振り続ける。  
「ぅ、ん、むぅぅぅぅぅぅぅぅ…!」  
 声を押し殺したまま、茅はイッた。その瞬間に引き締まった肛門を、写真に写った高槻くんが覗き込んでいることなど彼女は知る由もなかった。  
 
 翌日の分のタオルの端で茅が秘所をぬぐったことなど高槻本人が知る由もなかった。  
   

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