『恋占いの章』  
 
「紀君の行方っスか?」  
 占い装束の加賀見栖(すみか)はややあきれたように鸚鵡返しした。彼女の黒衣  
はフード付のゆったりしたワンピースだ。映画に出てくる魔女さながらに水晶玉  
をなでる栖。副業の占い師が、実に板についていた。  
 暗く小さい部屋の中、向かい合って腰掛けている水面(みなも)は伏せ目がちに  
頷いた。水面はあれから、由紀の行方の手がかりがまったく得られずにいた。  
そんなとき、さる占い師の噂を小耳に挟んだ。恋愛がらみの仕事で圧倒的な腕前  
を誇るといわれる彼女のことを。それが栖のことだと知ったのはほんの数分前  
だったが。  
 栖は机から身を乗り出して水面の顔を両手で挟み、その目を覗き込むようにする。  
そして占い師然として告げる。  
「あなたに覚悟があるのなら」  
 またも頷く水面。  
「いい目っスね」  
 栖は立ち上がると水面の手を引き、黒いカーテンをくぐる。  
 奥の部屋には燭台に囲まれたベッドがひとつ。  
 唐突に装束を脱ぐ栖。彼女はその下に何も着ていなかった。  
「水面さんも」  
 栖に促されて水面は、自分の襟のボタンに手を伸ばした。  
 
 ベッドに全裸で横たわった水面。その傍らに栖は膝立ちになる。  
「いいって言うまで、目を開けたらダメッスよ」  
 栖はそう宣告して水面の秘部に小さな手を伸ばした。  
「予知能力っていうのは感覚なんスよ。紀くんの手だと思って、意識を集中して。  
そうすれば真実はおのずから見えてきます」  
 そんな説明をしながら愛撫を続ける栖。  
 やがて水面のそこがぬめりを帯びてくる。そのことに戸惑ったか、水面は眉間に  
皺を寄せた。  
「ね、ねえ、ほんとにこんなことして…」  
 まぶたを閉ざしつつも怪訝な顔で尋ねる水面。栖はその陰核をつねりあげる。  
「痛ぁい! 何…」  
 しかし栖は突き放すように言った。  
「今更! 今までどんな生活してたッスか、水面さん? ここまで使い込まれて  
十年カラダ売った淫売みたい」  
 水面は一瞬黙ってしまう。栖は指でこね回しながら言葉をつないだ。  
「まあ、そこそこ丁寧に扱われてたってのはわかるけれども。ボクも水面さん  
みたいなのはめったと見ないッスよ」  
 目を閉じたまま顔を赤らめる水面。その呼吸はかすかに荒い。  
「そんな、言い方…」  
 水面は少し上ずった声で抗弁しようとする。  
「だって池田(由紀)が…」  
 栖は遠慮会釈なしに、中指を突きこむ。すでに十二分に潤っていたそこにずぶりと  
潜り込む指。水面は「ぅ」とつぶやいて、かすかに身をくねらせた。  
 栖はその上に裸身を投げかけるようにして、水面の勃起した乳首を口に含んだ。  
   
「ちょ…」  
 かすかな抗議の声を上げる水面。  
 しかし栖は意に介さず、G地点を弄ぶ。そして耳元に囁いた。  
「水面さんも大変ッスね。「紀くんのために」無理ばっかりして」  
 栖は知っていた。プライドや理性を崩すには「言い訳」さえ用意してやればよい。  
「愛のため」というのは女性にとっては最上級の言い訳になる。たとえその「結果」  
が快楽だろうが金だろうが。  
 だだでさえ栖は「巧者」だ。幼いころから叔父に「英才教育」を受けてきた。  
 栖の指は水面の体内をかき回し、手のひらはクリトリスを押しつぶしている。  
そっと脇の肉を甘噛みすると、水面の汗ばんだからだが揺れる。  
「あ、ゃ、ん、んっ…」  
 水面は水面で感度が高い。快感の波紋がその肌に広がっていくのを栖は見て取った。  
「栖ちゃん、も、ぅ、こんな…」  
 かすかな恥らいを見せる水面。栖は畳み掛ける。  
「今も「紀くんのために」こんなに無理して」  
 そんな言葉を囁きながら、ゆっくりと指を差し入れする栖。  
「池田…」  
 水面が小さな声で呟く。その閉じた瞼から溢れ出す涙。  
 「勝った」と栖は思う。しかしすぐに攻め立てるような真似はしない。しばらく  
は感情が理性を侵食するのを待ったほうがよいことを知っていたからだ。  
 やがてその指はいっそう繊細で執拗な愛撫を再開し、水面の水音は激しさを増していく。  
 
「どうッスか?」  
 すでに服を着た栖が尋ねる。その視線は水面が行為中に噴出した尿の水溜り  
に時折向けられた。タイル上の黄色い水溜りとベッドの水面をかわるがわる見る栖。  
 水面は答えない。  
「何か見えたっすか?」  
 怪訝な顔で尋ねる栖に水面は向き直ると、いきなり壁際に追い詰めて秘奥に  
指を突き入れる。  
 服ごとめり込む指。栖は異物感に体を振るわせた。  
「こんなことで分かるわけないじゃない!」  
 怒鳴りながら栖の中を指で抉る水面。  
「ほ、本当ッス! ボクはたまに絶頂のとき、未来が見えるんスよ!」  
 出し入れされる水面の指。それにあわせてあえぎあえぎ、栖は抗弁する。  
「それにみんな効果があるって。ここにきた子はみんな、すぐに目当ての男の子  
落としている実績が…」  
 水面は思った。「それは単に開発されて、誘惑力が増しただけなのでないか」と。  
「本当ッスよ! ボクは嘘を…あきゃあ!」  
「だったら、あんたが予言のひとつもして見せなさいよ!」  
 水面はもう容赦しなかった。水面とて巧者だ。今度こそ、栖の顔が変な形にゆがむ。  
「あ、ぁあ!? くゆ! くゅぅよぉ? きゅぅ、ぅ…」  
 栖の足はガクガクと振るえ続け、ついには膝を折ってへたり込んでしまう。  
 酷い有様だった。栖の黒いワンピースには、水面の指が刺さっている部分からスカート  
の端まで続くシミができている。指は抜けたがまだ布が入った状態で、荒い息を吐き  
ながらぷるぷる震えている。  
「何か見えた?」  
 水面は勝手に一人でイキ続けている栖に抑揚のない声で訊く。  
「ぁ、ゃ、ゃぁ…」  
 栖は勝手に絶頂の残響にたゆたっているらしい。水面は黙って服を着る。  
 しかし彼女が部屋を出ようとしたそのときだった。  
 栖は唐突に告げたのだ。  
「ユキさんとユキさんが、ぅ、ん、か、片方女の子で、もう片方のちんちんが…」  
 栖はそこまで言うと白目を剥いて気を失ってしまった。  
 
                        <二章完>  
 

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