「あ、そうだ。家に来ない?」  
「もちろん、行くっスよ。」  
―始まりは、帰宅途中で左が誘ってくれたこと。  
いつも、ボクの心をわかってくれているような、そんな気がする。  
そんな左だからかな…思いを伝えてしまうとそれで終わりのような気がして、  
背徳感に酔っていたかっただけなんじゃないか、と考えたり…。  
でも、気付いてもらえずにいるのはもどかしくて…。  
だけどそんな複雑な思いも、左といる時には消えてくれるのはうれしかった。  
 
「決めた。あたし、一緒の高校に行く。」  
「唐突っスね…じゃぁ、ボクもきっと一緒に行けるっスね、多分。」  
高校生になってしまったら…左は紀君と、もっと近づくんだろう。  
それでも、別の高校に行ってしまって、バラバラになるよりは良い。  
…きっと、ボクに気を使ってくれてもいるんだろうなと思った。  
「うん?」  
紀君のことで頭がいっぱいだったの?…妬けちゃうなぁ…。  
「ぷっ…当然、『紀君と』同じ高校っスよね?」  
だから、こんなこと言っちゃったのかな?私。  
「…加・賀・見♪怒ってるの?…それとも嫉妬?」  
…やっぱり、左はずるい。ボクのことは加賀見って呼ぶのに…。  
「…2人っきりのとき位、ボクの事だけ考えて欲しいって思うのは、」  
ダメっスか?なんて、左を見上げるように見てみたら  
「…ごめんね。…そうだね…。」  
なんて言ってくれたけど…わかってくれてるのかなぁ?  
「…わかってくれるっスよね、左?」  
左だってきっと、紀君と2人きりの時はそう思ってる、そんな確信からの言葉。  
「ぷっ…もう…言うのすらダメなの?」  
「…ふたりきりの時は、ボクのモノっスから♪」  
…嫉妬心まるだしだったから、なのかな?…後から思うと恥ずかしい言葉。  
「…言ったなぁ?…そんな可愛いコト言うんなら、こうしちゃおうかな♪」  
前とは逆に、左に優しく組み敷かれて…ふと思った。  
…もし保健室だったら、そろそろ保険医さんが停めに来る頃だろう。  
カーテンを開けて、またなの?、加賀見、森居…なんて。  
「…同じこと考えてたみたいッスね。停められちゃうって。」  
ふと、そう思った。…心が今だけ通じ合ってる気がして嬉しくて抱きしめる。  
見つめあえば、左はまだくすぐったいというキスと  
「ここは、あたしの部屋。だから、停めに来る人なんていないよ。」  
こんな優しい言葉をくれるけれど  
「…おじさんも、紀君も、未記さんも出かけていれば…っスね?」  
ボクとしては、なんだか意地悪で返したくなってしまったのだった。  
…もっとも、紀君と未記さんは隣の家らしいけれど。  
「…もぅ…二人っきりの時は、って言ったのはどっちだよ…。」  
…やっぱり、さっきの言葉を気にしてるのかな?  
「…ん…んふ…ひ、ひだり…?…ゃ…ぁ…」  
左の舌が、私の舌と絡み合って、蕩けそうになった。  
「…んっ…ん…?…んむ…ん…んっ……ぷはっ…なぁに?加賀見。」  
「…ふぁ…あ、あんまりっスよ…。」  
それとも女の子同士ってことでノーカウントにはなったものの、  
あのキスはファーストキスには変わりない…とでも思っているのかな…。  
「…嫌がってないくせにぃ♪」  
まるで、人が変わったように、その時の左は意地悪だった。  
 
<2-1:左の眸、ボクの心の声>  
 
いつしか私は、左とのキスに夢中になっていた。  
分かっていた。組み敷かれたままでは、拒んだところで意味が無い事も…。  
でも、背徳感に酔い、実る事のない恋に焦がれていた私には、  
拒もうとさえ思えなかった。だからこそ…止めて欲しかった。  
「…やぁ…左…やめ、て…」  
まだ紀君のさえも受け入れた事はないだろう左とは違うのだ、私は。  
「…んっ…ふぁ…ぁ…ひ、ひだ…りぃ…やめ…やめ、て…ぁあ…」  
…汚されたとは思っていない。おじさんは嫌いではなかった。だけど…。  
「ん?…どうして?」  
『…じゃぁ…どうして、こんな声出てるの?』  
「やめ、て…汚い、よ…ひだ、り…」  
…問いかけてくるような、左の無邪気で意地悪な眸には  
『…やめたいけど、やめられないの?…嫌と思ってるような声じゃないよ?』  
…オンナとして目覚めてしまった「私」に、気づかされてしまうから。  
……もう、今の私の理性なんて、あっても無いようなものだ。  
…今、分かる事といえば…左の無邪気な、意地悪な眸の問いかけの正体が、  
おじさんとの時間に客観的に見ていた私の…心の声だという事だけ。  
『中途半端でつらい思いするよりも拒まずそのまま、っスか?』  
 
「汚くなんか、ないよ…加賀見…。」  
「…やだ、ひだ、り…。…すみか…って、呼んで…」  
…そっちなんだ、と思ったけれど、野暮だろうし、言わないでおこう。  
「ごめん…スミカ」  
代わりに、耳元で、できる限りの低い声で呼んであげようと思った。  
ベタかもしれないけど、例えば、少女漫画とかで、相手の女の人に  
『…そんなこと言うけど、体は正直みたいだよ?』っていう男の人のように。  
「…んっ…左…。」  
「…んっ…んちゅ…スミカ…。」  
紀君とも、したことのない深いキス。  
スミカと二人だけの時くらい…紀君のことも忘れなくちゃ。  
そう思い、求めるまま啄み、舌でスミカを感じて…。  
―どれだけそうしていただろう。  
息が苦しくなったのか、惜しみつつ離れるスミカ。  
つぅと唇から零れるてらてら光る雫が、なんだかエッチだなぁなんて思った。  
 
<3-1 栖サイド>  
 
しばらくした後、左も気が済んだのか、キスが優しくなってきた。  
…だから、つい意地悪したくなってしまった。  
私が唇を離したことをいぶかしんだのだろうか?左は眉を顰めた。  
「…んっ…すみ、か…」  
まだ慣れないのか、もじもじとしている左が、愛しくてたまらない。  
「…はぁ…ぁ…左が、意地悪、だから…仕返し…」  
―紀君もまだ、ココには辿り着いていない。あの時はまだ、未遂だったから。  
そう思うとまた、嬉しくなった。少なくとも今だけは、左を独占できるから。  
叔父さんとの関係で、すっかりオンナになってしまった私に比べれば、左は、とても綺麗…いや、純粋だと思う。  
自分の仕草が紀君にどう受け止められてるのか気付いていないのがその証拠。  
あの時は、左が悪い、なんて言ってしまったけれど、本当は、左は悪くない。  
…寧ろ、あの時までああいうことにならなかった事の方が不思議だった。  
紀君にとっての左が大きく変わり始めたのはいつ頃だったのかということも。  
…左のこと、できることなら独占したい。結婚したいと思った事もある。  
親友としてなら気楽に接していける一方、同性だから叶わない、そんな願望。  
…オンナである事に慣れてしまったけがれた自分も、男の人も嫌い。  
紀君は…もっと嫌い…好きになれそうにない。  
 

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