ガチリリスは窓の外を眺めている。
月がとても美しい夜。
(この空を飛びまわれたらどんなに気持ちいいんだろう…)
その想いと同時に目を閉じた。
そして思い出す。
今どうして自分がここに居るのかを。
けれど…
(気がついたときは何が起こったのかすら思い出せなかったっけ…)
そして、その時の事を思い出す。
今はただ、思い出すのみ。
ふわり。
風がカーテンを持ちあげる。
そこに自分ではない誰かの影が映ったのを見て彼女は眠るのだった。
昼と夜が逆転した世界。
人間と生活を合わせるのはこうも辛いものなのか、と少し苦笑した。
ハンターとの戦いで瀕死となった彼女は気がつけばこのベッドの上だった。
その時のガチリリスの記憶は曖昧で…何が起こったのかも覚えてなかった。
ただ、体が自由に動かず、そして何も考える事が出来ない状態で・・・
体中が痛みを訴えていた。
「負けちゃった…」
その一言が出たのはありえないほど自然な流れ。
そして次に発した言葉。
「ここ・・・どこ?」
これもまた自然な言葉。
問いかけても答えるものは無く。
静寂のみが答えだった。
(天国とかじゃないよね、魔物が天国とか洒落にもならないし・・・)
(お腹空いた…でも体が動かなくて飛べないよ・・・)
刺された場所を手で押さえると包帯が巻かれている。
(誰が・・・?どうして・・・?)
そんな事を考えながらもガチリリスの意識は沈んだ。
(目が覚めたらまたいろいろ考えよう)
とにかく眠りたい。
ただそれだけだった。
そして次の日。
ガチリリスが目を覚ますと誰かが居た。
驚いて開けた目を再び閉じる。
(…人間?)
一瞬彼女の瞳に映ったのは男。
歳は分からないけど身長は大体ガチリリスと同じか少し高いくらい。
思い切って目を開ける。
向こうもこちらを見ていたようで視線が合う。
「・・・」
「・・・」
しばし流れる無言の時間。
「貴方だれ?」
「体は大丈夫?」
全く同時に口を開き、音が重なる。
そして、また無言の時間。
「えっ…、と」
「その…」
再び言葉が重なる。
話をしようにも話が出来ない不思議な空間。
「…しばらくゆっくりすると良いよ」
『彼』が口を開いた。
ガチリリスの方は黙ったままだ。
「じゃ・・・」
部屋を出る『彼』にガチリリスは言う。
「助けてくれたって事?」
『彼』は一度だけ頷くと部屋を出て行った。
(・・・なんか変な事になったなあ・・・)
(まあ良いか、助かったんだし)
(・・・でもお腹空いたなあ)
(『彼』から精気でも貰っちゃおうかな…でもそれは今後の事を考えると良くないなあ)
疑問や打算、何より人間に助けられたという複雑な気持ち。
ガチリリスの複雑な生活がこうして始まった。