「ねぇ、みんな日焼けしようよ!」
いつもと同じような感覚でリリス達の話が始まる。
今日もまた1体のリリスが中途半端に頷いて聞き流している。
熱心に話をしているのはガチリリス。
リリスが大量の養分を得て産まれたもので突然変異とはまた違い、その肌は褐色である。
他のリリス達と違って少し色が濃いのが特徴で日焼けにも強い。
他のリリス達はと言えば…みな純粋な白肌で誰が見ても美しいと判断できる。
勿論、外見上はガチリリスもそう変わらないのだが…
「あの子正直鬱陶しいよね」
口を開いたのはコウモリおとめだ。
勿論本人に向かっては言わないものの、やはりそう感じていたものは多いのだろう。
「食べても太らないあの体質も鬱陶しいですことよ、ホホホ」
リリスイーツがそう話す。
「でもそんな事言うのも可哀想だよ」
「そうそう、同じリリスでしょ?仲良くしようよ」
眠りリリスとリリスが遠慮しがちに言う。
「ちょっと虐めてみたくもあるんだけど…流石に可哀そうかな?」
はらぐろおとめが珍しく同情の声を上げる。
しかし、全てはニンバスのこの一言の前に終わる。
「あの子くらいのものですよ、ピュアリリスを産み出せないのは…」
「タカラリリスのようにか弱さがあればまだ愛される存在なのでしょうけど、」
「彼女はリリスであってリリスでは無い…言わば雑種」
「私達は本来、陽の元では生きてはいけない存在なのにあの子は強すぎるのです」
この話を聞いて多くのリリスは納得してしまう。
ガチリリスは他のリリスとは違い少し特別な存在なのだ。
「…」
話を聞いていたリリスが浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
ニンバスが聞くとリリスは気まずそうな顔で言った。
「…今の話…聞かれちゃったみたいだよ…」
「地上の方に逃げて行っちゃった…」
「もし、勇者にでも会ったら終わりですわね、ホホホ」
外は夕刻。
勇者の侵入は幸いにして無いものの危険な状態には違いない。
そんな中外へ出ていったガチリリスの運命や如何に!?
「んー、外に出てきたのは良いけど…」
ガチリリスは外を見渡した。
外に出た頃には夕刻と言う事もあり日が沈みかけていた。
幸いな事に人には会わずに済んだ為、特に注目を浴びる事もなかったようだ。
それよりもガチリリスは不思議な感触に驚いていた。
「上、天井がないんだ…」
「空を飛んだらどこまでも飛んで行けそう…」
ばさばさっ
そんな音を立ててガチリリスは空を飛んでみる。
見渡す光景もほぼ沈んだ夕陽も、全てが美しい。
この世界はまるで彼女の為に用意されたのではないかと思うほどの錯覚を受ける。
褐色の肌と羽が夕陽に照らされ、下から見上げたものにはさぞ幻想的な光景に見えるのだろう。
「どこまでいけるのかな…?」
ガチリリスは羽を広げて空を飛ぶ。
上を上を目指して空を飛ぶ。
空を飛ぶうちに空気が薄くなり、息をするのが辛くなる。
けれど、まだまだ天井は見えてこない。
「…天井が無いんだ…」
単純な驚きにガチリリスが震える。
そして、今度は下へ向かいゆっくりと降りてゆく。
その頃には夕陽は落ち、完全に夜の世界。
見渡す世界に小さくぽつん、ぽつんと明かりが灯っているのが分かる。
上にも、そして下にも星明かりが見えるようでガチリリスはなんだか嬉しそうだ。
ぐぅ・・・
そうこうしているうちにお腹が鳴る。
リリスの中でも飢えに強い彼女とは言え、お腹は減る。
「餌…探さなきゃ…」
ここ、地上にはガジガジムシもエレメントも無い。
けれど、彼女は本能で何を食べれば良いかは知ってる。
人の精。
夢魔であり、淫魔でもある彼女にとってそれは欠かすことのできない美味な餌。
自由になった身で彼女は町へと降りてゆく。
ターゲットを探して。
地上では数人の男達が会話をしている。
「魔王が復活したんだってよ」
「何が起こっているのかよくは分からんが・・・勇者が居れば安心だろう」
「この街にも一人滞在しているみたいだぜ、ハンターがな」
酒に酔っているのか大声で話す者、気弱そうに話すもの、自信ありげに話すものとさまざまではあったが彼らにとって魔王は特に気になる存在ではないようだった。
そして、会話が終わると彼らは別れ、帰路に着く。
ガチリリスは上空からそれを眺めていたが、一人の男に目を付けた。
「うん、あいつにしよう!」
そう言って空から近づき、声をかける。
「お兄さん、はじめまして!」
突然の可愛らしい声に男が驚き、上空を娘が飛んでいるのに気がつく。
訝しげに視線を上げ、まじまじと娘を見上げる。
その姿は…誰が見ても魔物だ。
「ば、化け物だ!」
男はすぐさま背中を見せて走り去ろうとした。
「あっ、ちょっと待ってよぉ…」
ガチリリスは手の中に魔弾を握りしめ、男に放つ。
「ぐぁ・・・」
男はその場に倒れる。
そこへ空から娘が降りてくる。
「もぉ・・・化け物はないでしょ、化け物は・・・お詫びとして精気貰っちゃうね!」
微笑を浮かべるガチリリスの表情は…子供がおもちゃを手にした時のそれに似ていた。
ガチリリスは有無を言わさず男のズボンを下げて、性器を露出させる。
餌を目の前にして彼女は少し嬉しそうだ。
男が思わず叫ぶ。
「た、助けてくれ…!」
「助けてくれじゃないでしょ、これから気持ちいいことをしてあげるんだから」
ガチリリスは男性器をそっと握り愛撫を始める。
まるで魅入られたかのように男は黙ってしまい為すがままになっていく。
「じゃあ、咥えちゃおうかな」
キラキラとした瞳に似合わずその表情は淫美だ。
そしておもむろに口の中で加えた後、キャンデーを舐めるかのように舌を絡める。
その舌技はまさに巧妙と言うより他はなく、男も思わず声を上げる。
そしてその行為を続けた後、リリスは男が限界なのを感じ取る。
「んっ?もう限界なんだ?…早いけど出していいよ…」
男が絶頂を迎え射精するとガチリリスはそれを美味しそうにコクコクと飲み干す。
そして男は動かなくなった。
精と同時に人の精神に干渉し、活力を丸ごと奪い去る・・・。
ガチリリスがしたのはまさにそれであった。
「んー、美味しかった!」
「もっと欲しいけど、さすがに死ぬまでやっちゃうのは可哀そうだからこれで終わりにするね!」
男はしばらく立ち上がることもできないままだろう。
いや、これから数週間はなにも考えられないほど気力を失ってしまうだろう。
ガチリリスは倒れたままの男を放置してそのままどこかに飛んでいってしまった。
…以降、この街ではしばらくこの被害が続くことになる。
「もう5人目だ…」
「被害は増え続けるばかりだ」
今日もその手の会話が行われる。
ガチリリスによる被害は増えるばかりで収まる事はない。
全く困ったものだと町の人々が首を抱える。
「そう言えば、そこそこ有名な魔物ハンターが来ているそうだ」
「シオリ、とか言ったかな」
「一度ダンジョンに潜ったものの失敗したらしいがそれだけに実力はありそうだ」
町の人間は彼女に依頼を持ちかけた。
「リリスですか…。」
「はい、貴方なら何とかしていただけると思って」
「分かりました、何とか致します。」
「では、何かこちらにも手伝えることはないでしょうか…?」
「そうですね、できるなら…」
このやり取りの後で、再び訪れる夜。
シオリは先にダンジョンに入った時の事を思い出す。
「先輩がもう少ししっかりしてくれていれば問題なかっのに・・・」
「けれど、今回の相手はリリスだけ」
「たいした問題はないかな」
シオリはそう呟く。
そして、夜の街をシオリは一人待ち続けた。
待っている間は焚火で体を温める。
炎が揺らぐ。
まるで消えそうな自分の自尊心を見つめるように。
そして、しばらくして上空から声がした。
ガチリリスである。
「あれ、お姉さん一人きり?今日は誰も出歩いてないんだ?」
「ええ、そうよ、待っていてあげていたのよ」
首をかしげてそのリリスは答える。
「もしかして私を殺すつもりなの?」
シオリが答える。
「残念だけど…魔物に生きている価値なんてないのよ」
そしてハンターとしての言葉を繋ぐ。
「じゃあ、死んでもらうわ」
「…(リリスはあまり攻撃に耐性がないはず…距離を常に詰めていればまったく問題ない…)」
「へー、楽しそう!じゃあやって貰おうかな?」
「お姉さん弱そうだし、全然平気だよ」
無邪気に答えるガチリリス。
剣を構えるシオリ。
両者が…動く。
キィィィン!!!
鈍い金属音と共にシオリの持つ剣が折れる。
動揺するシオリ。
「そんな!たかがリリス如きに?」
そこへリリスがいつの間にか持っていた杖で叩きつける。
シオリがそれを持っていた盾で受け止めようとするが…盾は砕け、シオリも大きな打撃を受けて立ち上がれなくなってしまう。
「くっ…」
思わず声が漏れる。
リリスはそれを見てにこりと笑う。
「ただのリリスなら問題ないんだろうけどねっ!私は特別なの」
「さてと、お姉さんの精気をいただくとしますか…」
動く事が出来ないシオリは流石に青ざめた。
夜はまだ長い。
ガチリリスはシオリの服を剥いだ。
彼女の体はまだまだ女性としては一部幼さが残っているような感触を受ける。
「…やめなさい!」
思わずシオリが声を漏らす。
しかし、ガチリリスは全く動じずに指で陰部を刺激し始める。
そして湧いて来た愛液を指ですくって舐める。
淫靡な光景だ。
「あれ?もしかして…」
指先を舐めたガチリリスは不思議そうな顔で言う。
「おねえさん、処女なんだ…」
「・・・悪かったわね・・・」
シオリは答える。
「んー、勿体無いなあ。こんなにも男の人を寄せ付けそうな体なのに」
ガチリリスは濡れた指先をシオリの顔に押し付けて言う。
「決めた!私がお姉さんの処女貰っちゃおっと!」
「・・・!」
流石にシオリも青ざめた顔になる。
だが、倒れた時にばら撒かれたフェロモンによって身動きが取れない状態であることを認識し、絶望する。
「汗でちょうどいい感じに体も温まってるし、条件としては悪くないよね」
ガチリリスは自らの尻をそっと撫でる。
するとそこにあった尻尾が伸びてきて…硬化する。
「これがお姉さんの初めての相手になるんだよ、凄いでしょう」
「・・・」
「何も喋ってくれないんだ…つまんないの…」
そう言うとガチリリスは尻尾の先端をそっとシオリの秘部に押し付ける。
そして少しずつ押し込んでゆく。
「あれ、お姉さん、震えてるんだ…大丈夫だよ、気持よくしてあげるから」
「・・・」
シオリは何も喋らないが自らの体が震えていることだけは分かる。
そして…ガチリリスは少しずつ尻尾を押しこんで行き…ついに軽い抵抗に差し当った。
「じゃあ、今から処女膜破っちゃうね?何か言いたいことある?…あ、でも謝ってももう遅いからねっ。」
「…殺してやる…」
「え?」
「絶対にいつか殺してやる…」
「それ、無理だよ、だってお姉さん弱いもん。頑張って強くなれると良いね。それじゃいくね。」
そして強い痛みがシオリを襲い、シオリは意識を失った。
股から鮮血が落ちていく。
その鮮血を美味しそうにガチリリスが舐めとる。
それはシオリが処女を失った瞬間でもあった。
夜が明けた頃、町人によって発見され救助されたシオリは誓った。
あのリリスをいつか、必ず、殺してやる…
強くなる…と。
そしてしばらくの時が過ぎる。
町はいつもと変わらない様子だった。
リリスの被害も変わらず。
そこへ街を訪れるものがあった。
あのシオリ…その人である。
そして幾度かの夜を迎えたある日の事。
ガチリリスは再び町の中を見回していた。
「んー、今日も美味しい精気を頂こうと思ったけど…」
「何か変な空気…、なんだろ?」
ガチリリスはそう言って町の中を歩く。
今日はあまり天気も良くないようで、今にも雨が降りそうな天気だ。
周りを見渡しても静けさばかり。
そこへフードを纏った人間がやってきた。
訝しげな表情でガチリリスは人間を見つめていたが、それが敵だと認識するのは早かった。
空からは小雨がぽつぽつと降り出している。
「あなた…私を倒しに来たんでしょう?なんとなくわかる気がする…」
空気が凍りついたような感触。
ガチリリスは手に魔弾を握りしめ…フードをかぶった人間に放つ。
ひらり・・・
フードが落ち、隠れていた顔が認識できる。
その顔はどこかで見たような顔。
それは…確か彼女を一度狩りに来た魔物ハンター・・・!
「シオリよ」
フードの下の女性は一言だけ言う。
「今日は約束通り貴方を殺しに来たわ…」
怒りに震えるでもなく落ち着いた声でシオリは呟く。
「…えー、また来たの?どうせまた負けるだけなのにねっ!」
ガチリリスが面白そうな表情で言う。
「まあ、また精気を吸い取ってあげるだけだからこっちとしては面白いだけなのにね!」
それを聞いてシオリが抑揚のない声で話した。
「・・・それはどうかしらね?」
ガチリリスは少々面倒そうな顔で言う。
「だからお姉さんが私に勝つなんて無理な話…」
そして魔弾をシオリに向かって放つ。
「なのにねっ!」
シオリはそれをひょいと避ける。
「…まだ気がつかないのね」
憐れむような眼でガチリリスの方を見る。
「えっ?」
彼女の肩に突然痛みが走る。
何が起きたのか分からないような顔で後ろを振り返る。
そこにはもう一人の魔物ハンターが立っていた。
「・・・1本」
気がつけばナイフがガチリリスの左肩に突き刺さっている。
「2本」
その魔物ハンターが声を上げると同時にナイフが右肩に突き刺さる。
「痛っ!」
思わずガチリリスは声をあげてその場にうずくまった。
そしてその魔物ハンターが口を開く。
「リヒテルだ」
「もっとも今から消えゆくお前には意味のない名だ」
「・・・そして3本」
今度は左腕にナイフが突き刺さった。
「こいつ、仲間を連れて来たんだ…」
ガチリリスはようやく状況を飲み込めたが時すでに遅し、である。
不運にして負けるはずはないという驕りが判断を狂わせた。
そしてシオリが連れてきた仲間はガチリリスにとっては歯が立たない相手だった。
「逃げなきゃ…殺されちゃう」
ガチリリスが空を飛んだ所にまたナイフが一本。
空を飛び逃げようとする彼女の何と痛ましい事か。
体は傷だらけで空を飛ぶことすらふら付き安定しない。
昨日までの元気な姿とは全くの別の姿だった。
そして、ふらふらと逃げようと空を飛んでいる最中にまたナイフが飛んできた。
…命中。
そしてガチリリスは空を飛ぶ力を失い、そのまま落ちていった。
落ちた先は激しい濁流渦巻く川の中。
「…逃がしたか」
男が呟く。
「リヒテルさん、ありがとうございます」
シオリが頭を下げる。
「流石にもう生きてはいないでしょう…。」
「完全に殺すまで油断はできん」
「だが手負いの魔物一匹くらいお前でも仕留められるだろうさ。」
リヒテルがそう言う。
「そうですね、地の果てまでだって追いかけて止めを刺して見せます。」
「これで私も一人前のハンターですね。」
そう答えるシオリ。
彼らの言葉は当たっていた。
ガチリリスはなんとか生き延びる事が出来たのである。