「ごめんね……」
真夜中。月の光しか入らない狭く薄暗い部屋の中で、少女は床に向かい呟いた。
否、床ではなく、そこへ落ちている赤黒いくちばしの破片へ向かって。
それはあの男達に握りつぶされた命の残骸。
数少ない雪菜の友の成れ果て。
雪菜はそれを拾い上げ、自分の着物の袖を破った布でそっと包んだ。
「ごめんね」
もう一度呟き、その包みを網の外へ落とした。
あの男の妖気に当てられてしまっては、明日から他の小鳥達もここへは来ないだろう。
安堵と少しの寂しさが雪菜を襲う。
寂しさ。その感情を認識するとともに雪菜の脳裏には、なぜか昼間の男が蘇る。
それは友を食いつぶした男。
いらぬ助言を残した男。
けれど、雪菜はあのサングラスの下に漂う「寂しさ」を感じ取ったのだ。
自分の「寂しさ」など比較にならぬほどの、深い深い……。
それはもう寂しさなどではないかもしれない。
悲しい人……雪菜はしばらくぶりに自分の兄以外の人物について思った。
その時、雪菜の耳に聞きなれた音が届いた。
地下の階段を下りる靴音……雪菜は垂金がまた自分を辱めに来たのかと、体を強張らせた。
そして、もう習慣になる冷気での威嚇を開始する。
キィ……床をきしませて扉は開いた。
「!あなたは……」
ドアの向こうから現れたのは、でっぷりと肥えた醜い化け物みたいな人間ではなく、
程ほどに筋肉質な肉体を持つ長身の人間みたいな妖怪だった。
「おや、覚えていてくれたのかい?嬉しいねェ」
それも先ほどまで雪菜の脳内を占めていた妖怪、だ。
「昼間、会ったばかりですから」
少しも表情を変えずに、冷たく言い放つ。
「つれないねェ。こんなとこに結構な時間ブチこまれてたんじゃあ……
その気持ちもわからんこともないかな」
「何をしにここへ?」
「依頼人のもう一つの頼みをね、まァ手っ取り早く言えばアンタが
あの男に毎晩されてるのと同じことをしに来ただけだ」
「……?」
戸愚呂の言い方に引っかかりを感じた。
あの男とは間違いなく垂金のことだろう。では、依頼人とは?
それも垂金。けれど、今の戸愚呂の言葉では依頼人がまるで別の人物のように聞こえる。
「あの、それは……」
「無駄な会話はしたくないな、それとも会話をしたほうが感じるってなら別だが」
「あっ!」
雪菜の警戒も無意味に、あっけなく両手首を男の片手に拘束される。
「アンタを最大級に感じさせなきゃならないんでね」
男は口端を吊り上げ笑った。
「……あっ……」
不意に戸愚呂に耳たぶを甘噛みされ、その思ってもいない快楽に、
雪菜の口から艶っぽい声が漏れる。
そのまま生温かい舌は、ゆっくりと首筋へ降りていく。
肩が震える。こんな愛撫は初めてだ。
毎夜の暴行としか呼べぬ行為とは、180度異なる。
男の無骨な手が白い着物を少々手荒に剥き、その下に隠された肌を露にする。
名前の如く雪のような肌には痛々しい傷の数々が刻まれている。
「色々試したみたいだな、あのブタも。でも、頭が悪い」
「…………」
「……なんでこんなに手ぬるいのかって顔してるねェ」
「そんな、こと……あっ、く……ふぅ」
綺麗な桃色の乳首を戸愚呂が軽く摘む。
「良い声で啼く。さっきも言ったが、そうやってアンタに感じてもらわないことには意味がない。
……いつもとは別の意味で地獄になるかもしれないねェ」
くくくと押し殺した笑いが乾いた建物に響く。
「あっ、ん……はぁっ!」
先ほどの刺激で既につんと尖った乳頭を舌で嬲り、歯を立て更なる刺激を与える。
豊満な胸の上下は、雪菜の荒い息を表している。
その様子を冷静に観察しながら、戸愚呂は帯へと手を伸ばした。