「ほんと、バカなんだから・・・」  
幻海は去ってゆく戸愚呂の背中に向かって、もう一度つぶやいた。  
彼女が生涯愛し続けた人は、永遠に続く地獄への道を選択した。  
彼がここを通ったということは、おそらく自分の弟子・幽助が勝利したのだろう。  
 
(力が欲しい・・・!あたしは死んでもいい。せめて、奴の目を覚ませることができるだけの力が・・・!)  
彼が、あの事件からずっと苦しんでいたことは、うすうす勘付いていた。  
大切な弟子を守れなかった。守るためには、何より力が必要なのだ、と。  
そういった建前の元、弟子を守りきれなかったことをひどく後悔していたことを。  
 
彼は、力を求めて、暴走を始めた。  
 
「幻海・・・俺は、このまま時が止まればいいと思う。」  
「自分より強い奴が現れたときに、自分の肉体が衰えているのが怖いんだ・・・」  
思えば、昔から、あなたは力を求めていた。  
月明かりの元、小舟は静かに波を立てる。  
「いいじゃないか。私が老いればあんたも年をとる。それでいいじゃないか」  
「幻海・・・それじゃ、だめなんだ。」  
「なぜ、そこまでこだわるのさ。あたしには理解できないよ。」  
幻海は、ふっと目を伏せた。  
前髪が、さらりと目元にかかる。  
「理由は、もうひとつあるさ。」  
かかった前髪をそっとすくいながら、戸愚呂は言う。  
「お前と・・・ずっとこのまま、いれたらいいと最近思う」  
「・・・」  
幻海は、戸愚呂と目をあわせようとしない。甘酸っぱく、重苦しい沈黙。  
ふいに、幻海が立ち上がる。  
「・・・あたしは、ごめんだね!」  
そう言い放つと、小舟を蹴って地へと降り立つ。  
遠く沖では、戸愚呂を乗せた舟が大きく波を立てていた。  
「・・・ずっと舟の上なんて、死んでもごめんだ!」  
沖へ向かって大声で叫ぶ。  
その頬は、わずかに朱に染まっていた。  
 
同じ夜。  
幻海の部屋を、戸愚呂がたずねた。  
「幻海・・・入っていいか」  
「なんだい」  
ふすまがスタン、と開く。  
「さっきの話なんだが・・・」  
後ろ手でふすまを閉めながら、戸愚呂が切り出す。  
「力が欲しいって話かい?」  
幻海はわざととぼけてみせた。  
風呂上りらしく、濡れた髪がなまめかしい。  
先ほどとは違って、寝巻き代わりの至極淡い紫色をした浴衣を着ている。  
戸愚呂は、あわてて浴衣の合わせ目から覗く白い足から目をそらした。  
「そうじゃない。もう一度言うが、お前と一緒にいたいんだ」  
「・・・とりあえず、座ったらどうだい。でかいのがつっ立ってると邪魔でしょうがないよ」  
「・・ああ」  
幻海の斜め前に腰を下ろす。  
しばしの、沈黙。気の早い鈴虫の声が聞こえる。  
「・・・一緒にいたいなら、そうすればいいさ」  
先に沈黙を破ったのは、幻海だった。  
「勝手にすればいい」  
また、曖昧な言葉ではぐらかす。  
「幻海・・・」  
「ただ・・・」  
幻海が、ふと戸愚呂を見つめる。  
「もし、ずっと、ってなら、しっかりあたしをつかまえておくんだね」  
次の瞬間、戸愚呂は幻海を抱きすくめていた。  
幻海も、それに抗おうとはしない。  
彼女からは、石鹸の香りがした。  
 
どれくらい、そうしていただろう。  
小さな幻海は、戸愚呂の腕の中にすっぽりおさまってしまう。  
石鹸に混じって、甘い彼女の香りがする。  
「戸愚呂・・・」  
幻海が耳元で囁く。その刺激に、思わずぞくりと背筋が粟だった。  
「あんたは、どうやって、あたしをつかまえておくつもりだい?まさかずっとこのままってわけにもいかないだろう」  
少し揶揄の含まれた声。挑発しているのだ。  
闘いの場で、挑発に乗ることは禁物だ。しかし、今なら・・・  
戸愚呂はせっかくの挑発に乗ることにする。  
両手のひらでそっ・・と幻海の顔をつつむと、顔に優しく指を這わせる。  
頬・・・輪郭・・・顎・・・そして、唇。  
下唇の上を、何度も往復する。  
その間、視線は幻海の瞳にそそぐ。  
唇をなぞる速度にあわせて、視線をからませる。  
幻海の頬は徐々に朱に染まり、つ、と視線をはずす。  
その瞬間を狙っていたかのように、顎を上向かせ、優しく彼女に口付けた。  
今度は、唇で唇の上を往復する。まるで羽が触れるかのように。  
ゆるゆると開いていく、互いの唇。  
どちらからともなく、舌をからませた。  
始めは優しく・・・次第に奥へ。  
舌を吸い、上顎をなぞる。  
 
「んぅ・・・」  
合わせた唇の隙間から、かすかに幻海の声がもれる。彼女の瞳はすでに蕩けていた。  
それを確認した戸愚呂は、手を顔から首筋、胸元へと滑らせる。  
やや小ぶりの、しかし張りがある胸を優しくなでた。  
淡い紫の浴衣から、わずかに突起が確認できる。  
おそらく、風呂上りで上は下着を付けていなかったのだろう。  
その突起をこりこりと転がすと、幻海の口から熱い吐息が漏れた。  
戸愚呂は、浴衣の下を確認したい衝動にかられる。  
「ちょっ・・・あっ!」  
浴衣のあわせめから手を差し入れると、素早く横へと脱がせた。  
形のいい胸が片方、あらわになる。  
戸愚呂はその先端の赤い実に吸い付き、舌で転がす。  
「あっ!ん・・・んふぅ・・・」  
幻海はかすかに腰をくねらせた。  
戸愚呂は空いている手で幻海を押し倒す。  
柔らかな髪が、ばらりと畳の上に広がった。  
 
幻海に覆いかぶさるように倒れた戸愚呂は、片方の手で胸を揉みつつ、もう片方の手を白い足の間へ滑り込ませようとする。  
「あ、待ちな!・・待ちなったら!」  
しかし、いとも簡単に進入され、あっさりと下着を取り去られてしまう。  
下着はすでにぐっしょりと湿っていた。  
戸愚呂は、力ずくで幻海の足を大きく割り開く。  
「こら!やめろ!」  
言葉とは裏腹に、瞳は潤み、股間は熱く濡れそぼっている。  
戸愚呂は、その股間に顔をうずめた。  
「あっ!・・・んんんっ!」  
敏感な肉芽を執拗に舐め、舌先でぐりぐりと押す。  
「っくうぅぅぅん・・・はなせぇ・・・」  
幻海は必死で腰をよじって逃げようとするが、上手く力が入らない。  
甘い痺れとうずきが邪魔して、どうにもうまくいかないのだ。  
その格好は、戸愚呂から見れば腰を振って誘っているように見えた。  
「あぁ・・・んはぁ・・・」  
理性が、飛びそうだ。  
幻海がそう思った瞬間、不意に刺激が止まる。  
 
「戸愚呂・・・?っんはあぁぁん!!」  
いきなり、股間に熱い杭を打ち込まれた。中はまったく慣らされていなかったため、ひどくきつく感じる。  
熱い。  
苦しい。  
「幻海・・・ずっと、こうしたかった・・・」  
甘いバリトンの声が耳元で囁かれる。  
その声に反応して、幻海の中が、きゅん、と収縮する。  
戸愚呂は、ゆっくりと動き出した。しかし、それはすぐに激しい動きへと変わる。  
「ああっあっあっんっ!」  
熱い肉棒が、幻海の蕩けきった肉壁を激しくこする。  
角度を変え、緩急を変え、浅い深いを繰り返して。  
「あああぁぁっとぐろっ」  
幻海はあっけなく果てた。しかし、戸愚呂はそれでも行為をやめようとはしない。  
それどころか、ますます激しく出し入れする。  
「んんんんんー!」  
激しすぎる刺激に、幻海の理性は完全に飛んでしまっていた。  
愛液がとめどなくあふれる。  
そして、戸愚呂も限界に近づいていた。  
「幻海・・・ずっと、お前を、離さない・・・」  
そうつぶやくと、よりいっそう激しく動き、  
「くっ」という低いうめきとともに幻海の中で果てた。  
荒い息を繰り返し、二人は抱き合ってぐったりしていた。  
全身にうっすらと汗をかいている。  
「戸愚呂・・・あたしも、あんたのこと、好きかもしれない」  
そういうと、幻海はぎゅっと戸愚呂を抱きしめた。  
 
「ほんと・・・あんたは、あの頃から何も変わっちゃいないよ。  
あたしの気持ちだって、そうだ。  
変わっちゃいない、ほんと、バカなんだから・・・」  
彼女は、地獄へ向かった彼につぶやいた。  
バカなのは自分も同じだ、と思いつつ。  
 
 

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