「コエンマ様、ぼたん入ります」
重い扉が開かれる。
この広々とした部屋にも圧倒されることなくぼたんは足を踏み入れていた。
この最深部に設置された卓で腕を組み、ロッキングチェアにくつろぐ青年。
「コエンマ様。こんな時間に何の御用でしょう?」
「おう、ぼたん。よく来たな。まあ、座るがいい」
ぼたんをソファに座らせると自分も椅子から立ち上がる。
「今日はもう、朝から晩までめいっぱい働きましたからね。まさか、今からまた仕事に駆り出すなんて言わないでくださいよぉ?」
「悪いが、その要求は呑めんな」
コエンマの言葉にぼたんはええ!?と繰り出す。
「勘弁してくださいよぉ。あたしゃもう、こんな老体に鞭打つような真似はしたくないんですよぅ〜〜」
「安心しろ、ワシの方が断トツで勝っとる。……まあ、せっかくワシの部屋に来たのだから、茶くらいの休憩でも入れたらどうだ?」
そう言って、コエンマはぼたんに湯気立つ湯飲みを差し出していた。
「あらいやだ。すいませんね、あたしったら。上司にこんなことさせちゃって」
「まったくだ。さ、冷めぬうちに飲んでしまえ」
ぼたんは礼を言ってから茶をすすり、一息ついた後にコエンマに問うた。
「それで?何の御用なんです?」
「……わからぬか?」
「あたしゃエスパーじゃないんですから。わかるわけないですよぅ」
「はは、たしかにその言う通りだ。では、今からゆっくりと説いてやろう」
言ったコエンマの腕がぼたんの腰に回されるのに、それほどの時間を要さなかった。
「その身体にな」
「!?」
ようやく自分が呼ばれた意味を理解したぼたんだったが、時すでに遅し。
彼女はもうソファの上に組み敷かれ、目の前には、自分の力では到底敵わないような背の高い男が覆いかぶさっていた。
唇を奪おうと、顔を接近させるコエンマ。
しかし、ぼたんはそれに渾身の力で対抗しようと首をぶんぶんと横に振り続けた。
「いやぁぁ〜〜んッ!誰か、助けとくれよぉ!」
「ええい、やかましい。その声があの分厚い鉄の扉に遮られんとでも思っておるのか」
「でも、でもぉッ!こんな、あたしッ……」
「これも立派な務めだぞ。上司の身の回りのあらゆる世話も、部下の役目だろう?」
「でもッ……」
ぼたんは声を詰まらせた。今にも泣き出してしまいそうな表情だ。
普段の小粋で明朗快活な彼女には珍しい貌。
そんな表情を見ると、コエンマは罪悪よりもむしろ悦楽の情に絆される。
細腰の帯をゆるめ、白襦袢の襟の隙間から手を侵入させると、その白い柔肌は冷たい異物の動きに反応するように跳ねた。