ゆらりと瘴気の如き陽炎が揺らめいていた。
鼻先ひとつでそんな澱んだものを振り払い、飛影は奥の寝間へと足を踏み入れ
る。
すうすうと寝息をたてて、ひとりの女が睡眠の中にいた。
どんな女よりも最高の、女。
たとえ半身が焼け崩れていても、誇らしげに立つ様は戦慄すら覚えるほどだ。柄にもないと思われるだろうが、胸が震える。
「…飛影か」
暗がりの中で女が目覚める。
「ああ。邪魔をしてる」
「構わないさ」
寝台から身を起こした女は、頭を一振りする。
その秀麗な面差しは、暗がりの中でも光を放つようだ。女は妖艶な唇で言葉を
吐く。
「丁度いい。遊ばないか」
「…悪くはないな」
気まぐれを装った返事に、どんな女にも勝る女がにいっと笑った。
どうして出会ったかなど、陳腐な話だ。
男と女であれば、生まれ落ちた地や種族が違えど魂が引き合う。魂の色が酷似
していれば更に引き合い、出会わずにはいられない。ただ、それだけのことだ。
「眠りが少し足りないようだ」
「ならば帰る、キサマはまた寝ればいい」
「こんな時にか?」
互いにくつくつと笑いながら戯れることは、既に遊びのひとつになっている。
他の誰にも触れられてはいない乳房は、まだ小娘のように硬い芯を指先に感じ
させた。これが悦ばずにはいられようか。
「嬉しいか」
「まあ、な」
暗がりの中の戯れは、それぞれの立場を忘れる。
普段縛られているしがらみを忘れる。
そんな充足感を得たいが為に、男はここに足を踏み入れ、女はそれを待つ。
ただ、それだけの関係なのだ。