「蔵馬君は苦労人なんだねぇ」  
街中で偶然静流と鉢合わせ、どういった話の流れか  
今二人は蔵馬の部屋で向かい合って杯を酌み交わしている。  
「そんな風には思っていませんよ。相談されるのはまあ別にいいんです。  
 ただ面倒事に巻き込まれたくはないなってだけですから」  
フフっと自嘲気味に笑いながら蔵馬は杯をぐいっと呷る。  
空になった杯に酒を注ぎながら、黙ったまま煙草をふかしている静流の言葉を待った。  
「蔵馬君さあ、自分で気づいてないだけだと思うよ」  
何を言っているのだと訝し気な蔵馬に静流は言葉を重ねた。  
「長生きしててもさ、吐き出す場所ってのは必要なんだよ。  
 どんなに出来のいい奴でも、絶対にね」  
「…そんなに溜まってるように見えます?」  
ヤレヤレといった風情で軽く受け流そうとする蔵馬に静流の視線が鋭く刺さった。  
 
「……あの桑原君のお姉さんとは思えないですね」  
 
注がれた視線に負けたというように蔵馬は笑った。  
「確かに最近、訳もなく虚しくなったりイライラしたりしますよ。  
 誰も俺を知らない場所へ行きたいななんて考えたりね、柄じゃないですけど」  
右手の杯を見つめたまま静かに話す蔵馬を、静流はジッと見つめた。  
 
言葉を切った蔵馬と静流の間に沈黙が流れる。  
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは静流だった。  
「たまには甘える側になってもいいんじゃない?」  
 
静流は煙草をもみ消し酒を飲み干すと杯を置き、蔵馬の方へ両腕を伸ばした。  
抱きしめられた格好になった蔵馬は静流の意図を理解し、  
同じように酒を飲み干し空になった杯を置いた。  
 
「…甘え方が分からないんですよ」  
 
頭を静流の肩口に預け、蔵馬はポツリと呟くように言った。  
「案外不器用なんだね」  
クスッと笑いながら子供にするように蔵馬の頭を撫でる。  
どのくらいそうしていただろうか、不意に蔵馬が顔を上げた。  
二人の視線が絡み合い、そしてどちらからともなく唇を重ねる。  
触れ合うだけのキスは次第に深く熱いものへと変わった。  
相手の唇を味わいながら互いの服を脱がしていく。  
顔を離すと二人の唇の間にツッと銀糸が光った。  
華奢なように見えて意外に分厚い胸板に静流はキスを落としていく。  
男にしては白い肌に髪と同じ薔薇色の印が刻まれる。  
胸の飾りを口に含み舌で巧みに転がすと蔵馬は小さく息を吐いた。  
静流の手は蔵馬のズボンと下着を器用に下ろし、胸への愛撫で既に硬さを獲た蔵馬自身を解放した。  
 
自由になったそれを優しくさすりながら口づけは徐々に下りていく。  
胸から腹、そして口づけは蔵馬自身に達した。  
初めは遠慮がちに触れた唇は徐々に大胆になり、巧みに舌を操り蔵馬を責めたてる。  
荒くなった呼吸にわずかながらも嬌声が混じり始める。  
頃合いを見計らって唇を離すと静流は残っていた自分の衣服を脱ぎ捨て、  
蔵馬の上に跨ると腰を落としていった。  
 
酒が入っているせいか、攻めることで興奮したせいか。  
おそらくその両方だろう、静流のそこは十分に潤っていて蔵馬を飲み込んだ。  
最奥まで啣え込み、ふぅと大きく息を吐くと静流はゆっくりと腰を動かし始めた。  
厚い胸板に両手をつき浅く深くとリズミカルに腰を動かす静流。  
絶妙な動きが蔵馬に快感を与え、その快感が蔵馬の腰を動かす。  
静流の巧みな腰使いと自らの意思とは関係なく動いてしまう身体の齎す快感に  
抗う術もなく蔵馬は静流の中に精を吐き出した。  
 
 
 
「ちょっとは楽になったでしょ」  
プカァと煙草の煙を吐き出しながら寝転がって言う静流に、  
一方的にリードされ達してしまった情けなさを感じつつも心の靄が晴れたことを自覚し  
蔵馬は照れくさそうに笑った。  
 
 
―fin.―  
 

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