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コトコト・・・
「ムクロ様、お食事の時間です」
運ばれてきた食事。以前なら好んで食べていたものだった。
「いや・・・いい」
「は、はぁ・・・」
戸惑う部下。
食事・・・以前と好みが変わった。
そういえば・・・いつから、アレを好んでたべていたのだろうか?
「ふん、ダイエットのつもりか。」
「いや、単にもうアレは食いたいと思わない。」
飛影の腹に軽く穴を開けながら、ムクロは部屋の窓から外を眺める。
「体が変わっていってるのか・・・」
生まれ変わったから・・・か。
「ムクロ・・・お前弱くなったな」
飛影はスッと、そばに近寄る。
「飛影、お前が強くなっただけだろう?」
フッと笑い返す。
飛影の腹にできた、穴はもう跡形すらない。
「だが・・・」
「何も言わないでくれ・・・」
ムクロはそっと飛影を抱きしめた。
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あれは・・・あれは、いつごろのことだっただろうか?
魔界とか、人間界とか、霊界とか、
その世界がどうとか・・・
今いるところがどこかとか、
その世界がどれだけ広いとか・・・
何も知る必要はなかった。
知ったところで何があるものか?
自分がそこにいて、そこにいない世界・・・
「おい、娘・・・」
「・・・」
あの男は他の奴らと変わらず、近づいてきた。
「返事しろよ、ガキ」
「・・・」
話す価値などない。自分になど。
しかし、この男と出会ったときは状況が少し違った。
“ぐー”
腹の音。食っても食っても満たされない何か。
「はっはっは。腹へってるからしゃべれねーのかよ」
男は大きな口をあけて笑う。
「オレが腹いっぱい食わしてやるよ。」
満ち満ちと生気にあふれ、笑った男。
その名を雷禅。
その日から、ムクロと雷禅は一緒に住むようになった。
洞窟の中。
雷禅の住まい。
「・・・」
何故自分はここにいるのだろう?
見ず知らずの男の傍。
奴は自分に対して何かをしてくるわけでもなく。
何かをしている、といえば・・・
「10年待ってろ、お前より強くなってやるからな!」
ボロボロの男。
「そのセリフ、100年前くらいにも聞いたぜ。いつでもきな。」
無傷。
寝て起きればいつも違う相手。
そして、結果は同じ・・・
飽きないのは奴が戦いのバカだったからだろう。
「おい、お前!」
「・・・」
雷禅に何かを言われても、喋る言葉を作れなかった。
見えない何かとの戦う毎日。
「てめぇ、何かいえねぇのか?」
意味は理解できる。でも・・・しゃべることを自分の心が許さないようで。
「いつも『お前』とか『娘』とか呼びづれぇんだが・・・」
「(ムクロ)」
喉に出かかった、言葉が寸でのところでとまる。
名前を自由に言うことすら禁止されているらしい。
この名前に愛着があったわけでもないし、
酷い嫌悪があったわけでもない。
ただ、単に喋る能力をどこかにおいてきてしまったような感覚。
「まぁ、いいか。お前とかで。」
細かいことを気にしない奴らしかった。