静かな夜だった。
街から遠く離れたこの山奥には、神経を苛立たせる騒音や余計な光はない。
人間界に来るのは久しぶりだ。
そして、相変らず無駄に騒がしいあいつらや、妹に会うのも。
不思議な気分だ。昔は、仲間など目的のための手段にすぎないと思ってきた。
やっと、あいつらから自由になれてせいせいしたと思っていたのに。
たった数ヶ月逢わなかったというだけで、懐かしさにほんの少しだけ胸がざわついた。
妹ー。
あいつは、幽助たちの差し金で、今は桑原の家にいるらしい。
垂金の別荘に監禁されていた時とはまるで違う。
守られているという雰囲気が全身から溢れていた。
上手くやっているのだろう。
かすかに草を踏みしめる音がした。戦いに慣れた体が緊張する。体は動かさず、全身で気配を探った。
次の瞬間、風が吹いた。
大きく息を吐き、ゆっくりと力を抜いていく。そしてもう一度目を閉じた。
敵意はなかった。
主は、オレの姿を見てどうしたものか迷っている風だったが、やがて近づいてきて隣に腰を下ろした。
この空気を乱す事を恐れているように、何も言ってこない。
「・・・・何だ」
「あっおっ起きてたの?」
「用がないなら行け」
「そんな言い方ないだろ。久しぶりに逢ったっていうのに」
軽く体が触れて、オレらしくもなく少し鼓動が早くなった。
女は、全く相変らずなんだから、と呟きながら軽く睨んで見せるがそれほど怒っているようには見えない。
「・・・・幽助がね、気にしてたんだよ、雪菜ちゃんのこと勝手に決めちゃって。・・・あんたに悪かったかなって」
「・・・・別に」
桑原は、単純で頭の悪い男だが、雪菜のためなら命をかけるだろう。
信用していなかったわけじゃない。
「お兄ちゃんとしては、やっぱり心配?」
からかうような光を帯びた瞳が顔を覗きこんでくる。
黙っていると、その顔が少し寂しげにゆがんだ。
「また、魔界に行くのかい?」
「当然だ」
「いつ?」
オレは何も言わない。多分答えは知っている。
「わっかんないなー男って。何で戦う事を止められないんだろ」
それにしても、女の纏うこの雰囲気は何だろう。オレはこんな彼女を知らない。
それとも、これが本来のこの女の姿なのだろうか。
「たまにはさ、こっちに戻ってきてね」
触れたままの右腕から、微かに震えが伝わってくる。
オレは、頼りないその肩を引き寄せたくなる衝動を抑えなければならなかった。
「・・・・雪菜ちゃん、幸せになるよ。絶対」
「ふん」
今は、雪菜の事は忘れていた。
少しだけだが、体が熱い。