×ハッピーエンド  
 
「幽助」  
先に切り出したのは、私だった。  
「ホテル行かない?」  
「あ?」  
眉間に皺を寄せ眉をひそめるそのしぐさ、子供の頃からちっとも変わらない。  
憎いような切ないような気持ちになって、私の口調は殊更にきつくなる。  
「何よ、そのバカ面」  
「いや、おめーよー。熱でもあるんじゃねーか?」  
身体を合わせた事はある。  
ここしばらくはそんな気になれなかったけど。  
・・・私から誘うのは初めてだった。  
「うるっさいわねー。で、どうすんの。行くの、行かないの」  
「そりゃ、ま・・・・」  
男らしくなく口篭る幽助を放っておいて、私は先に歩き始めた。  
「さっさとしてよね。あんたと違って私、忙しいんだから」  
「うっせーなー分かってるよ」  
小走りで私の隣に並んだ幽助と私は、どちらからともなく手を繋いだ。  
 
握り合った指先から彼の熱が伝わってきて、目の前が滲む。  
 
 
独特な空気を醸し出すこの建物に踏み入ると、私はいつも少し緊張してしまう。  
 
部屋に入るとすぐに、後ろから抱きしめられた。  
ちょっと待ってよ、そう言いかけた私の身体を強引に自分の方に向けさせ口付ける。  
口内を無遠慮に這い回るものに、私は自分から自分のそれを絡めた。  
まるで、全身の力を吸い取られていくみたいだった。下半身が微かに疼き始める。  
「ゆう・・・助・・・・っ」  
ひざから力が抜けていって、私はだらしなく彼にしがみ付く。  
すぐ目の前に、濡れた唇を見つけて気恥ずかしかった。  
 
幽助は、私の身体を横抱きにしてベッドの上に置いた。  
そして、すばやくTシャツを脱ぎ捨てる。  
私は、その裸の胸に手を触れてみた。  
この心臓がもう動いていないなんて、だれが思うだろうか。  
姿形は誰とも変わらないのに、誰とも違うなんて。  
 
「・・・蛍子?」  
行為を止め、気遣うように顔を上げる幽助に、私はなんでもない、と首を振った。  
「オレにはお前しかいねぇんだ。ずっと昔から」  
私が不安そうな顔を見せると、いつもそんなことを言ってくれる。  
好きだよ、結婚しよう。でも今は、自分に言い聞かせてるようにも聞こえて、悲しい。  
 
・・・もう解放してあげなくちゃね。あんたも私も。  
 
唇が首筋を滑り、指が服の下へ潜り込んだ。動きに反応して、身体がびくりとはねる。  
少しずつ、物を思う余裕がなくなってくる。  
胸をなぞる様に触れていた指に、少し力が入った。同時に、その頂に軽く噛み付かれる。  
「・・・っあぁっ・・・」  
腰から背中へと、嫌な種類の寒気ではないものが駆け上がる。  
 
「・・・蛍子、結婚しよう」  
 
・・・・私は答えられなかった。  
 
足の付け根までせり上がってきたもう片方の指が、  
すでに潤んだその場所に差し込まれ、私は一際高く声を上げてしまう。  
「あっゆ、幽助・・・っ」  
卑猥な水音が更に羞恥心を煽る。  
甘い疼きが全身に広がって、私は泣き声のような声を上げ続けた。  
恥ずかしいのに抑える事ができない。  
幽助の指が唇が吐息が、体を、いや体の中まで這い回ってる。  
そう思うと、ますます潤みが増すようだった。  
 
「・・・オレ捨てられかかってんだな」  
「そ・・・う・・よ・・・っ」  
「愛想つかされたか」  
「そう・・・よ・・・・っ」  
「もう引き止められねぇんだな」  
苦しい息の中、喘ぎながら私は答える。  
「そうよ・・・・・っ」  
 
私は、世界一宇宙一強い男なんて求めていなかった。  
好きな人と一緒に、ただ平凡に年を重ねて生きていきたかった。  
それでもお互い思いあっていれば、何があっても大丈夫。そう思っていた。  
私は子供だったの。  
 
弱くてごめんね。  
 
足を割って、幽助が侵入して来る。彼の汗が降ってくる。  
 
「それでもオレはお前が好きだ」  
 
・・・・私もだよ幽助。  
 
 
 
「バイバイ」  
あの時とは違う、本物のさよなら。  
 

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