それは帰宅途中だった。  
蔵馬は普通に通学路を帰っていく道先に何か妙な不安を感じていた。  
この先で何か特殊な事が起こってしまう予感を。  
 
気がつけば誰かの策略なのか、意識が吹っ飛んでしまっていた。  
意識が目覚めた時、そこは見知らぬ場所で座っている事に気付く。  
しかも、目の前には躯が裸で横に座っていた。  
ベッドの腰掛けつつ、躯は急に黙り込んでしまった蔵馬を眺める。  
「……どうした?何か具合でも悪いのか?」  
躯は彼を見つめ、彼本来の空気が妙な事に気にし始める。  
「……え?」  
声にした時に蔵馬は気がつく。自分が自分でない事を。  
蔵馬の声帯はどちらかといえばまだトーンが高いはず。  
声変わりが妙になされていない、高い声を放つ事は当然自分だから知っている。  
なのに、その声はいつもと違い薄暗く声が低い……。  
(もしかしてこの声は、飛影のもの!?)  
蔵馬は妖狐であるために特殊な聴覚を持っていたりもする。  
聞き間違えるはずも無く、念の為の確認として自分が誰だか尋ねてみる。  
「……あの…、いや、俺は誰だ?」  
その質問の意図が解らず、何処かで頭を打ったのか?と訝しげな顔をし、躯は彼の名を呼ぶ。  
「飛影……だろ?何を言っているんだ?」  
それで全ては一致した。今の俺は飛影である事を自覚し、蔵馬である飛影は考えた。  
一瞬の悩みの末、幸いにも躯は裸でいる事に行為に夢中になろうとしているのであろうと  
予測し、自分は飛影になり切る事を徹し、この場を乗り切ってみる事にした。  
半ば……面白半分を含め。  
 
「……飛影、いい加減にしろ。私はもう服を着るぞ」  
躯はベッドの下にある乱雑に置かれた衣類に手を差し伸べようとしゃがみ込む。  
「……その必要はない」  
飛影(蔵馬)は躯を咄嗟に抱き締めた。  
きっと先ほどまで、飛影は雑に衣類を脱がせ、直ぐに高揚したそれを  
欲望のままに貪ろうとしていたのではないかと考えられるからだ。  
 
「……ぁっ……飛影!?」  
再開し始めた瞬間、ベッドに再び引きづり戻されて膨らむ胸を激しく揉まれ身悶える。  
舌先で耳の裏を舐められ敏感に反応してしまう。  
しゅん…と股の間にじわりとした感覚が押し寄せられる。  
「ふぅうん。なるほど。躯ってそんな表情するんだ。」  
そんな風に言われた事など無い。初めての言葉責め?に妙に興奮し、反応してしまう。  
ぐっと唇を噛み締め、乳首を優しく弄られる事にも悦んでしまう。  
唇を支配され、舌でお互いを求め突き合いつつ、何やら背後でがさごそ物音が気になる。  
でもそれも指先が髪に触れられ、甘い息を漏らしつつ気にならなくなる。  
とはいえ、そんな風に言われた事など無いから本当に飛影なのか気にした。  
「!?飛影、貴様、何、を」  
言葉を塞がれいつの間にか視界が遮られていた。  
「いえいえ、こっちの話で…だ…。どうだ?躯。目隠しも、なかなかいいだろう?」  
くっくっくっと怪しげな笑いをし、飛影(蔵馬)は躯のジュクジュクに濡れつつある  
秘所の芽を軽く摘み、乳首を舌先で転がした。  
「はぁっ…ん!飛影、何か、上手……!!」  
もう躯はこれ以上何かを考え詰める事はできない。  
身体を飛影(蔵馬)に支配され、快楽を得る事に集中するしかなかった。  
理性なんて無く、ただ飛影が欲しくなった。  
「飛影…っ……飛影……っ…」  
躯は必死で彼の名前を呼ぶ。蔵馬はそれに答えるように乳首で遊ぶのを止め、  
舌先で秘所の芽を遊ぶ事にし指先は躯の大事な部分をゆっくりと侵入していく。  
「……んぁぁああっ……」  
高らかな声をあげ、躯は悶え苦しむ。  
こんな風に気持ち良くなれる方法があったのか、と意識はそこへ集中してしまう。  
切なく、そしていつも以上に飛影という存在が堪らなく欲しくなる。  
それは手に入るのに、何か物足りないような、でも期待を胸に寄せ貫かれるのを心待ちにする。  
「……飛影ぃ……は、早く……っ」  
余計な事は羞恥心の所為で言えない。  
飛影はそれでも受け止めてくれる。  
たまに、悪戯なところはあるけれども……。  
そして飛影(蔵馬)は自らも待ちきれず、大きく膨らんだ股間を握り締め、  
躯の中へ溶け込むように侵入しようとし始めた…… その時!!  
 
「………ッ!?」  
 
蔵馬の視界は、元の世界へと戻っていた。  
自分の身長に見合った視線。だけど、先ほどまで蔵馬として居た場所とは違っていた。  
そこは桑原の家だった。  
それよりも不思議なのは、飛影でいた自分が熱いモノを入れようとした時の  
熱く迸る高鳴りが止んでいる事の方が変な気がした。  
 
「……今日は桑原くんに会う予定は無いんだけど……」  
 
ぽつり。と蔵馬はそう呟く。  
しかし、直ぐに納得がいく考察を掴む。  
俺自身が飛影になっていた間の俺の身体は、桑原が使用していたんじゃないか?と言う事に。  
妙な悪寒が一瞬走るような気がしたがセックスの最中じゃない事に安堵する。  
誰にも会っていない通学途中で良かったと、本気で思っていたに違いない。  
 

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