「やあよく集まってくれましたね。あぁ、散らかってますが  
どうぞ適当に座って下さい。  
あ、飛影、今踏んだの…まぁいいか。皆さんお元気でした?」  
 
「…蔵馬。ここ俺んち。」  
飛影にバキッと踏まれ壊れた新作ゲームのソフトは、もう再起不能だ。  
幽助は諦め、それを無造作に床に放る。  
 
「俺も皆にっていうか、この中の一人に話があんだ。」  
何処か怒っているようにも見える、大柄の男、桑原。  
 
「ハッキリと誰に喧嘩を売っているのか、言ったらどうだ?」  
最初、唯一散らかっていないベッドに座ろうと、  
腰を下ろしかけた飛影だが、ベッドと幽助のしまりのない顔を見比べ、  
結局ベッド脇の壁に寄りかかりドカッと座った。  
ほのかに顔が赤いのを、蔵馬は当然見逃さないが、今はまだ、いじらない。  
込み上げる笑みを何とかやり過ごし、「では。」と咳払い一つ。  
「もう皆、わかってるでしょう?俺が何を話したいか。」  
「まぁ、な。正直俺は、暫くおめーらに会いたくなかったぜ。」  
幽助はチラリと桑原を見る。  
(特に桑原には、な。)  
視線を感じた桑原は、幽助と目が合う。が、幽助のほうから  
スイッと顔を背けてきた。  
「?あんだぁ?幽助。おめー、何赤くなったり青くなったりしてんだ?」  
「べ、つにぃ?てめぇこそ、誰に話があるっつんだよ?」  
「…まだ、わかんねぇ。いや、判った、かも。」  
 
微妙な空気が充満するこの小さな部屋で、実に楽しそうなのは蔵馬一人。  
「まぁまぁ。まず俺ですが、気付いたら桑原君の家の玄関前に立ってたんですよね。」  
蔵馬を除く全員の顔色が急変する。  
―やっぱり!―  
確信した。あれは、現実の事だった。  
「俺だ。気付いたら蔵馬になってたんだ。んで、雪菜さんが心配で  
急いで家に帰ったんだよ。」  
ここで飛影が更に青くなる。まさか。妹は蔵馬に何かされたのでは…?  
この中で一番たちの悪い、ある意味敵に回したくない要注意人物。  
「チャイムを連打したら、意識が戻ったんだ。」  
飛影の視線は目まぐるしく桑原に移る。  
―意識が戻った後、「何か」したか…?―  
蔵馬にしろ桑原にしろ、確実に雪菜に手を出したのが、この中に  
存在するのは確かだ。まぁ、妹が合意しているのなら…いや、複雑だが…  
「…失敗面…」  
飛影の囁きに、桑原が「あんだ飛影いきなり!!」と激昂する。  
いや、それに、意識が戻った後の、躯の痴態。  
『飛影?はやく。もうこれ以上じらすな…』  
なぜ目隠しを?なぜ自分でそれをとらない?  
そして、普段より嬉しそうなのは気のせいか?  
誰の仕業だ。  
失敗面ではないだろう。幽助?蔵馬?あんな卑猥な行為を、誰が躯に…  
「実はよ。俺も、気が付いたら螢子に手足拘束されててよ。  
んで、あいつに乗っかられてたんだよ。…何か風呂場も部屋ん中も  
いろんな物で散らかってるわ、床が濡れてるわ、ケツがヒリヒリするわで…  
何があった?って聞いても、あいつ笑うだけで教えねんだよ。」  
突然、「げほ!ごほ!!」と、飛影がむせる。  
唾液が変な所に入ったのか、三白眼に涙を溜め、顔はこれ以上なく茹で上がり。  
その様子を、蔵馬は腹を抱えて肩を揺らしながら見ている。  
「飛影…?まさか、俺の体に入ったのって…。」  
「知らん!俺は知らんぞ!!」  
「いや、もう誤魔化しきかねぇよ。なぁ、おこんねーから教えろ。  
何があった?」  
「う、うるさいなっ」  
蔵馬は飛影の妙な語尾にちょっと萌えたが、とりあえず仲裁に入る。  
「まとめると、桑原君は、俺。飛影は幽助。に、憑依したんですね。  
じゃぁ残るは飛影と桑原君の身体。誰が入ったんでしょうね?」  
「蔵馬。てめぇ、まさか俺になって…?」と、桑原。  
蔵馬はちょっと考える。もうどちらにしても飛影の怒りを買うのは避けられず。  
 
「雪菜さん言ってたんだよ。俺の様子がおかしかったって。ちょっと  
乱暴で、恥ずかしい要求をされたんだって…可哀相に、俺は許せねぇ!  
彼女に詳しく聞く事はできねぇしな。傷を広げる様な、そんなこと…  
だから、今正直に吐け!お前か?それともお前か!?彼女を辱め、鬼畜な  
命令を繰り返したのは、どっちだ!!」  
「鬼畜って…!ちょっと一回だけ『脚開け』って言っただけじゃんか!!」  
 
「「貴様かぁ!!!」」  
 
桑原の突然のグーパンと飛影の膝蹴りが、幽助の顔面と後頭部に綺麗に決まる。  
「幽助は、桑原くん、と…。」  
今後何かの参考にするつもりなのか、蔵馬がキチンとメモを取る。  
「と、いう事は蔵馬。貴様は躯に一体…」  
ピンポ〜ン  
緊張感のないチャイムとともに、玄関の開く音。  
「ゆーすけー?入るわよー??」  
ドカドカと上がってきたのは、螢子、雪菜、何故かぼたん。  
「おい、飛影。いつまで油を売っているつもりだ。」  
玄関のほうに目を向ける男共の背後の窓が、ガラッと開いた。  
「む!躯!?貴様ここに、何をしに…!!」  
「今言ったろう?さっさと帰るぞ。」  
口調と飛影の首根っこを掴む腕は乱暴だが、瞳だけは何故か熱い。  
「蔵馬!おい!!お前のせいでこいつは、変な行為にはまっているんだぞ!?」  
引きずられながら、飛影は蔵馬に抗議を続ける。  
「あはは。何故か全員集合ですね。皆でトランプでもやります?」  
「「「やらねぇ!!!」」」  
 
ピキン!!  
 
空気が張り詰めた。  
その場の全員が、一瞬硬直したかと思うとハッと回りを見渡す。  
「…??」  
お互いの顔を見合わせ、瞳に映るは怪訝の色。  
 
『俺(私)は… お前(あなた)は…』  
 
ダレ?  
 
幽霊や妖怪より更に不可解な現象は、エンドレスに…  
 
 
FIN?  
 

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