「ふう…、少し息抜きに外の空気を吸いに行こうかねぇ…」  
暗黒武術大会を観察する際にホテルのチェックインを済ませ、ぼたんは  
出入り口の外へでてあまり遠くへ行かないように近くを散策した。  
「……とは言っても、ここの空気は良いものじゃないわねぇ」  
微量にチリチリとする空気。周囲は黒い雲に覆われている。  
魔界の者と人間界の者がやりあう闘技場付近だからこそ、なんとも言えない  
殺気立った雰囲気は隠せるはずも無い。  
 
ガサッ…  
 
原っぱを大きく掻き分けられる音が聞こえた。  
「だ、誰だい!?」  
ぼたんはピクリと震えた。  
仲間の内の誰かなら安心だけど、知らない人なら少し不安だからだ。  
厄介な相手じゃないと良いけれど……と思いながら、一点に目を懲らしめる。  
「……よお」  
声は聞き覚えるある声だった。  
影の姿がはっきりした時、ぼたんは少しだけホッとした。  
「なんだぁ…、確か……陣……だったかい?」  
胸を撫で下ろし「ふぅ…」と大きく息を吐く。  
「うん、そうだ。人間の女って面白いな。必要以上に警戒しているって感じでさー。  
そんなに気になるなら、誰の気か察知出来るくらい鍛えれば良いじゃん」  
「………」  
ぐさり、と的を突かれた気がする。  
「ふぅ…ん。お前、幽助の仲間だったよな?名前は?」  
陣はニッとあどけない笑顔で尋ねてくる。  
それに戸惑いつつも、この人は大丈夫だろうと名前を教える。  
「ぼたんだよ。……ちなみに、あたしは人間界の女じゃあ無いさね。  
霊……ッッ!!!」  
そこで我に気付く。霊界の者というのはタブーだと思うからだ。  
霊界の者と言って快く思う魔界の者は数少ないと聞く。  
けれど静止した声を気にせず、陣はこちらに近づいてくる。  
 
「……!?」  
いきなりキスをしてきた。  
唇を離した後、陣はこう言ってきた。  
「人間界の女とこういう事するのって初めてなんだ〜。お前、決まっている  
男が居そうにないし、良いだろ?俺はぼたんの事を気にしてたしさ」  
やった行為に悪びれもせず、屈託の無い笑顔で問い詰められる。  
「う……、あんたっっ!!」  
呆然と妙な空気に威圧され、顔を真っ赤にして言いたいけど言えずにいるぼたん。  
「な、俺ぼたんが気に入った。一緒になろう」  
「んん……」  
再び口を塞がれ、咥内を貪られる。  
舌がべったりと張り付くような感じに迫られ、息がし難くい。  
「ぁ……ん……」  
いきなりの告白宣言?で一瞬ドキッとした乙女心が刺激の一旦になったのか、  
妙な気持ちになり甘い痺れを起こして身動き出来なくなる。  
そして唇が離れた隙を狙って、大きく引き離そうと強く陣の胸元を押した。  
「やぁぁっ!!」  
突き放し、ぽたんは唇を手で拭い涙を溜め込みながら振るわせた。  
「………」  
陣は少し悪い事をしたような罪悪感を抱き、ぼたんをぎゅっと抱き締める。  
「ご、ごめんよ。……女を手に入れる事で肝心なのは強引さって聞いたものだから」  
言い訳にならない言い訳で弁解をしようとするが、そんな事は伝わらない。  
「痛くしないから……」  
そう言い、陣はぼたんを離すまいと必死で抱き締めた。  
ぼたんは手に力を込め、強く引き離そうとしたが上手く離せずにいる。  
 
――あたしは、どうしたら良いんだい……?  
 
いつもなら抗うぼたんだが、今日は少しいつもと違っていた。  
抗おうと思ったが潔く諦めてしまう自分がいる。  
 
 

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