「静流さん今からお仕事ですか?」  
 
玄関先で出くわしたので軽く挨拶を交わす。  
早くなる鼓動を押さえ、極力平静を装いながら。  
高校受験に向け勉強に励んでいる桑原くんの様子を見に来ているという大義名分  
であるが、実際のところ桑原くんには悪いが彼女に会えるというのが俺の中では  
ウェイトが重い。  
 
「あー蔵馬くん、いつも悪いねウチのカズが世話んなって」  
そういいながらの笑顔の彼女が眩しい。  
「せっかくの日曜なのに今日は急に仕事入っちゃってさー全く人使い粗いったら  
ないよ」  
「フフ、大変ですね」  
「じゃ、カズんこと、ヨロシクね」  
 
慌ただしく出て行ってしまった彼女。  
擦違いざまに香る彼女の残り香。  
眩暈がするようだ。  
 
 
気になりだしたのはいつからだろうか。  
気が付けばいつも彼女を目で追っていた。  
初めはそれは彼女が人一倍霊感が強いせいで、妖気を纏った俺からすれば気にし  
てしまうのは当然だろうと思っていた。  
 
だがやはりそれとは何かが違う。  
しかもその感情が最近更に膨れ上がりつつある。  
抑えられない何かがある。  
そう、俺は彼女が欲しいんだ。  
自分の中にそんな強い独占願望があったのか自分でも意外だと思う程。  
 
 
11月に入り、高校入試まで日がないので近頃は休みの日だけでなく、平日も週に  
何回か桑原くんの家に通っている。  
 
「お邪魔しまーす」  
「お、蔵馬くん、いらっしゃい。カズの奴、まだ帰って来てないんだよ。まった  
くどこほっつき歩いてんだか…」  
「いや、俺が若干早めに着いただけですから…」  
「もし良かったら夕飯軽くつまんでかない?私も今帰って来たばっかりで大した  
もん用意してないけど」  
「ありがとうございます、じゃあお言葉に甘えて」  
 
学校の方で放課後受験対策の補習があるのを知っていて、なのに早めにここに来  
るのは彼女と二人きりで話せる時間が欲しい為。  
自分の必死さに、笑ってしまう。  
話題は専ら桑原くんの成績の話。  
彼の小さい頃の話。  
桑原くんの話ばかりだ。  
彼女は自分の話を自分からはしない。  
俺からは魔界での近況とか。  
他愛のないやり取りだが俺にとっては貴重な時間だ。  
 
同じソファーに座りながらの談笑。  
また彼女の匂いがする。  
頭がおかしくなりそうだ。  
 
ふいに彼女から質問された。  
 
「そういえばさ〜蔵馬くんは好きなコとかいないわけ?カズは雪菜ちゃん雪菜ち  
ゃんで裏飯くんは蛍子ちゃんでしょ?君はカズと違って顔可愛いし勉強できるか  
らモテてるんじゃないの?」  
「いやー…そんなことないですよ。俺、学校では大人しくしてますから…」  
いきなりの質問に動揺したが必死に取り繕う。  
「またまたー謙遜しちゃってぇ」  
 
そういいながら彼女は4本目のビールを開ける。  
ほてった頬と潤んだ唇が嫌でも目に付く。  
 
もう、抑えられない。  
 
 
どうしてそうしてしまったのか、自分でも分からない。  
彼女の横でその香りを嗅ぎ、声を聞き、二人の間の空気越しに伝わる幾分平熱よ  
りも高めであろう体温を感じているうちに理性が飛んだ。  
 
そんな強引なのは自分のポリシーにはそぐわないのに。  
 
 
「えっ、ちょっ……ん…ぁ……んん…はぁ…く、くるし…よ…」  
気が付いたら俺は彼女を押し倒し、呼吸の自由を奪っていた。  
腕っ節のいい彼女とはいえ、さすがに俺の力には及ばない。  
 
 
自分で何をしてしまったのか理解するのに数秒時間がかかった。  
「あ、俺……」  
「……何なの…これ…」  
気不味い沈黙が流れる。  
「………すいません、俺、帰ります」  
 
 
思わずその場を立ち去ってしまった。  
"どうかしてる"  
驚いた彼女の顔が脳裏に焼き付いて離れない。  
あの視線、絶対俺を軽蔑しただろう。  
「はぁ…」  
自室のベッドに転がり、天井を仰ぎながら情けなさに溜め息がでる。  
 
とにかく彼女の声、匂いが俺をおかしくする。  
以前に比べて魔界を訪れる回数が頻繁なのが作用しているのか、俺の中の獣の部  
分が敏感になっている気がする  
 
 
それから一週間、俺は桑原家を避けた。  
しかし時期が時期だけにそんなことを続けている場合じゃない。  
入試まで追い込みの時期だ、桑原くんの調子が気になる。  
 
意を決して金曜の夕方、俺は桑原くん家を訪ねた。  
今までの統計的に金曜なら彼女と遭遇率は低い。  
 
が、そんな策謀も虚しく会ってしまった。  
 
インターホンを鳴らして待っていると、ドアが開き、彼女が立っていた。  
「……どうも」  
「あぁ…入んなよ…」  
そのままリビングに通される。  
 
 
またソファーで二人並んでテレビを見ている。  
会話はない。  
俺は彼女からそれとなく距離をとって座った。  
 
出された珈琲が冷め切った頃、彼女がテレビの画面を見据えたまま、先に口を開  
いた。  
「……カズは今日帰って来ないよ」  
「…えっ?」  
「今日はね、沢村くん家でいつもの四人で勉強会すんだって。」  
「…そうですか、じゃ俺、帰りますね」  
「でも、あたしが話があるんだ、君に」  
真面目な顔で、こちらへ向き直した彼女の口調が力強くなる。  
 
「この間の…ことですか…」  
"来たか…"  
俯いたままで、どう説明するか、あれこれ考えていたらまた彼女が言う。  
 
「本気なら、あたしは構わないよ」  
 
耳を疑った。  
「え…」  
何も言えず、驚いた表情のまま顔を上げ、彼女を見つめる。  
 
どんな罵声を浴びせられるのかと覚悟していた。  
想定外の展開に、動揺が隠せない。  
冷静沈着が俺の取り柄だというのに。  
 
真剣な表情で彼女は続ける。  
「だから、君が本気なら、あたしは構わないよって…」  
 
俺はまた俯いて答える。  
「本気です…じゃないと俺、女の人に…あんなことしません…」  
この間の自分の行動を思い出したせいで顔が熱い。  
 
「ぷっ……アハハハハ」  
不意に彼女が笑い出した。  
「え、何ですか…?俺何かおかしいこと言いました?」  
「ふふふ…だって押し倒したりするくせに急に帰っちゃったりさ、度胸あんだか  
ないんだか」  
「…それは」  
確かに恥ずかしい。  
「つか、意外だったなーいきなりかよ、みたいな。もっと紳士なのかと思ってた  
。やっぱ男だねぇ」  
笑いながら彼女が俺の肩を叩く。  
触れられて、俺はまた自分が抑えられなくなった。  
 
「あっ……」  
勢いよく彼女の両肩を押さえ付け、倒した。  
「静流さん…俺、そんなみんなが言う程、紳士なんかじゃないですよ」  
言い終わるや否や彼女の唇を奪う。  
 
舌で口唇で、彼女の口を貪る。  
「…っはぁ…ふっ…んん……」  
合間合間に洩れる必死に酸素を求める甘い息遣いが堪らなく俺を刺激する。  
彼女が俺の頭に手を伸ばし、髪を鷲掴みにする。  
 
着ているシャツのボタンを上から一つ一つ外していく。  
はだけていくシャツの下からうっすら透けていた黒い下着が露わになる。  
 
「ぁ……」  
 
胸の、下着に覆われていない部分に口付ける。  
彼女の白い肌に痕を残す。  
 
"もう俺の人だ…誰にも渡さない…"  
 
下着に手を掛け、それを床へ捨てると、ほのかに桃色の芽がその存在を主張して  
いた。  
彼女をソファーに座らせたまま、俺は床に膝をつき、彼女の両足を開き、その間  
に膝間付いた。  
そこから双丘を下から掴み、口を寄せ先端を舐め、甘噛みを繰り返す。  
「…やっ……んっふっ………」  
「声、出しちゃってください…俺、静流さんの声聞きたいです…」  
 
感じる個所をつくと、逃げようとするのを掴まえ更に責め立てる。  
 
「…あっ…ん……てゆうか…ひゃっ…ちょっ…タンマ!!」  
「…?」  
 
行為を中断し、下から上目遣いで彼女を見上げる。  
蒸気した彼女の頬の色が何とも艶っぽい。  
綺麗だ。  
 
「あのさ…場所…場所変えない…?」  
上がった息で途切れ途切れに言う。  
「それに…シャワー浴びていいかな…」  
 
考えてみればそうだ…配慮が足りなかった。  
「あ、すいません…」  
しかし、このまま彼女を離したくない。  
 
 
リビングを去った彼女を一時は見送ったが、その間大人しく待っていられる程冷  
静ではなかった。  
 
 
「えっ…蔵馬くん…?」  
「…俺、やっぱ待てません」  
彼女がシャワーを浴びている中、バスルームへ着衣のまま押し入る。  
 
「ん…はっ……あぁ………」  
そのまま右手で彼女の右手首を掴み壁へ固定し、また口唇を奪う。  
同時に左手を彼女の蜜壺へ。  
 
「ひゃっ…ああん……」  
人差し指を差し入れてみる。  
「…凄いな、静流さん、こんなに」  
 
抜き出した指を彼女の目の前にかざす。  
溢れた愛液が指に纏わりついて、バスルームの照明の光に照され光る。  
 
「そんな……わざわざ見せてくれなくても…分かるよ、自分の体だもん……」  
顔を真っ赤にして俯く彼女が堪らなく愛らしい。  
 
指についた愛液を、彼女に見えるように舐めとる。  
 
「凄いのは静流さんだけじゃないですよ」  
掴んだ彼女の右手をまだ布に抑えられているが、怒張している俺の欲望へと持っ  
ていく。  
 
「ほら……ね」  
「ホントだ、凄い……」  
 
左手でまた彼女の中を掻き回す。  
「ぁ……はっ…ひゃん……」  
指をきゅうと締め付けられる。  
 
彼女がシャワーを止め、俺のパンツの前ボタンを外し、ファスナーを下ろした。  
外気に触れた俺のモノは感覚が酷く敏感になっている。  
彼女はそれを白く細い指で握った。  
先端からの先走りの液が彼女の指を濡らす。  
 
俺にもたれかかり耳元で囁く。  
「いいよ、入れて………」  
 
 
彼女を抱き抱えるようなかたちで一つになる。  
「…ぁ…はぁっ……ん……」  
「んっ…くっ……」  
 
ゆっくりと彼女の中を出入りしていたが、次第に速度を上げていく。  
慣れてきたのを確認しつつ、激しく彼女を貫く。  
 
底知れぬ快楽のせいで頭が真っ白になる。  
意識が遠のく。  
 
彼女の体重が完全に俺にかけられたと同時に俺も欲望を彼女の中に放った。  
一瞬全身を脱力感が襲ったが、持ち堪え、二人分の体重を支え切った。  
 
 
彼女の大腿から収まり切らなかった白濁液がつたう。  
 
 
ずっとこのまま抱きしめていたかったがそうもいかない。  
彼女を抱えながらゆっくりと自分のモノを抜く。  
まだ意識が戻らない彼女の体を丹念に洗い、服を着せ、寝室へ運んだ。  
仕事で疲れていたのもあり、そのまま寝てしまったようだ。  
俺ががっつき過ぎたせいもあるだろう。  
 
「おやすみなさい」  
 
額に口付けてから呟き部屋を出る。  
枕元に  
"また明日来ます"  
とメモを残して。  
 
 
 

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