久々に人間界へと降り立って、見慣れたラーメン屋台の暖簾をくぐった小閻魔は、其処に見慣れた部下の姿を見つけた。
彼女は小閻魔の登場に一瞬目を丸くしたが、自分の隣席を勧めてきた。
「小閻魔様、息抜きですか。ようやく私の云うことをきいてくださいましたね」
小閻魔は指定された席に腰を下ろすと、店主に味噌ラーメン、と告げた。
「ぼたんも、ついさっき来たばっかりなんだよ。二人とも、ゆっくりしていってくれや」
店主はそう云い、熱燗とお猪口を二つ、カウンターに置いた。
そのお猪口に日本酒を注ぎ、ぼたんは一つを小閻魔に差し出した。
「幽助もああ云ってくれたことだし、たまには羽を伸ばしてくださいな」
乾杯、と云うぼたんの顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
いくら口酸っぱく云ってもなかなか休もうとせず、逆に自分へ一週間の休暇を云い渡した上司の身体を案じていたぼたんは、彼が自主的に気晴らしをしに来たことにとても安堵し、また嬉しく思った。
嬉しさの余り普段より酒が進み、其れに併せて相手への酌もいつもより過剰になった。
気付けば、空になった徳利がカウンターにいくつも並び、此れはだいぶ酔ったかもしれない、と小閻魔は思った。
脳も精神も肉体も疲れ切っているせいか、思ったよりも酔いが早く回ったようだ。
隣に座っていた部下が、こつんと彼の肩に頭を寄せた。ふわりと甘い香りが漂う。
ほんのりと桃色に染まった柔らかな頬に、伏せられた長い睫が淡い影を落とし、ふっくらとしたサクランボのような唇が少し掠れた声で彼の名を呟く。
「小閻魔様‥お互い酔っちゃいましたね。ふふ」
白魚のような美しい彼女の手が、自分の太ももをそっと撫でるので、小閻魔はくらりと甘い目眩を覚えた。
「飲み過ぎだ。そろそろ帰るぞ」
小閻魔がぼたんに声を掛けると、幽助が呆れたように、カウンター越しに溜め息を吐いた。
「なんだよ、お前ら。ちょっと会わない内に、随分と酒に弱くなったなぁ」
「どうやらそのようだ。出直すことにする」
小閻魔は二人分の代金をカウンターに置くと、微酔いで上機嫌なぼたんの半身を抱えて立ち上がった。
「相変わらず旨かったぞ、お前の味噌ラーメンは」
そう云い残して、馴染みの屋台を後にした。
肌寒い夜空の下、酔いで火照った身体を並べ、お互い覚束無い足取りで歩く。
辿り着いたマンションの部屋の前で、小閻魔はぼたんのバッグから鍵を取り出した。
扉を開き、靴を脱ぎ捨て、彼女のブーツも剥ぎ取り、そのままベッドへと雪崩れ込んだ。
静寂の中、酔いのせいで少し速まった己の鼓動が鳴り響く。
寝返りを打ってゆっくりと瞳を開くと、ぼたんの潤んだ其れとぶつかった。
「小閻魔様‥」
彼女の華奢な指が、そっと小閻魔の唇をなぞるので、彼はその誘いを受け入れた。
うっすらと湯気が立ち昇る浴室で、ぼたんは向かいに座っている見目麗しい上司をぼんやりと見つめていた。
栗色の髪から水滴がぽたりぽたりと肌に落ちる様は妙に艶かしく、髪をかきあげる仕草が浴槽で水音を立てる。
「小閻魔様‥やらしい」
云いながらぼたんは彼の体に跨がり、手を伸ばした。
一見すると細身に見える彼の体は、ラーメン屋の店主ほどとはいかないが男らしく筋肉がついており、ぼたんはその上腕や胸の辺りを指で触れていく。
「‥何が」
小閻魔はぼたんの腰に腕を回して抱き寄せると、額を寄せた。
ぼたんは少しの間、言葉を探すように視線を外していたが、やがて小閻魔を見つめ返した。
「‥小閻魔様の、全てが、です」
そう云うと同時に、小閻魔にそっと口付けた。
彼女の生暖かい舌が、唇を優しく割って入ってくる。
(今日は珍しく積極的だな‥酔っているからか)
彼女にされるがままでそんなことを考えていると、水中で己の下半身に触れる物を感じた。
気付けば、ぼたんの右手が小閻魔の一物を握っている。
其れはゆっくりと上下に動き出し、小閻魔の下半身にじわじわと甘い痺れをもたらす。
彼女の小さな手で皮ごと扱かれ、緩急をつけたその動きは時にもどかしく、もっと強い刺激を求めたくなる。
時折細い指先が先端に触れては円を描くように刺激するので、快感に堪えるように思わず深く息を吐き出すと、ぼたんが唇を離して訊ねてきた。
「気持ち良いですか、小閻魔様‥」
其れは充分過ぎる破壊力を持っていた。
結い髪の後れ毛がしっとりと張り付いているうなじ、林檎色に上気した頬、ぷるんとした唇からちらりと覗く赤い舌。
視界に入る彼女の全てが、彼を一層興奮させた。
小閻魔はぼたんの手をそっと握って己の下半身から遠ざけると、もう片方の手で彼女の肩を抱き寄せた。
「ああ、気持ち良かった‥礼をしないとな」
そう云って小閻魔は、ぼたんの両腕を自分の首に回して、彼女の耳許に唇を寄せた。
ちゅく、と音を立ててその可愛らしい耳に舌を捩じ込むと、ぼたんの華奢な肩が震えた。
「やん‥‥」
聞こえた甘い声に、小閻魔は笑みを浮かべた。
「おまえは、耳が弱いもんな‥」
全てを知り尽くした舌が、彼女の耳を優しく蹂躙する。
わざといやらしい音を立てて舐め回してやると、ぼたんの吐息は徐々に熱くなる。
「小閻魔様‥も、無理‥あぁ‥」
「無理だと、良いの間違いだろう。こんなに感じている癖に」
小閻魔の右手が、ぼたんの太ももに伸びた。
彼女の白くて柔らかな太ももは、耳への刺激に合わせて小刻みに震えている。
そしてその太ももから、体のもっと奥の方がひくついていることも伝わってくる。
自分が与える快感に素直な体が愛しくなり、小閻魔はぼたんの細い首筋に口付けた。
「ひ‥‥」
うなじを舐めあげると、ぼたんは喉を震わせて身を引こうとするので、小閻魔は彼女の細い腰を抱え込んだ。
「逃げるな」
そのまま唇を鎖骨まで下ろして、次々と紅い華を咲かせていく。
ふくよかな乳房の上で主張している桜色の実を親指と人差し指で摘んでやると、ぼたんの体が跳ねた。
「乳首がもうこんなに立っている‥いやらしいのはおまえだ」
小閻魔はその実をくりくりと指先で捏ね回しながら、ぼたんの唇に噛み付くような激しい口付けをした。
お互いの舌が絡み合う。
小閻魔がぼたんの小さな舌を吸うと、彼女はんん、と吐息を漏らし、半開きになった唇からは二人の混ざり合った唾液が零れた。
「‥このままだと、逆上せるな」
やがて小閻魔がそっと唇を離し、銀色の糸が名残惜しそうに二人の唇を繋いだ。
唾液に濡れて光るぼたんの唇が、性器を連想させてとても卑猥で、小閻魔を更に煽る。
既に全身の力が抜けつつあるぼたんを支えて浴槽から出ると、彼女を椅子に座らせて、膝立ちになって背後から抱え込んだ。
小閻魔の両手は、先程の続きと云わんばかりにぼたんの乳首を転がす。
「あっ‥小閻魔様、やぁ‥」
「此処をこんな風にいじられるのも、おまえは好きだろう‥」
「ふ‥‥あぁん、」
湯気で曇り気味な正面の大きな鏡には、上司に乳首を攻められ、淫らな表情で身悶える自分の姿が薄ぼんやりと見える。
恥ずかしいのに、目が離せない。
靄々と鏡が映し出す彼と自分は何処か別世界のようで、ぼたんは愛撫の波に飲まれそうになりながら鏡を見つめていた。
其れに気付いた小閻魔が、彼女の耳許で低く囁いた。
「鏡越しなんかじゃなく、自分の目でしっかり見ろ‥自分がどうされているか」
「あぁ‥っ、小閻魔、様‥、云わないで‥」
ぼたんは弱々しく首を横に振った。
「なぁ、次はどうして欲しい‥」
小閻魔の右手が、ぼたんの右脚の太ももの下をくぐって持ち上げた。
「乳首は固くなって立っているし、ま◯こは触っても居ないのにひくひくしているのが分かるな‥」
彼の左手は乳首への愛撫を続けているが、右手は股間をゆっくりと行き来するだけで、肝心の部分には触れてくれない。
ぼたんが欲していること等、小閻魔にはとうに分かっていたが、彼女の可愛らしい唇から卑猥な言葉を聞きたかった。
ぼたんは今にも泣き出しそうな表情で、鏡越しに小閻魔を見つめてきたが、彼は其れを無視するように鏡から視線を外した。
そしてその指先で、太ももの付け根や尻穴の付近を黙って撫で続けた。
薄桃色の蜜壺がひくひくと物欲しそうに震え、その上にある肉芽は真っ赤に充血し、ぷっくりと膨れ上がってている。
「‥触って‥ください‥」
やがて、ぼたんが吐息の合間にか細い声を絞り出した。
「‥何処を。此処か、」
訊き返しながら小閻魔は、ぱんぱんに勃起している肉芽を中指でぐっと押した。
「ああぁんっ」
高い声と共に、ぼたんの体ががくがくと大きく震えた。
小閻魔が肉芽の包皮を剥いて人差し指と中指で擦り続けると、蜜壺から次々と蜜が溢れ出し、彼の長い指を濡らした。
「‥ふぁ‥小閻魔、様ぁ‥そんなに、あぁ‥強くしちゃ‥駄目‥‥っ‥」
ぼたんはびくびくと全身を波打たせ、力が入らなくなったその体を小閻魔に預けた。
彼の指は速度を緩めず、剥き出しになった蕾を円を描くように撫で回し、指が動く度にぬちゃぬちゃと猥褻な水音が浴室に響く。
左手は乳房を揉みしだき、完全に勃起した乳首を強く摘み上げ、捻り、引っ掻き、押し潰す。
「触って欲しかった癖に‥こんなに濡らして、そんなに此処が気持ち良いか。
淫乱だな、おまえは‥」
自分の意思とは無関係に、彼の指を「もっと」とねだる様にぼたんの腰が揺れている。
「ま◯こから溢れる汁で、尻までびちょびちょだぞ」
下半身から熱い波が一気に押し寄せ、意識がぼんやりと霞む中で、ぼたんは頭を左右に振った。
「あぁぁっ‥も、駄目、です、あぅ‥‥も、いっちゃう、いっちゃいます‥‥っ、駄目ぇ‥」
「‥‥駄目なら、止めようか」
優しく云い放った小閻魔がそっと陰核から其の指を離したので、ぼたんはぶるりと体を震わせた。
「や‥」
唾液でぬらぬらと濡れた彼女の唇から切ない呟きが漏れたので、小閻魔はくすりと微笑んだ。
「厭だなんて‥おまえが駄目だと云うから、止めたのだぞ」
先程まで乳首をいじめていた左手で、小閻魔はそっとぼたんの頭を撫でた。
「逆上せると困るからな、そろそろ上がるか」
底意地が悪い男だと、ぼたんは小さく下唇を噛んだ。
彼女の右脚を持ち上げた態勢で、彼に此のまま止める意思など無いことは良く分かっていた。
自分を辱しめて、玩んで、楽しんで居るのだ。
其処まで理解は出来ているが、途中まで火を付けられた体がじんじんと疼く。
「どうした、ぼたん‥。まだま◯こが、勝手にひくついているぞ」
耳許でねっとりと囁く此の上司が、心底恨めしい。
さっきまでの快感を求めて、彼女の華奢な腰がゆるゆると動き出す。
彼が云う通り、更なる刺激を欲している蜜壺が、はしたなくひくひくと収縮していると、自分でも分かる。
曇った鏡でも、小閻魔が意地悪く微笑んでいるのが分かる。
此のとてつもなく卑猥で倒錯的な光景が、彼女の理性の箍を外しかかっていた。
「ね‥、小閻魔、様‥意地悪っ、‥しないで‥‥あぁんっ」
大きな瞳に泪を溜めたぼたんが云い終わる前に、小閻魔は艶かしく誘っている蜜壺へと二本の指を一気に差し入れた。
ずぷり、という音と共に飲み込まれた指を激しく出し入れすると、直ぐにぐちゅぐちゅとあられもない音が沸き上がる。
「っ、やぁぁぁん‥‥っ」
「なぁ、ま◯こをこうされると気持ち良いだろう‥」
「あふっ‥はん‥気持ち、い、です‥」
「もっとま◯こを可愛がって欲しいか」
彼女の興奮を掻き立てるように、小閻魔はわざと淫猥な言葉を投げ掛ける。
「あぁん、もっとっ‥もっと、して、ください‥っ」
ぼたんは最早快楽の渦に飲み込まれ、小閻魔の誘導に素直に従って頷いている。
「ま◯こ気持ち良いです、いかせてくださいって、云え。そうしたら、直ぐにいかせてやる」
「‥‥ま◯こっ、ひ、気持ち良い‥です‥っ、あぁっ‥凄い気持ちいぃ‥‥ふぁ、いかせ、て‥ください‥あぅ‥」
ぼたんの体が小刻みに痙攣し、膣は彼の指をしっかりとくわえ込み、きゅうきゅうと収縮を繰り返して絡み付く。
「‥おまえは‥可愛すぎるっ‥」
ぼたんを一息に絶頂へと導くために、指を抜き差しする速度を早め、中を掻き回し、穴の上で真っ赤に腫れ上がって主張している真珠を親指の腹でぐりぐりと押し潰した。
彼女の下半身から背中へと、物凄い速度で駆け上がっていく、何か。
「ふ、‥やぁ、いっちゃう、いっちゃう、ああぁぁあんっ」
ぼたんの体が一際大きく震え、くわえ込んでいる指を奥へ奥へと誘うように蜜壺が激しく締め付けるのを感じた。
指を引き抜き、其処から蜜がぼたぼたと止めどなく垂れてくるのを見て、小閻魔は満足そうな笑みを浮かべた。
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火照りを冷ます為にベランダへと出た小閻魔は、煙草に火を点けた。
ふっと吐き出した煙がゆらゆらと融けていく漆黒には、夜明け前の蒼白い満月がぽかりと浮かび、小さな星々が瞬いている。
部屋のベッドで布団にくるまり眠っているぼたんを見て、彼は小さく息を吐いた。
あの後、酒による酔いと、上昇した浴室の気温と、体に残る痺れる様な余韻とで逆上せた彼女を抱き上げて浴室から連れ出したものの、小閻魔の一物は一向に収まる気配を見せなかった。
朦朧とベッドに横たわる彼女に水を口移しで飲ませ、桜色に上気しているその体や髪を拭いてやっているうちに、先刻の行為が脳裏に甦る。
半開きの唇が浅く速く繰り返す呼吸、紅色に染まった頬、とろんとした眼差し。其れらが彼を益々欲情させた。
我慢しきれない小閻魔は、脱力しているぼたんの腕を引き寄せ、向かい合わせに自分の膝へ跨がせると、まだゆっくりと収縮を繰り返している蜜壺を己の怒張で一息に貫いた。
じゅぷじゅぷと、はしたない音を立てて激しく腰を動かし、一気に昇り詰める。
性器と性器が擦れ合う度に、愛液と先走りが混ざり合った蜜が溢れ出て、お互いの太ももを濡らす。
意識が遠退きそうなぼたんは彼に抱きつくのが精一杯で、しかし其の生温い膣壁の感触は、確実に小閻魔を射精へと誘う。
やがて彼女は再び絶頂を迎え、蜜壺が搾り取るように彼の肉棒を締め上げるので、小閻魔は彼女の胎内の奥深くに勢い良く精を放った。
濃厚な時間を思い起こしながら、小閻魔は煙草を燻らせる。
(酔っていたせいか、今日のあいつは格別に可愛かったな‥。
また同じように目一杯激しく可愛がってやりたい。
‥なんて本人の前で云ったら、張り倒されかねん。
黙っておこう‥)
体と思考が少し落ち着いたところで、彼は灰皿で煙草を揉み消すと、部屋へと戻りカーテンを閉めた。
カーテン越しに街のネオンがうっすらと入り込み、室内はぼんやりと仄暗い。
人間界の此の部屋で夜を過ごすのは、もう何度目になるだろう。
一つ息を吐いて、小閻魔はベッドへ腰掛けた。
穏やかな寝息を立てているぼたんの髪を優しく撫で、呟く。
「‥儂をあまり、甘やかさないでくれ」
それでも彼女を求めてしまうのは、優しい夜が欲しいから。
彼女と一緒に居る間は、彼にも穏やかな夜の帳が下りるから。
「‥おやすみ」
そっと額に口付けて、指と指を絡めて、彼女の隣で、束の間でも彼女と同じ眠りを欲する。
久方振りに、彼の意識は深く深く奥底へと誘われる。
嗚呼、此のまま目覚めなければ良いのに。
此のまま二人で、何処までも続く夢の中に居られたら。
喩え其れが、出口の見えない闇の中だとしても。
泡沫の世界でも、君が傍に居てくれたら。
「優しい夜」了