「飛影さん!この服、どうです!?」
「――っ!?」
久しぶりに降りた人間界。
久しぶりの桑原の家。
久しぶりに会う妹の姿。
成長期を過ぎ、以前よりもぐっと大人っぽくなった妹の姿に――飛影は絶句した。
否、それよりも何よりも、彼女の、その今までに無い、その魅惑的な服装に。
「――雪…菜…!?何だ、お前…その格好は…!?」
「え?何って…私、この春から高校に通い始める事になったので…
これはその高校の『制服』なるものだと、静流さんが買ってくれたんです。
飛影さんが人間界に降りてくると蔵馬さんから聞いたもので、一番にお見せしたいと思って…」
飛影は、眩暈がした。
雪菜が高校に通うらしい事を蔵馬から聞き、何だかとてつもない不安に駆られ
人間界に降りてきたものの、やはりその予感は的中していた事に、飛影は頭が痛くなった。
『制服』…これが、か!?
碧い髪を垂らし、純白のブラウスに、茶色のブレザー、
深い緑に赤と黄色のチェック柄のミニスカート、
そして、胸にはスカートと同じチェックの蝶ネクタイ……
まるで陰謀のように、あからさまに不自然な程短いミニスカートと、膝までを覆う
紺色のソックスの合間に覗く、白い腿……
風でも吹こうものなら、たちまちそのスカートの下の暗がりまでもを拝めてしまいそうな危うさ…
「――っ、おい!お前…本当にその格好で高校に行く気か…!?」
忌々しくそう疑問を口にすると、当の雪菜はきょとんとして飛影を見詰めていた。
飛影の意味するものを、雪菜は何一つとして理解していないのだ。
「え…?あ、あの…何か、変でしょうか…?静流さんが、さっきスカートの丈を直して
下さったんですが…長いより短い方がいいから、と…」
――短すぎるだろう……!!あの女……余計な事を…!!
飛影の胸中に、怒りが込み上げてくる。
背が若干伸び、表情もどことなく幼いものから大人のそれへと変わりつつある雪菜に、
この制服は男の目を引くには十分だろう。
せめてスカートが長ければ百歩引いて許せるが、ここまで短くされては、目のやり場に困る。
非常に。
嫌でも、そのスカートの下の、その肌の白さと、自分が以前触れたその肌の柔らかさと
滑らかさが思い出されて、兄にあるまじき感情が湧きあがってくる。
こんな扇情的な雪菜の姿を見れば、他の男共にとっても目の毒になる事は間違いない。
やめさせなければ。
こんな姿の妹を、他の男に等見せるわけにはいかない。
「おい…、今すぐ、その制服を脱げ…いつもの服に、着替えろ…!」
「飛影さん…?やっぱり…私には似合いませんか…?
静流さんは、似合ってると言ってくれたんですが…」
「そういう問題じゃない…!その姿、俺以外の他の男には絶対に見せるな…!
まして桑原には、特に、だ!新しい制服を、出来るだけ丈の長いものを買い直せ!
いいな!?」
強い口調に、雪菜はその意味を考える間も無く。
「は、はい!」
と、思わず一つ返事をするしかない。
その表情には、相変わらず何が何だか、と言う疑問が浮かんでいる。
(全く、こいつは…!)
氷女独特の、魔性の色気――人間界でいう、『雪女』と呼ばれる妖怪は、
その魔性の美しさと色香で、男をたぶらかし、堕落へと誘うとされている。
成長し、かつての幼さが影を潜め、ますますその氷女の魔性の魅力を
身につけつつあるこの妹は、それに反して自分の魅力に全く持って無頓着のままだ。
兄とは名乗れぬ身の上であるとは言え、これではまったく気が気ではない。
否――兄として、だけではない。
身体が、熱くなっていく。
久しぶりに会った妹に――自分は欲情している。
(くそ……!最悪、だな…)
自嘲気味に舌打ちするも、熱は昂ぶるばかりで。
そして。
「――っ!?おい、何、を…!」
「え?あ、…いえ、飛影さんが、脱げと仰るので…」
「男の前で平気で脱ぐなと言ってる!ふざけてるのか、お前…!」
いくらなんでも、平気な顔して男の前で服を脱ごうとするとは、何を考えているのだと、
飛影はまた眩暈がしそうになる。
けれど、雪菜から返ってきた返事は、飛影の予想外のものだった。
「…飛影さんの前だから…平気なんです…。でなければ、幾ら世間知らずの私でも、
こんな事…」
頬をほんのりと桜色に染めながら言う雪菜に――飛影は、身体にこの上無く熱が篭るのを
感じた。
自嘲気味に溜め息をつきながら……本能に抗わず、雪菜の華奢な身体を、ベッドの
上に押し倒した。
「飛、影さん…!」
その綺麗な瞳を潤ませながら、雪菜は飛影を見上げた。
「ふん……流石に魔性の妖怪だな……男を誘うのは、巧いらしい…」
「え…?あっ、っ…!」
「人を散々煽りやがって…、今から、お前の何が悪いのか、
じっくりと教えてやる…覚悟、しろ…」
「ん、あぁっ…飛、影さんっ――」
――その後。
飛影に言われ、雪菜が再び買ってきた規定の長さのスカートを、再び静流が
短くカットしたらしい事を、陰ながら妹を見守っていた飛影が知り、
おちおち魔界にも帰れぬ日々が続いたという。