「ん、はっ・・・ン・・・っ・・・・・・」  
 
時計の針はもう午前三時を指している。  
明日も取引先との打ち合わせで早いというのにこんな時間まで何をやっているのだか。  
頭では分かっていても、止められない。  
ここのところ毎晩のように欲求に打ち勝てずにいる。  
欲望のままに自身を慰める。  
対象が特定の誰かと決まっている訳ではない。  
「んっ・・・あ、はっ・・・・・・」  
理由は分かっている、あの時期だからだ。  
もう3度目だ、いい加減寝てしまわなければ明日に響く。  
「何やってるんだ・・・俺は・・・・・・」  
 
 
 
魔界へと頻繁に出入りするようになってからだろうか。  
南野秀一の肉体に宿って以来、今まではこんなにも衝動にかられたことが無かったのに。  
魔界の空気が自分の中の獣の部分を呼び起こしているのか。  
冬を迎え、益々症状が悪化している。  
発情期は厄介だ。  
 
 
仕事はなるべく家に持ち帰るようにして、外出は控えている。  
一度外へ出れば、街中に甘ったるい匂いが溢れているから耐え難い。  
常に軽い眩暈を感じて仕事をするのは正直ダルいが、もう年末。  
何かと忙しいこの時期に仕事を溜め込む訳にはいかない。  
そう思い少しでも解消するべく毎夜自分で始末をつけようとするが、一向に熱が収まらない。  
睡眠不足も合い重なって、疲労感が拭えない。  
 
獣だから、と開き直ってしまえばいいのだが。  
出来れば理性で自分を治めたい。  
本能に負けてしまうのは自分の美学に反する。  
なんとかならないものか。  
 
 
本格的に不味いなと感じ始め、家に篭もり始めてから1週間。  
今日ばかりは打ち合わせの為に出かけなくてはならない。  
何とか都合をつけて、打ち合わせは人通りも少ない夜にして貰った。  
 
「それでは今後はそういった方向で。また何か運営していく上で不都合が見つかったらその都度連絡致しますので」  
「はい、よろしくお願いします」  
 
朦朧としつつも何とか話をまとめる。  
本当にどうかしていると思う、話の途中で欲求に駆られるなんて。  
先方のオフィスで残業している女性社員の匂いには参った。  
 
 
「うっ・・・んはッ・・・・・・くッ・・・・・・」  
 
「・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・・・・・・」  
 
帰り着くまでに持ちそうになかった。  
途中の公園のトイレにて処理するしかなかった。  
全くどうしようもない。  
 
 
苛々する。  
自分の思考と体の反応が噛み合わない。  
『バタン!』  
ドアを勢いよく閉め、冷蔵庫を開け買置きのビールで喉を潤す。  
まだ十時前だが、こんな状態では何をしても捗らない。  
自室に入り、ベッドに突っ伏した。  
 
「もう・・・どうにでもなれ」  
 
不意に窓をコンコンと叩く音がする。  
こんな時間に、しかも窓から訪ねて来るのは彼女しかいない。  
ふと、蔵馬の中にある考えが浮かぶ。  
 
「こんばんは〜、夜分遅くにゴメンねぇ」  
「・・・こんばんは、ぼたんさん」  
 
「実はさぁ、年末ひさしぶりにまた忘年会でもしてみんなで集まろうかって雪菜ちゃんと盛り上がっちゃってさ、  
計画立てるんなら早い方がいいからってんで今みんなの家周っててね―・・・」  
窓を開けると部屋に彼女の方から入って来て何やらずっと喋っているが、蔵馬には聞こえていない。  
黙ったまま、無言で部屋の中をうろうろする彼女を見つめている。  
理性と本能、せめぎ合っていた両者のうち後者が勝った。  
 
「で、いつなら都合がいいかねぇ?」  
「・・・」  
「ちょっと聞いてんのかい・・・あっ」  
 
両肩を押さえ、そのままベッドへ倒す。  
当然だが、彼女の力では抵抗することは出来ない。  
 
「や、やめとくれよ、冗談にも限度ってもんがあるんだよっ!」  
「冗談なんかじゃありませんよ・・・」  
そのまま彼女の上に圧し掛かり、着物の胸元から手を入れ胸を掴む。  
「ちょっと、え、あァン・・・何すんだよ!!」  
「・・・申し訳ありませんが、こんな夜に一人でここへ来たあなたが悪い」  
呼吸を奪い、舌を弄ぶ。  
「ん、ンン、ンっ・・・ハッ・・・ンッ」  
「つっ・・・」  
充分に酸素が取り込めない苦しさからか噛み付かれた。  
血の味が益々興奮を誘う。  
抵抗し、逃げようとする彼女だが、それすら本能を刺激する。  
獲物が逃げようとすればするほど、捕食者は執拗に追いたくなる。  
 
両腕を片手で押さえつけ、もう一方の手でぼたんの腰の帯を器用にほどき、それを使って腕を縛り上げ、口を塞ぐ。  
「ンー、ウウーンー!!」  
しきりに喚くが誰にも聞こえる訳が無い。  
「誰も助けに来ないし、俺もあなたを逃がしませんよ、こうなった以上あなたも楽しんだ方がいい」  
 
はだけた着物の下から現れた白い透き通るような肌。  
たわわな双丘を揉みしだき、口を寄せ、赤い花を咲かせる。  
嫌がりながらも感じてしまい涙を流しているが構いはしない。  
甘い匂いが部屋中に立ち込めている。  
 
『そろそろいいか・・・』  
 
溢れた蜜がこぼれ出す彼女の秘所に、指を差し入れる。  
彼女の目を見つめながら。  
信じられない、といった表情を見せるのがまた溜まらない。  
目を逸らそうとするたびに頭を抑え、逃がさない。  
びくっと抜き差しする度に体が跳ねる。  
本数を徐々に増やしていく。  
「っンン、んんん・・・・・・」  
指の動きに連動しての彼女の反応に、蔵馬自身の興奮も比例して高まる。  
「入れますよ」  
と言うと同時に彼女の中に侵入する。  
「・・・!」  
激しく突き上げるたびに、彼女の声にならない呻きが聞こえる。  
感じてる声が聞きたい。  
口枷を外してやると止めどなく声が漏れる。  
「あっ・・・はぁっ・・・!っあ・・・・・・ん」  
「・・・ッ・・・あ!・・・・・・」  
やがて絶頂を向かえ、彼女の中で果てた。  
 
 
 
 
理性を取り戻した時、彼女は疲れ果てたのか眠ってしまっていた。  
「・・・やってしまった」  
手元に夢幻花の種子が残っていて良かった。  
「すみません、ぼたんさん・・・」  
記憶も、体に残した痕も全て消し去っておき、部屋に彼女を一人残す。  
目覚める頃には何もかも覚えてはいないだろう。  
 
「くそっ・・・」  
 
握った拳を何度も壁に打ち付けた。  
 
 
 

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