――砕けた
叩きつけられた瞬間ぼんやりと思った。
それ以上は何も思わなかった。
戦場で兵士が、武器のうち一つが弾切れを起こした程度の感覚だ。
完全に動きを止められた。
右手はさっきの一撃で使い物にならない、左足は膝の下から感覚が無い。
繰り出された一撃を辛うじて交わすが、残った右足と左手だけでどうにかなる相手ではない。
体勢を崩し、もう反撃できそうにないと見るや牙をむき出して突っ込んできた。
大きく口を開き頭から丸ごと頸を噛み切ってやろうというように。
目と鼻の先まで牙が近づいてきた瞬間、左腕を相手の口の前に突きだし
体の中に残っていた有りったけの霊力を混めて叩き込んだ。
轟音と共に爆発した霊力が脳天を貫き、さらに頭骨ごと頭をめちゃめちゃに吹っ飛ばした。
接触して撃った霊丸で自らも吹っ飛ばされ、リンクに叩きつけられながら幻海は思った。
勝った。
場内アナウンスが伝えている自分の勝利などぼんやりとしか聞こえなかったが、
次に会場中に響き渡った音だけは、はっきりと覚えている。
「さあ、次はいよいよ決勝最終戦 戸愚呂選手 対 潰煉選手です!」
ざわざわと耳鳴りがして、だんだん眼の前がぼやけて白くなってきた。
だんだんだんだん・・・・・・・
次に見えたのは真っ白い天井だった。
――夢・・・?
だがまだざわざわと耳鳴りが聞こえる。
ふと、視界に窓が入る。
――なんだ、雨音か…
耳鳴りだと思っていたのは雨音だった。
窓の外では激しい雨が降りつけ、時折雷鳴も聞こえる。
――ああ そうだ、決勝は終わったんだ
戸愚呂が潰煉を殺し、決勝戦は幕を閉じた。
最後にこれまでの戦いを――強引に望まないまま始めさせられた殺し合いを――
生き抜いた褒美としてたった一つだけちっぽけな望みを言い、
そのちっぽけな望みでアイツは…
――夢じゃなかったんだ…
そうだ、終わったんだ、決勝戦も血なまぐさい戦いも
これで、 これで、もう 二度とお目にかかることはないだろう。
あの会場とも、この島とも アイツとも
「あら、お目覚めになりましたか?」
気が付くと幻海の傍らに看護婦がいたようだ。
「ここは…」
そう言いながら身を起こそうとしたとたん、激痛に顔が歪んだ。
「いけません、まだお起きになっては。安静にしていてください。」
看護婦にベッドに戻され、苦痛に顔を歪めながら問うた。
「皆は… もう出発して…」
言い切らないうちに看護婦が答えた。
「船は雨の為欠航ですよ、しばらくの間は出航は無理だそうです。
皆様は宿舎の方でお休みになられております。」
「そう…」
「それでは私はこれで失礼いたします。お食事の時また参ります。
あまりご無理をなさらないように、では。」
そう言い残し、看護婦は立ち上がり、部屋の出口へと歩いてった。
戸口で看護婦が誰かと出会ったらしく、なにやら話し声が聞こえてきた。
「…お見舞いでしょうか今は…ああ同じチームの…
ええ、今お休みなって…はい、絶対安静で…」
――妖・・・気・・・
戸口の外から漏れてくる空気にはかすかに、妖気が入り混じっていた。
かつて昔感じたことがあり、かつて今まで感じたことの無いような奇妙な…
看護婦の足音が遠ざかっていき、入れ違いにその妖気の持ち主が部屋に入ってきた。
「戸…愚呂?」
思わず言葉が飛び出した。が、返ってきた声は思っていた声とはあまりにもかけ離れていた。
「よぅ、よくわかったじゃないか。」
入ってきたのは最終試合で潰煉と戦った戸愚呂ではなく、小さな男――戸愚呂の兄だった。
「なんだぁ?オレじゃあ不服みたいな顔してるじゃねぇかぁ。」
「なんの用だ。」
「随分とご挨拶だなぁ、ケケケ冷てぇなぁ折角お見舞いにきてやったのにナァ。」
ベットの上からギラギラした目つきで小男が見つめてくる。
「あんたが見舞いに着て喜ぶ女なんざ見たことないよ。」
「ケケケそうむくれている面もなかなか可愛いぜぇ。」
「で、なんの用だ。」
「さっきも言ったじゃねえか、お見舞いだよ。ケケケ」
「じゃあ今面会謝絶だよ。とっとと出ていきな。」
「ひゃっははは、随分と元気の良い重症患者だなぁケケケケ。これでも心配していたんだぜ。」
「あんたと喋っていたらどんどん容態が悪くなるだけだ。そんなに心配なら目の前から消えな。」
そう言い放つとベッドの上から覗き込んでくる小男から目を背けるように窓に目を移した。
そんな幻海にお構いなしに、戸愚呂兄は楽しそうに話し出した。
「ついさっき転生が終わったぜ。弟はオレより先に午前中終わらせたよ。」
「そのようだね。」
あっさりとした返答に戸愚呂兄は不服そうに方をすぼめる。
「おぉいおいそれだけかよ、これでも一緒になって戦った戦友だと思って一番に報告しにきたんだぜ?
それとも、報告しに来たのがオレだから不服だってのかい?」
そう言いながら、戸愚呂兄は幻海の顔を覗き込む。
幻海は押し黙ったまま、兄の方を見ようともしない。
「怒らせちまったぜぇ おぉい、一番触れて欲しくない話をしちまったようだナァケケケケ!」
「出て行け。」
「まぁまぁそう言うなってぇ、新しく手に入れたこの体をどうしても、お前に見せてやりたくて来たんだからナァ!」
悪寒が走った、兄の声がすぐそばで、息遣いが聞こえるほどのすぐ後ろで聞こえたからだ。
振り向いた幻海はわが目を疑った――兄の顔がすぐ目の前にあった。
奇妙なことに体はベッドから少し離れたところで起立しており、首だけがろくろ首のように伸びて
ベッドで横になっている幻海のすぐそばに転がっているようにあった。
「全く…あんたらしい体を選んだね、人間の頃と大差がないじゃないか。」
「ひゃっははははははははあ 言ってくれるな!だがこの体の凄さはこれだけじゃねぇ!」
そう言いながら、徐々に戸愚呂兄の顔がにじり寄ってきた。
慌てて戸愚呂兄を払いのけるため、右手を上げる。
その途端激痛が走り、顔を歪めながら毛布の中でうずくまる。
「ほぉらほぉら、絶対安静だっていっただろう?無理に動かしちゃあダメじゃないか。」
そう言うと、戸愚呂兄は触手のように手を伸ばし、幻海の右肩をつかんだ。
痛みがまた右腕を走るが、使える方の左腕で兄を払いのけた。
「ん〜そう暴れるなよぉ、安静にしてなきゃぁダメだっていったじゃないか。」
伸ばした触手で振り回した左腕をつかみベッドに押さえつけようとする。
幻海はベッドの中で必死にもがき触手のように伸びた手を引きちぎる。
が、戸愚呂兄は怯むどころか、笑みさえ見せながら子供をあやすように言う。
「あ〜 こ〜ら、暴れちゃいけないよ〜いい子は大人しく寝ていなきゃア!」
なんと引きちぎったはずの手が蛆虫のように動き出し、気味の悪い音を立てながら元通りにくっ付いてしまった。
「な…」
「けっひゃひゃひゃ!いい顔だぜぇ!今まで見たことないような可愛い顔だあ」
そう言いうと、元に戻った触手がまるで槍のように尖り、幻海の左腕に突き刺さった。
「………!!!」
左腕に突き刺さった触手はグリグリと傷口を広げるように円を描き、血がベッドに滴り落ちる。
同時に別の触手が、もう一方の肩をつかんでめちゃくちゃに揺すぶりだした。
「ほぉぉらぁぁああ!泣け!泣け!泣け!泣け!泣けぇぇええ!
お前の泣き顔がみてぇんだ!泣くんだよぉおおおお!!」
だが、触手が深く突き刺されば突き刺さるほど、強く揺すぶれば揺すぶるほど
幻海は一声も漏らさないよう歯を食いしばり、睨み上げる。
「ケッ、霊光波動拳の使い手だけに、“痛い”のには慣れっこだったっけなぁ
それじゃあ、これはどうだぁ?」
兄者は突然、揺さぶることを辞めるた。
肩で息をしながら痛みの余韻を堪えていると、今度は、毛布の中に異常を感じた。
触手が、毛布の中に潜りこみ、足に纏わりついてきた。
蹴り上げようとするも、縄のように絡みつかれ、触手でベッドに縛り付けられてしまう。
縛り付けながらなお、触手は徐々に上へ上へと這い登り、太ももからさらに上…
筒抜けになっている腰巻の中にまで潜りこんできた。
「ひっ・・・!」
触手の先端がまるで舌のように湿り気をもち、舐め回し始めた。
「ひ・・ぃ・・・」
思わず声を漏らしてしまった幻海に、追い討ちをかけるように、秘所の近くの“口”から
声が聞こえてきた。
「ケヒヒヒヒ!痛みにゃぁ強いがこっちの方にァまるっきしだなぁ!
オレが今からみっちり稽古つけてやるぜケキャキャ!」
「や、やめ…何する気…ング」
どこからか伸ばされた触手が猿ぐつわのように口に咬まされ、
気が付けば、四肢は縛られ自由が利かず、肌けた着物から何本もの触手が入り込み、
あちらこちらの皮膚に張り付き、着物の中で蠢き続けていた。
「んぁ…ン―!」
「なんだぁ あんなに嫌がっといて、もう、いっちょ前に感じちまってんのかぁよぉおケケケケエエエ!」
白い小さな形の良い乳房に吸い付き、うれしそうに舐め回しながら叫び声を上げる。
「んー!んー!・・・・・!?」
幻海は、今まで感じたことのない責め苦を受けている中で、ふと、口の中の猿ぐつわが
不思議と熱を持ち、何か突起のようなものが徐々に出来上がっているのを感じた。
「ほぉら、コイツをしゃぶって、オレをイかせてみろよぉ!
上手に出来たら ナカ に出すのだけは勘弁してやるからなぁああ!
但し、ちょっとでも下手な真似してみろよぉ ケケケ判ってんだろうナァ!」
一瞬、言われている意味がよく分からなかった。
徐々に理解してきた時、頭の中が真っ白になった。
――ダレガコンナヤツノ モノ を…
我に返った瞬間、口に咥えさせられていた触手に思い切り歯を立てた。
突如、歯を突き立てられた触手が急に食道から胃にまで伸びあがり、その中に射精した。
「ぅんぐっ…ケホッ…!」
「余計な事をするなって、あれほど言っただろう なぁ?」
「ぐっ…ぅ…ぁぁ」
「もう一回最初からだ。オレは優しいからなぁ、もう一回だけチャンスをやるぜ。
今度は上手くやれよ?ケケケケケ」
――もう、どうにでもなれ
再び食道から戻ってきた陰茎を今度は優しく咥え、舌で舐め上げる
舌を動かすたびに、兄者がうれしそうに声を上げる
「ケヒッ ケヒッヒッヒうめぇぞ うめぇぞぉ!そうだそうやるんだよ!」
兄者はそれに合わせ、触手で秘所の一部をこねくり回し、摘みあげ、愛撫する。
執拗な愛撫に耐えかね、隠所から徐々に愛液が流れ出し、触手の先端が音を立ててそれを吸い尽くし
なおより執拗な愛撫を繰り返す。
咬まされた猿ぐつわの先端がもう口の中一杯にまで広がったその時
それは口から引き抜かれながら幻海の口内、そして顔面に白濁色の液をばら撒いた。
「ゲホッ… ケホッケホッ…ぁぅぁ…」
「えらいぞぉ、よぉぉぅくできました。よくできたご褒美に――」
幻海の目の前で、触手の一つが奇妙な形に変形し、戸愚呂兄はそれを見つめながら呟き、笑みをこぼす。
「え…そんぁ、約束がちが…」
「先に約束を破ったのはそっちだぜ?」
悲鳴をあげる間もなかった。
変形した触手が初鉢を破き子宮の奥にまで潜り込み膣内をめちゃめちゃに荒らし始めた。
「ケッヒャヒャヒャヒャヒャぁあああ!いいぜ!いいぜ!吸い付いてくるぜえ!
どうしたぁ?“初めて”をオレに捧げた嬉しさで気絶しそうなのかぁあ!?
ほうら、下の口の方ではしっかりとオレをくわえ込んで離さねぇじゃねぇかケケケ!」
幻海はもう抗う気力を無くしてしまい、なすがままに犯されていた。
しばらく激しく出入りを繰り返していた触手が最大限にまで熱を帯び、子宮の奥底をグリグリを押し上げ
パタリと動くのを止めた。
止まった… もう終わったんだ…
そう思ったのが間違いだった。
「っ・・・!?」
鈍痛が体の中から響きだした。
膣内の触手がさらに伸びてさらに上へ上へ…上?これ以上どこへ?
幻海は青ざめた。
卵管。
触手が卵管をどんどん這い上がっている。
二つに枝分かれした卵管の先にあるものは…
「ほうらぁ…わかるか…?オレが膣内を上がっていくのを、ほうら、どんどんお前の卵に近づいて…」
「やめろ…」
「それがお願いをする時の態度か?ケッ。ほら、もうちょっとで…」
「やめろ!」
「少し広いところにでられそうだぞ。」
「やめて…」
「ほうら、あともうちょっと…」
「お願い…ほんとに…」
戸愚呂兄が、幻海の顔を見上げた。
幻海は泣いていた。今まで我慢していた涙を頬から伝わらせ、必死に哀願していた。
「やめて…お願い…お願いだから…」
戸愚呂兄は幻海の顔をじっと凝視したあと、顔を近づけ、唇を重ねた。
舌を優しく絡め、引き抜いてから、幻海の頬の涙を手で拭う。
「可愛いな…本当に可愛いよぉ…」
そっと体を抱きしめ、背中を撫でながら呟く。
「そんなに可愛い顔されちまったらなぁ…」
「オレはイっちまいそうだぜ」
悲鳴が雷鳴で掻き消された。
腹の中で何か温かいものが徐々に広がっていった。
ぼんやりと白い天井が見える。
「お食事ですよ。」
さっきの看護婦が部屋に入ってくる。
慌てて身を起こそうとするがベッドに縛り付けられたように起きられない。
「まだ安静になさっていないとダメですよ。」
「戸…が…誰か…この部屋にいなかったかい?」
「いえ、誰も、“面会の方”も まだ、“誰も”この部屋には来ていませんが…」
「え? さっき、あんた廊下で誰かと…」
「いいえ、私はまだ“この部屋”を訪ねてきたかたを“誰一人”みておりませんよ?」
窓の外では雷鳴が遠のき、雨音が徐々に静かになっている。
もう雨もやむだろう。