氷菜が男と初めて出会ったのは1年前、氷河の国を抜け出した時である。  
見たこともない色彩豊かな植物や、かわいらしい動物が氷菜を迎えた。  
もちろん、氷女が下界へいくのはタブーである。  
氷泪石を生産する氷女は、その特質のために囚われることも少なくない。  
また、「男」との生殖を避けるためにも氷女は氷河の国で生きなくてはならない。  
これが、氷女として生きるための掟である。  
 
氷菜がその男に会ったのは、日も暮れて、そろそろ帰らなければと思った時だ。  
通り掛かった洞窟の中からうめき声のような音がした。  
恐る恐る中を覗くと、影が小さく動くのが見えた。  
不思議と恐怖は無かった。妖術にかかったように、氷菜は影に近寄った。  
「大丈夫ですか?」  
影…どうやら妖怪であるらしいそのものは、氷菜を睨んだ。  
鋭い、真紅の瞳である。氷菜と、同じ色だ。  
「……氷女か?」と影は低い声で絞り出すように言った。  
「はい。」  
「治療は…できるか?」  
「はい。」  
すると男は洞窟の中の苔に火を燈した。炎を使う妖怪のようだ。  
男の腹部には大きな傷があり、男はその痛みから汗を流していた。  
「治せるか?」  
「やってみます。」  
氷菜は男の腹部に触れた。  
(熱い…)  
男の顔色は、次第に良くなっていき、日が暮れる前に氷菜を帰した。  
氷河の国に戻ったあとも、氷菜の手からはあの温もりが消えなかった。  
 
あの日から、氷菜と男は度々逢瀬を重ねた。  
いつの間にか、二人の間には温かい感情が芽生えていた。  
氷菜が氷河の国では感じ得なかった新しい感情だ。  
男に触れたいと思う。男に触れられたいと思う。…抱かれたいと思う。  
しかし、氷女には叶わぬ夢だった。  
さらに、間もなく分裂期に差し掛かる。  
無性生殖ではあるが、子を持つ立場になるのだ。  
男とは、別れなくてはならなかった。  
 
数日後、初めて出会った洞窟で1ヶ月ぶりの逢瀬をし、事情を告げた。  
氷菜の髪を梳く男の手が止まった。  
「本気か?」  
氷菜は小さく頷いた。男はそれを受け、どこか遠いところを見つめている。  
「これが最後か?」  
『最後』という言葉を聞いた途端、氷菜の目から氷泪石が転がった。  
男が一度も欲しがろうとしなかった石だ。  
(この人と離れたくない…)  
氷菜の溢れ出る涙を覆うように、男の手が氷菜の体を包んだ。  
 
「ん…」  
男と氷菜の唇は自然と重なり、男の舌は氷菜の口内を探った。  
普通の口付けなら、何度かしたことがあったが、こんなことは初めてだった。  
男は、氷菜の舌を見つけると、激しく絡ませた。  
息苦しいのか、氷菜は必死に身をよじったが、男は離さなかった。  
やっと離れたとき、男はそのまま洞窟から出て行こうとした。  
「どこに行くの?」  
男は、氷菜に背を向けたままだった。  
「もう、最後なんだろう。このままお前と一緒にいたら、  
きっとお前を犯す。そうなれば…。」  
そうなれば、残るものは氷菜の死と氷河の国の滅亡、  
そして、生まれてくる哀れな子供の運命だった。  
「一時の想いでお前の人生を無駄にする必要は無い。母親になるんだろう。」  
「あなたと出会ったことを無駄にしたくない。」  
氷菜は男の背中に縋った。自分の命も氷河の国もどうでもよかった。  
そして、何かが弾けた様に男は氷菜を抱きしめた。  
 
氷菜の着物はすっかり崩れ、上半身は、肘から下を除いてあらわになっていた。  
小ぶりだが、形のいい白い胸を男は揉みしだいた。  
男の手に合わせ、胸の形が変化する。  
氷菜は全身を紅く染め、されるがままになっている。  
その時、男が氷菜の左の乳首を口に含んだ。  
「んっ、ぁ…やぁ…」  
男の舌でコロコロと転がされ、一方で右の胸はさらに強く揉まれた。  
時々される甘噛みがさらに氷菜を感じさせる。  
「あっ、ん…やぁぁ…ぅ」  
「氷菜…もっと声を出して」  
「…恥ずかし…ぅ」  
男は右の胸も舐めた。氷菜の乳首は赤く、大きく主張をしている。  
「氷菜…濡れてきた?」  
「んん…わかんない……」  
「触るよ。」  
男の手が氷菜の蜜壷へと伸びた。  
 
男は氷菜の秘所に中指を当てた。  
そして、ゆっくりと入口を上下に擦り始めた。  
「あぁぁっ、ぁ、だ、め…」  
「氷菜、感じるか?」  
「ん…。あ…ふ」  
氷菜の蜜壷からはどんどん愛液が溢れてきていた。  
暖かな男の指が、快楽の箇所を付いている。  
また、男は時折愛を確認するかのように激しい口付けをした。  
氷菜はとろけそうになるのを堪え、男の首に手を回した。  
その時、氷菜は中に何かが入ってくるのを感じた。  
「ん…な、何?」  
「指…入れるよ。痛かったら、言って。」  
氷菜は小さく頷いて、新しい刺激を待った。  
ズブズブと氷菜の愛液で指は埋まる。そして激しく動き始めた。  
「あ、あ、あ、あ…やぁだ…」  
ぐちゃぐちゃという淫靡な音が洞窟中に響く。  
その音がさらに二人を興奮させる材料になっていた。  
「あ、たし…頭…真っ白に……」  
「いいんだよ…気持ち良くなれよ」  
「ん、あ、あぁぁぁぁーっ」  
氷菜は、初めての絶頂を迎えた。  
 
絶頂を迎えた氷菜の身体から男が離れた。  
真っ白になった頭では何も考えることが出来ない。  
さっきまでの快楽を、ぼんやりと反芻していると、男が洞窟の  
外へと出ようとするのが見えた。  
「どこに…行くの?」  
男は月明かりで逆光になっており、影になって見える。  
「思いは果たした。お前と、こんな痴態が出来て良かった。  
だから、本当に過ちを犯す前に、お前の元から離れようと思う。」  
「駄目だよ…。」  
男は、恐る恐る氷菜の方を向いた。  
氷菜の紅く染まった肌は、月明かりに照らされて甘美な香を漂わせている。  
思わず男は唾を飲んだ。そうさせたのは自分なのに。  
「あなたは…まだ気持ち良くなってない。」  
「俺はいいよ。第一、俺はお前の子供の責任なんて取れない。」  
この男が特別なのではない。妖怪とは、そういうものだ。  
しかし、氷菜の取った行動は意外なものだった。  
突然、柔らかな微笑みを浮かべ、男に抱き着いた。  
男の背は、あまり大きくないが、いつも暖かかった。  
「あなたの、子供が欲しい。」  
 
「あ、あ、あ、あっ…あんっ…ふ…」  
洞窟から、いやらしい水音と、女の甘い声が入り交じって聞こえる。  
氷菜の秘所には男のものが挿入されている。  
最初は初めての氷菜のために、ゆっくりと時間をかけて入れた。  
そして再び愛撫をし、氷菜の濡れを確認して動き始めた。  
始めゆっくりと、次第に彼女の欲望を引き出すような激しいものへと変えた。  
当初、氷菜は痛がるそぶりもあったが、今では快楽しかない。  
男の熱い肉棒は氷菜の内部をえぐる様に暴れる。  
男と触れ合う箇所からどんどん愛液が溢れ、男を誘惑する。  
「あっ、ん、はぁ…ん…」  
氷菜から切ない声が漏れる。二度目の絶頂は近そうである。  
その証拠に、氷菜の内部では男のそれをきつく求めていた。  
男も限界だった。もう、理性はない。  
「ひ…な…」  
「なに…?あたし、もう…だめ…っ」  
「俺も…。出す…よ?」  
氷菜は今までの中で最高に美しい笑顔を見せた。  
男は「んっ」と声を上げて精を氷菜の中に出した。  
男のものと氷菜の中が激しい鼓動を打ち付け合っていた。  
「あったかい…」  
氷菜は、呆けたような目で、そう呟くと、体の上の男を抱きしめた。  
 
あれから、半年以上の月日が流れた。  
あの晩から氷菜と男は会っていない。  
氷菜のお腹はもう随分大きくなっていた。長老は薄々感づいているだろう。  
時々お腹の中がひどく熱くなる時があった。  
しかしいつも、もう一人の胎児が冷気を出してくれた。  
その度に氷菜は、あの男を感じて幸せな気分になれた。  
 
私の遺伝子を継いだ娘へ。  
母がいなくても幸せになってほしい。  
そして、できることならば…女としての幸せも掴んでほしい。  
あの人の遺伝子を継いだ息子へ。  
きっと、辛い人生になるでしょう。  
私や氷河の国を恨むのは構わない。  
だけど、今、一緒にお腹の中にいるきょうだいは大切にしてほしい。  
そして、誰かを愛せたら…、その人を守り続けてほしい。  
 
 
 
 
おしまい。  
 

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